鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
アイウェアの収まりを直した。正規軍に入ってから使い始め、一個買うのにそれなりの値段がするのに何度も作っているそれは、五日前のパーサとの殴り合いのせいで買い替えたものだ。これで多分八個目ぐらい。流石に一回の戦闘で壊れるのは勘弁してほしかった。
「もうすぐですね。総員警戒」
「一旦停止」
指揮官の声と共に俺は車列に合図を送る。
やや曇った空の元、乾いた風で荒野から吹き寄せる砂が顔に当たり、思わず目をしかめた。
ゆっくりと周りを確かめれば、感染者や人形の気配はない。前回の戦闘では雑魚敵の数のあまりに止めをさせない人形も居たが、日も経てば機能停止しているみたいだ。バッテリー切れなのか、完全に屍のようになっている残骸達は人間のように腐食しないせいで人の形を保ったまま砂を被っている。
徐々に迫ってくるパーサの住処。
「サム、大丈夫だよ!」
「ありがとよ」
二度の戦いを思い出し、俺の手は無意識に震えていた。それを抑えてくれたのはサブリナだ。
「二代目、次こそはパーサをぶち抜くから安心して頂戴」
「頼りにしてるぜ」
ジョージは前回の最後に暴発で当てられなかったことを悔やんでいる。奇策はあっても止めを差すのは砲撃だ。
「旦那、俺も今日こそは一緒に戦ってみせる!」
「いつも一緒に戦ってるよ。今日も頼んだからな」
一人砲塔と離れたところで操縦しているマイクは、前回の暴発で砲塔内が気絶したことが少しショックだったらしい。一人だけ残されるのは辛いといつものバーで俺に語ってくれた。
「俺たちは、家族だ。絆さえあればどんな強い敵だって倒せるはずだ」
そうやってインカムに囁いていると、雲の隙間から太陽が顔を覗かせる。
俺が
戦場を駆けてきて、一緒に生活して、どんな人間なのかは大体つかめてきたと思う。こいつらの辛い話も、楽しい話も一杯見たし聞いた。だから、俺が死んだとしても家族だけは守らないといけない。
リンヤオの足のような後悔を二度と持たないために、絶対に返さないといけないのだ。
「やることは単純明快。迫って、狙って、撃って、止めを差す。俺たちなら落ち着いてやればできるはずだ」
目を閉じる。
今でもパーサの事は怖い。ここまで来て怯えるなんて俺らしくないけれど、相手はそれだけ規格外の存在であることは体の痛みでもって文字通り痛感している。
「ぶっ倒して、報酬貰って、遊び倒そう」
それでも戦う意思はある。家族のためなら俺は戦えるのだ。どんな状況であろうと。
「いくぞ。
車列は鉄血の占拠している地下バンカーとその倉庫に向かって進み始めた。
「発砲炎確認!ニーマムの砲撃だ、ミサイル発射用意!」
目標の地下バンカーは倉庫に囲まれており、倉庫は背が高い上に複雑な構造をしていてその隙間から人型の人形や隠蔽しているロボット型人形が攻撃してくる。
前回の戦闘で消耗したのか数はそこまで多くないし、裏手から進撃し始めている人形部隊には気付きもしていなかった。
厄介なのは砲撃を行うニーマム、こちらはパーサを仕留めるために砲身をロックしているので攻撃方法は薄くなった装甲にポン付けした歩兵用対戦車ミサイルやRPG弾頭の発射機だけだ。
一発一発が高いミサイルはともかく、RPG弾頭はたたき売りされていたものなので気軽に撃てる。被弾して誘爆すれば砲塔の中の俺たちは即死だろうが、走りながら砲撃してやればそれなりに当たる。
「次、三時の方角の倉庫二階に固まってる!RPG二発だ、撃てっ!」
ロケットの推進煙がみるみる相手の方向へと伸びていく。地下バンカー入口まであと少し、鳩尾が痛くなってきた。
「停止!」
慣性で体が前に突っ込み、顔がゆっくりと前を見れば銀髪と黒のゴスロリが見えた。
「アキラメの悪いオトコは嫌いじゃナい・・・!」
損傷している様子はない。取り逃した方じゃなかった。
「ダミーを三体もボロボロにしたのがタダのニンゲン、アナタのコト、気になるかも!」
厄介なオンナに目を付けられたホストの気分だ。何気にパーサ自身がカミングアウトしたことにより、こいつが本体だということが分かった。
右側に行ったFALや反対側を制圧しているFGの人形部隊が制圧するまで大体あと十分。指揮官に手早く報告し、一六式は突っ込み始める。
「砲塔を動かせ!あくまでこっちが砲身をやられたら戦闘不能になるように見せるんだ!RPGをバラまけ!」
パーサは武器を持っていない。戦闘能力も高くないはずなのに肉弾戦を嫌わないのは性格ゆえだろうか。人形の設計時点で武器は与えられなかったが、もしものために搭載した肉弾戦機能を戦闘狂の性格で動かしているかもしれない。
口でにたりと弧の字を描きながら陸上選手顔負けでこちらに向かって飛びついてきた。
一六式のブローニングが火を吹くが、一度着地してから飛び上がる相手は空中で体を捻り綺麗に避けてしまう。
腹部の痛みが伝播して心臓が痛い。
段々と迫ってくるパーサを見て、死神の吐息を聞いた気がした。
「アハハ!楽しくなってキ・・・ッ!?」
少し斜めになっている砲身を壊そうと掴まれた瞬間、俺は叫ぶ。
「今だ!」
その声と共にサブリナがスイッチを入れ、砲身は弾けた。
いつもながら目に見える応援ありがとうございます。そのおかげで頑張れるぞい。