鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「アアアアっ!?」
頭を右に傾けて、突き出されたゲバ棒をかわす。後ろからの袈裟切りを右手で弾く。
前後左右に六人ほどいるが攻撃のクリアランスの関係で同時に来る攻撃は二つか三つ。これぐらいであれば対応できた。
両手で避けたゲバ棒を掴んで引き抜き、そのまま逃げて仕切りなおす。
「これで八本目ぇ!」
「こっちも同じ!ポインターが間に合ってない!」
ポインターはタコ殴りに会っても抵抗できないので、弱体化し次第一人ずつスタンガンで無力化する。戦闘能力を失っていない敵が残っているのでそれを回避しつつの処理には時間がかかっていた。
取ったゲバ棒だって邪魔で極まりないから路上にある車の下に放り込んだりして、再利用されないようにしなくちゃならない。
「警告射撃も意味ないとかやりづらすぎる!」
「ぼやいてる暇があるんなら、早く制圧!」
416が接近戦になる前にサブアームの拳銃で空に向かって警告射撃をしたが、正気を失っている敵には意味がなかった。近くにいた一般市民を遠ざける意味は果たしたので及第点。
これがELID相手や明確なテロリスト相手であれば問答無用で銃を向けていた。治安維持の難しいところはこういうところにある。
MCVカンパニーの頃、グリフィンの庁舎に人形排除過激派が襲撃をした時にだって、相手が明確な武器や害意を持っていなかった時点では射撃を実施していなかった。
あくまでグリフィンの業務は治安維持。警察業務でもできないことを、それの真似事であるPMCごときができるわけがない。
「あと何分!」
「四分と少し!」
お互いジリ貧。交わされる言葉が少なくなっていく。ドラッグの影響で動きに制限がかかっていない。人間のポテンシャルを引き出すことに薬物を使うのは常套手段だ。パーサとのタイマンの時に頼ったことを忘れることはなかった。
頼ったことがあるからこそ厄介なことが分かるし、ドラッグの悪影響だって分かる。できることなら怪我をさせたくない。
次第に俺たちのいる区画の喧騒が大きくなっていく。テーザーガンで武装した警備人形達と、地区の警察業務を行う役人が集まってきている。
▽
「・・・疲れた」
疲労して直接身体能力が低下する機能なんてないのに体が重い。これは精神的な疲れだ。
相手を傷つけずに制圧することも今の仕事の一部に入っているが、慣れないことは難しい。
俺はもっぱらそういう仕事を別の仲間に任せて、一番危険な奴をぶっ飛ばすのが得意だったから・・・
「VAG、時々吹き飛ばそうとしてませんでしたー?」
「言わないでくれSAA。こういうの慣れてないんだ」
PMCにもルールがある。つってもその内のいくつかは形骸化していることがあるけれど。
いくら地区におけるグリフィンの影響力が強いとはいえ、俺たちはPMC。地区は地区で自治しているわけで、そのルールを塗りつぶすほどの行動はご法度。それはクルーガー社長が強く主張している。
・・・俺、この人に個人としての意見とか消されたことあるんだけども。
閑話休題。
PMCが担う治安維持業務でできることは「警察組織の対応できない武装組織、それに準ずる者・グループに対する制圧」「一般市民の安全の保護」「治安維持に関する業務の代行」と言ったところに限られていた。
逮捕権は一般市民と同じ現行犯逮捕しかない上、制圧からの引き渡しはグレーゾーンの行動に当たる。
射撃だって市民が被害を負った際にルールを超えて行うもので、基本は抑止力なのだ。突入作戦は対テロの名目で行われる完全な例外。
国という枠組みが崩壊寸前の現代。もっと人の多かったり正規軍が保護している地域はともかく、住民が自治をしているという建前でグリフィンが保護している地区ですら旧態依然としたルールが有効とは思えなかった。
ルールを破ったりはみ出し始めると何もかもが崩れ去ると言うのも事実なので、ルールを守ること自体は否定しない。
ルールが変わることも望めなかったが。
「みんな・・・揃ってるね。416にVAG、お疲れ様。もう一仕事お願いしたい」
「問題はないわ」
「俺も同じく」
これからやることも予想できている。
あの露店が初めて許可を取ったのが三か月と数日前、この地区では二か月ほど前から薬物が関与している犯罪の検挙率が上がっていた。それ以前と比べて爆発的な数だ。
更に言えば検査を行ったところ、科学ドラッグではないかという俺の仮説も当たった。
「この地区において科学ドラッグ流通が起きている。あの露店はそのフロントだ」
「厄介極まりねぇ」
「コーラを飲めば幸せなのに、なんでドラッグに手を出すんですかねー?」
そもそも薬物は少ない量で高い見返りが返ってくる。科学ドラッグの精製にかかるコストやリスクがいくらほどかは知らないものの、ビジネスとして成立するようだ。もしかしたら交流のある他の後方地区にも流通しているかもしれない。
「軽い気持ちから始めるのが伝播する、人間に誘惑から逃れる強い意志なんてないわ」
「・・・わーちゃん、それ僕のことも言ってる?」
「仕事や怠惰から逃げない意思を持つこともありえないってことね」
「416まで・・・VAG、コーラちゃん?」
指揮官も最近余裕が出来たのか、サボりを覚えたよな。仕事に根詰めるよりかはマシなんだけども。
あと指揮官の私室は汚い。
本来はずぼららしかった。
「僕の扱い雑じゃない・・・?」
それだけ愛されてるってことさ。
VAG-73ボイス
自律作戦「よっしゃやる気だして、いくぞ!」
ボイス集は順番的に次回が誓約…どうしよう…
感想返し
「今回は、ドールズフロントライン内でのPMCの立場を強調した話ですね
そして、サブリナことSPASは、絵師の設定によると数少ない軍事用と明記された人形のはずです
それも馬力特化で装甲車を蹴り飛ばす事も可能だと……それなのにあの巨乳というか某所の最新軽巡にも匹敵するムチムチ具合ですがね」
(痛恨のリサーチ不足)
指摘助かります。
馬力特化だからよく食べるのかしら。まさか力士みたいに一食をドカ食い・・・?
装甲車を蹴り飛ばすときに揺れるバストを受け止めるブラジャー君の耐久力や如何に!
SPASちゃんのムチムチ具合、軍事用とは言うけど接する人間は気が気じゃないだろうなぁ。助けた子供の性癖壊しそう。
あと今回の更新はこの「ドルフロ世界観でのPMC(特に大きな力を持つグリフィンなどの大手)の立場(治安維持のスタンス)」に重きをおいた説明回感があります。
筆が乗ってしまったんや・・・実はこの密着グリフィン24時、テレビ風な書き口をやってみたかった(展開上きつかった)
感想とかありがとうございます。こういう指摘はありがたい・・・