鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
ローターが風を切る音が低空を横切るたび、獲物に狙われる草食獣の気持ちになる。
「ヘリなんてありかよ!」
建物の影に隠れている俺たちを見て舌なめずりをするかのように、ダウンウォッシュは吹き付けた。
あんのクソデブは戦闘ヘリを隠し持っていやがったのだ。
「ぼやいてる暇ないですよ!」
「この状況でぐらいぼやかせてくれ!」
隣に座り込んでいるMP5が大声で咎めてくるが、こんな状況下では叫んでいないと落ち着かない。
俺たちは、マンパワー同士の戦闘に関しては大の得意だ。俺なんて正規軍に居た頃から戦っている。それでも慣れないことがある。
大型の兵器相手なんて経験したことが無いのだ!
新兵の頃はELIDとぶん殴りあってた原始人プレイだし、部隊に居た頃でもせいぜいがトラクター改造のDIY戦車。旧式とは言え軍用のヘリ相手なんて訓練したこともない。
大抵の事には何とも言わず動けるが、隠れている建物の間の上をヘリが闊歩し、少しでも動こうとすれば大口径の機関砲とロケットポッド、ウイングパイロンに増設されたガンポッドが火を吹くなんて状況聞いていない。
あのヘリなんて言うんだっけ・・・操縦席は前後にあってキャノピーが二つに膨らんでていて、おまけにキャビンにはCb人形すらも積載しているっぽい。
とにかく歴史あるモデルの古いタイプだ。古すぎていつ入手したのか、そもそも保有していたのかということすら分からなかったので作戦に考慮していなかった。
「あのヘリの搭載量は、どれぐらいなのよ!」
「ハインド系だけどナニ積んでるのかも分からないわ!」
アサルトライフル組はもう少し後方で民間人を庇っている。グローザが機種を当てたが、彼女の言う通り機関砲だってタイプの違いで搭載弾数も機関砲の種類も変わるし、ガンポッドに関してはいくらでも改造できるから、弾切れには期待できない。
なにより、敵に期待してはいけない。
「あんな空飛ぶ防弾板どうすりゃいいんだよ!」
バトルライフルの7.62ミリNATO弾も。偉大なるソビエトの7.62×36弾も気にも留めないレベル。装甲なりなんなりを増設しているかもしれない。
しかも飛んでいる状態なので当たりづらいったらありゃしないのだ。
今更になって太もも部分を止血していら立ちを乗せて叫ぶ。皮肉なことに一歩も踏み出せない状況のおかげで、落ち着いて処置が出来た。
「VAG、一つアドバイス、が、あります」
「じらすなJS9!さっさと言ってくれ!」
それを使ってみてはいかがでしょうか、なんて指を差されたところにそれはあった。
この距離で空中のヘリ相手、銃弾よりも当たるなんて思えないけど、銃弾よか派手に爆発するものが。
「M320!416さんはこれを見越して!」
「完璧すぎかよウチの小隊長!」
この場に居ない、416を褒めたたえる。ぜぇったいにそこまで考えてないだろうけど、結果オーライ!
「敵の足止めはこっちがやるわ!」
「オーケー!ライフル組、頼んだ!二人とも、援護、頼む!」
FALにグローザ、FGがそれぞれが隠れている三方向からタイミングを替えての銃撃で気を引く。その間に俺は裏道を駆けだし、グレネードを装填。FCSもないから備え付けの照準器とヤマ勘頼りだが、近づけば当たるはずだ。
「あと十秒ぐらいしか引き付けられない!」
「あと十二秒持たせろグローザ!」
敵は油断しきっている。この十数分間ずっと攻める方だったから油断しているのかもしれない。
ホバリングしている敵の横のアパートの屋上にパルクールの要領で登り終えたのが、グローザの要求の寸前。流石に地面から撃ちあげて当てる自信はなかったから仕方ない。
「まずは胴体!」
狙いをつけ、トリガーを引く。
「次はローター!」
一発目はコクピットの下部分に命中し、動きを止めた。少しふらついて、次の動きになる前にリロードは終わっていた。
エンジンがやられても、ローターさえ無事ならば着陸できてしまうのがヘリという乗り物だ。片発のエンジンを止めても意味がない。テイルローターを破壊すればコントロールが失われた機体が暴れて被害が大きくなる。
ローターの回転を弱くさせて、ランディングさせるのだ。幸い道幅はある。道路の脇の建物には申し訳ないが、下手に動かれるよりも、住民が離れているここで墜としたかった。
「吹っ飛べ!」
緩い放物線を描いてローターの上あたりまで飛んだグレネードの炸裂と共に、ハインドは動きがおかしくなった。
「VAG!」
「やべぇ、まだ飛べんのかよ!」
無線には仲間たちがリンクしたみたいに上げた声が響く。
冷や汗がドバドバ。ハインドはすっかり持ち直して、こちらを攻撃しようと首を持ち上げていた。
どうやっても抗えないんじゃないかと思ってしまう。自分がちっぽけに思ってしまう。パワードスーツすらも凌駕するデカい機械相手がここまでだなんて思わなかった。
人間の頃の人形相手とも、正規軍時代にやった恐ろしい鍛錬ともベクトルの違う恐怖心に脳内麻薬の分泌がヤバい。人形のボディにドーパミンなんかが実装されてるとは思えないが、感覚的にはそれそのものだ。
こんな相手にまともに効くとも思えない半身に手を掛けた。
「諦め・・・たくは、ない!」
かんそーがえーし
「まさに忍殺のバリキジツだな……バンザイラッシュしないだけマシか」
種付けおじさん(敵)はニンジャだった・・・?
そんな種付けおじさんも、VAGのスカートメクリ・ジツの前では・・・
ちなみに前話でVAGちゃんが(二回目の)パンモロフラッシュをしたのは、一回目のパンモロフラッシュ(化学ドラッグの話の時)が上手く行った結果正式に実装されたから、らしい。IOPはどんな気持ちで設計したんやろなぁ・・・
代理人と違って敵にパンツは(謎の(目くらまし)光で見えていない。どちらとも相手は死ぬ。
次回予告
力が抜けてしまった。結局、「待ってろ」、なんてセリフは破りそうになっていたわけで。サムは・・・俺はいつだって、周りを傷つけてしまうのかもしれない。
助けに来てくれたサブリナとは・・・もう一週間は顔を合わせていない。
次回「無力感」