鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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親子の縁2

 

 

 何故言葉が通じない。どうして足を止めない。一体その無謀はどこから来る!

 デモ隊の人波は敷地の目と鼻の先だった。

 ブローニングで牽制したいが指揮官の指示は待てだ。指揮系統を崩すのは戦闘のモチベーションを崩すのでよくない。

 この状況をどうするかなんて答えはなくて。ただ答えを導き出せそうな式を解いていくように、ひたすら手段を講じていく。

 

「エンジン吹かせ!」

 

 エンジンが嘶き、砲手席に滑り込んで砲塔を暴徒の正面に向けた。

 車長席に戻って拡声器を握る。そのまま砲塔に登って仁王立ちした。

 こんな時にごつい銃を構えた方が言葉の数倍も効果があったが、ないものねだりをしたところで現状は変わらない。

 ブローニングを構えてもいいが、キューポラの周りには破片防止用のプレートがあってそれに立てつけているので遠目ではキューポラの上の構造物が回っているようにしか見えない。

 幸い進んでくるデモ隊に人を撃つ覚悟はなかったようで庁舎に向かって発砲するだけだ。

 

「指揮官!戦車兵が撃たれます!この位置なら左右の部隊が銃器を制圧できます。発砲許可を」

「ダメ。相手の目的が分からない以上過度な刺激は。それより庁舎内の非戦闘員退避は」

「あと五分です。庁舎内での迎撃態勢、第二第三部隊の配置完了。ハンドガンの各所への展開も終わっています」

 

 無線機からは状況が伝わってくる。

 この緊張感であまり頭が回らないが、指揮官は市民の目がある外よりも制圧のリスクがある方を選んだようだ。

 俺たちの役目は受け入れ態勢が整うまで相手を引き付けることか。

 もう相手との距離は二十メートルを切っている。

 

「止まれ。止まれ。今撤退すればいい!」

 

 ひたすらに叫び、ブローニングを向けた。そんなことじゃ止まりもしないのはわかりきっているがやらないよりはマシだ。

 赤と黒のスカーフがずり落ちる。それがトリガーになったのか、デモ隊の先頭の男が止まった。

 

「あぁ!貴方は偉大なるサム伍長殿!」

 

 仰々しく両手を上げ俺の名を呼ぶ。

 こいつは誰だ?俺の知っている人間ではない。そして俺の階級を知っている人間なんて正規軍以外、身内と会社の人間しかいないはずだ。

 

「誰だ・・・?」

 

 一人呟くように問いかけると、耳聡く拾った男が芝居がかった様子で語りだす。

 いや、俺の言葉など気にも留めていない。ただ自分に与えられたセリフを演じる大根役者だった。

 

「神の設計図に逆らう人形に正義の鉄槌を下ろした我らが英雄、サム伍長!私たちの聖戦のために!そして我らが正義のために共に行きましょう!」

 

 一体何が起きている・・・?

 疑問が浮かび、十メートルほどの距離でデモ隊と一六式は睨みあった。

 

「・・・ボス、こいつらの言ってることってナニ?」

「俺の過去だ」

「え?」

 

 サブリナが不安そうに聞いてくる。俺はようやく心当たりを掘り起こし、そして合点がいった。

 俺が銃を向け、それがトラウマとなって解体された人形。その出来事が俺が人形に対し、奴らにとっての正義を実行したことであり、それを曲解しているんだ。迷惑極まりない。

 唇を噛む。

 俺の軽率な行動が、こんな事態を起こすなんて。

 

「俺はてめぇらの英雄じゃねぇ。てめぇらの間違った主義なんて消えちまえばいいと思う。さっさと尻尾撒いて帰れ!」

 

 拡声器で怒鳴る。

 脇腹がチクリと痛んだ。

 

「・・・RPG!」

 

 狙撃班だか誰かが叫ぶ。視線の先、デモ隊の中心に隠れた位置にロケットランチャーの弾頭が見えた。

 

「バック!避けろ!」

 

 マイクの反応で発射とほぼ同時に動き出せた。

 誘導ミサイルみたいな高価なものじゃないだろう。ロケットランチャーが当たれば損傷は免れないし、俺は車外に身を乗り出している。

 バックの勢いで砲塔から落ちそうになるがなんとか引っ張りを掴んで耐えた。

 

「・・・くそ!」

 

 しかし門の前でバリケードになっていた一六式が退いたことでデモ隊は雪崩れ込んだ。

 そして武装した集団が庁舎の中で銃撃戦を始め、非武装の人間はすぐさま下請けPMCによって確保されたのだった。

 マイクは確保された人間の顔を見たが目的の人物は居なかったらしい。

 それはとどのつまり、彼の両親は人形と殺し合いをしているということで。時間がかなり経っても散発的に聞こえる銃声が収まるまで俺たちは一言も喋れなかった。

 

 

 

 

「庁舎内クリア、状況終了。各部隊に告ぐ、庁舎内のデモ隊の収容を行え。報酬も追加する」

 

 指揮官の声で俺は徐にVAGをホルスターに入れて、一六式を降りた。

 

「マイク、探しに行くか?」

「あぁ」

「サブリナ、お前はどうする」

 

 車内で一人考え事をしているサブリナを呼べば、なんだか調子がおかしい。

 

「こっちで待ってるよ!・・・うん。ちょっと整理をつけたいから、ごめん」

「大丈夫か?すぐに終わらせてくるぜ」

 

 今気にする必要はないと思って後で聞くことにする。

 

「・・・うぷっ」

「マイクは死体見たことないんだな」

「俺は社長に拾われるまで路地裏で暮らしてたけど、人形が見ないように遮ってくれてた」

 

 マイクを引き連れ庁舎に入れば、そこは血の海だった。

 バリケードから一方的に制圧されたデモ隊の血だ。

 数が多かっただけに死体はあちらこちらに倒れている。グリフィン側はほぼ被害がない。素人と人形だから当然か。

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