鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

52 / 157
暗雲、立ち込める3

 

 室内の様子はブリーフィングとWAの報告でイメージ出来てきた。三人家族の家とは思えないほどに物件の間取りは貧相。犯人と保護対象が居るのはリビング。突入口は隣の部屋のベランダからだ。

 部屋の玄関の外にはSAA。窓の端にはガムテープで目張りしてあって、異様さを感じる。保護対象の様子が危ないこと、確保対象が突入を感づいていること。すぐに制圧しなければならない。

 

「準備」

「突一、よし」

「狙撃、よし」

「警戒、よし」

「カウント十でブリーチング。レディ」

 

 ゆっくりと息を吐き、すっと止める。頭の中に浮かぶ室内のイメージとそこに突入して格闘する自分をイメージ。拳を握り込む。416がラぺリングして上の階から窓の鍵に向かってブリーチング。それに合わせて俺がベランダの区切り板を割って突入する流れ。WAとSAAは対象が怪しい動きをした時のバックアップ。

 

「スリー、ツー・・・ゴー!」

 

 プラスチックの区切り板はもしもの時に割って逃げることが出来るようになっている。それを盛大に飛ばし、マスターキーでこじ開けられた窓を勢いよく開けた。目張りは随分と長い間されていたようで粘着力が薄い。簡単に開く。

 

「くそくそくッ!?」

 

 部屋の中は物が散乱していて、犯人が唖然と立っているのが自然に収まっていた。反射的に伸ばされた右腕を掴み、そのまま後ろに関節を決める。

 

「対象確保。移送班に引き渡すわ。WA、SAA警戒をおねがい」

 

 そのまま416が手錠をかけたところで、建物の外にこの地区の警備人形達が姿を現してきた。俺と416の次の仕事は母子の保護だ。

 

「大丈夫?」

「大丈夫そうじゃないな、大分衰弱してる」

 

 母子揃って栄養状態が悪く、特に子供の方は栄養失調の傾向が見える。表情もあきらかにかすれていて深い傷を感じさせた。

 416が手早くバイタルチェックを始めようとした時、脇腹が痛んだ。

 

「VAG?!」

 

 予想外の展開だった。虚空を眺めていた母親が包丁を持って切りつけてきたのだ。あまり警戒していなかったことと殺意を感じなかった事に加えて、母子の状態に気を取られていたせいで反応が遅れ、包丁が俺の右手首に突き刺さった。

 右手の痛覚をカット、噴き出す人工血液を無視して包丁を取り上げる。この様子を見たSAAが部屋に入って母親を取り押さえた。

 母親はパニックに陥っている。長い間暴力で支配されていたせいで、あのクソ野郎のための行動を起こしたと言ったところか。

 

「右手は?」

「うーん、関節パーツが逝かれたかも」

 

 全く力が入らなくなった手首がだらんと垂れている。

 

「肘下から交換し!?WA!狙える!?」

 

 俺の傷口を確かめていた416を突き飛ばす。背後から子供がナイフを持って突進してきたのだ。このことが起きるのは母親の様子という前例もあったし状況から予想できたのに、予防することすらしなかった。

 でも二度も刺されるほど俺は間抜けじゃない。

 突き出してきた少年の右手首を上に引上げナイフを落とす。そっと背中に手を回した。

 

「アアアアアア!?」

 

 泣いているのか叫んでいるのか見分けがつかないほどの悲痛な叫びを聞きながら、ぐっと抱きしめる。

 辛い思いをしたはずだ。こんな世の中じゃ救ってもらえることの方が少なくて、ずっと苦しんできたんだ。こんな叫びじゃ足りないぐらいに痛かった、苦しかった、辛かったことは伝わってくる。

 だから、だからこそ、少年、暴力(そんなもの)に頼っちゃダメなんだ。君はまだやり直せるから。

 アドレナリンが放出した状態で暴れる子供の身長は俺と変わらないぐらいでどれだけ必死に押さえつけてもぶれる。

 

「VAG、どいて!」

「離れないと撃てないじゃない!」

()()()()()

 

 後ろから416が叫ぶ。WAの声も無線から聞こえてきた。どうも反対の手にもナイフを持っていたらしい。それが何時振り下ろされるかは分からなかった。

 俺は叫んで返答する。ダメだ。この状態で撃てば子供が無事である確証はない。ひたすらに暴れる子供に対する照準は難しい。

 

「アアアアアア!?」

「大丈夫。もう、大丈夫だから。君は強い子のハズだ!」

「あ、あ、あ・・・」

「・・・大丈夫。戻っておいで」

 

 ナイフが音を立ててフローリングに落ちた。

 

「指揮官、全対象の確保完了。帰還します」

 

 

 

 

「だーかーらー、俺は何もしてないって」

「嘘おっしゃい。私だけじゃなく遠くにいた方も止まったのよ!」

「何かしたんでしょ!」

 

 帰還するハンヴィーの車内。助手席に座らされた俺は後ろと隣から問い詰められていた。

 SAAも口出ししないどころか、居心地悪そうに外の風景に目をやっている。

 

「そもそも、どうやったら()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

「はぁ!?事実副官サマも撃てなかったのよ」

「アンタやっぱり何か隠してるでしょ!」

 

 そう言えばWAに問い詰められていたことしらばっくれてたんだ。もしかしてその事実が何か関わっているかもしれない。

 俺の電脳が人間ベースであること・・・

 

「指揮官、このことについてしっかりと話してもらうわ」

「報告書はその後よ!」

 

 この二人、こういう時は息ピッタリなんだよな。




VAG-73ボイス
勝利「次はどこだ?」


お気に入り、評価、しおり、ありがとうございます。いい感じっすね。シーズンツーがややタイトル詐欺になりそうだけどちゃんと鉄騎兵要素も出す予定です。けど日常回も二話挟みたいし、人形の数増やしてく話も必要なんでね・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。