鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

50 / 157
暗雲、立ち込める1

「・・・ッ!」

 

 飛び起きる。息が荒いし、体の震えは収まらない。

 

「まだ一時間も経ってない」

 

 416とSAAに連れられて宿舎の大部屋に荷物を置き、ご飯を食べてからシャワーを浴びた。それから自由時間を一時間ほど過ごした後スリープモードに入ったのはいいが、こうやって飛び起きている。

 

「気分わる・・・」

 

 最悪な夢見だった。チビと子分の犯人に乱暴をされる夢だ。それも・・・やめよう気分が悪い。

 両隣で静かに寝ている416とSAAを起こさないように静かに部屋を出る。

 

「空気が澄んでる。星も綺麗だ」

 

 ここら辺は工場もないおかげで随分と夜空が綺麗だった。空を見上げ行く場所も決めずに基地の中をぶらつく。

 夢の内容は段々と薄れていき、やることもないので何も考えない時間が過ぎていった。

 

「そうだ、トレーニング用品は倉庫にあるって言ってたっけ」

 

 服装が男の頃のTシャツにホットパンツという寝間着丸出しの服装だし、寝るときに苦しいからブラもつけていない。

 

「ま、誰も見てないだろ」

 

 モンキーバーを掴み懸垂を始めた。

 運動をすればサイアクな夢の内容は消えていく。それでも何だか眠る気は起きなくて、結局長い時間トレーニングする。

 

 

 

 

「VAG、なにしてるのかしら?」

「WAか。ちょっと寝付けなくてな」

「寝付けない?」

 

 変なのは分かっている。スリープモードは問答無用で眠ることが出来る機能。そもそもシステムのクールダウンや整備間隔を無視すれば、人形は人間よりも長い時間休息せずに働ける。逆に言ってしまえばシステムをダウンさせるのだから、寝付けないなんてことは起きないのが普通だ。

 

「夢見が悪いんだ」

「夢見?」

「今日の出来事がな」

 

 これ以上は聞かないでくれと言葉を濁す。一番近くにいたんだから分かってるだろ。

 

「ちょっと待って。貴方、夢を見るの?」

「お前らは見ないのか?」

 

 そう言えばサブリナが夢を見たとかそういう類の事を話しているところを見たことがない。

 人形は夢を見ないのが普通か?考えてみればシステムを必要最小限まで落としているのだから、夢なんて言う非合理的なものを見る必要はない。

 

「VAG、あんたは何者?」

 

 WAの顔つきは怪しいものを見る疑惑の目になり、声は剣呑とする。本来の姿から逸脱したものに元の仲間たちが警戒するのは当然のことだった。

 

「俺は・・・俺は元々「あれ、わーちゃんにVAG?」お、指揮官」

「わーちゃんって呼ばないでよ!」

 

 トレーニング機器が雑多に置いてある倉庫の入口から月明りに照らされた指揮官の影が見えた。そっちの方に手を振ると薄暗い明かりの中で俺の恰好を見た指揮官が顔を真っ赤にして逸らす。

 

「ってVAG、君はなんて格好で?!」

「あー、なんつーか寝るときの恰好っていうか」

 

 汗でTシャツが湿り、夜の寒さが体の芯を引き締めていた。ギリギリ透けていないはず。そもそも俺は見えていようがあまり気にしていないんだが、そうやってしているとサブリナにど叱られるんだよな。

 

「こ、これを羽織って早く宿舎に戻りなさい。もう就寝時間は過ぎてる」

「ジャケットはいらないけど厚意はありがたく受け取っておくぜ。じゃ、おやすみ」

 

 宿舎の方に戻っていくときに思い出した。

 やばい。WAに問い詰められていたことの答えをしていなかった。はぐらかしたと思われているかもしれない。

 そんな考えも宿舎で目を覚まして待ち受けていた二人にお仕置き(くすぐり)を受けていたせいで忘れてしまったが。

 あとそうやってふざけていたら帰ってきたWAに三人そろって拳骨を貰い、全員仲良くおねんねに入った。

 

 

 

 

 端末を操作する。脳裏に映るのは薄着に包まれた、少し小柄な人形の白い肌。

 

「違う違う!今はそんなこと思い出している場合じゃないんだ」

 

 基地備え付けのホットラインに繋ぎ、在席しているかも分からない相手の名前が画面に映るのを睨んだ。

 

「多分、この人のやったことなんだろうけど」

 

 この人、IOPでの研修の時からなんとなく苦手なんだよね。話し方は変だし、俺たちに教えてきた時も難しいことを言っていた。その上、同じ研修に行った指揮官には話しかけもしなかったのに僕にだけは随分と絡んできて・・・とにもかくにも得意ではない。

 

「人形が夢を見る・・・か」

 

 まるで人間みたいじゃないか。新しい世代の電脳を搭載した、としてこの基地に配属する必要はない。ますます謎が深まっていく。なんらかの事情を抱えていることが分かって頭痛がする。

 

「VAG、君は何者なんだ?」

 

 わーちゃんの言葉をそのまま反芻した。静けさに包まれ夜の寒さに支配された通信室の回転イスに背を預けると、勢い余って転倒する。

 

「いった・・・ってうわ!?」

 

 端末が着信を知らせた。相手は件の人。まるでこちらを見通しているのかとすら思うようなタイミングの良さで、部屋のあちこちを見回してしまう。監視カメラをハッキングとか、盗聴器とか、そういうことを平然とやっていそうだ。

 

「出よう。うん、出よう」

 

 覚悟を決めた。あの人と喋ると精神が擦り切れるが、この通話に出ないとVAGの謎も分からない。

 

「もしもし、お久しぶりです。ペルシカ博士」




VAG-73ボイス
敵と遭遇「よし、やるか。危険手当どれぐらい出る?」



お気に入りと評価、ありがとうございます。五十話近くで無事ゲージに色がつき、ポイントがぴったり100行きました。嬉しい。

VAGちゃんの特殊能力は皆も分かったよね?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。