鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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第三章第一話最終パート。四日ほどお休みします。


黒の津波4

 

 気配がする。生垣の先に髪の毛が見えていた。あと十メートル、九メートル。足音から推測するに、歩幅は六十センチぐらいのタイミングだ。女性を模している人形だし大体の平均値はこれぐらいだったはず。

 AEKのことを見失ったのか、しきりに反対方向を眺めている。いくら俺が気配を殺すのが得意な人間とは言え、この距離で俺を感じ取らないのは無警戒が過ぎた。もしかしたら無謀にも思えたこの作戦は案外うまく行くかもしれない。

 息を殺せ。バレたら死ぬ。死にたくないだろ、俺。

 

「ドコへ消えたァ?」

 

 あと一メートル。

 フリルのスカートが生垣の陰から揺れて出てきた。時間がゆっくりと進んでいくような気がする。これがゾーンってやつか。

 

「会いたかったぜ、パーサァっ!」

 

 腰を落として、自分が出来得る限り一番の低さと勢いでタックル。百八十センチの背丈の体格と八十キロ近い体重はタックルに力を与える。

 人間よりもパワーのある人形相手でも不意打ちという条件があるおかげで、パーサを地面に縫い付けることには成功した。

 少ないモーションでタックルから相手を押し倒す姿勢になり、振り上げた右手の掌底で殴る。手の一番堅いところで突く、掌底突きは格闘技でも広く親しまれている有効な攻撃だ。

 綺麗に整った、見た目は白い肌の美少女であるパーサの顔に掌底を叩くのは一瞬だけ躊躇しそうになる。それでも見た目はともかく本質は強敵だ。少しも油断してはならない。

 

「グッ・・・オマエは・・・!」

 

 ひたすらに叫んで殴りつける。人間相手ならこれだけやれば骨も折れるし場合によっては殺せるぐらいなのに、パーサは鼻が曲がっている以外に損傷しているところはない。素材が頑丈なのだ。

 跨っている体に細い手が回り、投げられる。

 

「はぁっ、卑怯だろその耐久」

 

 アスファルト舗装を転がった。エルボーパッドもつけていないせいで服に穴が開く。クスリが効いてるおかげで痛くないのはありがたい。

 すぐに殴り合いの姿勢に入る。この距離じゃVAGを構えている時間もないし、長めのバヨネットで有効な攻撃を与えるのも難しい。

 

「あははっ!オモシロイ!」

「俺はちっとも面白くないぜ」

「イイねぇっ!その反抗的な目!最高だ!」

 

 こちらから仕掛けるしかない。

 俺のバトルスタンスは自分の間合いまで引き付けて相手の隙を見て一気に倒すというもので、得意じゃない状況でどこまでやれるかは分からなかった。

 ぱっと見相手は武器を持っていないように見える。意味するのが殴り合いが本懐だった場合俺に勝ち目はないが、どうにもパーサは名前からして解析をメインにする人形で、戦闘用ではないようで、殴り合いは素人ので身体能力の差によってトントンで収まっているぐらいだった。

 

「ッ・・・」

 

 一発一発の重みが凄い。まるで自分の二倍は重いよく鍛えた人間から殴られたみたいだ。たった一撃のジャブで視界が明滅してしまう。

 

「どうしたァ!ワタシに喧嘩を売ったのに、その程度かァ!」

 

 劣勢だ。この状況どうやって切り抜けるって言うんだよ。教えてくれ五分前の俺!

 脇腹が痛む。チャンスか!

 殴り合いから抜け、後ろへ下がる。パーサはそれを好機と見て当然前に進む。その動きは単調で、横合いから狙っていた人間からすればこれほどにもないタイミングだった。

 

「AEK、助かった!」

 

 どこからか銃弾が飛んできて、相手は避けざるを得ない。当然その行動は予想外なわけで俺はそれを逃すわけにはいかなかった。

 

「クソっ!」

 

 再びマウントを取り、確実に倒すためにバヨネットを抜く。俺の意思に気が付いたパーサは表情豊かに不利を悟っていた。

 足で両手を挟み、右手で首を抑える。

 顔面に刃先を叩きつけた。

 

「嘘だろ・・・」

 

 パーサはバヨネットの先端を歯で止めている。

 確かにその攻撃は大ダメージを与えるはずだった。片手とは言え力を込めた刃物の刃をどうにか出来る人間なんて聞いたことがない。人形ってチート過ぎないか?

 一瞬の動揺を感じない敵ではない。むしろ人形という最適化を施された機械故に何の感情もなく次の動きに入った。

 

「最高だ!アナタは!人間とは思えないほど強い!」

 

 感情を高ぶらせたパーサは俺を突き飛ばし、逆にマウントを取る。体格で言えば大人と少女、しかし馬力は人間と人形。

 首を絞め上げられ、笑いを向けられる。

 ・・・思い出した。ファーストバトルもこんな感じだった。

 AEKは射線上に俺が居て撃てない。助けはこない。

 

「でも、諦めるのってなんか違うよなぁ!」

「・・・!」

 

 ホルスターからVAGを早抜き、撃てる姿勢になった瞬間にフルオートでぶっ放す。

 

「ヤリヤガッタ、ナッ?!」

 

 胴体と顔面に当たったことだけは分かった。返り血のオイルが気持ち悪い。

 

「・・・あれ?」

 

 止めを差されると覚悟していた。攻撃はいつまでたっても来ない。それどころかパーサの気配もなくなった。

 

「一人で突っ込むのは軍紀違反ですよ」

「私なら、こうするわよ」

「うるさい!仕留められなかったのはともかく、ダメージは与えたんだから」

 

 軽口をたたく二人の人形。部隊長の二人が居るってことは、街の方の戦闘は終わったってこと。

 

「つか、れた・・・」

「「あっ!」」

 

 薬物に頼っても限界はやってきて、俺は意識を飛ばすことになった。




おかしい。第三章第一話は二パート構成の予定だった。それが二倍にも膨れるなんて・・・一体どうして・・・!

そんなわけで、更新停止前にキリがいいとこまでやれました。


次回予告
基地に撤退せざるを得なかった一六式とグリフィン。タイムリミットは一週間。一六式の修理に五日間掛かるが指揮官はただでさえ少ない戦力から一六式を抜く作戦に難色を示し、作戦決行は六日後。他の戦線ではこれに呼応して大規模な戦闘が始まり増援は望めない。一六式でパーサを仕留めるためには、一体どんな対応をするのか。
三章二話「アイツを仕留める三本の矢」
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