鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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ニューボディ

 

 意識が軽くなっていく。

 深い深い海の底から浮上していくような感覚だ。ゆっくりと、確実に、呼吸を取り戻すように、明るい方向へと進む。

 記憶に残っている最後の景色は俺が倒れることに驚いたAAの顔。心配させたよな。自分のせいだと思わないだろうか。

 憂鬱な気分が続く。

 多分、ペルシカが処置をしたんだと思う。そうでもしなければ、俺の意識は戻らないレベルだったから。

 小隊は定数に満ちたし、契約で言えば終了だ。俺の身柄はグリフィンに戻るに違いない。

 目覚めたら、あの基地のことはすっかり忘れるような処理が待っている。他の戦術人形が正規の手順を踏んで転属する時も基本的にはそういうルールだ。部隊運営のためには人形の過去の記憶は必要ない。

 例外もあるとは言え、基本的にデータとして残るのは戦術人形としてのデータのみ、俺の場合は電脳が肝要だが、それでもデータ化されているので任意の消去も可能。

 だから、あの基地の事も、小隊の事も、すっかり忘れるのだ。

 それは嫌だ。

 ルールとはいえ、一緒に戦った仲間の事を忘れるなんて嫌だ。

 マイナスの感情が滾々と沸き立つ。

 そうしているうちに、意識が戻って目覚めていった。

 

「・・・眩しい」

「目覚めはどう、VAG-73MOD」

「最悪の目覚めだよ。俺ぁ夢を見ちまうんだから」

 

 ガシガシと頭を撫でつける。

 光に眩んだ目が慣れていくのを待ち、隣でコーヒーリキッドを飲んでいるペルシカを睨んだ。

 

「さて、目覚めて早々だけど新しい服のフィッティングに入ってくれるかな。時間がないから」

「へーへー了解ですよ」

 

 処置も全て終わっているようで、普通の医療用ベッドに寝かされていた俺は未だに鈍い体を解しつつ一糸まとわぬ状態から服を身に着ける。

 着替えている最中にもペルシカはツラツラと情報を述べていた。

 

「今回の不具合の原因は、電脳の想定以上の負荷。対策としてプログラムの改良と最適化を施したよ」

「よくわかんねぇけど、こういう不具合はまた起きるのか?」

「もちろん。ただ、前回よりも改良したから」

「時間は延びる、か」

 

 プログラムの軽量化、とか言われたらなんとなく記憶が断片的になってしまったんじゃないかと不安になるが、改良の主たる内容は適度な圧縮と電脳自体のアップグレード、電脳作成時に妥協したプログラムの最適化で、前とほとんど変わりない応答らしい。

 

「それに伴ってボディも弄った。そんなわけで、MOD扱いよ」

「具体的にはどう変わったんだ?」

「蓄積された戦闘データを反映して最適な仕様に変更、自分で動かしてみるのが一番ね~」

 

 シャツのボタンを留めおえ、青のリボンでザっと髪を一纏めにする。

 サブリナが新しい服を持ってきた時から嫌な予感はしていた。

 新しい服は、結構な変更もあるが意匠はあれと同じ。恐らく、サブリナが持ってきたのは試作品だったんだ。

 

「貸与契約は終了したよ。ご苦労様」

「んで、あの基地の記憶は消す、と」

「消されたいの?」

「消さないのか?」

 

 俺の言葉に唖然としたペルシカは素っ頓狂な顔をしている。

 

「君は人間、記憶を改竄されるのは怒るんじゃないかと」

「・・・その前に俺は人形だからな。もちろん嫌なものは嫌だ。だけど、記憶を消されてしまえばそれに怒ることもないだろ?」

 

 そもそも大切な記憶を消されてしまえば、消えたこと自体を分からないわけで。

 心の中にぽっかりと開いた痕と、どこかに残っているであろう証拠に気づかない限りはその事実を掴むことは出来ない。

 大切な記憶に苦しむぐらいだったら、それ自体を真っ新にしてしまうのも致し方ないだろうとも思っていた。

 もちろん記憶がなくなるのが一番嫌だけど。

 

「いんや、君にはその記憶を持ったままがいい。キョウミ深いモルモットをやすやすと使えなくするのは気が進まないからね」

「価値がなくなって無残な扱いにならないように精々あがかせてもらうぜ」

 

 制服の決まりを直して、装備部分を装着。全ての装備を身に着け終えて大きく深呼吸した。

 いつの間にかペルシカの姿は消えていて、部屋の中にある姿見には俺の姿しかなかった。

 

「タトゥーがほとんどなくなって、これは泣き黒子か」

 

 顔つきは特に変わってない。髪型も前と変わりないが、前はけったいな感じで両頬にあったタトゥーが右頬の上部分に小さく爪痕のようになっている。その代わりに左目尻から少し中心に向かって泣き黒子が一つ。

 ちょっと大人な雰囲気になった。

 

「服はサブリナのやつをベースに・・・つってもスカートが全然違うな」

 

 紺のノースリーブシャツに赤のリボン、青と黒のチェックのスカート。ガーターはなくなってニーハイだけ。

 

「んで、このコルセットは装備部分と繋がっている、と」

 

 そっと腰を撫でると機械がぶつかる。腰回りの肌は変更されていて少し硬かった。装備と繋がるコネクタ部分を支えるコルセットは体の前まで回っていてラインを絞る。

 

「・・・機械の尻尾って使えるんだろうか」

 

 新しく追加された装備は機械が目玉だ。

 腰からは下に細くメカメカしい、尻尾。これで戦闘時のバランス制御を向上させるつもりらしい。

 両脚には簡易的なパワーアシスト、電力は尻尾と同じでコネクタ少し上のバックパック内に入ったバッテリーから供給される。

 

「前よりかは戦術人形って感じがするじゃねぇか」

 

 戦うためのデザインが増えてきた。




次回予告
次の配置先に行くことになったんだけど、新しい場所にはサブリナ達も着いてくるらしい。
そうして出発したのだが、俺には行き先が伝えられないどころか目隠しまでさせられた。
目隠し取っていい?わかった・・・って、は!?
次回「サプライズ」


これが「VAG-73MODだ!」
髪型や顔のパーツは変更なしだが、タトゥーが右頬に斜めに爪痕のような小さいものに変更。色は前と同じ赤。左目下側中心より少し目尻側に、泣き黒子。
単色のノースリーブシャツに腹部には黒いコルセットが巻いてあり、それ自体はバックパック類のコネクタを支えるもの。アームカバーは特に変更なし、手袋は前と同じものを使う。
スカートは青と黒のチェック、正確には青は二色(紫と青)。丈は太もも程度。ニーハイソックスとパンツの間の黄金空間がちらちら見えるのと、太ももも結構いい感じなのでIOPのメカニックから人気。
コネクタを中心に下には尻尾上の機械が高度な姿勢制御を、両脚にはパワーアシスト(外骨格)、腰上にバッテリーパックが用意されている。


なおVAG-73MODはワンオフ的な意味合いが強いです。
VAG-73自体はあくまでエッチングで製造された戦術人形だけどMODはこの個体の整備に伴ったアップデートなので。
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