鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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TS要素投入開始


そうして彼女は戦うことをやめ、彼は人形になった3

 

「ごめんね、サム。勝手に決めてさ・・・皆会いたいんだよ」

 

 聞いていないから好き勝手に言える。見まいに来るたびただ只管に何度目かも分からない言い訳を呟く私の姿は、何かに囚われているのだと思われても仕方がなかった。

 

「いつになったら起きるのさ」

 

 病室にいるほぼすべての時間、彼の手を握りずっと言葉をかけていた。

 サムに私の声は聞こえていない。開いている目も、計測されている心臓の数値も全く動かないのがその証拠だ。

 

「もう・・・半年だよ・・・ッ?」

 

 ぽろぽろと溢れ出てきた涙が白いシーツに染みを作っていく。サムの右手を両手で包み込むと、かつてはごつごつとしていて戦う男らしかった手のひらは随分と草臥れたと思う。

 筋肉に包まれていた細マッチョな肉体も何時の間にか骨と皮ばかり。

 

「人形の姿でもいいから、早く戻ってきてよ」

 

 嗚咽しながら何度も何度も語り掛ける。やっぱり返事は返ってこない。

 頭の方をみれば、呼吸器の中が曇っている。更に上を見れば虚ろな目が僅かに開き時々瞬きをしていた。脳の辺りには沢山の電極。

 

「明日、リンヤオちゃんを連れてくるから。早く起きないとぜぇったいに!怒られるよ!」

「サブリナお疲れー旦那は俺がしっかり見とくから!」

「酒持ってるんじゃ信用できないよ」

「これが俺のスタンダードだからね!」

 

 病室に入ってきたのはマイクだ。軽口を叩き合った彼は缶ビール片手に今晩も飲み明かすらしい。

 サムが居なくなって、一六式の整備も事情があって中途半端になっているウチの会社の仕事は戦闘が全くなくなった。

 主砲の交換が予算の都合上滞っている状態とあっては重量物牽引や警備、簡単な護衛などぐらいしか仕事がなかった。それでもなんとか会社を回せているのは、私たちだけになったせいでサムの帰る場所がなくなることは絶対に引き起こさないと決めたから。

 そんな生活もそろそろ破綻しそうだったけれど。

 

 

 

 

 濃い肌の青年が酒で酔いつぶれたのを確かめるなり病室に一人の陰が忍び込む。ベッドの奥に置かれた余りにも大きすぎる端末を操作し、幾度にも分けたデータ採集が終わったことを確かめた。

 

「ここまで耐えられる理由はナニ?」

 

 当人から答えが返ってくることはない。それでもなんとなくわかる気がした。

 

「とんでもないお人好しだったのね、貴方」

 

 ため息をついた。それは珍しく安堵の感情だ。

 白衣の女性は吸い出したデータの破損がないことを一通り調べ、電極類を取り除く。

 

「あとはこっちの仕事だけれど・・・そろそろそっちも限界じゃない?」

 

 宣告されている余命は既に過ぎていた。当然引き締まっていた肉体は衰え、老人のように醜くなっている。心臓の動きは以前よりも弱くなって、胸を叩けばショック死してしまいそうだ。

 

「お疲れサマ、名も知らぬユウシャ様」

 

 女性がケモミミを揺らし手を振って部屋を出ていく。真っ暗な病棟の廊下に姿はなかった。

 

 

 

 

「兄貴?これが、兄貴?」

「・・・うん」

 

 リンヤオちゃんは猛烈に戸惑っている。その姿に連れてきたMCVカンパニーの面々は何も言えなかった。乗員という仮初の家族よりも、血のつながっている唯一の家族の方が受けるダメージは大きいはずだ。

 

「兄貴ィ!ふざっけんなよ。僕を養ってくれるんじゃなかったのかよ!」

 

 彼の腕を妹が必死に引き寄せる。

 

「なんだよこの腕、兄貴はもっと太かったじゃないか」

 

 逞しかったそれは今にも折れそうで、強く抱きしめようとしたリンヤオちゃんはおろおろとしてベッドに戻す。

 

「リンヤオちゃん、よく聞いて」

「なんだよ!」

「私はサムに貴方の面倒を見て欲しいって言われてる。だから、MCVカンパニーの寮に引っ越さない?」

「・・・分かったよ。いい加減通い詰めてもらうのもサブリナ姉さんが大変だと思ってたんだ」

 

 リンヤオちゃんの黒髪が落ちた。ベッドに崩れ落ちたその背中は震えている。

 

「もう、兄貴は、帰ってこないんだな」

 

 人形にする処置はグリフィンの社外秘。子会社のウチにも守秘義務は存在する。それにリンヤオちゃんは勝手に決めたことを怒るに違いなかった。

 

「兄貴、僕はそれなりにやるから。なるようになるって、あの時言ってくれたもんな!」

 

 まるでその言葉に安心したかのように、心臓の動きを音に変えて表す機械が発する音が長い一定の音に変わって鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 あれ・・・?意識が復活する。さっき途切れたはずなのに動作のおかしくなってシャットダウンした機械が再起動されたみたいにしゃっきりとしていた。

 俺は誰だっけ・・・?答えは脳裏に浮かんでいる。

 俺は「VAG-73」の戦術人形、第二世代のハンドガンがエッチングされた肉体を持つ人形だ。そして、リンヤオの兄貴でMCVカンパニーの社員でサブリナの持ち主、「サム」でもある。

 何をされたのかはよく分からないが、まぁ生きてるってことだろ。

 脳裏には戦術人形として必要なスキルのデータがインストールされていく。

 目をゆっくりと開くと明かりが眩しかった。

 感覚がおかしい。手が白くて細い。筋肉が薄くなっている。元々インナーマッスルの多いタイプだったとは言え、これじゃあまるで女・・・

 

「あら、お目覚め?」

 

 すごく顔色の悪い、変な耳をつけている白衣姿の女性が話しかけてきた。

 

「そうだ・・・俺戦術人形になったんだ」




ぶいえーじーちゃん爆誕!
見た目は次回にお預けなり。あと次回がシーズンワンの最終回(のつもり)

シーズンツーの第一章はMCVカンパニーの仲間たちと主に絡むけど、二章からは一時的に別の場所で動かします。そこら辺まで行けばVAGちゃんのキャラも十分に分かってもらえるんじゃないかしら(コラボ待ってます)

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