鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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最終話突入につき、タグにTSを追加します。あらすじ部分もシーズンワン完結仕様に変更していきますのでよろしくお願いします。


そうして彼女は戦うことをやめ、彼は人形になった1

 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。

 意識がふわふわと何もない空間を漂っている。それは真っ黒の中から遠くに光る星を望む宇宙空間に取り残されたように感じるし、真っ暗な深い深い水底へと沈んでいくようにも感じる。

 時間も、空腹も分からない。

 辛うじて自分が何者か、なんのために生きてきたのか、何故こんな状況に陥ったかは考えることが出来た。

 パーサを倒したことでコアは取り返せたはず、サブリナは戦術人形に戻るだろうか。俺がこうやって何もできない状態か死んだとすれば、彼女は躊躇ってしまうだろう。それは俺がつけた枷だ。妹だけじゃなく、サブリナすらも俺という存在で縛り付けてしまったに違いない。

 時間が進んでいく。ゆっくりと。無限にも感じられる流れの中で意識を捨てれば二度と帰ってこれないということだけを認識し、俺は生きることにした。

 

 

 

 

「面白い人間も居るものだな」

 

 思わずそう呟いてしまった。目の前の彼女も同じことを考えたようで、どうやってつけたのか分からない獣の耳を動かしている。

 

「使っていた薬物は狙い通りでした」

「正規軍の使うブースト剤、か」

 

 白衣に身を包む彼女は専門外の事柄とは言え聡明な頭脳でもって真実をすっぱ抜いてきた。明らかに疲れている、言ってしまえば廃人一歩手前の目つきの中の瞳を爛々と輝かせているのは、天才特有のものなのだろうか。

 普段は奇妙な口調らしいが、何故か自分の前では堅苦しい。

 

「はい。でも濃度は通常の五倍近くだし、彼はそれを二本も投入しています」

「通常の五倍?」

「心臓のダメージは間違いなくこれが原因。この濃度、一本なら試験をしたようですがこの時点で副作用大きく死者が出そうだったそうですよ」

 

 一体彼をそこまで駆り立てたのはなんだ。強敵を倒すということに喜びを感じる戦闘狂か?一度の使用で癖になり使った中毒者か?どちらにせよ、正気の沙汰ではないことが確かだ。

 

「ふむ。やはり近いか?」

「持って半年、諦めれば今すぐに、といったところですね」

 

 色々と聞いてみたいことはあるが当人は現在呼吸と体を生かす最低限の動きしかしない状態。目が開いたり、寝たりといったことはしているが、栄養は点滴だよりでいつ心臓が止まってもおかしくないほどに鼓動は弱い。目覚めることは絶対にありえなかった。

 

「やってみるか」

「神をも恐れぬ所業ですね」

「責任を持つのは私だが、考えたのは君だろう?」

 

 

 

 

 生きていることを確かめる機器の音がメトロノームのように響いている。マスクに包まれた顔の奥、目は僅かに開いていた。一応起きていることになるらしい。

 心臓の動きは止まりそうなぐらい弱弱しくて、今にも居なくなってしまうと考えるとより不安になった。

 

「・・・サム、起きてよ」

 

 誰も聞いていないのを分かっている。サムのごつごつした手を握り、何度目か分からない言葉を呟いた。

 この手で撫でてくれるのがなにより好きだった。初めて出会った時助けてくれたのはこの手だった。不安になった時安心させてくれたのはこの手のひらだった。

 でも、サムが目覚めない限り撫でてもらえることは二度とない。

 

「もう怒ってないんだよ・・・!だから、戻ってきてよ!」

 

 こんな二束三文にすらもならないようなバッドエンドを書いた脚本家という神はよっぽど性根が曲がっているか、腕が伴っていないと思う。

 冒険物語はハッピーエンドか、全滅エンドが売れると相場が決まっているのだ。

 もし私もサムと一緒に壊れていた(しんでいた)のなら、こんな苦しみを味わうことはなかったと思う。

 思いつめるあまりに病室のドアが開いたことに気が付くのに時間がかかった。

 

「みんな、とクルーガー社長にペルシカリア博士?」

 

 いつものMCVカンパニーの仲間(かぞく)たちと戦術人形時代のデータ閲覧で見たことを記憶している、かつての雇い主(グリフィン)とIOP製第二世代戦術人形システムの生みの親。

 サムが治療を受けているのはグリフィンの施設なのでクルーガー社長が来るのは分かるが、博士が来る理由は・・・私のコア関連だろうか。

 

「まずは俺から話す。サブリナ、あと聞こえてないだろうがサム、事後報告になっちまうが」

 

 禿げ頭の方の社長はそこまで言ったところで躊躇う。

 

「アタシたちMCVカンパニーはグリフィンの子会社になったわ」

「ま、ついに吸収されたってわけだな!」

 

 ジョージとマイクが代弁した。会社という枠組みを維持できなかったことを社長が苦しく思っていることは理解できている。

 それだけを伝えるならクルーガー社長と博士が来る必要はなかった。

 

「本題をいいか?」

「は、はいどうぞ!」

 

 ウチの社長は上級代行官様(ヘリアントス)にすら頭が上がらないのに、更に上の人間相手では頭が地面に埋まっているぐらいだ。

 

「今回話したいことは二つある。一つ目はサブリナ・フランキ、戦術人形に戻らないか?」

 

 今回の騒動で、サムが命を懸けて取り返したSPAS12(わたし)のコアデータは無事だ。それを使えば、私は再び戦うことが出来る。魅力的な提案だった。

 それでも。

 

「お断りします」

 

 そんなことをしてしまえば、当然私はグリフィンに戻ることになる。私はMCVカンパニーの家族が大事だ。サムは怒るに違いない。我儘だけれど彼の存在を覚えている家族の間で働きたい。リンヤオちゃんの面倒も私が見ると約束している。

 だから、私は戦うのをやめた。




お気に入りとか諸々いつもありがとうございます。

今更ドルフロのアンソロコミック二種三巻買いました。無事金欠。
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