鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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親子の縁1

 

「サブリナ、耳を貸すな」

「・・・うん」

 

 人形であるサブリナからすればこのデモ隊のコールは辛いものがあるだろう。

 そっと砲尾を越えて綺麗な色の髪をポンと叩いた。

 

「マイク、停車。様子を見るぞ。指揮所、MCVカンパニーは配置についた」

 

 無線機に問いかけると少し若い女性のような口調の中性的な声が答える。新しいグリフィンの指揮官らしい。着任して早々の仕事がこんな胃が痛くなるようなモノだなんてご愁傷さまだ。

 

「あーあー、そのままデモ隊の正面で圧力をかけてくださいオーバー」

「他のところの配置はどうなってる」

「他?えぇっとちょっと待ってくださいね・・・」

 

 無線の先ではガタガタとあわただしく端末を確かめ他の部隊と連絡を取る指揮官の様子は、本当に代行官殿が言うほど優秀とは思えない。

 人形に対する指揮とこういった治安維持の指揮は勝手が違うかもしれないが、どうにか出来るだけの腕はあるからこそ、今回の指揮を命じられているんだ。いざとなったらやってくれるだろう。

 

「あぁと両側面への部隊配置は終わりました!」

「ありがとう。俺たちは正面に居るだけでいいんだな?」

「はい。珍しく今回は正規の手順を踏んだデモなので・・・敷地内にまでは押し入らないと決めてあります」

「・・・分かった」

 

 人形を力づくでも排除しようとした前科があるのに取り決めを守るとは思えないが、あくまで今回は相手を制圧する理由はない。

 面倒だからという理由で撃てないのは、理性ある武装組織としての辛いところだ。

 砲手が居ないので砲塔は回らない。真っすぐ正面を捉えればデモ隊の持つ垂れ幕が目に入った。

 「神の作った世界を壊す人形を許すな」「人形は壊せ」そのどれもが無茶苦茶な主張で、結局のところ自分たちのエゴのための言葉に過ぎない。考えが他人のためになるのなら支持者も増えるだろうが、こんな状態では同じエゴイストだけの集まりのままだろう。

 吐き気がする。

 俺は人形に銃を向けた。しかし、あれはあくまで怒りという感情の暴走だった。人形は嫌いだが、居なくなられたら鉄血との前線は崩壊するし、経済活動も止まる。そんな盲目的になるほど嫌いではないのだ。

 だから、あいつらの言葉なんて全く理解も出来ない。

 一体どんなロジックでそんな行動を取れるのか。その行動は何に役立つのか。

 全く理解できなくて、吐き気がした。

 

「なぁ、旦那」

「どうした?」

 

 操縦席から弱弱しい声が聞こえてくる。

 いつもからかうような軽い声音は怯えた子供のようだった。

 

「俺の親が、あそこにいる」

「・・・そうか」

 

 マイクのカミングアウトは予想できたもののやはりそれなりにショックがあった。今日の仕事に抵抗をしめしたマイクになにか事情があるとは思っていたが、いざこういうことが起きるのは困る。

 

「俺は育ててくれたメイド人形を痛めつける両親に嫌気がさして、人形を連れて家を出たんだ」

「その人形はどうなったんだ?」

「あいつらの仲間に袋叩きにされて壊れた(ころされた)

 

 そう語るマイクに俺たちは何も言えなかった。

 いつも軽口を語るこいつにそんな過去があったなんて。その軽い態度はこの出来事の反動だったのかもしれない。

 

「マイク、親の事は憎いか」

「憎い。今でも許していない」

「分かった。だが、ひき殺すのは許さないぞ」

「分かってるよ・・・」

 

 武装もしていないデモ隊など操縦手の独断で蹴散らすことが出来る。それじゃあダメなんだ。

 

「ひき殺すのは俺の指示でだ」

「・・・ごめん」

「俺は、ボスだからな。ギャランティの分は働くぞ」

「「了解」」

 

 あくまで俺が殺せと命令した、そういう形にしないとダメなんだ。

 例えどんな親であろうと、親子である以上自分の意思で殺せば苦しくなる。苦しくならないほど非情じゃないのは分かってるから。

 俺が殺せと命令すれば俺に責任転嫁することが出来る。この状況で戦う必要が生じた時最も被害が出ないのはそうやって擦り付けること以外は思いつかなかった。

 

「ふぅ・・・こうやって狂気の人間が迫ってくるのは冷や汗が止まらねぇな」

 

 早く、こんな仕事終わってほしい。

 脇腹がチクっと痛む。

 この感触、パーサと睨みあった時以来だ。

 

「どうしたの?」

「嫌な予感がする」

 

 俺の一言で乗員たちの空気は引き締まった。

 

「発砲!報告せよ!」

 

 指揮官が無線に叫んだ。悲痛なその叫びはこんなこと起きるとは聞いてないと言わんばかりだった。

 乾いた銃声がデモ隊から聞こえる。

 キューポラの上を銃弾が飛んでいった。前を見ればデモ隊は暴徒のように全力でこちらに走ってきている。取り決めのラインはあっという間に破られた。

 

「指揮官!警告射撃の許可を!」

 

 狙撃部隊の人形の声に指揮官は中々答えない。じりじりと庁舎の入口に迫ってくるデモ隊を止める方法は俺たちしかいないようだった。

 拡声器を持ちキューポラから身を乗り出す。銃弾が飛んでくるが、正面から飛んでくると分かっている分前線よりマシだ。

 

「前進。入口を塞げ」

 

 すっと息を吸い、怒鳴った。

 

「止まりやがれこのすっとこどっこいッッ!」

 

 いきなり叫べば最大音量に上げておいた拡声器によって声が兵器になる。

 デモ隊の足が止まった。

 

「このまま下がれば危害は加えない。下がってくれ」

 

 一発の銃声が答えだった。

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