鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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タイムリミット

 

 

「おーいAAー、起きろー」

「・・・憂鬱だ」

 

 スリープモードに落ちることは以前増えていく一方だが、毎朝のスリープモード解除はスムーズにできるのが悔しい。早起きの秘訣は習慣づけと早寝だ。

 逆にかなりの頻度で深夜にラジオを聞くという趣味を持つAA-12は朝が弱い。もぞもぞと二段ベッドの下段でカタツムリ状態だ。

 四人部屋の新しい宿舎の部屋を俺とロクヨン、AAの三人で使っていた。他の部屋割は、初期メンバー組の部屋にRO635にウェルロッド、G36にMP5の真面目部屋。

 ウチは大人しい人形ばかりのおかげで、どの部屋も落ち着いている。

 

「ロクヨン、俺遅れそうだから飯残しといてくれ。AAの分もな」

「了解、お先に」

 

 AAの上段で寝ているロクヨンは時間のかかる髪のセットを終えて、食堂に向かっていった。

 そうして部屋に二人っきり。AAからすれば迷惑極まりないだろうが、俺はお節介なんだ。許せ。

 

「どうして」

「どうしても何も。AAがやる気を出すまでゆっくりしようと思ってな」

「付き合わなくていいのに」

「ま、そう冷たくすんなよ。仲間だろ?」

 

 俺の言葉に布団の中からため息が届く。

 AAは言動こそ変な風に見られるし、いつも隈が残っているせいで印象も良くない。だけど基地の全員がいい奴だと分かっている。AAはそう思われているのが嫌みたいだけど。

 

「最近さ、スリープモードの頻度が短くなってきててきついんだよ」

「・・・」

「これぐらいはさせてくれよな」

 

 仕事や家事、筋トレさえも禁止された今、俺のできることはいくらかのデスクワークと小隊の準備の手伝いと言った雑用ばかり。

 そんなことよりも警備や訓練をやった方が楽しいのはわかりきっている。こういうちまちましたことも嫌いではないが得意でもない。それにそういう簡単な役割さえも、強制スリープモードのせいで中断してしまうことが多い。

 人間にも人形にも、基地の要員全員の助けを借りて暮らしている状態なのは情けなかった。

 

「さて!そろそろ飯行くぞ!」

「ぼ、暴力反対!」

 

 辛気臭くなった空気を取り払うために立ち上がるとAAの布団を引っ張り上げる。

 ショットガン人形のAAとハンドガン人形の俺では体格と膂力の差があるはずだが、体質的な問題で脱水になりやすいAAの寝起きは干物状態で弱弱しい。布団を回収するなり、飲みやすい温度の飲み物を渡して起こした。

 立ち上がろうとして意識がシャットアウトされる。

 こんな短い間隔ってありかよ・・・

 

「準備でき・・・ッ!クソっさっき起きたんじゃなかったのかよ!」

 

 

 

 

「指揮官、本日のレポートです」

「ありがとうRO。・・・うん、大丈夫。いつもしっかり纏めてくれて助かっているよ」

「恐縮です。突入隊を預かっている以上当然のことですが」

 

 突入隊の隊長として今日の警備と訓練の報告書をRO635が提出してきた。新たに副官兼任となった小隊長の416は非番。今日の副官当番のわーちゃんは、街の方の支社に連絡に行っている。受け取って目を通し、いくつか言葉を交わす。

 きわめて真面目な彼女だが、指揮能力を柔軟性で固めることが出来る程度に頭が切れ、突入隊・・・いわば分隊のリーダーとしての任務を果たしてくれていた。

 

「よし。問題なしだ、今日の待機は?」

「MP5とG36です」

「ありがとう。そう言えば・・・VAGはどうだい?」

「まだですね。これで一週間です」

 

 ROの言葉は予想通りのもので、最初の数日は芽生えた落胆の気持ちも出てこない。

 別にVAGが壊れたわけでもなく、単純なスリープモードだというのは分かっているけれど、状況はよくならない。

 ペルシカ博士に聞いてみたが、忙しいのか電話が繋がらない。

 手詰まりの状況を改善するにはどうすればいいのだろうかと、考えるたびに気持ちが沈んだ。

 

 

 

 

「ペルシカ博士だ」

 

 仕事を終えて司令室の椅子でぼんやりしていると、端末に連絡が入る。普段なら名前を見ただけでうんざりする相手からのそれを取る手は早かった。

 

「もしもし~連絡が遅れてごめんよ」

「用件は、既に伝わっていますよね」

「あぁ、VAGのことだよね」

 

 全くテンションの変わらない、起伏のない声とミスマッチな変な喋り方は奇妙な印象しか覚えない。それがペルシカ博士を認識させるファクトになっていた。

 

「原因は・・・」

「タイムリミット、としか言えないね。元々、あのVAG-73は無理をした電脳構成なんだ。本来なら短いバンスでのメンテナンスとアップグレードを要求されるような代物だから」

 

 僕たちが酷使をしていたせいで、メンテナンスに送り出せなかったんだ・・・

 

「それにもう一つのタイムリミットも来ているよ」

「VAG-73の貸し出し契約の終了・・・ですか」

「ご名答。ま、クルーガーさんもあの子の有用性は分かったみたいだからね」

 

 VAGは、優れた戦闘能力だけじゃなく、コミュニケーション能力や事務能力などが高い水準で纏まっている。彼女が新任の指揮官の元に居て部隊の運用に大きく貢献することは、身に染みていた。

 

「あと、これは独り言なんだけど。VAGの次の派遣先にはMCVカンパニーも派遣されるらしいわ」




一話パートが続いている・・・

あ、次回はおニューのVAGちゃん登場です。


次回予告
「・・・色々変わったのはいいけど、なんでこの服なんだ」
第三話「おニューなドレス」
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