鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
時間がゆっくりと進む。スローモーションの風景の中に白く渦を残して螺旋を描きこちらにロケット弾が飛んできた。
間に合わない。対面からの攻撃は一六式の正面に向かって一直線だ。
どうする?一六式の旋回性能じゃ、この道では避けようがない。
VAG-73で撃ち抜くか?FCSとASSTのおかげで超人的なそれも不可能ではない。
だけど、スローモーション中に自分の動きはそのままで相対的に加速するなんて出来ない。ホルスターに手を伸ばそうとしたところで、俺の頭は誰かの手によって下げられた。
その瞬間に近くから何かが撃ちだされて飛来してきたロケットが空中で炸裂し、一六式は爆風に突っ込んだ。
「・・・アクティブ防御システム!」
それはかつての装填手ハッチ部分前方に増設されている。小型のレーダーと射出機を備えてくるくると回転している機械だった。
レーダーで飛来物を探知して、進路に射出機から弾薬を発射するそれは三次大戦前には戦車の標準装備となっていたもの。
「サム!」
「・・・ッ隠れてろ!」
まだ敵は居る。一人はリロードに時間がかかるだろうが、ランチャーはもう一人持っているし他にも居るかもしれない。
もう不覚は取るわけにいかないのだ。
砲塔前方に右足をかけ、左足でしっかりと押して固定。VAG-73を両手で持ち、セレクターはフルオートに。
後ろから声が聞こえるが、既に意識の片隅にもなかった。
恐ろしい相対速度で迫るそれを迎撃するには時間が少ない。
一発当たった、進路は上に弾かれると演算された。いや、螺旋の回り方的に避けれない可能性がある。それなら銃弾で信管を作動させればいい。
人間の頃じゃ判断も行動も出来ないような時間は人形の処理能力には十分だ。
一発の命中で螺旋の機動が不規則になるのが分かるが、修正を出来るほどには時間がないのも事実。
「ぶっ・・・飛ば!?」
迎撃できたと思ったら体は空に飛んでいた。迎撃したとはいえ至近距離で、不正規な方法で炸薬を増やされているであろう弾頭の爆発の衝撃で、砲塔に引っ掛けていた足が離れている。
空を舞っている瞬間、色々な記憶がフラッシュバックした。
あれ?これ、ヤバいんじゃないか?
出せる限りの全速力で走っている一六式から放り投げられて、姿勢を戻せるわけもなく、舞っている後に待っているのは無様に地面に叩きつけられるだけだ。
受け身を取るのも難しい。
・・・マジかよ。
衝撃と共にシステムがシャットダウンした。
▽
「・・・生きてた」
目を覚ませば、見慣れたグリフィン基地指定の天井と壁の色。自己判断プログラムでは、全く損傷がない。スリープモード中に修復されたんだと思う。
宿舎のいつもの部屋、気配は一人?
交換されたのか動作になれない右手から強く握られていると返ってきた。体を起こせば、同じ髪色が見える。デジタル時計を見れば、シャコ取り作戦は昨日の出来事で今日という日は半分以上過ぎていた。
「・・・サム!」
「ただいま。サブリナ」
グッと手にかかる力が強くなる。
「お姉ちゃん心配したんだから」
「誰が妹じゃ誰が」
いい慣れてしまった突っ込みと共に重かった思考も動き始めてきた。
パーサが生き返ったことをサブリナに教えるべきだろうか?
いや、パーサの事はグリフィンの中でも機密に当たる。話せるわけもない。
「お腹空いてるでしょ?」
「あぁ」
「ちょっと待ってて、今用意するから。動けるなら着替えてリビングに」
そう言うなりサブリナはパタパタとキッチンに向かった。
着替えるたって、制服は二着とも洗濯中だろうし新しいものを下ろすとロッカーが圧迫される。そうなってくると寝間着とかの私服になるんだろうけど、自称姉は緩々の男物ファッションに厳しい。
しかし、残りの選択肢であるスキンは論外だ。ていうかメイド服とパン屋服のせいでロッカーの結構な範囲が占拠されているのが辛い。
あれを着ている姿をサブリナに見られるのは真面目に自壊を選ぶレベルだ。
ただでさえ、着飾らせようとしてくるんだからスキンなんて見せてしまったら終わりでしかない。
ロッカーを開けた。
「・・・は?」
「サム、お揃いのノースリーブシャツ入れといてあげたから」
「は?」
「いやぁ、折角だしと思ってオーダーメイドしてみたんだよ」
違うそうじゃない。俺はこの服がどうやってできたのかを知りたいんじゃない。
どうして俺のサイズで、どうして俺のロッカーに入っているのかを聞きたいのだ。
紺と黒のノースリーブシャツの下には、サブリナのそれと色違いの青と差し色の白のスカート、ご丁寧にアームカバーとニーハイまで用意されている。
これ着るの恥ずかしいんだけど。
「でも着ないと悲しませるよな」
そうやって自分に言い聞かせて服を着る。髪をポニーテールに結わえれば気持ちはリセット。
折角用意してもらったものを着ることもせずにあれこれ言うのは間違っているし、他の選択肢よりも無難な服であるのは事実。
「わー!やっぱり似合うと思ったんだぁ!」
・・・こんな晴れ晴れとした笑顔を見たら恥ずかしいとかそういう感情はどうでもよくなってしまう。