鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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狼煙が上がっている4

「よし。タコツボはできた・・・あと三十分ぐらいか?」

 

 日は傾き始めて、空は暗い色になってきた。玉粒の汗が水分を含んだ土に落ちて染みを描き、思わず草むらに背を預ける。軍用スコップは小さくて、俺たち二人をすっぽり入れる穴を掘るのに時間がかかった。

 この規模をこれで掘るのは正規軍での前線以来。慣れているとはいえ疲れる仕事だ。ウェルロッドは周囲警戒を続けている。

 スコップを仕舞い、敵の方に向いて盛り上がった部分と入口とで天辺を水平にしてフレームを差した。少し離れたところからむしってきた草と掘り返した土をフレームに引っ掛けたシートの上に被せて、偵察拠点の完成だ。

 

「ウェルロッド、拠点作成終わった。水の確保だけして、交代だ」

「お疲れ様です。こちらに感づかれた様子はなし」

 

 俺たちの居る丘は敵の居る大きな丘が良く見える。とくに、唯一の車両が通れる道が見えるので敵の動きは掴みやすかった。逆に言ってしまえば目立つ位置ではあるのでタコツボを掘る時はずっと匍匐の姿勢にならざるを得ず、姿勢がキツくて人形の体はともかく精神はかなり疲れている。

 ポリタンクに比較的綺麗な水を取って口にろ過装置を付けた。あとは適宜水筒に入れればいい。

 水が入って重い容器を持って戻ればすっかり太陽は落ちていた。

 

「おかえりなさい」

「そっちこそ。先飯食っていいぜ」

 

 ウェルロッドの隣にうつ伏せになって敵の様子を確かめる。灯りは統制されていて、遠目では人が居るのか全く分からない。元々ここに居た軍の基地だったのか、周りにはトーチカや銃塔なんかがあってそこに武器があれば陸上からのアプローチは難しかった。

 それに加えてMANPADSがあるということはちょっとした防御陣地だ。

 

「迫撃砲弾は、テロと陣地防御に使うつもりでしょうか」

「だろうな。この陣地から迫ってくる敵に攻撃すれば脅威が大きい」

 

 周り五キロに人は住んでいない。逆に言ってしまえばそれだけ広い空間を見回せることが出来るわけで、立てこもる気が透けてきた。

 ウェルロッドが味も食感も工業製品な人形向けレーションを口に詰め込みつつ、敵の推測を始める。

 

「なんだか普通じゃない感じがします」

「俺もだ。少なくとも元軍人の協力者が居る気がする」

 

 あとは敵の動きさえつかめば、敵が何者かもわかってくるんだろうけどそれは明日だ。

 警戒しつつ交代でスリープモードにして、明日は朝から接近して偵察。四日目までに情報の整理をしないといけない。交代がなければ最悪、一週間以上この拠点から動くことになる。改めて人形で良かったと思う。人間だったら体が辛いはずだ。

 

「VAG、食事をどうぞ」

「ありがとよ」

 

 タコツボの上には薄いクッションを置いてあって、背を預ければ意外と柔らかい。かといってすぐ上にはシートの天井があるので快適とは言えなかった。精神的な疲労を落ち着かせ、レーションの袋を開けると乾ききったカサカサの大きなパンを持って草のクッションに座り込んだ。

 

「・・・これ食べるの初めてなんだよな」

 

 人形向けレーションは、不評が大きく。人形に配慮する指揮官であればグリフィンからの予算内で普通の食事を用意したりレーションと食事をローテーションしたりしている。レーションだけを配給するのは予算を浮かすための手段としての意味合いが強くて、社内報では問題提起されているが、これは納得だ。

 まずもって味すらもないに等しく、その上パサついていて口の中の水分が全部持っていかれる。更に量に対してあまり満腹感も得られないので一つの量も多いが、食べること自体が苦痛なので満腹になるのと苦痛が交換状態。これでは士気も上がらない。

 そんなレーションが役に立つシーンもあるにはある。

 何かの被害を受けたりしたところの支援を行う時の食事は全部レーションになる。クレームを防ぐためだ。辛いことがあれば人間は強く当たりがちになってしまう。そんな状況で人形に苛立つことがあれば・・・という観点だ。

 ただそうやって配慮してもレーションや水を飲んでいるだけでクレームは入れられるのが通常らしい。

 

「食べる栄養分・・・って感じだな」

 

 最後の一口を口に含んで水で流し込む。グーッと伸びて凝り固まった体をほぐすと、土を払って拠点に戻った。

 

「現在時刻2035・・・VAG、休みますか?」

「いいのか?ウェルロッドこそここにきて七時間近くやってるじゃないか」

「肉体労働をしたのはVAGです。2330に交代、ということで」

「三時間ごとか、それじゃあありがたく先に休ませてもらうぜ」

 

 寝袋代わりのシートを体に巻き付け、毛布を畳んで枕にして天井を見つめる。俺は夢を見るという特性上や精神の特異な事情でスリープモードに入りづらいことがある。しかし、こういう状況では休むことが最優先だと知っているおかげか、意識はすぐに落ちてきてくれた。

 思い返してみれば野営をするのは数年ぶりだ。正規軍特殊部隊に居た時も、部隊のマイクロバスとかシュラフで寝ていたから、この感覚は懐かしいとともに少しワクワクする。三日目を過ぎればそんな気持ちにもならないだろうが。




今更だけどタイトルの狼煙要素がまだ先であることに気が付いてガバを感じる。


次回予告
敵情偵察が始まって四日目。中継車両を介して情報のやり取りが行えるようになり次第に敵の動きが確実になってくる。
それから少し時間を置いて、VAGとウェルロッドが異常な動きに気づき報告するもそれを防ぐことは・・・
第二話「嵐の予感」
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