鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「そうか。残念だが君自身が望まないのなら、持ち主である彼も望まないだろうな。彼は君のことを大事にしているだろう?」
「・・・はい」
初めて会話をしたクルーガー社長の腹の底は全く見えない。何を考えているのか、もう一つの話に不安が募っていく。
「こっちが本題なのだが・・・ペルシカ、君から話してくれるか?」
「分かりました。彼はこのまま命という種火を徐々に使い切っていく一方」
サムはもう元に戻ることはほぼありえない。延命治療によって心臓が動く限り死ぬことはないが、意識すらもないそれは生きているというのが難しかった。それでも、まだ生きているのだ。
「もし、姿が変わったとしても中身はそのままに彼を生き返らせると言ったら認めますか?」
MCVカンパニーの全員が、絶句した。多分起きていたらサムだって吃驚している。
「その処置をするのには時間がかかる。もちろんそれが終わるまでに彼が生きることを諦めてしまえば、一貫の終わりだけど」
なんとなく察しがついてしまった。
人形のシステムに深く関わっている博士が言うこと、姿が変わるが中身は変わらないという言葉、これだけの情報があれば推理することなく答えに辿りつく。
「彼の脳を戦術人形の人格データに流し込む。そうすれば戦術人形「サム」が完成するの」
彼女のことは一般的に天才だと言うだろう。私たちはマッドサイエンティストだと感じたのは、かつての一般的な宗教観であれば絶対に許されないレベルの儀式を行うだなんて平然と提案してきた表情が笑っていたからだ。
サムも私も、社長もジョージもマイクも無神論者だ。だから「神に逆らう」だとか「人間の定義を壊す」だとかそう言った否定はしなかった。人格データになったサムを、本当の彼自身だと受け入れる自信もなかったが。
「そんなことが出来るのかしら?第一処置にだって費用がかかるだろうし・・・」
「費用の点は問題ない。我々二社が延命治療と処置の費用を持つ。そのための買収だ」
汚い。流石大手企業、下請けに対しての行動が汚すぎる。どうやったって、拒否できないじゃないか。
確かに鉄血人形と殴り合った人間なんて珍しくて、モルモット扱いされたとしても仕方ないのかもしれない。赤の他人だったのなら軽く「ご愁傷さま」と言えただろうけど、大事な家族がその立場に陥ると納得がいかないし無性に腹が立つ。
「皆、どう思う?」
「俺は・・・サムの旦那が居なくなるのは辛いし、二度と一緒に酒を飲めなくなるなんて嫌だ。だけど、な・・・」
「こうやって言うと、弟の仇だからみたいに思われるかもしれないんだけれどアタシも正直ちょっとね」
「私もいくらサムの人格が入っているとはいえ、それは本当にサムなのかな・・・って思っちゃうから嫌だ」
「俺もこいつらと同じ意見です。その人形は本当にサムになるんですか?」
私たち三人の意見は同じだった。
それはサムの肉体ではなく人形の肉体で、いくら本人の人格データを移すとは言え、サムが生き返ることと同義ではないのだと思う。人形になったサムだって人間の頃と変わらない仲間だとみなすけど、気が進まないのは確かだ。
「今回の処置は初めての試み、それでも言ってしまえば彼の脳みそが動かしている思考回路も何もかもを長い時間をかけてデータに変え、電脳と同じ状態になったデータを人形にインストールするから極めて彼と同じ人間になる。一卵性双生児のレベルじゃない。脳みそだけのクローンと言う方が正しい処置になります」
踏ん切りのつかない私たちを崖から突き落とすような言葉が聞こえてきた。
「もしそちらが認めなくても、我々は彼の肉体を買い取って処置を行う」
「そんな非人道的なことが許されるわけないじゃん!」
思わず大声で叫んでしまった。肉体を買い取るなんてそれはサムを実験動物扱いしていて、もし処置が成功してもサムが私たち家族の元に戻ってくることはない。
「この世界において、政府が形骸化しているこの地域では建前は意味をなさない」
「だから、グリフィンの息がかかる病院で治療させ続けたのか」
社長が冷静に反抗した。作戦に関わった指揮官がヘリコプターで優先的に優れた医療を提供する場所に搬送させたのは親切心である。容態が安定すれば他の場所に移せるぐらいだったのに、治療費肩代わりという建前で入院させ続けているのはこの処置を外部に漏らさないため・・・
「それもあるが、この処置を彼に行いたいという話を聞いたのはここ三日、考えすぎだ」
「落ち着いて聞きなさい。この処置はこちらが行いますしその資金はこちら持ち、それでも彼がそちらの人間だったのは確かに分かっているわ」
「MCVカンパニーの同意があり、彼が人形となった暁には彼の身分は
甘い誘惑に私たちは誘われてしまう。
どう転んでも処置が行われるわけで、それならばサムと再び会話を交わすことのできる可能性にかけたくなってしまったのだ。おまけに費用はあちらもち。
社長が全員の顔を確かめる。サムは動かないが、残りの全員が頷いた。