鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「スカートって危ないわよね」
「いきなりなんだジョージ」
眼鏡をかけ、端末にむかっていたジョージが徐に話し始めた。
整備に関する書類を眺めていた俺と、手伝っているサブリナは手を止めてテーブルの後ろ、社員のテーブルの方を振り返る。
マイクはサボりでボスはグリフィンの庁舎に居るので話題はサブリナに向けてのものだろう。というかサブリナ以外にスカートを履くのがジョージ以外居ないからなんだけど。
「これから一六式に乗るにあたって、サブリナちゃんの服って色々危ないじゃない?」
「あぁー」
「でも人形だから大丈夫じゃないか?人間よか怪我はしないだろ」
「甘いわね二代目」
大げさなジェスチャーでこちらを振り返ってきた。なんかイラっとする。
二代目って呼び方だって気に入っていないし。
「お肌が火傷したりするのもそうだけどそれは設定された服でもまだ大丈夫でしょ?問題はその短いスカートよ」
そう言ってジョージは何かのページを俺たちに見せる。
サブリナが画面に食い入った。
「スパッツ・・・?」
疑問符を浮かべたサブリナが画面とジョージの顔を交互に見る。
スパッツ、聞いたことはないけどスカートが短いのが問題ってことは足とか太ももを保護するやつか?
「これを履けばパンチラはないわ!」
豪語したジョージは俺に向かってがま口を投げ、気障な仕草で命令した。
「二代目、経費で落とすからサブリナちゃんの服買ってきなさい。スパッツももちろんよ!」
目が血走っていた気がするのは俺だけだろうか。
▽
「ボス、これどうかな!」
「・・・いいんじゃないか?」
「さっきからそればっかりじゃん」
カーテンを開け、試着室から出てきたサブリナ。
いつものニーハイソックスがパンツストッキングになっている。黒の生地からうっすらと見える綺麗な肌色を直視できない。太ももが見えているのは気にしなかったのに、隠したら隠したで逆に煽情的になっている気がする。
まともな返答が出来ないのは、綺麗な姿を褒めるのがなんとなく気恥ずかしいからだ。
買い物に来たのはいい。俺も用事があったからそっちにモノを預けて時間を潰せるし。
でも一々着たものを聞いてくるのって利点あるのか?
「ストッキングも悪くないけど、なんだかボスの目が妖しいから短いスパッツにするよ」
「さいですか・・・何枚買うんだ?」
「スパッツを三枚、ストッキングを一枚買おうかなぁ」
心を無にして買い物かごにスパッツとパンストを入れた。かごの中には数枚のシャツとパンツ、あと下着が入っている。ザっと計算したら思わず声が出た。
もしこれが俺のポケットマネーから払うことになっていたら泣いていただろう。経費じゃなかったらと思うと冷や汗が染みてくる。
ただでさえ思わぬ出費で貯金が吹っ飛び節約を誓ったばかりなのに、女物の服の値段は財布のひもを結束バンドにしたくなるぐらいだ。
支払いに行けば、ロボットみたいな見た目の人形がレジに立っていた。気のせいか、ツインアイが怪しいものを見るような目になっていたが、こんな人形にそんな機能はない。俺の自意識過剰だ。
サブリナを連れ店を出る。後方の街であることや商店が連なっているおかげで人も結構いた。
服の袋を持っていた右手にギュッと力がかかる。
「なんだよ」
「ほ・・・ほら、逸れるといけないからさ!」
「・・・好きにしてくれ」
サブリナは顔を赤くしながら両手で掴んでいた。
止まって隣を見たがありきたりな答えだったので足を前に動かし始める。
それを承諾と見なしたのか、サブリナは左手でしっかりと握りなおした。柔らかな手のひらの感触は悪くない。
「ここが馴染みの店?」
「少し時間かかるだろうし、気になるなら好きに見てていいぜ」
路地裏に入ったところに小さな看板がぶら下がっている。正規軍の時の上官に教えてもらってから時折通っている店だった。
ドアには拳銃のシルエット。腕はいいが気難しいガンスミスの爺さんが経営する、知る人ぞ知る店だ。
「おう、サム。M1014は見ておいたぞ」
「いくらだ?」
「あーそれがな」
人相の悪い店主は髭をしきりに触り、言いづらそうに話し始めた。
「はぁー!?試射したら暴発して使い物にならなくなったって、爺さん手とか大丈夫かよ!」
「わしは無事なんだが、この通りM1014の方はぐちゃぐちゃでな・・・」
「銃なんてどうでもいい、爺さんは怪我してないんだな?」
財布からいつもの整備の時より多めの金を出して渡す。
「これ、いつもより多めだから孫と飯でも食いに行ってくれ」
「は!?わしはお前の銃壊したんだぞ?」
「あんたがダメになったら俺は新しいガンスミスを探さないといけなくなる。だからこれは投資なんだ。それにあんたのおかげで安く手に入った銃だったから、壊れても文句はない」
「・・・サム、売れ残りなんだが面白い銃がある。引き取らんか?」
そう言うなり爺さんはそこまで大きくないケースに入った銃を見せてくる。
拳銃のようだが特に変なところはない。握るところが前後に長い気もするが弾薬によってはこういうのもあるだろう。
気になったのはケースの中、更にチャック付きのビニール袋の中に更にビニールで包装された銃弾だ。見たことがない。それにやけにいっぱい入っている。
「この銃弾はなんだ?」
「ケースレス弾薬だ」
あのバカ高い銃弾か・・・そうなるとロシア辺りの銃?
爺さんが弾倉を抜くと、弾が見えるとところが前後にある。
「弾倉が変な形をしてるが・・・」
「前後に二十四発、合わせて四十八発のタンデムマガジンだ」
渡してもらって舐めるように見ると、セミ・オートのセレクターはあるがマニュアルセーフティがない。
「セーフティは?」
「これの一つ前のモデルはセミ限定で、それのセーフティをセレクターにしたらしい。だからない」
小さな拳銃はあまりにもロマンに溢れている。
弾薬が高くて調達するのが難しいだろうが、それをかき消すロマンは魅力的だ。
「なんて名前の銃だ?」
「VAG-73、気に入ったか?」
「あぁ、これ追加で受け取ってくれ。買う」
ケースにいれなおし、財布の札を全部渡した。交換で手元に来るケースの重みはいい買い物をしたと教えてくれる。
「帰るぞサブリナ」
「うん。・・・でもよかったの?無駄遣いして」
その一言で俺は現実に引き戻された。
空を仰ぎ、今更になって後悔する。
この前貯金がほとんど吹っ飛んだった・・・