鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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塔の上の2

 拳が届いた。新雪のように白く、イラつくほどにきめ細かいパーサの頬は歪んで、黒のゴスロリ服は吹っ飛んだ。正確には飛び逃げられた。

 

「ッチィッ!」

 

 人間ならノックアウトするレベルの直撃だが、やはり浅いとしか思えない。パンチ自体は見切られていて逸らすことができたということを考えたとしても、異常なまでの頑丈さという部分に関しては前のパーサと何一つ変わっていないのか。

 

「っ」

 

 怯ませたところで撃った銃弾すら反応されるのはたまったものじゃない。

 もちろん距離を取られてしまえば、グレネードランチャーの間合いとなってしまうのだから、俺は突っ込むことしか選択肢もなかった。

 一発喰らわせて流れを手繰り寄せられるかと思ったのに。

 

「いいネェ!サイっコウだ!」

 

 塔の中に笑い声が反響する。モダンで薄暗い塔の中に響き渡るそれはとにかく邪悪で、楽しんでいるかのようだ。

 頭が痛くなる。鉄血人形の考えていることは考えたくもない。どういうロジックで、どんなテンションで、こんな会話を紡ぐのか。

 人形になって余裕が出来たせいで聞こえるパーサの言葉に、脳は理解を拒む。

 俺とは比べようも出来ないほど高度に戦いを楽しんでいて喜んでいる。

 

「あぁ・・・っ!マタ、君と愛シ合えルなンテ!」

 

 パーサは片手はQLU-11の狙いをつけて、もう片方は頬に添えながら、心の奥底から喜んでいるようにしか見えないのだ。

 歓喜に震え、狂うほどに賛美している。

 分からない。俺にはこいつの気持ちが分からない!

 

「いい加減に!壊れろ!」

 

 動かれているせいで、距離がある。半身の残弾も多くない。多くないと言っても、昔使っていたPx4で.45ACP弾使う時の一マガジンといい勝負が出来るけど。

 ASSTのおかげで残弾も分かる、銃の調子も分かる。自分の体のように扱うことができるようになるというのは本当で、尻尾と外骨格も合わせて、ようやく使いこなせ始めた。

 気づけば自分が人間ではなくなった、戦術人形としての機能にすらも違和感を感じなくなっている。

 人間という制約がない分、素早く動ける。体のキレも、力のこめ方も、一つ一つのスピードも。俺が最適化されていないのは思考回路だけで、本来なら三十路のせいでぎっくりが怖い動きだって軽々とこなせる。

 

「ツレないナァ!モット楽しもうヨ!」

 

 だからと言って、目の前の敵を余裕でぶっ倒せるかと聞かれればそうでもない。

 一歩潜り込んでも、筒が頭上に降りかかってきた。袈裟切りのように振り落とされたそれは、腕で逸らすしかない。火器の脆さを考えればそれは叩くためではなく、隙を生ませるための一手だ。

 反応はできているし、どうすればいいのかも分かっている。

 

「っ」

 

 分かっているのに気付けば吹き飛んでいた。叩きつけられた壁から一メートルもないところは今にも崩れ落ちそうになっていて、殴り合いでハイになっていた頭に氷水をぶっかけられた気にもなる。

 追撃が来るまでの数フレームほどの思考回路の差はでかすぎた。確かに敵のミドルキックは気づいていた。飛び上がって、避けようともした。続いてきた攻撃は処理できなくて、背負い投げされたんだ。

 QLU-11も火を吹いた。

 ラッシュの速度がヤバい。

 

「ウチドメェ?そんナンじゃ、ナイヨねェ・・・?」

「当たり前だ。俺は勝つことしか、考えてない!」

 

 背中に手を回して、バックパックを壁にたてかける。あとは、もう一手で、勝ってやるつもり。時間を稼げばいいのだ。

 

「俺は、一人じゃない」

 

 小さく呟いた俺に構わず、パーサは迫る。相変わらず早い。それこそウェルロッドよりも早いように感じた。

 

「アーハァ・・・」

 

 蹴り上げた左脚は掴まれて投げられる。体を捻って、尻尾も含めて五点着地。それでも勢いは止まらないので、どれほどのパワーなのかも考えたくはない。

 

「持ちナオセルんだァッ・・・」

 

 宙を舞う勢いは尻尾がなければ立て直せなかった。ついでに根元から切り離した左脚の外骨格はフレームごと曲がって折れている。

 キツイのは変わりない。俺はきついし、パーサは笑う余裕がある。

 そんなことわかっていても、今は負ける気もしていない。

 最初から無理な勝負なのは慣れっこ。諦めたくなることだって何度もあって、辛いことだっていくらでもある。

 弧を描いたパーサの口元を見て、追うように笑いがこぼれていく。

 

「なるようになる」いつだって。

 

 いつだってそう言い聞かせてきた。

 動き出せば、止まることは出来ない。ただ走り続けて。後ろを見返したいときだってあるけれど、それはその時するべきかどうかを考える。

 俺は俺自身を信じている。少なくとも戦っているときはそうだ。迷っていては、動きも追いつけない。

 

「ッ」

 

 お互いの言葉が無くなった。交わしているのは肉体言語のみ。暴力こそが会話。

 俺とパーサに至ってはそれが会話で、パーサからすれば愛情ってことなんだろう。

 正直分からない。まったく分からないし、分かる機会は一生訪れないと思う。

 

「タマラなく・・・楽シイ!」

「・・・っやるしかない」

 

 アームカバーは両方とも引き裂けた。首元のリボンも解けたし、シャツの上の方のボタンはどっかに行った。

 右の脇腹が痛すぎて、そこを抑えてうずくまりたい。負け筋はいくらでもあって。それを弾いて勝てる選択肢を選んでいっているつもりだけど、直感とか本能とかに頼りすぎているせいで正しいのかさえも分からない。

 スカートの裾に手を掛けた。




最後の一文を読んで察した方も居ると思います。
察せた人は、VAGちゃん検定三級です。

エピローグまでは片手で数えるぐらいのつもり。


鉄騎兵要素薄いな???
正直シーズンワン以外はタイトル消え去ってますよね。
(あと感想でタイトルから・・・を連想したというものがあったけど)僕も結構前に同じこと思いましたよ。
なんなら「部隊は家族」「仲間は家族」みたいなところ書くたびに頭の中で「嘘を言うな!!!」って思ってた。この作品はむせませんのでよろしくお願いします。

次パートは・・・
今週以内を目指します。
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