鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

28 / 157
黒の津波3

 意識が飛んでいたのか、それとももうあの世なのか。

 最初の思考はそれだった。段々と意識が明確になっていくうちに時間自体はそれほど経っていないような気がする。

 

「おい、おい!起きろって!」

「・・・パーサはどうなった?」

「倒してない!無傷だよ!笑っていやがる!」

 

 共闘していたAEKがバスケットから身を乗り出してキューポラで倒れている俺の肩を大げさに揺らしていた。

 あまりしっかりとしていない意識の中でなんとか重い体を持ち上げる。

 前を睨むと確かに憎きゴスロリ人形は五十メートル近く遠くにいながらよく響く声で笑っていた。

 何故止めを差してこない。面白がっているのか?鉄血の人形の精神構造なんて知ったこっちゃないが、絶望に落した相手の苦しむ様子を見て笑うなんて、製造側は意図した設計じゃないだろ・・・

 

「なにが、起きたんだ・・・ッ!サブリナ、ジョージ、マイク!おい!」

「旦那、俺は無事だぜ」

「そうか、暴発したのか」

 

 マイクの返事で状況を掴む。

 砲弾が発射の衝撃で砲身半ばで炸裂したんだ。

 砲塔内は煤けているし、砲身は割れていた。砲尾はぐちゃぐちゃで破片が薬莢受けに落ちているし、砲弾が誘爆しなかったことだけが救いだろう。サブリナとジョージは大した怪我は無さそうで衝撃波で意識を失っているだけのようだ。

 改めてキューポラから身を出して確認すれば、一六式の装甲モジュールはボロボロだし、モジュールを外した車体構造にすらダメージが入っているかもしれない。爆発反応装甲なんかの増加装甲類はおじゃんになっていた。

 つまり、答えは。

 

「指揮官、一六式は戦闘不能だ」

「なんですって?!後退はできますか?」

「やれると思う。第一部隊も第二部隊も掃討できそうなぐらい優勢だし、面倒な相手はパーサだけだ」

「分かりました!部隊がそっちを救援できるまで逃げ回って!」

 

 無線機から手を離し、大きく深呼吸。戦闘中でも聞いていた戦況報告自体は楽観的だ。俺はパーサ一体程度であればVT榴弾で仕留められると思っていたから、数の多い方に専念させていた。そのプラン自体が二体目のパーサの登場で壊れたわけだが、そこから連絡できるほど余裕はなかったのだ。

 FALやFG42達はもう一体のパーサが出てきたことを今になって知り、戦闘中だから攻撃も出来ない。

 やるしかないな。手持ちの戦力は俺とAEKだけ。軽機関銃の人形とハンドガンしか持っていない人間だけでハイエンド人形を倒すなんて無理だ。そんなことは分かってるけど今あっちにパーサが行けば雑魚を捌き切れないままに戦線が崩壊するんだ。俺たちで止めるしか、ない。

 

「了解・・・マイク、逃げ回っていてくれ。AEK、やれるか?」

「やる・・・ってなにを?」

「お前は気を引くためにばら撒いて逃げてくれればいい。なんとかするから止めを撃ってくれ」

「分かった」

「ヤツの動きが止まったら、なにがあっても止めを差すんだ。いいな?」

 

 そこまで言ったところでAEKが前に銃を向ける。パーサがゆっくりと歩みを進めていた。

 

「おしゃべりはオワリカァイ?」

 

 けたけたと笑い、AEKの撃った銃弾の隙間を進んでくる。動きは遅いはずなのに確実に弾丸を避けているのは魔法みたいだ。

 スモークディスチャージャーを操作し、スモーク弾発射。陰になったところで一六式から飛び降りる。

 こんな戦闘考えてなかったけどなんとかするしかない。

 

「マイク、行けっ」

「旦那、どうか無事で!」

 

 装備を入れたボストンバッグを路地に投げ込み飛び込む。AEKの方はと確かめてみれば、ゲリラのように安全地帯からちょっかいを掛けていた。戦術人形であるとしてもあんな少ない意思表示で最善の行動を取るとは戦術人形の技術って素晴らしい。

 

「気は向かねぇけど、やるしかないか」

 

 VAGのホルスターを付けたベルトの反対側にバヨネットを引っ掛け、コンバットヘルメットを被り、簡易的なボディアーマーでなけなしの保護。

 本当はグレネードも欲しいし、無線だってつけたい。そんなこと言い出したらもっと長物の銃が欲しいところだし、人数も欲しい。

 ないものねだりをし始めたらキリがないけれど、これからやることを考えれば現実逃避したくなった。

 最後にケースに入ったガラスの瓶、アンプルと注射器を手に取る。

 

「・・・これだけは使いたくなかったんだが」

 

 さっきから痛くて痛くて仕方ないんだ。多分一番後ろだったせいで砲尾から出たブラストがもろに当たったんだろう。痛くて戦えないなんて冗談じゃない。

 ブロック塀に背中を預けてアンプルの頸を割り、中身の液体を注射器で吸い取る。あとは刺せば効いてくるはず。効き目が早いのか遅いのかはどうでもいい。こういうのはやった事実と効いてくるという願望で効き目を補うものだ。

 段々痛みが引いていく。ハイになっていく意識と共に立ち上がった。

 

「やってやろうじゃねぇか」

 

 人間だから人形を倒せない?

 スペック差で圧倒的に勝てる見込みがない?

 そんなの俺自身が分かっている。

 やるかやれないかじゃない。やるしかないんだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。