鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「完全に交戦圏を離れたわ、あと二日の道のりでも気を抜かずに周囲の警戒を怠らないように」
416の言葉で車内の空気が少しだけきつくなったように感じる。それだけ不安な要素が残っていた。
ここまで交戦がなかったのは、グリフィンの前線基地が陽動の攻撃を行って敵を引き付けてくれたから。
それが無くなり、敵の勢力圏に潜り込むということがどれほどのことなのかは想像に難くない。
野営地を出発して一時間も経っていないが、これからの道のりは今までとはがらりと変わって辛くなる。ここまでですら、道が悪い上に敵にバレないように陸路を進むのにはかなり気を遣かったので、昨日のように一日を移動についやしても距離を稼げていなかったという現実と合わせてこの空気を助長していた。
「無線の電波も通らない、作戦の進行スケジュールもピッタリとこなさないといけない、無茶もいいところね」FALは膝の上に座っている白い塊にマッサージしながら、ぼやく。
パーサが根城にしている古城?要塞?があるのは、グリフィンと鉄血の交戦圏を越えた、敵の懐。直接距離はそれほど離れていないが、間にはELIDの数が凄まじいとされている部分があって、どちらの勢力も干渉していないという点で言えば、そこをとおるのはかなり有効なルートなのだと推測されている。
しかしそんな陸路は過酷すぎる上、ヘリを使えば前線に居る鉄血に動きが察知される可能性が高いし、ヘリを移動させる回数が増えるリスクも高すぎて、かかるコストやらなんやらを考えると厳しいものがあるからこの方法は弾かれた。
結果俺たち先行部隊の作戦では、破壊工作と偵察作戦を本隊がやってくるまでの間に進行するというスケジュールで組まれたのだ。
スケジュール自体は余裕がある。あるとは言え、予定通りが無いのが戦場というヤツで、それを予定通りにこなさなければ作戦が失敗するという流れの時点でグリフィンの余裕がないのが計り知れた。
「衛星通信類が使えればなぁ」
無線が届かない距離も問答無用で情報が届けばこの問題も何とかなるのだ、というないものねだりがこぼれてしまう。
人工衛星類が残っているとも思えないから無理な話なんだ。
人工衛星なんて国家がしっかりとした形でいくつもあった時にすら、軍事的な目標にもなるようなものだったし、戦争の結果管理体制すらもぐちゃぐちゃになったから生き残っているものは本当に少ないか、存在しないんじゃないか。それに加えて三次大戦で濫用された核が引き起こしたEMPもある。
ってのは、ジョージの受け売りなんだけど。
「ま、そうカッカとしても状況は変わらないと思うんですよね」
「リンヤオちゃん、VAGに似てきてない?」
あまりにもあっけからんとした言葉に、車内の空気は再び固まった。
状況が飲み込めていないだけなのか、それとも・・・という判断が難しいぐらいにはリンヤオは狙撃だけで言えば実戦になれている。
トラブルで敵の射程圏内に入ったこともあるし、ホーワのボディが損傷したことだって確かにあった。
俺の心の中ではまだまだか弱い妹だという認識の方が根強く残っていて、肝の座った言葉を聞くと、後悔の念が頭をほんの少しだけ持ち上げる。
「やだなーロクヨンさん、僕は家出てから大人にのなるまで八割以上兄貴としか喋ってないんだからそうなるのも当然ですよ!」
「うっ」
流れ弾でヘッドショットされた気分だ。
しかも全く気にも留めていないというか、それが普通だと言わんばかりの妹の様子で倍プッシュ。
俺は心があるわけでもない薄くも膨らんでいる胸を押さえ、それをロクヨンと交代したホーワがケラケラと笑い、車内の緊張は少しだけ緩んだのは、怪我の功名か。
▽
二カ所目の野営地、パーサの根城までは半日も掛からない予定の距離までたどり着いた。直線距離で速度を出せばそれこそニ、三時間の距離。鬱蒼とした森と崖に囲まれた風景は、俺たちの知っている風景とかなり違う。
パーサの根城がある方は荒れ果てた荒野だから、この森と池を例えるならオアシスだ。
俺とリンヤオは、ここまでの緑あふれる自然にしっかりと触れたことがなかった分、野営地のすぐ近くにあった天然の草木、虫や池といったものに興味津々になった。よくよく考えたらこの辺りだって低濃度のコーラップスに被ばくしているのかもしれないと気づくと、更に自然の圧を感じざるを得ない。
「ホントに・・・すげぇな・・・」
「うん・・・マジで言葉を失っちゃうよこれ」
水のある自然に漂う独特の空気感の圧され、語彙力はフライアウェイ。
隣に居る妹も例外ではないらしい。
高濃度のコーラップスはその名の通りに崩壊し、たちまち死へと至る。つまり自然は残らないわけだが、低濃度であれば即死せずに形態の変異が起きる。ジョージの弟がその具体例だ。
俺を囲んでいる自然も少なからず変異しているんじゃないか、と想像すると自分の存在がやけに儚く思えてきたが、リンヤオだけじゃなく、マイクやジョージも似たような感想を覚えたらしい。
ボケッと呆けてしまった俺たちの隣に、キャンプ用のマグカップを持った416が座る。
「ホットミルク、いるかしら」
「あ、いただきます!」
「ミルク・・・?」
牛乳は腐るし、高いから無理、そうなってくると粉ミルクなんだろうけど、一つ引っかかることがある。
「心配しないでちょうだい、私のアレは一週間前に指揮官にしぼりきってもらっているから」
もうかなり前のことになるが、ペルシカのアマは416に母乳精製機能の試作品を搭載した。色々な研究の結果がどうなったのかは知らないが、その内416のように後付けで授乳が行えるようにアップグレードされた人形は出てきてもおかしくない技術。
初期のモノな上に、テスト品だったので本来の授乳のあれこれとマッチングするモノでもなかったけれど、なかなかに凄いモノだったよな・・・
ペルシカが言ってた好きな人に絞ってもらうと云々はよくわかんなかったけど、気持ちの問題ってやつなんだろう。
「アレ?指揮官さんに?しぼりきって?」
これに関しては、回数を追うごとに結局指揮官が絞ることになったので知っている面子は初期面子ぐらいだったりする。
当然、妹は全く知らないので疑問符が頭の上に出ていた。
「リンヤオが知らなくていいことはあるんだよ」
「えー気になるじゃん!」
お気に入りとか諸々ありがとうござい。
次パートから、ようやく戦闘とか戦いらしい状況に入っていきます。(話のタイトルが思いついていないけど