鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
自然採光なのか薄暗い空気に、湿度の高さと埃の匂い。それ以外にも、視界に入るインテリアのデザイン。
鬱屈としているのにどこか厳かな雰囲気も感じる空間に、踏み出した。
「螺旋階段・・・」
ここまでお膳立てされているということは、伏兵とかトラップみたいな小細工は掛けられないだろう。
基本的に敵の行動を断定するのはやってはならないことだが、今の俺は安定していなかった。
「やっぱり、怖い」
どれだけ強がっても。どれだけ決意を固めても。
過去の事も怖いが、新しいパーサの強さだって未知のものだ。
分からないものは怖い。分からないことが怖い。それに怯えている自分さえも怖い。
「だけど、報酬分はしっかりと成果出せねぇとな」
一歩、階段を進む。
今の自分なら勝てると言い聞かせて、震えそうになる手足を気持ちで押さえつける。
▽
塔の階段を六周して、少しだけ広い空間に出た。
「あハァ・・・ホンッとニきてくれたんダァ・・・」
ぬちゃりとした声に背筋が伸びる。
「あぁ。迎えに来たぜ・・・」
鹵獲するためにな。
否応にも最高潮に達した緊張感。体中の血が沸き上がるように流れる錯覚とは裏腹に、呼吸はいつも通り。
この段階に来てしまえばファイティングポーズもぶれていなかった。自分のことながら、怖がりな癖して戦いが得意なんて変わりきってる。
「モウ、前みたいなズルもシナイよネ?」
銀のシニヨンが揺れ、ご対面。脇腹がチクリと痛んだ。
「っ」
目の前に黒地に赤のフリルが迫っている。
「アハハッ!一発目ェ!反応遅いんジャなイのォ!」
人間の体というセンサーから人形のセンサーに置き換えられているから、俺の反応速度が遅くなっているわけじゃない。
一つ問題を上げるとすれば、特製の電脳はどれだけ背伸びをしたとしても処理のスピードが遅いってこと。
パーサの性能は上がっている。
「っっるっせぇ!」
左腕で振り落とされた黒色の筒を逸らして、右のストレートを見せた。距離が少し足りないものの、流れを戻す。
筒、奪われたQLU-11はグレネードランチャーだ。少しでも距離を離せば怯まされる。例え長物で取り回しが悪かろうと、この空間で爆発を起こすというリスクがあろうとも、戦術人形が得物を扱う状況であれば、さして大きな問題にもならなかった。
相手に烙印システムはついていないだろう。シャコ取り作戦で流れたビデオと変わりなく、成長したようなサイズとゴスロリの倒錯した雰囲気で固められていたボディは、作り替えたようには見えない。
「ヤレルジャないかァ!」
距離を開けてはならない。だが、自分の得意な近距離でさえ互角。
隙はないし、動きには迷いもなく、ミスもないなんて、人形の性能は卑怯が過ぎる。いやまぁ、俺も人形なんだけど。
「マッテいたンだヨ・・・!」
「あ!?」
スパークリングはステップで、間合いをはかる静寂はダンスのターン。目まぐるしく変わる状況の最中に、ダンスのパートナーは口許を緩めた。
「・・・年と・・・日、二十二時間に三十五分・・・秒・・・!」
「は!?」
恍惚とした微笑みと共に聞こえてきた数字に気を向けられたところで、強かなストレートで捉えられた。
間合いは伸びた。故に、右の脇は最高に痛い!
「サムと
35ミリの銃口ってこんなに大きいんだ・・・なんて現実逃避しながら、既にホルスターから抜いておいたVAG-73をバラまく。
仰々しく、詠うパーサの様子はこれっぽちとも変わらない。二十発はフルオートで撃たれているのにだ!
動いたのは、スコープが外されて文字通りの筒にしか見えないブツ。
「二度目はない!」
パーサは絶好のタイミングを逸した。二度目の射撃の機会は作らせない。
「あはっ・・・!ヤッパリぃ、キミはサムだネェ!」
得意な距離を取り戻しても、戦いの流れを掴み切れない現実は一瞬忘れて、ぶん殴る。
子供の頃は型にはまったボクシングだけをやっていた。家出した時に初めて、人を殺すためにぶん殴った。
体に染みついたパンチを出すたびに、記憶が蘇ってくる。
「ッ・・・!」
格闘技の訓練で最初はイマイチ結果も出なかったし、座学も酷いモノだったから俺は落ちこぼれだなんだと笑われていた。
他の格闘技にも触れながら、結局は大好きなものを伸ばし続けたけれど。
皆よりも小さい体格で、歳も幼い。あの頃は今と同じように軽くて、パンチ自体には力を入れることが難しかった。
俺がヤーパン、日本に興味を持ったきっかけだってサブカルチャーの影響もあるが、憧れのボクサーの母国というのも大きい。その人は、最後に負けて引退するまで強敵を倒し続けた。
サウスポーになれたなら、なんて何度も考えたし、神の左だってかっこいいと思う。
けれど、手数の多さ、どの手札も強い。なにより、小柄な体とは見合わないほどの威力を携えたパンチという点に憧れたんだ。
「ガッ・・・!?」
他の格闘と合わせるために練習したあの頃を、思い出すみたいに放った全力の左ストレートは浅くとも確かに捉えた!
俺はサウスポーじゃない。ここまでも左はジャブに使ってきた。
だけど、俺の本懐はノビのあるコレ。隊長にだって通用する。届く自信はあったし、想像よりも深く差し込めた。
「俺は勝つ・・・」
もしスポーツ文化がまともに残っていて、サムくんがボクシングだけを続けていれば、世界を目指せたかもしれない。
けれど、彼の強みは近距離戦闘における多彩な手数と経験から来る技術だったり。
そんなサム君、VAGちゃんにもできないことがあるんですよね。
それこそそこらの子供にすら負けるところが。
それは多分連載終了後の番外編で拾います。
それと某解説なラジオにお便りを送ってみました。
あと感想も返信していただけたんですが、あの量の感想を返信してて・・・僕も返信できるだけの語彙力が欲しいです。
感想とかも全部目を通してますんで!感想、お気に入り、諸々いつもながらありがとうございます!
今度はあまり期間を伸ばさないようにしたいですね・・・