鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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副官騒動3

「あ゛ぁ゛ー」

「頑張った頑張った。今日ぐらいはゆっくり休めよ」

「うーん」

 

 指揮官は俺の腹に顔を埋めて呻いていた。随分と疲れているようで普段は見せない幼い姿を見せてくるのでちょっと可愛いと思ってしまう。

 ポンポンと後頭部を摩りつつ、反対の手でアイスコーヒーを飲んだ。いつも張り詰めているデータルームの空気は緩やかに進んでいた。

 

「VAG、明日も仕事手伝って欲しい」

「それはWAと決めてくれ。副官はWAだろ?」

 

 指揮官が黙り込む。あまりいいイメージはないみたい。WAはしっかりするところは厳しく、普段の事もしっかりと推し進めるタイプだし気も強いから、ちょっと緩い指揮官からすると息苦しいんだろう。

 

「わーちゃんにはいつも感謝しっぱなしだけどさ。いらないところまで気を遣ってくるんだよね」

「例えば?」

「私室に変な本を持ち込んでないかとか。休暇で外に行ったら尾行してきたりとか」

 

 思春期の子供が気になる世話焼きな母親かよ。

 そりゃ指揮官だって年頃の男なんだしエッチな本ぐらい持ってるだろ。しかも尾行に至っては普通に躊躇うべき行動だ。

 

「あははっ、指揮官はエロ本どこに隠してんだ?」

「も、も、持ってないよ!」

「ま、それはともかくよっぽどWAは指揮官の事が好きなんだな」

 

 いくら指揮官が朴念仁と言ってもここまで見せられれば好意に気が付くはずだと思った。けど聞く限りには反応は芳しくない。

 

「アレはただのお節介だよ」

「こりゃWAも苦労するなぁ」

「え、なに・・・わーちゃんに迷惑かけてたり?」

「あーそういうことはないから安心していい」

 

 WAの思いは空回りしていて、おまけに受け取る方もそれを真面目に受け取っている。これは上手く行くのに時間がかかりそうだ。

 

「副官なら416も出来るだろうけど・・・」

「分かる。完璧すぎるのもちょっとな」

 

 だって416、指揮官のやる仕事すらも終わらせようとするから。私に任せればいいんですよとは言うが指揮官の存在価値を無くすことになるんだよな。416はそれでもいいんだろうけど指揮官が受け入れることができない。あと完璧な態度が崩れた時が結構怖い。

 だからと言って俺が副官にふさわしいかと言えば答えはNO。俺よりも二人の方が仕事に慣れているし、俺は報告書を書けない。本来副官一人に任せる仕事を三人で分割すればかなり余裕はあったがスマートじゃなかった。

 普段やっている巡回任務だって二人一組だから、副官に相当する二人を交代させている。

 

「VAG、頼むよー」

「と、とりあえず二人と相談してからな」

 

 最初はきっぱり断るつもりだったけど段々と譲歩させられる。指揮官に頼られて悪い気もしなかった。早く人形の製造を頼んで数を増やして貰えば困ることもない。

 指揮官との会話が段々途切れてきて、気づけばお腹の方から不規則な呼吸が聞こえてきた。

 

「お疲れ様、指揮官」

 

 そっと体を倒してやりおでこに手を当てる。俺の手が冷たいのか彼の表情が緩むのを見てため息をついた。

 

「弟みたいなもんだな」

 

 指揮官の歳はリンヤオよりも下。三十路手前で死んでしまったサムにとっては弟か従弟みたいな年齢だ。

 髪を撫でているともう片方の手を握られた。

 

「寂しがり屋さんだな。大丈夫。当分は居なくならないさ」

 

 子守唄を小さく歌ってやる。そういう扱いをするような見た目でもないんだけどなんとなく。

 空調の音にかき消されそうなそれが耳に入ったのか寝顔はすっかり安らいでいた。

 

「飯に起こせばいいか」

 

 こうやってぼんやり過ごすのも悪くない。ゆったりと時間が流れて、安らぐ空気に触れる。そういう時間は人間にも人形にも必要だから。

 

「「指揮官!」」

 

 競うようにデータルームに入ってきた二人の姿にデジャブを感じた。口元に指を立て、静かにさせる。

 動けない俺に代わって、二人はお互いの報告書をチェックしグリフィンに送った。

 時折喧嘩になりそうになるものの指揮官の方を見るたび矛を収める。普段は気にもしないのにこういう時だけしおらしいのはどうなんだ。

 

「あーWA?」

「なによ」

「何も俺は副官の仕事を奪おうとかそういう意思はないんだ。ただちょっと、もう少しだけ指揮官の側に立って行動してほしい」

「いつも指揮官の事を考えてやってるんだけど」

「結果一方的になってないか?」

「・・・それはあるかも」

 

 WAの場合は自分の好きという感情を抑えきれていないんだよな。結果世話を焼いて、お節介だと思われてしまう。それがWAのいいところでもある。

 

「416もそうだ。一方的にやるんじゃなくて、一緒にやるって気持ちが大事だと思う」

「納得いかないわ」

「指揮官だって男だ。完璧なら男を立ててやるべきだろ?416ならできるはずだ」

「そうね、私は完璧だもの」

 

 416は完璧を目指そうとして全部自分でやってしまおうとするのが良くない。戦闘の時はしっかり頼ってくれるけど、書類の類は自分でやってしまう。そうやって楽ができるようなオンナを好く男も居るにはいるが、指揮官はそういうタイプじゃない。

 二人とも素材がいいのだからして、指揮官だってまんざらでもないはずだし。俺は二人とも頑張ってほしいのだ。さっさと結ばれて宿舎での惚気暴露からの喧嘩を終わらせてほしいってのもある。

 

 結局、ポジションは変わらず。変わったことと言えばWAがキレるタイミングが遅くなったことだ。SAAが偶然発掘した指揮官のトレジャーを見て手を出さなかったのは成長だと思う。以前のWAだったら張り倒していた。




VAG-73ボイス
スキル3「フルオートを喰らえ!」



次回予告
おい指揮官。一つ聞きたいことがある。
やったな?ヤったな?
証拠はあるんだよ。今朝から416は調子が悪い。なんでだと思う?
母乳が出てるからだよッ!!!!
え?人形は妊娠しない?
事実出てるんだから、ヤったんだろ!!!
幕間「416のミルクアイス(非売品)」

タイトルは「416の、ミルクアイス」と切ります。決してミルクの後ろは切りません。タイトルネーミングがひどすぎる。
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