鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
寒い。
空はまだ茜色。これよりももっと冷え込むに決まっているし、疲労もかなりキテいる。
「さっすがにすぐに助けはこねぇよな・・・」
綺麗な空を眺めて待ちぼうけ。カラスの鳴き声が寂しさを引き立てた。
今更敵にバレてもどうしようもないし、いずれには見つかる。何より塔の残骸の陰に吹き込んでくる風は痛いぐらいに冷たかった。
「これだけの木材じゃあ、一晩も明かせない」
かと言って、火をつけるとしても燃料になるものは木箱のガワだけだ。
俺は人形だし、寒さとかそういうのも機能停止には直結しない。ただ、寒くて冷たくて、辛いだけ。
問題はぼろぼろのパーサがどれほど持つかということ。
俺が気分が落ち込むことなんて、作戦目標の失敗と比べれば簡単に決着がつく。
眠気もヒドイが解消法も持ち合わせていないのも、マイナス気分を加速させた。コーヒーやガムなんて子供だましなものだし、カフェイン錠剤もない。そもそも、カフェインは俺たちに効くのかという疑問もある。
「んな目で見んな」
パーサの顔は申し訳なさそうな色だが、相変わらず何を考えているのかは計り知れない。
焚火の対面。パーサを転がしてある方が奥まっているおかげで暖かそうだ。
「目的のためにそうしてんだから」
こっちはお空と外の冷たい空気ばかり味わっていて、手の先と気持ち程度しか恩恵も受けていない。
そんな状況でいらつくなってのも無理な話だ。ここまでの流れで既にイラついている。今更細々した心配されたところで、油を注がれるような気分。
「一つ聞いときたいことがある」
「・・・ナニ?」
今回の作戦、パーサを鹵獲した後に引き渡すのは十中八九IOPしかない。あそこに行ってしまえば聞けないのが分かっているからこそ、嫌な予感のする話題を振った。
塔の残骸から引きずり出したQLU-11で、俺を見ていた瞳は大きく揺れる。
「こいつを盗った理由、なんだけど」
空気が震えた。パーサの様子は今にも泣き叫ばん勢い。駄々をこねる子供のように、必死に言葉を繋ごうとしていた。
「コワサナイデ!トラナイデ!お願イ・・・」
「取るなも何も・・・」
萎んでいく声を聞くと完全に調子が崩される。
俺を感じられる品とは言うが、俺はQLU-11を使ったことはない。どうしても近くにあるモノを手に入れたい一心で得たからなのか、その程度ですら執着していたことだって理解も行かなかった。
よく分からないのでひたすらに不気味で怖い。こちらを見つめる宝石のような瞳が何を視ているのか。
「やっぱり、敵は嫌いだ」声は風音でかき消される。
何があったとしてもこいつを許すつもりもない。敵に情を揺さぶられたとしても、敵ということは揺らがない。嫌いとか、言葉で表すとすればそうなんだけど。敵、という表現こそが全てを表す。
考え続けると深みに引きずり込まれていくだけなので、すっかり夜の帳が降りた空気にため息をこぼした。
「うへぇ・・・息が白い」
夜空を見上げても星は俺を導いてはくれない。
星の位置で時間を割り出せもしない。夜がまだ続くことは分かるが、乗り切れるかは分からない。
「客も来たみたいだし。夜は長い」
数は、十五、六。姿勢は低く、周りを囲む様子は統制が取れているから群れだ。
あのサイズ、肉付きではとてもじゃないが一発で仕留める自信はないし、そもそも弾が足りない。
バヨネットはどこかに行った。手元にあるのは残弾の無いQLU-11だけ。あいにく、鈍器を振り回して立ち回るのは得意じゃなかった。
「喰っても美味くねぇ・・・って分かんねぇか」
野犬はポインターのように言葉を理解することはない。交わすのは生存競争のための戦いだけだ。
パンチを打つ隙はない、VAG-73の残弾も耐久も足りない、数の有利も、戦闘能力も気力や精神の余裕も足りない。足りないけど戦うしかないのも分かってる。
▽
飛び掛かってきた一匹の前脚を掴んで、勢いを殺さずに近くの一匹に。低い姿勢のタックルは飛び越えて、中途半端な高さは蹴飛ばして。
疲れ切っているのに、人形の体はパファーマンスのダウンも酷くないのが、より苛立つ。
「しっつこいんだよ!」
戦いが始まって四十分。荒げた声は枯れて掠れていた。夜風でかいた汗が冷たい。
獣型のELIDも戦った経験はあるからこそここまでは持っているが、突破口も見当たらない。
「群れがデカすぎる!」
おかしい。どう考えたってこれはおかしい。数が多すぎると思いつつ、一際大きなやつにVAG-73を撃ち込んだ。ヤバイ。
「っ」
弾切れだ。俺の背丈よりも一回り以上大きく引き伸びた体が、勢いを殺しきれずに覆いかぶさって・・・
脇腹が痛い。悪い結果以外がシミュレートできなくなった。逃げ筋がない。
走馬灯は走らないけれど、なんとなくダメなんじゃないかとは思った。
「・・・え?」
それでも諦めたくなくて腕で受けようとしたのに、いつまで経っても衝撃は来なかった。
「!」
群れ共の長とでも言うべき巨大な野犬の腹は横を向いて倒れている。
その上で、前脚を突き立てて自分が次のボスだと言わんばかりに吠える仕草をしたのは・・・
「ポインター・・・?」
ダイナゲートであるポインターからは吠える声がしないのに、周りに居た野犬共は次々と恭しく伏せた。
思考がついていかない。
続いてひびき渡った銃声にも、がっつりとお米抱きされていることにさえ気づくのは遅れていく。
「待たせたね!サム!」
ずっと焦がれていた声がすぐそこから聞こえることにも全く思考がおいつかない!
一 獣 の 王 ポインター 爆 誕
「ポインター2世?贅沢な名前だねぇ!今日からお前はシ〇バだよ!」
ダイナゲートをラ〇オン〇ングさせるなんてここで突っ込んでくるなよと言われるかもしれませんが緻密(思考時間一分)に練られた展開故に必要でした。
へへへ・・・シーズンスリーは次のパートがラストです。その次はエピローグ(という名の新たな波乱の幕開け)(連載の予定はありません)
かんそー返し
「VAGの、ツンデレめ(w
こう、感情の揺れる感じがもやっとしてる感が出てますな~」
多分だけど他のVAG-73ちゃんたちもツンデレなんやろなって・・・キャラ詰め込み過ぎ定期。更に中身おっさんのVAG-73mod(サム)ちゃんとか属性オーバーフローしてる。
「パーサめ、実用、観賞用を狙ったか
もしスルーしていたら布教用も用意してただろうな」
皆さんからのパーサへの認識・・・妥当だな!
感想とか諸々いつもありがとうございます。
次回の更新も早めにやるつもりです。