鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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目指せ風雲パーサ城3

 即応小隊の基地から離れて半日。今は前線基地に到着して作戦に向けた最後の準備中だ。

 

「結局、アレは届いてないままなんだよな」

「そうね。けれど盗まれた痕跡もなく、同じ荷台の物資は届いた」

「どっかの業者が一枚噛んでるんだろうなぁ」

「嫌な予感がするわ」

 

 俺がおニューの装輪の兵員輸送車の近くに物資の入った段ボール箱を置いてぼやくと、同じく段ボール箱を置いたグローザは物資のリストにチェックを入れ終え、息をつく。

 その気持ちは共有できるぐらいに、俺も嫌な予感がしている。

 パーサをぶっ倒すのはいくらでもやりたいが、それよりも継続しているダメージで心に少しだけひびが入っていたから、些細なことがきっかけでいつひびが大きくなるのかも分からなかった。

 

「!」

「ポインター、どうした?」

 

 足元にコツンとした感触と共に、見慣れた姿のダイナゲート。俺の足に前足パーツを当てて、しきりに尻尾モジュールを振っている。

 こいつは俺たち小隊の仲間で、皆から可愛がられているポインター・・・の二代目。一代目は長い間の運用でバッテリー類が弱くなったので、基地のペットになった。

 

「!」

 

 拾い上げようとすると、ポインターは俺の胸元からジャンプして物陰に走る。それを追いかけるように前を向いた視線は、確かにあの姿を捉えたのだ。

 もう長い間目にしていない、顔を合わせることができなくて不安になるぐらいには見慣れている、好きな相手の姿を。

 

「あ」

「サブ、リ・・・ナ・・・まっ」

 

 言葉が続かない。手が伸びることもなくて、これっぽちも追いかける気になっていなかったのは、多分追いかけて更に拒絶されることが嫌だったから。

 待ってろだなんて言ったのに。嫌われたくないからと関りを持たないのは本末転倒がすぎるし、意気地なしが過ぎる。

 そんな自分に嫌気が差して、気持ちはマイナスにスパイラルダイブした。

 どうすればいいのかも分からない。こんな風に、相手にひどく思い焦がれることはサブリナが初めてで。他にこんな気持ちになったことは、ほとんどない。

 妹に対しては必ず帰ってきてまた会えるという自信が何故かあったし、MCVカンパニーの皆も、小隊も、正規軍時代の同僚たちも、それなりに一緒に居た奴らに持っていた気持ちとはベクトルが違うんだ。

 俯いた俺の肩はがっくしと落ちていたんじゃないかと思う。そんな背中に誰かがそっと手を当ててきた。

 

「姉貴、色々考えることはあるんだろうけどさ。こっちは準備できたよ」

「マジで行くつもりなのか」

 

 ガンケースを背負ったリンヤオの後ろにはホーワM1500の本体と運用機材一式。ミーティング済みとは言え、思わず念を押してしまう。

 

「何度も言わせるつもり?ホッントに姉貴はシスコンだよ」

「・・・ごめん」

 

 自覚はある。妹は物心ついたころからの守るべき対象だったし、長い間ずーっと一緒に居たから、お互い結構重い感情を持っていた。

 それに加えて、普段の任務と今回のこれはまるっきり違って。いくら射撃が上手いと言えど危険度は比べ物にならない。

 

「姉貴が僕に行って欲しくないんなら、僕は姉貴に行って欲しくない。暴論なのは分かってるつもりさ」

 

 頬を摘ままれて、横に下に斜めにと伸ばされた。

 

「昔はただ待っているだけしかできなかった。今なら肩を並べて戦える・・・ってのは建前で、単純に予備戦力を出さざるを得ない状況だからね」

 

 

 

 

「これと、これ、どっちの方がいいだろうか」

「別に厚さは気にしないわ。数がある方で」

 

 とある後方幕僚は震えていた。

 この基地の売店にも置いてあるそれが売れたところをあまり見たことはない。

 わざわざここで買い求めなくてもいいし、買ってしまえばあっという間に噂が広がる。基地というコミュニティで噂が広がることは一瞬で。人の噂も七十五日、というが、七十五日も噂が残っていれば生きた心地もしない。

 

「指揮官が予算で出してくれりゃあいいんだがなぁ」

 

 そんなもの経費で落ちるわけありませんわよ!?思わず声を出して突っ込みそうになってしまった。

 淡い色をポニーテールに纏めた小柄な人形がそれらの商品を手の中で弄び、結局分厚い代わりに内容量が多い商品を籠に入れている。

 

「どうせ破るし、安いんだから我慢しなさい」

「へーい」

 

 似たような髪色のこちらはHK416だろうか・・・まるでおねだりをする子供を嗜めるかのような雰囲気だが、聞き捨てならない言葉が聞こえてしまった。

 破るってそれ意味あるんですか?????

 とても気になる。気になりすぎるあまりに、危うく誤発注して、三日間基地の全員の食事が三食ケーキになった惨劇を繰り返しかねないことになっていた。

 

「配ることも考えるともうひと箱あっても困らないわね」

 

 配るってどういうことですか?!?!?!?

 色々と気になりすぎて仕事が手につかない彼女は年若い故に、そういうことは当然興味があった。

 愛する人と愛し合う過程で・・・指揮官様とあわよくば・・・

 そんなことを考えたことに気が付くと同時に顔が熱くなるのが分かり、頭を振って、意識を逸らした。

 

「ま、銃口カバーの代替に他にいいものはないかんなぁ。あのー、今大丈夫ですか?」

「はっ、ハイ!お買い上げありがとうございます!」

 

 あれ?え?あれ?

 ドン、と目の前に商品の入った籠が置かれる。理解がおいついていない。

 ・・・あれぇ?

 少なくとも、アレを買う理由をそういうことに結び付けてしまった自分に非はないはずだと言い聞かせる、後方幕僚の少女だった。

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