鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

75 / 157
嵐の予感2

「七時の定時通信返ってきました」

「すごく嫌な予感がするんだよな」

「・・・トラックに乗っていた二人の男と八体のプログラム人形が後方の二つの地区でそれぞれテロを起こしたようです」

 

 二台のトラックに分乗した敵はデモの規模が大きな二つの後方地区まで行き、テロを起こしたらしい。

 あのトラックは一台あたりに人間一人と更に破壊の指示プログラムを受けた人形が乗っていた。そしてそれぞれがデモ隊に対して人間が発砲して人形が自爆攻撃を行った。死傷者の数が多い。

 このテロによって、相手の素性が割れてきた。

 

「破壊を目的にしたテロ組織・・・厄介な敵だなぁ」

「犯人は二人とも死亡し、関わった人形は全てロスト状態」

「人形に対する信頼も揺らぐよなこれ」

 

 IFFの設定やプログラム人形のシステムの悪用によってこんな事件が起きるのは困る。そもそもIFFに関わる権限は大きな基地限定なのだ。そうなるとそれなりの指揮官の汚職もあるわけで・・・

 IOPが今後IFFや自律式ではない人形に対するプログラムに関するブラックボックスの範囲を拡大するのは確定だ。

 おそらく敵が入れたプログラムは自爆の指示だけだ。

 人間の命令に従うのはロボットである以上当然のことだが、それを悪用して指定された範囲内での自爆攻撃によって市民が被害を受けている。

 人形の安全装置や自爆攻撃のためのボディ改造、人形に関わるメカニックも居る可能性が高い。

 

「突入は二日後、明日の朝に交代要員を送るので作戦会議に参加しろ・・・と」

「ようやくシャワー浴びれるぜ」

 

 話をしている途中も脇目を振らずに双眼鏡を覗いていたが、ウェルロッドが代わったので俺は寝転がった。

 右手で顔を拭うと湿る。

 

「・・・あれ、俺・・・なんで泣いてるんだ・・・」

「いきなりどうしたんですか」

「分かんない、分かんないけど、涙が・・・」

 

 俺が悲しんでいる。何が原因だ?この状況?四日間の野宿?

 ・・・違う。

 多くの人が勝手な考えで殺され、傷ついた事実だ。

 今までこんな気持ちになった覚えはない。ELIDとの前線が崩壊して小さな町が地獄になった時、町が燃えているのを見た瞬間、取り返すために町に進む間も、遺体を燃やし片付けている間も、悲しむことはなかった。

 最優先は仲間の命で、市民を守るということも大局的な状況においては切り捨てていた。

 俺は変わったと思う。

 子供を助けた時も、それ以外の時も、他人を守ることが優先事項の二番目にあがってきた。

 

「私たちは人形ですから当然です」

 

 ウェルロッドの言葉がすとんと腑に落ちた。

 俺のボディは人形だ。精神こそ人間のそれを引き継いでいるが、戦術人形としてのあれそれもインストールされていた。

 だからボディ側は最優先事項を人間だと判断している。俺自身もそれ自体は悪いことじゃないと思っているから、拒否反応も出ない。

 もちろん仲間を切り捨てるつもりもない。それは俺自身の譲れないところだ。

 だけど・・・今、小隊の仲間とMCVカンパニーの家族か守るべき市民、どちらを選ぶかと聞かれてしまえば答えを出すことが出来ない。

 

「・・・ありがとうウェルロッド。どうすりゃいいのかは分かんねぇが、現状は理解した」

「どういたしまして。今日はどちらが先に休みます?」

「俺が見張ってるよ。先どうぞ」

 

 自分の分の暗視装置を使って敵を見張り始める。

 三分もしないうちに物音が止まって、丘に吹く優しい風と静かな夜の雰囲気が月明りと合わせて神秘的な様子になった。

 聞こえるのは俺の呼吸と心音だけ。

 

「俺は俺だ。変わらない・・・それ以外は考えない」

 

 言い聞かせるような独り言は誰も聞いていない。

 雨は音を立てずにしとしとと降っていた。それは俺のテンションを表しているようだ。

 

 

 

 

 二キロ離れたところにバギーを迎えに行く。作戦会議に一度指揮所に行って、明日には作戦に向けてこの拠点に戻ってくる予定。

 

「おまたせ。敵情偵察お疲れ様です」

「ロクヨンに・・・」

「あたしですよー!」

 

 遠目の時点で誰か分かるぐらいには人形の姿格好は目立つが、一応上にオリーブドラブ一色のポンチョを纏っているようだ。

 俺も同じポンチョを羽織っている。

 昨日から降り続く雨は昨晩と比べて少し持ち直し、風も強い。よっぽどのことがなければ監視の事実はバレていても拠点がバレることはないだろう。

 

「SAA・・・明日俺たちが戻ってくるまでコーラは飲めないぞ?」

「あたしを何だと思ってるんですかー!」

 

 いや、コーラ中毒じゃないの?

 

「ほら!ビニールボトルにコーラ四リットル積めてきました!抜かりはない!」

 

 違うそうじゃない。

 SAAは背嚢のジッパーを開けて中身を見せてきた。中いっぱいに黒い液体の詰まった袋が入っているのだ。炭酸抜けないか?それ以外にはジップロックに入った弾薬だけ・・・

 ロクヨンも背嚢を背負っているが、ロクヨンのそれは食糧しか入ってないのか随分軽そうだ。

 

「んじゃ拠点まで案内するぜ」

 

 姿勢を低くして丘を登って下ってを繰り返し、拠点まで登ればウェルロッドのスカートの中身が視線の先にある。

 流石に口には出さないが。

 

「ウェルロッド、交代が来たぞ」




次回予告
敵の制圧に向けての作戦のネックになるのは敵防空システムと、トーチカ類、迫撃砲、多数の戦力。
一つ一つを潰していく手段が提案されていくが、最後の一手が見つからない。
「イイことを聞かせてもらいました。それなら我々に任せてください!」
それはサムがボスに言った言葉。
第三話「作戦会議」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。