鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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そうして彼女は戦うことをやめ、彼は人形になった4

「ううっ・・・なんかスースーしやがる」

 

 そりゃスカートだから仕方ないけど下着が薄すぎる。

 鏡を見れば黒いコルセットスカートからガーターベルトがちらちらと見えた。落ち着いた色のニーハイソックスとスカートの間から見えるふとももはそこそこに肉付きがいい。

 

「ていうか、こんな可愛くする必要あるかよ」

 

 白い半そでブラウスから視線を上にやると、低い身長相応の少女然とした顔つき。

 シアンの髪をポニーテールで纏めているのは他の結び方を知らないからだ。あと面倒。

 紅い瞳が少しきつめになっているものの、一般的に猫顔に分類される顔の形にマッチングしていて普通に美少女だ。

 自分が美少女だと己惚れる日が来るとは思わなかった。

 

「このタトゥー、先住民族か?」

 

 真っ白な肌の頬には瞳の色と同じ色のタトゥーの線が上から下に細くなって一本ずつ。

 装備としてIOPが用意してきたのは名前と同じVAGやバヨネット、ダンプポーチなんかを全部引っ掛けるベルトに、俺が愛用してきたスカーフ。

 装備品を身に着けてみれば、何故だかサイズ感がぴったりだ。IOPのことだから人形の肉体のデータも取ってるんだろうな。

 

「気になるし、自分のボディだからいいよな?」

 

 誰に言うわけでもなく言い訳しながら、そっと鏡を睨んでいた視線を下に下げる。そこにはブラウスに包まれた慎ましい、全男子の気になるところ(おっぱい)

 サイズは身長のわりに少し膨らんでいるぐらいか?

 というか俺の身長百四十数センチぐらいしかないのヤバいだろ。前の肉体みたいに重量や身長を活かした格闘技の一切が出来ない。

 

「ま、なるようになるかぁ」

 

 ブーツを履いてトントンと合わせる。基本的にシックな白と黒を基調にしたすっきりめの服は、なんというか清楚っぽい。

 ホルスターも特注品みたいでVAGがぴったり収まる。

 肘のサポーターと手袋はIOPの整備士に無理言って揃えてもらった。なんか露出が激しいと落ち着かないんだよな。本当はアイウェアを付けてヘルメットもしたいけど、そこまで要求したら怒られた。

 なんでも、それじゃあ人形を見目麗しくするメリットがないじゃないですかと。いやそういう用途じゃないだろ、民生人形をベースにしてるから綺麗なだけだろ?と思ったけど、パーサも普通に可愛い見た目だったんだよなぁ。

 

「VAG、準備は出来た?」

「あぁ、気乗りはしないけどな」

 

 こんな格好になって、皆が受け入れてくれるとは思わない。いや、受け入れてはくれるんだろうけど、元のサムという存在で扱ってはくれないだろう。

 廊下を歩いていくたびに鼓動が強くなる。部屋の前で大きく深呼吸した。

 

「皆、入るぜ」

 

 立ち上がれるようになったというか正式に稼働し始めたのがつい昨日、この体になってから一か月。本来の肉体が死んでから三か月。あの戦いからはかれこれ九か月も経っていた。

 たくさん思うところはあって何から話せばいいのか判断がつかない。

 皆は無事だったのか。会社はどうなったのか。サブリナは戦術人形に戻るのか。こんな期間どうやって過ごしていたのか。

 心配させていたことも謝らないといけない。

 それにリンヤオのことだって、聞かないと。

 扉が開いていくに合わせて見慣れた顔が見えてきた。

 

「みんなどうしたんだ?」

 

 四人全員が呆気に取られている。面白いぐらいに吃驚しているみたいだ。そもそも俺の事をサムだと認識できてないかもしれない。ゆっくりと見回してから一人一人に話しかけることにした。

 

「社長、いやボス。あんた、一層歳食ったんじゃねぇのか?サリアが悪いオトコにでも捕まりでもした?」

「サリアはそんな女じゃねぇっての!」

 

 社長は少し疲れたような雰囲気が出ておじさんくさくなった気がする。なんとなく娘さんが悪いことに手を出したのかと思ったけど違うらしい。

 

「マイク、またいつもの店で飲もうな。ジャックダニエルぐらいだったら奢れるし」

「あ、あぁ!旦那と飲む酒は美味しいからな!」

「ばっか、それは一番好みだからじゃねぇの?」

 

 マイクは少し垢ぬけて大人びたか。中身はそんなに変わってなくて安心する。

 

「ジョージ、俺の給料はまだ残ってる?」

「出勤してないんだからないわよ」

「あははっ、それもそうだな!」

 

 ジョージは長くて邪魔そうだった髪の毛をさっぱり切ったみたいだ。元々の顔が良いおかげでイケメンになった。

 リンヤオの次ぐらいに会いたかった相手とゆっくり最後に対面する。言葉が詰まりそうになったあげく、話題は妹の事しか出てこない。

 

「サブリナ。迷惑かけてすまん。リンヤオと上手くやってくれてるか?」

「うん」

 

 サブリナはあまり変わっていない。少し雰囲気が落ち着いたぐらいか?

 妹のことはサブリナに任せていたものの、即答で返ってくるなら悪くはないみたいだ。俺と一緒に会った時にリンヤオはサブリナの事をよく思っていなかったみたいだし、関係が良くなっているのならありがたい。

 

「分かってもらえるわけじゃないけど、そんなわけでいちおー俺はサムってわけだ」

 

 再会で溢れそうな涙を必死に抑え、表情を決める。

 

「これからも、よろしく!」




シーズンワンしゅーりょー。

さて完走した感想ですが、ストーリーとか書いててすごく楽しかった。特に決戦の時のパーサのセリフとか、45と協力して戦ってるところとか、一六式で戦う描写を文章にするのが楽しかったです。


VAGちゃんの見た目も書きました。纏めておくか。
シアンのポニーテール。纏めているのは赤いリボン。紅い瞳は僅かに猫目。頬には上から下に細長くなる赤のタトゥーが入っています。タトゥーのイメージはジ〇リのアレ。
白の半そでブラウスに首元にはスカーフ(一応赤だけどこれは回によって付け替えることもあるので一応設定のみ)、肘には黒のサポーターで手袋は殴り合いも考慮したもの。
黒のコルセットスカートは腰元を細く見せる感じ、その上にはホルスターとかバヨネットの鞘とか後ろにダンプポーチをつけるベルト。
足はガーターベルトにニーハイソックスが繋がっている。スカートの丈が短いせいで時々太ももがのぞく感じ。


ずっと書き忘れてたけどサムが人間時代の回でVAGを整備していた時に見ていた記事は元ネタがあります。PDFファイルで閲覧もできるはず(というか作者のブラウザのお気に入りに入ってる)

シーズンツーに突入するか、一回幕間を挟むかは悩んでる。


予告
久しぶりに会社に戻った俺は衝撃的な現状を聞くことになる。なんとか俺でもできることを・・・え?リンヤオに会いに行け?それはちょっと難しいんじゃないかなぁ
幕間「帰ってきたぞ」第一話「うそ、私の会社ヤバすぎ?」

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