鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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狼煙が上がっている3

 

 

 空中に留まるMD500の機内からは、肝心の目標はあまり見えない。

 ローターが風を切る音とコクピットのガラスに当たる風はイヤーマフ越しでもうるさかった。機首下のカメラセンサーによって拡大された風景がモニターに映るが、車両隊が出す砂煙で放送事故状態。

 更に車両隊の後方数キロ地点には一六式が居る。

 シャコ取り作戦、その第一段階はシャコが居る穴に筆を突っ込む作戦だ。

 シャコ取りなんて知らない上にシャコという生き物自体俺は聞いたこともなかったが、指揮官は故郷での話として教えてくれた。コーラップスのせいでシーフード自体廃れたので今は採ることも出来ないようだが。

 そんなシャコ取りは、筆を掴ませて引き抜くという単純明快な手段で行う。今回は、車両隊という筆を差し込み、それを掴んだ敵組織というシャコを仕留める、そんな感じ。

 

「なんで、バディがこいつなんだか・・・」

 

 隣を見れば気難しそうにカメラセンサーを操作して索敵するウェルロッド。俺の視線に気が付いた彼女は怪しむように睨んできた。

 

「なにか!言いました?!」

「なんでも!ない!」

 

 俺のボヤキは風の音にかき消されていたようで、ウェルロッドは大きな声で聞いてくる。

 しかし俺の表情と状況でなんとなく察したようであっちも吐き捨てるようにぼやく。

 

「そんなに!気になるなら!装輪戦闘車に!無線をかけたら!どうです!」

「しないわ!作戦に!私情は!はさまん!」

 

 高度は上限ギリギリな上、距離は数キロ離れているので車両隊の索敵もくそもない。

 もし敵が一六式を囲んだら・・・俺以外の近距離戦能力なんてたかがしれているわけで、更にサブリナは戦術人形でもない。だからと言って、車両隊側の護衛車両に割り振られていても、作戦遂行の方が重要なせいで助けに行けない可能性が高かった。

 今の俺はMCVカンパニーの社員であると同時にグリフィンの戦術人形で。指揮官からの命令には背けない上、どちらも味方だからこそ作戦遂行に有利な方を守ることになる。

 その事実がとてももどかしく。更に言ってしまえば私情を挟まない自信がなかったことで、追跡班を選んだんだ。

 追跡班は、囮含めた地上班に迎撃されて逃走した敵を追いかけ拠点を捕捉。そこから三日間から四日間かけて敵情を探る任務を持っている。

 長い期間を過ごす上に協力が不可欠だから気楽な相手だと助かるんだが、この任務に最適だったのはウェルロッドだった。

 情報の処理能力、記録能力なんかはピカイチだし、潜入にだって向いている。

 なるようになるよなぁ。

 

「ヘリより囮班、護衛班、進路一キロ先に怪しい物体が複数あります。確認を」

「こちら416。囮班、停止。視認、数は四。左の草むらには装甲車が隠れています。一六式は迂回して装甲車を狙う位置に」

 

 検問式に待ち構えていたらしい。護衛班からの逐一の報告から得た情報から、相手は不正規の兵であり剣呑としていることが分かった。

 左右にも兵は隠れている可能性が高いし、装甲車には重機関銃が載っているようだ。

 想像以上に重武装だった。訓練されている部隊とは言え、必ず無傷という保証はない。

 だからと言って俺たちはどうしようもないのだ。俺たちの仕事は餌を掴ませた敵を追いかけてアジトを暴くこと。それまでは手を出せない。

 

「こちら一六式。手はず通り、囮班が人間に対抗できない姿を装って輸送車の中身を渡したのを確認」

「416から護衛班、敵を見送りなさい」

 

 護衛班には416が居るが、それ以外は一世代の自律人形と人間の傭兵だ。

 荷物も真面目なものを持っているわけではない。見た目は実弾だが、その実不発弾や空砲を入れて敵の発砲を阻害する偽弾薬類と下剤を入れた食料類、奪われることを前提にしたそれらが今回の筆だった。

 

「ウェルロッドより416、作戦は第二段階に移行します」

「了解。成果を待ちます」

 

 敵車両をギリギリ確認できる距離を保ちつつ、追跡が始まる。窓から下を見下ろせば一六式と護衛のハンヴィーや輸送トラックが離れていく。

 あとは俺たちの仕事だ。

 

 

 

 

「とりあえず降下は成功だな・・・」

 

 ヘリのローターが押し下げる風がうつ伏せの背中を叩きつけるのが弱まってきた辺りで深呼吸。敵のレーダーに確認されないように低空のまま離脱していくヘリを見送り、アイウェアを外した。

 短い雑草の上に立ちヘリから降ろした背嚢を背負って周囲警戒しているウェルロッドの肩を叩く。

 ゆっくりと、敵のアジトらしき大きな丘の方にゆっくりと進み始めた。

 空を見上げれば日は直上。強い日差しと丘陵地帯の草の不快感に挟まれつつも、徒歩では辛い距離を歩き始める。

 歩いても様子を見れる別の丘まで行くのに二時間以上はかかりそうだ。

 背嚢を背負った二人の影が自然豊かな丘陵地帯を進んでいく。

 汗は止まらないし、早く水分の確保もしないといけない。敵がアジトに入っていくところを確認した時には時折池があったので、ろ過装置を使えば問題はなかった。

 この進軍は結構過酷だ。ELIDとの最前線と比べたら少しはマシだけども。

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