鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「すまん遅れた」
「気にしていませんよ。時間はまだあります」
「暇だったろ?」
「はぁー」
結局五日間傍に居たウェルロッドは俺に対しての当たりが強いままだ。その当たりの中に俺に対する諦めの感情とかが入っているのは嫌でも分かる。
「本気でそんなお人好しやってるんです?」
「別に意識してるわけじゃねぇ」
「厳しく指導してきたのは?」
「・・・俺が小隊から抜けた時に格闘できる奴がいないと困るから」
偽りのない本音だ。
こちらを見るウェルロッドの目は全く信じていないだろうが、本気でそう思っている。
「本当に?」
「あぁ・・・あと俺たちハンドガン人形は手数に困ることがある。特にウェルロッドはそれが顕著だろ?」
何も俺はイジメたくて格闘訓練を課していたわけじゃない。絶対に役立つと思って、もしもの時に活用できるように教えたのだ。
「信じておきます」
「そうしてくれると助かる。っと準備終わった」
36が持ってきてくれた新しいブラウスの胸元は緩めたまま荷物を持つ。それを見て俺よりも背の高い金髪が下りてきて・・・ボタンを閉めてきた。
「下着ぐらいは隠してください」
「えぇ、見えてたか?」
別にブラはスポーツタイプだし見られて困るもんじゃないが・・・
そんな風に甘い考えをしていると、また自称姉が怒りだすだろうな。
ペットボトル飲料を飲み干してゴミ箱に放り投げるとグッと背伸び。外に出て空を見上げると雲が未だに低く被さっている。
▽
「VAG、ウェルロッド、改めてお疲れ様。君たちのおかげで突撃に踏み切れる」
「それで、作戦はどのように?」
指揮官の代わりに416が端末を操作して支部にある会議室の幕にプロジェクターが作る像が当たり始める。
「敵の脅威は四つに分類します」
ヘリボーンを防ぐMANPADSとレーダーを中心とする防空システム、トーチカ・銃塔、地雷に無反動砲・・・そして迫撃砲と言った陣地防御、自律人形含めた警備人形類の抵抗、敵人間部隊による攻撃、ちょっとした戦争だ。
こんな敵陣地の制圧はいつの時代も多大な戦力を消耗する作戦になるのが常だが、そういうわけにもいかないのが俺たちだ。
攻略する分には高空からの爆撃類が手っ取り早いが、トーチカなどを破壊した上で敵中枢のメンバーの確保なんて両立できるわけがないし、グリフィンのようなPMCでさえ、巨大な航空爆弾を使うのはご法度なのが暗黙の了解だ。
そこまでの戦力を得てしまえば完全な軍隊。民間会社という看板を持てない。
そもそも俺たちMCVカンパニーが使っている一六式も名目上は装甲車だが、CFE条約というかつてのルールに照らせば立派な「戦車」だ。そして立ち上げる時にも同業者からの批判があったとボスが話していた。
基本は大きな戦力を持てず歩兵戦力に依存する性質上こういう敵陣地攻略なんて普通は担わないのだ。グリフィンが出来ることは幅広い地区に自社が手を掛けているという特徴を活かして、怪しい動きを先に捉えて立てこもられる前に確保するぐらい。
後手後手に進んでいる今回はイレギュラーばかりだ。
「VAGとウェルロッド・・・君たちD班は第二フェーズ開始時に敵拠点において陽動、敵ブレインの確保だ」
「それだけ?」
俺たちは準備した侵入口から入って、敵中枢部を混乱に巻き込めばいいらしい。作戦に関する時間も四つに分かれているが、俺たちは敵の動揺を制御不能な状態にするのが目的だ。
「第一フェーズは擲弾爆撃。色々問題になりそうだったけどゴーサインは出た」
Z-20のウイングパイロンに懸架した箱一杯の小さな榴弾を、DIY迫撃砲が設置されている部分に投下。MANPADSやレーダーに探知される可能性は、別の基地から派遣された部隊のECMで誤魔化す。チャフやフレアも惜しげもなく使うつもりのようだ。
「第二フェーズは制圧部隊・・・AからC班、他の基地からの人形や警備人形の混合部隊が突入開始」
こちらが本命。事前爆撃から五分置いての突撃開始だが丘を各方位から進むのは時間がかかる。俺たちはその時間を稼ぐとともに、敵の組織的抵抗を阻害。
「三フェーズは私と36が行動します」
「416が?」
思わず聞き返した俺に416が無感情な顔を向けてきた。
「最後のヘリボーン隊のためにMANPADSなどを制圧するの」
「どうやって侵入するんだ?」
顔は無表情のままだが、よく聞いたと言わんばかりに雰囲気が良くなる。器用なことするような。
「フライボードよ」
あれかぁ。
少ない時間で済んで高速で自由に侵入できるのは飛行機械の有利なポイントだ。おまけにフライボードならば両足に付けるだけで済むので手には銃を持てる。
「・・・厄介なトーチカ関連なんだけど」
指揮官が困り切った表情で話を切り出したところで会議室の外から騒ぎが近づいてきた。
「ちょっと待った!」
「あの!今関係者以外立ち入り禁止なんですけど!」
「サブリナ?WA・・・?」
入ってきたのはWAとWAに腕を掴まれながらも尋常ではない馬力で猛進してきたであろうサブリナだ。
「是非!我々を使ってくれませんか!?」