鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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こんなの兄貴じゃない!(ドンガラガッシャーン1

「そう言えばさ、リンヤオって今どんな感じなんだ?」

「あー聞きたい?」

 

 サブリナと肩を並べてリンヤオのための食材を買い物かごに放り込む。姉を詐称するビックおっぱいは俺にかごを持たせてくれない。身長とスペック上の力が負けているとはいえ、精神が男である以上負けた感じがしてしまった。

 彼女が話すことを躊躇う様子を見て、なんとなく現状がイメージできてきた。

 リンヤオは会社の建物の地下に住んでいて、一か月同じ座標に暮らしてきたにも関わらず俺を知らないということは多分皆が隠していたからだ。そして鉢合わせなかったということは前より引きこもりが加速している。原因は間違いなく俺の死だった。

 

「どうやって切り出すかなぁ」

「うーん、一応部屋の中に行けば話してくれると思うけど」

「こんな非現実的なことを聞いてくれるとは思えないんだよな」

 

 現実的な思考をする妹の場合、鼻で笑って部屋から追い出すか、兄を騙るやつを成敗するか。どっちかは判断できないが心の中では凄く怒るだろう。

 

「そうだ!サムがご飯を作ってあげたら?」

「オーケーそういうことか」

 

 コーラの缶が入った段ボールを抱えながらレジに向かっていく。今日のご飯は俺の得意料理、焼飯にしよう。それ以外で勝負できるほどの料理がないから選択肢はなかった。

 

 

 

 

 ハミングしながら中華鍋を振る。このボディ的には初めてで精神的には十か月ぶりだけど腕は鈍っていなかった。

 

「お、いい匂い~」

「マイクたちの分はもうできてるから食っていいぜー」

 

 キッチンに向かってマイクが顔を覗かせる。育ち盛りの男子みたいに空腹が透けて見えるが、その実そこまでは食べない。見た目とか行動が幼いけれど年齢は三十路手前、つまるところそろそろ胃腸はきつくなってきているのだ。

 

「え、じゃあそっちの分は?」

「サブリナと俺たちの分」

「多くね・・・?」

 

 マイクにジョージにボスとその家族、計五人分と三人分は全く同じ量。

 

「サブリナが三人前食うんだよ。当然だろ?」

「そう言えばそうだった・・・」

 

 サブリナは食べることが大好きな人形。太るとかいうけど人形の体で長期的な体調の増減はない。そういう機能は追加できるらしいが、戦術人形には不必要だから俺にはなかった。サブリナは機能がついてるのかもしれない。もしそうだとしても一部の部分ばかり増えている可能性がある。だって今日外れた時、明らかにパツパツだったし。

 顔を下に向ける。

 俺は戦闘する時には邪魔になるから大きくしたいなんて思ってはいないものの、デカいという感覚も試してみたい気持ちがほんの一ミリぐらいあった。

 ないわけじゃないし、むしろ身長相応の美乳。でもやっぱり慎ましい。

 かつてのアマゾネスは戦闘の邪魔だと片方の乳房を切り取っていたとかそういう話もあるので、そう考えるとこれぐらいが一番なんだろうか。

 

「ほい。んじゃ俺は地下室行ってるから片付けよろしく」

「アイアイサー!」

 

 大皿を鍋に当ててひっくり返す。結構重いけど人形パワーの前ではそんなものどうってことはなかった。

 いい加減リンヤオに会いに行きますかね。

 

 

 

 

 部屋の中からは時折声が届いてくる。雰囲気は剣呑としており、入りづらかった。

 リンヤオはこの時点でかなり取り乱しているらしい。俺というトリガーで壊れてしまうことが無いようにとだけ祈ってノックする。

 

「あ、来たね。入っていいよー」

「おう。飯持ってきた」

「誰・・・」

 

 サブリナとリンヤオは肩を並べてソファに座っていた。サブリナは空いているスペースをポンポンと叩き誘ってくる。

 

「VAG-73、戦術人形だ」

「戦術人形がなんでここに?」

「このご飯を食べれば全て理解できるだろうさ」

 

 大皿をテーブルに置く。蓋を開けてやれば尖っていたリンヤオの雰囲気が油の切れた機械のようになった。

 一目でわかったようでとても困惑している。ぶつぶつと自分を確かめるように呟き、俺と皿を交互に見た。

 こんなので信じてもらえるとは思わないが、これ以外の方法で信じてもらえるとも思わない。結局のところ前のサムと頭の中身が変わっていない以上、頭の思考をアウトプットして伝えるしかないのだ。人間なんて印象のほとんどが見た目で決まるのだからしてすっかり姿が変わってしまえば、話をしただけじゃその印象を拭うことは難しい。

 

「味は・・・兄貴のだ。覚えのある味だ」

「さて、俺は誰だと思う?」

「兄貴の作り方をインプットした?」

「そうとも言えるな」

 

 VAG-73をエッチングした人形のボディに俺の精神をインストールしたんだから。

 

「兄貴なわけないよ。だって兄貴は、僕の目の前で息を引き取ったんだから」

 

 そうか。あの肉体の最後に聞こえた声はリンヤオのものだったのか。言葉の内容は聞き取れなかったけど、猛烈に安心したことを覚えている。

 

「そうだ、サムは死んでいる」

「リンヤオちゃん、落ち着いて聞いてね」

 

 地下室に静寂が訪れた。

 

「俺はサムの精神を持っている」

「嘘じゃないんだ」

 

 リンヤオの手からスプーンが滑り落ちた。陶器製のそれは床へと真っ逆さまに落ちていく。

 

「嘘だ・・・嘘だよ。こんなの兄貴じゃない!」




VAG-73ボイス
部隊編入「結果は出すから任せてくれ」
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