鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
頭がぼんやりする・・・
「ちょっと姉貴!?」
「んぁ・・・?」
声を掛けられるが、誰からの声か分からない。人の姿は三人、四人・・・五人?六人?もっと多いようにも見える。
「だ・・・いじょうぶじゃないじゃん!ロクヨンさん!AAさん!」
「完全にのぼせてるね」
「VAGが風呂行ったのって・・・二時間前・・・」
あれぇ?
体がふわふわして素っ頓狂な声が出た。地に足がついた感覚がしないのは、交換した足の感覚に慣れていないだけじゃない。
なんか話しかけられてるけどなんだろう?
「姉貴、飲める?」
「ぁ・・・?」
「エラー吐きまくってますね、これ」
「RO、ストロー、持ってきました」
人影がいっぱい・・・
「VAG、ママのおっぱいを飲みなさい」
「「「FAL?」」」
「あららー、ま、ワタシも行くんだけど」
今度は減った?
「VAG!ちゅーって吸えますか!」
「・・・?」
「ぶっ・・・幼児退行してる姉貴可愛すぎない?」
「リンヤオ、鼻血は拭きなさい」
「なんかあれだなぁ、サムがぼんやりしてるのって珍しい」
「そんなこと言っている場合ですかマイク・・・ウェルロッド、後でぶっ飛ばされますよ」
「?!あと一枚!あと一枚だけ!」
▽
毛布に包まれた感覚にずっとベッドに寝転がっていたいが、気分が優れないせいでゴロゴロするのも嫌になる。そんな複雑な感情を抑えながら瞳を開いた。
倦怠感に包まれた体を起こすと頭がやけにぼんやりしている。記憶が残っているのは風呂場から上がろうとする辺りで、のぼせてしまったことを覚えていた。
だから、誰かに迷惑を掛けたのは確実だ。
「心配、かけちまった」
「姉貴、頭痛くない?」
リンヤオがベッドの傍にイスを置いて座り、コップを渡してきた。
「おかげさまでな。だけど、あぁ、そっか、そう、だよな・・・」
静まり返った四人部屋には、当然姉を自称する人形の姿はない。
いまだ未練がましく、心のどこかで、ひと眠りさえしてしまえばいつもと変わらぬ日常が戻ってくるんじゃないかと思ってしまう自分が居た。
「はい、口開けて」
「自分で食えるって!」
「ふーん?スプーン握ってもプルプルさせてるくせに?」
「・・・うっ」
ぼんやりとした感覚が強く残っているせいで、スプーンが上手く握れない。
しぶしぶあーんされることを受け入れ、時間が過ぎていくのを無心に待った。
「頑張るしかないよ」
「わぁってる」
コップをぶんどって勢いよく水を飲み干す。ベッドサイドに置かれた折りたたみ机に叩きつけるように置いた。
「なるようになるからさ」
「分かってるって!・・・ごめん」
思わず怒鳴ってしまう。
そんなことなら俺も分かってる!現状だけを見て嘆くよりも、頑張った方がいいってのは分かってるんだ。
深呼吸して気分を落ち着けてから立ち上がる。
「ちょっと姉貴!?」
「外行って気分落ち着かせてくる。安心しろ、会いに行くとかそういうんじゃない」
本当に変わらない妹の変わらない頭を撫でてから、髪を結ぶ。俺が変わりすぎただけで、周りはずっと変わってないんじゃないかなんて当たり前のことは考えないようにする。
「さっきまでフラフラだったじゃん!」
「と、とにかくありがとう。他の皆にお礼を言ってくる」
背中に刺さるお小言を無視して、俺は夜風を浴びて心をリセットしに行った。
▽
あれ?
「それじゃあ皆様に飲み物が行き渡ったところで、かんぱーい!」ロクヨンの音頭にそれとなくコップを突き出す。
・・・あれ?
「まーまー!サムも飲んで飲んで!」
「マイク、酒くせぇ。もう飲んでやがったな」
バンバンと肩を叩いてくる酔っ払いからの臭いから顔を逸らしつつ、ちびっとだけ果実酒を飲む。
ゲラゲラと笑うマイクは・・・最初の頃よりももっと元気になっているように感じる。なんやかんや、一緒に酒飲んだのも一年以上前の話だしな。
「へへへっ!っていたっ、36さん?!あだだだ、ちょ、引っ張らないで!」
いつも以上に無表情を決めた36がマイクをドナドナしていった。合掌。あれでこの前の花火で手を繋いだコト以上に発展していないとかいろいろと心配になるレベルだ。ピュアとピュアが合わさるとこうなるんだな、って感じ。
端っこの方で絡まれてるわ。
「楽しんでる?」
「うん。ありがとな、ロクヨン」
隣に座ってきたロクヨンと小さく乾杯。リンヤオを気にかけてもらっているから少しだけ頭の上がらない存在だ。
特に深く話す事もなく。ジョージとFAL、FGのバカ騒ぎを肴にちびちびと飲む。
誰も俺の触れて欲しくない事なんて口にも出さないし、かといって下手に絡んでくることもない。
俺には出来過ぎた仲間だよ。本当に。
「あの・・・なにこの、惨状」
指揮官が深々とため息をついた。それも当然、部屋の中は死屍累々だ。
フローリングの上にはバカみたい騒いでいた三人が山なりにぶっ倒れていて、ROが毛布をかけている。いや、せめてその山は崩してやれよ。無事なのはロクヨンと俺ぐらい?36とマイクは肩を寄せて寝転がってるし。夜間待機がなくて酒を飲めるやつらが集まった結果、普段の飲酒自制の反動で大騒ぎになった。
「やっほーしきあーん」
「VAG、君も酔っぱらってるじゃないか・・・」
指揮官二度目のため息。なにを隠そう、この飲み会をしたのは宿舎でも食堂でさえもなく娯楽室でもない。
指揮官と誓約組の夜の営みがうるさいのでリフォームされた半地下状の施設の中だ。要は指揮官の部屋のすぐ近く。
愛の巣と呼ばれる居住区画より手前の一部屋は、指揮官から許可を取れば相談事だったり飲み会だったりと、他に見せたくないことをやる場所として使える。
防音がしっかりしていて、司令部の施設と違ってカジュアルに使ってもいいっていう指揮官の厚意。
「僕も飲もうかな」
「んじゃお酌す・・・しむらーうしろー」
しーらね。
「え?うし、待ってわーちゃん?!416、持ってるそれは・・・待って手錠だよねこれ!?コーラちゃん、命乞いだけさせて!?」
こりゃあ五分も経たないうちに、おっぱじまるな。しーらない。俺は悪くねぇ。
すっとぼけて近くにあったウイスキーを呷り、訪れる眠気に身を落とす。
即応小隊メモ1
某五体のメンバーでは一人が抜け駆けのようにサムに接すると残りのメンバーによって裁判が起きる。彼女たちにとってサムは魅力的であるも相手は然るべきという思想があるため。要は厄介なオタク。
メモ2
マイクとG36のあれそれは基地の全員が知っている。
お互いいい感じなのは分かっているけれど踏み込んでいない。
花火回の裏ではようやく手を繋いだらしい。それも手がぶつかった後、どちらともなく手を重ね、そのまま帰ってきた時に皆に見られた。
メモ3
ウェルロッドは写真を撮って小隊の記録を纏めているらしいが、データフォルダの中にある鍵付きフォルダの中の内やけに容量の多いファイ・・・(記録者の頭に風穴が開く)
とりあえず最終戦までに書きたいことはほとんど終わったので、次回辺りから最後に入っていく。
最終章のタイトルはあれだけど、決戦シーンのBGMは隕石を押し返す映画の殴り愛シーンしか思いつかない作者。