鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「これで十八人目!ウェルロッド、ハンドカフの残りは!」
一六式の機関砲から放たれる連続した射撃音は地下司令部の入口付近まで聞こえてきた。
陸上からの侵攻が始まり、それに呼応して俺たちは突入し制圧を始めている。元軍用の施設を深くに進むたびに無線機は繋がらなくなった。ここには必ず味方が来る。だから報告できなくてもいいが、俺たちが失敗することも出来ない。
司令部施設には全く人形が見当たらないことに嫌な予感がする。
警備人形達が前線と歩哨に出されていることは想像できるが、奪われた人形の中には民生人形が含まれている。戦術人形が居ないことは幸いだが、戦闘のできない民生人形達がどのような仕打ちを受けているかは簡単に想像ができた。
「あと十人分」
「よし、指令室に突っ込むぞ」
迎え撃ちに来た敵の兵を次々と制圧していく。俺が危なくなれば敵にポインターが飛びついて、動きが止まったところにカウンター。この空間においては徒手格闘とボクシングにリロードが少ないVAG-73の組み合わせが最強だ。
事前に読み込んだ元々の設計図は、一番奥に大きなシェルターと指令室。シェルターの制圧は時間がかかるから入口を封じておいて、指令室を制圧する。
堅く封じられているそこを破壊する手は少ない。機密の観点はしっかりしているようで、通路には入れそうなダクトもない。
この扉を開ける方法の一番は爆破だが、地下施設の通路は機密性が強く、衝撃で俺たちがやられてしまう。
「ま、衝撃は気にしないんだけどな」
それがどうした。俺たちは人間じゃあない。戦術人形だ。他に傷つくものがなければどんな手だって使ってみせる。
「設置完了です。爆破まで二十秒」
通路を戻って待機。目が眩むぐらいの衝撃と一過性の猛烈な頭痛をこらえ、出てきた敵の兵士をぶん殴る。
結構な数をドライブスルーよろしく、俺が大きなダメージを与え、脳震盪だったり怯んだりした敵をウェルロッドが処理。片手を超えそうな数を倒して、半身を抜いて指令室へと踏み込んだ。
「クソっ誰も居ない!」
確かにここはコントロールルームだった。それは間違いない。ただそれは少し前の事。
首謀者や、人形関連の技術者、居るであろう計画の中心は居なかった。
敵全体の指揮を取るはずだったコンソールも破壊され、各部からの状況を示すモニターも割れている。
「私たちの任務は失敗、ということですか」
「あぁ。逃げられたのかも・・・いや、待て」
もしかして。
「どうしました?」
もしかして。
コンソールに付いていた手が震える。脇腹が痛い。これは俺の嫌な想像が当たったのだろうか。
「いや、何でもない。時間的に416達の掃除も終わっているだろ」
シェルター側の封印を確かめ、一度上に戻る。人数が少ないせいであちこちに動き回らないといけなかった。
▽
「MANPADSは処理しました。アプローチどうぞ」
「416、下はシェルター以外制圧しました」
敷地内で一番高い建物の屋上までひた走る。道中で敵を見つけたがほとんど制圧されていた。416と36はアサルトライフルで敵の無力化をこなせる凄腕だ。
「陸上部隊も制圧状況は五割、戦闘はトーチカ群の辺りで拮抗しております」
「俺たちの仕事は、ヘリボーン地点の確保・・・ってことか」
厄介なMANPADSは416達によって刈られた。
後はいくつかの建物でゲリラの用意をしているであろう敵勢力だが・・・
「・・・何の音楽ですか?」
無線機に旋律が響いてくる。
俺は頭痛もしないのに頭を押さえた。
「ワーグナーのワルキューレの騎行です」
地獄の〇示録じゃねぇか。
36の疑問にウェルロッドが答えるが、この展開の原因を知っている俺と416は顔を見合わせた。
「いい!?逃げる敵は制圧対象よ!逃げない敵はよく訓練された制圧対象よ!」
「あの・・・わーちゃん?」
「ホント戦争は地獄だわ!」
「戦争じゃないですよ・・・?」
今度はフルメタル〇ャケットだ。
やっぱりWAが影響を受けてたか・・・
宿舎では暇さえあれば名作映画をダウンロードして鑑賞していた。それぐらいしか全員で楽しめる娯楽がないのもあるんだけど、俺の趣味的な意味合いも強い。
WAの暴走に指揮官とロクヨンがおろおろとしているのが無線越しでも分かった。
輸送ヘリは一門のドアガンを使ってぐるっと時計回りに着陸点の確保を行っている。空からの風圧と射撃で建物は悲鳴を上げ、抵抗しようとした敵も戦意がそがれていた。
少し離れているこの地点でもうるさく聞こえるぐらいの大音量の音楽は、もはや音響兵器。スピーカーが下を向いているから大丈夫だろうが、機内でもうるさいと思う。
「もっと心に優しい映画を見せるべきだったな・・・」
「VAG、貴方が悪いわけじゃないわ」
416の同情が凄く心に来た。一応作戦中だけど、目の前の惨状と無線機の声のせいで色々と見失ってしまいそうになる。
ヘリがランディングすると同時に、意識を取りなおした。普段から作戦中は一切気を抜かないようにしているので、集中力は百パーセントに落ちていたのにブーストがかかりなおした感じに近い。