鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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ボス、俺を使ってくれないか1

「瞬発HE装填!砲塔右に回せ、照準ダイナゲート集団!」

 

 視界は馬鹿みたいに揺れる。手に持っている百五ミリ砲弾はずっしりと両手に収まっていた。

 石を踏んで跳ね上がる車内で踏ん張りながら榴弾を装填する。

 黄色のマークの砲弾を砲尾からグッと握りこぶしで押し込んだ。砲閉鎖器に指を持っていかれないように装填時は握りこぶしを徹底、もう一週間は耳にタコができるほど聞かされた。

 

「距離、150だな。撃て。って待て!なんで信管が作動しねぇんだ!」

 

 ボスが怒鳴った。ペリスコープで目標を見れば今爆発した。地面に刺さったそれが炸裂する前にダイナゲート達は通り過ぎている。

 気がついた時にはもう遅い。俺が装填したのは遅延信管の榴弾だ。命令されたのは瞬発信管。暗い車内ではどっちがどっちだかよく分からない。区別をつけるために徹甲弾で区切っていたはずで、使用頻度の高いそれぞれの榴弾が混ざっているのはおかしかった。積み込む時に間違えて置いてしまったか。

 

「次弾、瞬発!さっさと入れろ!」

「後退しながら撃つ。陣地Bに転進!距離100を保て」

「距離100と少し、撃てっ!」

 

 今度こそ瞬発を入れた。相手の足元で炸裂する榴弾によって追ってくる集団の足が止まる。

 一六式は次の陣地に入り、車体を隠した。キューポラから身を乗り出しているボスは周りを確認し、一息つけることを確かめると俺の方に向かって水筒をぶん投げた。

 ペリスコープで周りを確認していた俺の後頭部に水筒が命中し、鈍い音を立てる。

 

「てめぇのせいで二回で仕留められたプランが壊れちまったじゃねぇか!信管の区別もつけられねぇのか!」

「ボス、初心者(ルーキー)をいびったらまた逃げられるぜ」

「前のやつはあんたが賭けで巻きあげたから蒸発したんじゃなかったかしら」

「そういうなら前の前のやつは、ジョージがケツ撫で上げたから逃げたんだぜ」

「一番楽な装填手の仕事すらこなせないなんてとてもじゃねぇがウチじゃやってけねぇな!」

 

 そんなことわかりきってるっての。なんで銃抱えて殴りこむのが得意な奴にこんな会社を推薦したんだ、隊長・・・

 普通のPMCだったならそこそこやれただろうに、なんでよりによって戦車乗りなんだよ。

 

「イージスの装甲増加型が後ろから来てる。ダイナゲートは先鋒だったか。次弾AP、どてっぱらに喰らわしてやれ」

 

 今日の任務はこちらの戦力圏に隠れていた鉄血の残党処理だった。弾薬はすぐに引き出せる一時弾薬庫に入る十五発。そしてお守り程度のAPFSDSっていう一番貫通する弾薬数発が下の弾薬庫に入れているだけだ。

 かつて戦車に向かって徹甲弾をバカスカ撃ってた時代もあったそうだが、今となってはもっぱら榴弾。相手が人形であるためそこまで高貫通を求めていないそうだ。それでも時折榴弾で倒せない敵も出てくるので、その時には二、三割ほど徹甲弾系を積む。

 今回持ってきている徹甲弾は手に入る中で一番安くて貫通力も低い。百五ミリ砲弾自体生産数が少ないので一発一発が会社の利益に直結する。

 つまり今日みたいな装填間違いをした場合、俺たちの給料が予定より減る、そういう寸法なわけだ。

 黒の徹甲弾を確認し、押し込む。閉鎖器が下から押しあがってくるのを感じて閉まったことを伝える。

 

「距離134、撃てっ!」

 

 ドンっと腹に響く音の次に薬きょうが吐き出される音。

 外れた時のために徹甲弾を片手で掴み、ペリスコープで周りを見回した。

 

「命中、目標沈黙」

「ボス、左だ!草むらにダイナゲートが紛れてる!」

 

 叫びながらボスの体を力任せに車内に戻す。

 自分の視界内である左側にダイナゲートが隠れていることに気が付き、体は咄嗟に動いていた。胴体にポン付けされた機関銃の弾が砲塔とその上に飛んでくる。

 

「前進!砲塔左旋回急げ!サム、距離は!」

「多分五十あるかないか!」

 

 砲塔が回る前にあっちは走り出していた。

 こちらが車体ごと砲塔を向けている余裕はない。急発進して逃げに転じる。

 

「ジョージ、狙えるか!」

「いつも通りならね!」

 

 言われずとも今度は瞬発信管の榴弾を持つ。

 

「距離30・・・ダメだ近すぎる!マイク、犬のトップスピードを抜くにはあと何秒!」

「道が荒れてるから、あと二十五秒!」

 

 戦車であれば弱い後ろを取られているが、一六式はエンジンが前にあるので大丈夫だ。それに機関銃とはいうモノのサブマシンガンのようで、到底貫通しそうにない。

 砲塔が真後ろを指向し、エンジンは唸りを上げ、ダイナゲートとは次第に距離が開いてきた。

 揺れすぎて榴弾の尻を持っていた右手がすっぽ抜けた。腹を持つ左手一本で砲尾に置き、右手の拳を一気に打ち込む。

 

「距離55、撃てっ!」

 

 砲閉鎖機が閉まるやいなや砲尾が後退してきて危ない。

 

「・・・仕留めたか?停止。瞬発用意」

 

 砂煙が晴れていく。

 

「よし。敵の全滅を確認。一応哨戒して帰るぞ」

「ボス、サムの事も褒めてあげてください」

「なんでだジョージ」

「ダイナに追いかけられて弾種選択を伝えてない」

「・・・その時最善の砲弾を装填するのは常識だ」

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