鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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副官騒動1

 

 

 メロディを口ずさみながら人気の少ない廊下を歩いていく。地下にある施設の中では常に明かりが灯され、空調の音がかなりうるさいので小さな音はすぐにかき消された。

 治安維持小隊の一員として活動し始めてかれこれ一か月。突入するような事件も起きず、訓練だったり地区の街の巡回あたりしか仕事がなかった。かなり後方だからこれぐらい平和じゃないと困るんだけども。

 そんなわけで仕事は難なくこなせるし、生活にも不満がない。上官の人柄のおかげか職場の雰囲気も・・・あーいや、隊長と副官の指揮官争いがかなりうるさかったりはする。

 416は自らの事を「完璧」と評し、その上で副官業務も自分がやった方が効率がいいと喧嘩を売る。

 対してWAも指揮官の最初の人形としての意地があるのか、一歩も譲らない。

 どちらも気が強いから話は平行線を辿り、結果指揮官の胃腸が痛くなる感じにおさまっていた。

 あとどっちも指揮官に惚れてるから、結託した場合は翌朝の指揮官の腰は悲鳴をあげるだろう。

 

「おーす指揮官。外壁のチェック終わった、っとWAは?」

「416とどっちが副官にふさわしいかを賭けてシューティングレンジに行った」

 

 データルームで執務をしている指揮官は一人。普段ならおつきのどちらかが居て一緒に仕事という名目の監視をしているはずなんだけども姿形も見当たらなかった。

 指揮官が随分と疲れた表情で書類を読んでいたものだから、事情を聞いてみれば指揮官は大きくため息をついて書類に突っ伏す。

 416、無茶しやがって・・・シューティングレンジじゃ勝ち目ないだろ。銃として近いHK417辺りなら普通のRF相手はいけそうだけど、WA2000相手はきついと思う。それこそG28辺りを引っ張り出して、セレクト弾選んでと手段を択ばない感じだ。それでもASSTなしだと性能がガクンと落ちるし勝ち目が薄すぎる。

 俺やSAAからすればレベルの高い戦いなんだけど、逆にキルハウスとなれば俺たちの方が飛びぬけた成績になるんだから、得意不得意は大事だった。

 

「俺でもできることはあるか?」

「え?」

「ほら、こういうデータ入力とか、書類の分類とかなら俺でもやっていいだろ?指揮官が疲れすぎるのは見てて辛いんだ」

 

 なんで現代にもなって書類の数字をデータに打ち直すんだ。2010年代以前に退化してるじゃないか。デスクワークはあまり好きじゃないけど、上司が仕事に溺れてしまうのはもっとよくない。

 

「でもVAG、君だってやりたいこととか」

「んー、手伝うことがやりたいことだな」

 

 そう言ってザっと書類の山を確かめ、すぐに指揮官の裁可が必要な書類、整備班や警備部からの要請書などの後で読めばいいものやWAに416が必要な報告書類に分け、残ったデータ入力系の山を大きな端末の前に取り分けた。

 

「えぇっとVAG?端末はキーボード入力しかないんだけど」

「大丈夫!人間だったときから慣れてる」

「あぁ、そっかそうだったね」

 

 今時の端末、それも人形がさわるものには人形のボディにある端子とケーブルでつなげるものもある。こんな後方の治安維持の小隊だけという指揮官のためにはそんなものも与えられることはなく。この司令部にある端末は旧世代のものだった。

 ボディに端子を繋ぐタイプなら視界から抜き取った情報を編集すればデータになるらしいけど、その過程は中々に面倒らしく、人形としての機能になれていない俺からすればキーボード入力の方が簡単だったり。

 さて、頑張りますかね。

 

 

 

 

 ずっと液晶を見ていたせいで目が疲れたような錯覚を覚え、癖で目頭を揉む。液晶と書類を見つめ、テンキーを叩いていれば一時間はあっという間だった。

 

「指揮官、そろそろ休憩にしようぜ」

「あぁ。VAGは休んでていいよ」

 

 ため息をつけば指揮官はこちらを振り向いたのでピシッと言いつける。

 

「人間の集中力はあまり持たない。適度な休憩を行った方が結果的な仕事の効率が上がることは研究結果で出ているんだ。一区切りついたら休もう、な?」

「・・・分かったよ」

「んじゃ、俺は飲み物用意するから」

 

 部屋の端にあるコーヒーメーカーのスイッチを入れる。コーヒーメーカーとは言っても、豆や粉末なんて立派なものは使っていない。貧困層御用達の濃縮液体コーヒーを適度に薄める機械なのだ。

 驚くなかれ、科学的に調整された味は普通に美味しく。舌が育っていなければ下手な淹れ方をした豆から作るコーヒーよりも美味しいぐらい。

 必要があることで発明され、需要があることで発展し、普及することで完成する。昔では考えられなかった科学コーヒーも今となっては一般家庭におけるコーヒーとして普通になっているのだ。

 粉末コーヒーも未だに普及しているものの原液よりは高くなる。豆から作るコーヒーなんて高いレストランか赤字覚悟の喫茶店ぐらいしかないのではないだろうか。

 

「アイス?ホット?」

「ホット」

 

 最初に入れた透明なコップを置くと、次はマグカップをセット。アイスコーヒー用に入った少し濃い液体に氷を入れた。あと、嗜好品の氷砂糖を三ブロック。これが昔からの味なんだ。

 

「よし、終わったぁー」

「うし。んじゃコーヒーブレイクにしようぜ」

 

 それにしてもあの二人帰ってこないな。




VAG-73ボイス
スキル1「正義は勝ぁーつっ!」
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