鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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兄と弟と3

「にだいめ・・・なんで?」

 

 返り血を浴びたジョージの顔は苦しそうだ。

 一六式のキューポラから放った9㎜パラベラム弾はボブの眉間に風穴を開けていた。

 こと切れた弟の体を抱き寄せたジョージの服の背中には切り裂かれたような跡から血がにじみ出ている。

 

「仲間の命を守るためだ」

 

 そう嘯く俺の左手をサブリナは不安そうに握った。もしかしたら震えていたのかもしれない。

 

「そんなこと言ったって!」

 

 ジョージは滅多に見せない表情でこちらを睨んできた。それに合わせる顔はなくて。目を逸らす。

 

「すまん」

 

 一言言うたびに俺の中の罪悪感は増えていき、その決断は正しかったのかと疑問になってきていた。

 唯一の肉親をこんな形で失った彼の心持など同情は出来たとしても本質的には理解できない。それでも圧責は大きかった。

 拳銃がごとりと音を立てて砲塔に落ちる。右手の震えを感じ、左手で抑えた。

 

「ボス、大丈夫」

「ありがとよ」

 

 サブリナは俺の手にグローブに包まれた手を重ねる。その手つきが優しくて思いつめることだけはなかった。

 

「ジョージ、言いたいことは言っていい。だが手当は受けろ」

 

 もう手は震えていなかった。

 判断に後悔はしない。

 ジョージがバケモノに殺される寸前だったのは間違いなくて、傷つけられたのは事実だ。それを守るために撃った。撃たなければ後悔していた。

 だからこれは仕方ない。そう、仕方なかったんだ。

 そうやって言い聞かせてようやく自分を納得させたのはジョージの手当てとボブの埋葬を済ませてからだった。

 

 

 

 

「社長、ジョージは」

「今日も欠勤。一応休日ってことにしてるが、問題はないだろ?」

「まぁ、今日の仕事じゃ砲を撃つ機会はないからな」

 

 寮の部屋がある五階から二階へと降りて事務所に顔を見せるが、社長以外誰もいなかった。

 サブリナはまだ部屋で準備していたからいいとして、マイクはいつも通りのサボりだろう。ガレージに行く前にバーから引っ張り出すしかない。

 そして肝心のジョージとはあの日以降一切顔を合わせていなかった。あの出来事以降、俺たちというチームの結束は崩れている。

 崩したのは、俺だ・・・

 あの日以降、Px4を握ると手が震えまともに狙えなくなってしまった。

 人形に向かって構えた後ですら何事もなく的を撃ち抜けたはずなのに、握ることすらままならない。その事実でより打ちのめされた気がする。

 ただそんなことよりもジョージがチームから居なくなってしまうことが辛かった。

 

「サム、さっさと仕事に行け。お前が悩んだところで何も変わらない」

「あぁ」

 

 そうだった。俺がいくら苦悩したところで過去は変わらない。そして俺はあの判断を後悔していないのだ。これを乗り越えるのはジョージ自身で、それを支えるのがチームの役割なんだろう。

 ブーツをしっかりと履き略帽を被って事務所から出ていった。

 

 

 

 

 一六式の前にサブリナとマイクが並び、俺は作戦計画書を片手に喋り始めた。

 

「今日の任務は、人形排除強硬派によるグリフィン庁舎前でのデモに対する圧力だ」

 

 一六式はAFVである。そのごつごつしい見た目はすれ違っただけでも市民に恐ろしいものを見た顔でひそひそと陰口を叩かれるほどだ。

 昔は警察などがデモを警戒していたそうだが、過激になってくるあまりに近代では重武装のPMCや人形、車両などが圧力をかけるのが定例となっていた。

 特に車両は一方的に攻撃できるイメージが大きいため(群がられたら抵抗のしようがないが)こういった任務には引っ張りだこである。

 特に自前で対応が出来るはずのグリフィンが対応しないのは、デモ隊の勢力が問題だった。

 

「・・・」

「マイク、どうした?」

「なんでもねぇぜ、旦那」

 

 マイクが苦々しい顔で唇を噛んでいる。もしかして人形排除派のやつらに悪い思い出でもあるのかもしれない。

 そう、人形排除派。そんな輩も居るのだ。人間を模したロボットである人形は世界の理に反している。だから排除するべきだという考え。あまりにも時代遅れが過ぎていて大衆の支持を得ることはなかったが、それでもデモを行う位に人間は居た。

 宗教染みた奴らの中でも今回デモを行う勢力は過激派ととらえられる集団だ。

 警備にグリフィン所属の戦術人形を回せば、タコ殴りにされてしまう。それゆえ、下請けのPMCに仕事が回ってきていた。

 俺たちMCVカンパニー以外にも普通のPMCが数社。合わせて二十人近くとこの一六式がグリフィンの庁舎の前で警戒を行う、そういう手はずになっていた。

 

「砲弾は前回に積んだままだが、使わない。機銃も俺のやつ以外には弾薬すらも搭載しない」

 

 バインダーを閉じる。

 

「あくまで今回は圧力をかけるだけだ。もしもの場合には他のPMCとグリフィンの狙撃部隊が制圧する」

 

 俺たちの役割はあくまで圧力をかけて大きな行動を起こさせないこと。

 戦力は見せることに意義があるのだ。

 

「全員、乗車!」

 

 そうして仲間が欠けた状態で乗り込んだ一六式の車内はいつもよりとても広く感じた。




お気に入り、感想、ありがとうございます。

感想でご指摘のあった「M2ブローニングは単発射撃が可能」という情報を文章に反映しました。情報提供ありがとうございました。


次回予告
デモ隊は徐々にヒートアップし、暴動を起こす。やむなく制圧に移った治安部隊。しかし、強硬派は武装を持ち出してくる。治安部隊の盾となるべく前進する一六式。しかし足が止まる。
第二章第二話「親子の縁」
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