鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「・・・今日で五日目か」
「そうですね。通信は昨晩のテスト以降来ていません」
「なんか天気も荒れそうだし、これは長引くかなぁ」
ドーンと淀んだ曇天から、下に押し出された重たい空気が肌に当たった。シャワーを浴びることが出来ないので発汗したのが少し臭う。
それはウェルロッドも自覚していて俺のにおいにも文句は言わなかった。
お互いボディシートの限界にうんざりしつつ、かといって汗が染み込んだ服の洗濯も干すことが出来ないせいで状況の改善は無理。
食事は飽きてきたし交代交代での夜間警戒のせいで、人間でいうところの睡眠不足からの不機嫌に近いAIの反応が出ているものの、作戦とわきまえているから文句も出ない。
雨の匂いが強くなった。段々と時間が経っていくにつれしとしとと降ってくるのが分かる。遠くからは雷鳴も響いてきた・・・
かなり離した位置に避雷針兼通信アンテナを設置しているが、これはシートが焼けこげるかもしれない。
「私はデータの作成と通信機を見張ります」
「了解。突入の前にはさらに情報を探らないといけないのか・・・」
「すでに敷地内への潜入口は確保済みです」
俺が一人で外周の柵歩き回ってスコップで掘って穴があるところを広げたんだけどな・・・何回か敵にバレそうになったけども。
そうは言ってもこの敵情偵察は俺たち二人の成果なわけで、俺だけの戦果でもない。俺が外回りをしている間はウェルロッドが常に監視をして、敵の出入りをデータに纏めている。俺はそんな面倒な作業が得意ではないので、適材適所って感じだ。
「しかし鹵獲した人形を使うってことは、過激派の類ではないのか?」
「一つ引っかかることがあります」
「使われている人形は第一世代の自律型と、プログラム型・・・ってことだよな」
食糧規模や出入りの様子と廃棄物の類から推測するに敵の人間の数は三十から六十ほど。もっと正確な推測が出来そうだが、相手にバレないように丘のゴミ山を見るのは難しいんだ。
更に普段の警備には警備向けの自律人形と、それに付随する低コストタイプの警備プログラムなどがインストールされている人形しか見ていない。
これらの人形達は俺たち二世代の一部と違って人間に対する危害は絶対に加えられないが、対人形においてはIFFさえ書き換えればなんとでもなってしまう。
もちろん拳銃を持っただけの民生人形相手に俺たち戦術人形が遅れを取ることはないが、人間と人形の混合相手への対処はかなり大変だ。
「警備人形のIFFは・・・書き換えられているでしょうが、こちらからのIFFはブルーです」
「鹵獲された個体と横流しされた個体、全部の個体に割り当てるIFFを書き換えちまえばいいんだ。数うちゃ当たるしな」
要はグリフィンや地区の管理下から離れている人形すべてを攻略作戦に使う人形のIFFからブルーとして映らないように変えてしまえばいいのだ。
しかし敵はどうやってIFFを書き換えた?
その権限はある程度の規模を持つ基地の指揮官と後方幕僚にIOPが委託するものだ。もちろん悪用すればIOPとの提携を崩したとグリフィン上層部から拘束されることになっている。
どっかの腐敗したやつが横流ししたんだろうな・・・グリフィンは発展途上の企業。この規模の企業としては比較的社内風紀がいいとはいえ、広い範囲に点々としている末端基地全てに徹底できないのは分かりきっていた。
「あ、通信来ました」
「ようやくか・・・」
「付近の街での捜査も始まったようです。近くに指揮所を作っている・・・と」
わざわざアンテナを二人分の背嚢に分割して持ってきたのがよかった。いやそうでも理由を付けないと馬鹿重いそれを持ってきた意味を見出せない。
「交代はなし・・・か」
「あと一週間以内に踏み込む予定だそうで」
「俺たち治安維持小隊だけで行ける規模じゃないと思うんだけど」
「他の戦力はもっぱら治安維持にひっぱりだされているそうですよ」
ウェルロッドがデータの送受信の結果こちらに来た現状のデータを読み上げる。
聞けば各地区でのデモが起きていてそちらの警戒が忙しい云々。比較的平和な基地からもそちら側の応援に忙しく、どこも突入作戦自体には参加するつもりだが戦力は割かないと返答されているらしい。
近くの基地は補充や訓練を中心にしているから、実戦中心の比較的前方の基地と同様の戦闘部隊である俺たちに仕事を押し付けるのは当然だった。
「ちょっと待て・・・この時間に車両が出ていくのは三日間見た毎日のルーチンにないぞ」
「状況は」
三日間の出入りは大体の時間と推測される目的が一致している。
朝方に廃棄物を裏手に運び、昼間か夜には飲み水と食料を買いに行っていた。後者はタンク車と五台あるトラックの内一台の組み合わせで変わらない。
トラック二台の組み合わせは新たな動きなのか・・・それとも不定期か少し長い合間のルーチンなのかは分からないが報告する必要がある。
「二台の中型トラックだ。幌付きだから中は見えない」
「指揮官に報告を送ります。この環境だから通信には時間がかかりますが」
脇腹がかなり痛い。俺の嫌な予感の的中率は高いのだ。
「雨脚が強くなってきたし、風もすごい。これは荒れそうだぜ・・・」
呟きはシートと近くの地面に叩きつける雨音でかき消されていく。