鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
無線機はぐちゃぐちゃに壊れている。ベルト周りは脱落していないが、近くに割れたガラス片。
それを見てパーサは口を三日月形に歪めた。
「へーぇ、アンプルにィ注射器かァ」
荒い呼吸は落下の痛みだけじゃない。二本目を使っても中々収まらない全身の痛みだけじゃなく、痛みを誤魔化し運動能力にブーストを掛ける薬物で心臓が悲鳴を上げているのだ。
「愛情のテストにそんなモノを使うナンてェ、ヒドイじゃないかッ!」
感情を表に出したパーサが一気に距離を縮める。左腕をグンと振り回されラリアットが来た。腰を打ち付けたせいで未だに立ち上がれず、スウェーで回避。目の前を黒で包まれた細腕が音を立ててすれ違う。
「キャハハハハハッ!イイねェ!サイコウだネぇ!」
パーサの右腕が機能を失っているおかげで「ワンツー」の攻撃に空間が開き、片腕しか向かってこないおかげで立ち上がって回避すれば十分に避けられる。
避けられるだけで反撃のチャンスは見つからなかった。
バヨネットを抜こうとモーションに入れば正面左側から引きずっている生足のハイキック、VAGを抜こうとすれば腕の骨を折ろうと横薙ぎのパンチ。
「ニゲルだけェ?違うよねぇ!キミはもっとジョウネツ的に求めてきたじゃナイかァ!」
そんなこと言われても正面からじゃ反撃はおろか、隙を狙うタックルすら無理だ。マウントを取った時は不意打ちだったからでしかない。
攻撃の予備モーションが少ない。出る瞬間に脇腹が痛んでくれるのでなんとか見切っているが、ずっと後ろに下がっているのでコンテナにぶつかりそうだった。
「モットさァ!アイシテおくれよォ!」
銃声は確かにこちらに進んできている。時間は稼げているはずだ。しかしこちらに仲間が来るまで俺が耐えられるビジョンはなかった。
無情にも少し余裕のあったスウェーやパンチを逸らすと言った行動は段々とキレを失っていき、逆に鋭さを持ち始めたパーサの攻撃に圧され始めている。
「ナァ!ナァ!ナァ!キミのホンキを見せてヨ!」
段々と薬が効いてきたのだろうか。言われたとおりに本気が出せそうになってきた。ここまででも本気だが更にブーストがかかっている。
俺の命という燃料を使い切るまで燃やし始めたことによって作り出されたパワーは明らかに人間のそれじゃない。
サラマンダーのように自身を燃やし尽くしていっていることを脳が理解した。
「キタキタキタキタ!」
ようやくカウンターパンチを一発打ち出せた。当たりはしないが、明らかに相手は怯んだ。怯んだにも関わらずさっきより喜色満面になっていくパーサの気持ちは理解できない。
「サイッコウッだヨッ!」
右フック、左アッパー、相手が緩んだ瞬間に回し蹴り。パーサが飛びのいたのでVAGをフルオートでぶっ放した。
「アハァ・・・!イイ!イイ!ワタシたち、相性バッチリだヨォ!」
フルオートで7.62ミリケースレス弾薬を景気よく十数発撃ち、数発は掠ったようでパーサの白い肌から液体が噴き出している。
VAGをホルスターに差し、バヨネットを抜いている暇はないので素手のままタックル。
「あぁっん!モットォ!」
何故か頬を紅く染めているパーサはバク転で態勢を立て直した。
人間ではありえない、予備動作の少なすぎるアクロバット。彼女がハイスペック人形にしてネームドである証拠だ。
すぐさまに距離を縮め、右手で
「二度も蹴りは効かなイヨッ!」
足を掴まれ、投げられる。人形のパワーに人間は抗えない。どれだけ薬物でブーストをかけたとしても基礎体力からして格差が大きすぎた。
徒手格闘で投げられたのなんて、六年前かそこらに訓練で隊長に投げられたのが最後の記憶だ。こんな不利な状況、実戦じゃ初めてだし訓練でも滅多になかった。
受け身を取りながら立ち上がるモーションと同時に抜刀。既にパーサは距離を詰めていて、抜くと同時に弾くようにバヨネットが黒の剣と鍔ぜりあう。剣じゃなくて腕なのに、細さのあまりにかつての日本刀とやらを想起させる。
「そうダ!サム!ケッコンしよう!ワタシたちのオモイは代理人も拒みはシナイはず!」
何かしきりに言っているが、集中力のあまりに空間認識がスローになっている俺の耳にパーサの言葉は聞こえない。
幾度もの立ち合いでバヨネットは次第に曲がっていく。使えなくなるのも時間の問題で俺はパーサに向かって投げつけ、VAGをしっかりと両腕で構えた。この距離なら外しはしない。
間合い三メートル、トリガーを引く。
「ナンデさ!なんでワタシのアイを受け取ってクレナイの?!」
必死に避けようとするパーサだが、無情にもフルオートの銃弾は足と腕、胴体を貫いていく。
頭にも命中し、開いていた左目からは液体が噴き出している。
「・・・ァサ、サム・・・ワタシ、ハ・・・・」
四十八発のマガジンを全て撃ちきる頃には、パーサは膝をつき糸の切れた操り人形のように地面に倒れていった。息絶えたのである。
「・・・勝った、の、かッ?!」
銃声響くハンガー内で一際大きな銃声が聞こえた。それと同時に俺は脇腹から猛烈な勢いで出血していることに気が付いた。いつも危機を知らせてくれた右の脇腹はついに本当の痛みを出していたのか?そんな現実逃避はともかく、停止気味の思考回路が遅れて答えを導き出した。
「ははっ、笑えねぇ」
勝ったのに死ぬなんて、さ・・・
次回予告
意識を失ったサムはすぐさまにヘリで輸送され、医官に診断された。
薬物により心臓は虫の息で、薄れた意識の中で彼自身が生きることをやめてしまえば、止まってしまう。サブリナ達は入れ替わり立ち代わりで励ますが、サムには届かない。
それでも、サムは生きることをやめなかった。
そんな彼に興味を示した二人が悪魔の囁きをする。
「もし、彼がカタチは変わったとしても中身はそのままに生き続けることを貴方達が認めるなら、私たちは彼に生きながらえる手段を与えたい」
付け加える。
「もちろん彼がその処置が終わるまで生きる意思を途切れさせなければ、という条件はつくけれどね」
次回シーズンワン最終話「そうして彼女は戦うことをやめ、彼は人形になった」