鉄騎兵と戦術人形 作:ケジメ次郎
「久しいな、サム」
「俺はアンタの顔なんてみたくありませんでし、た!」
けっと吐き捨ててやるが、壮年の男性は気にもせず快活に笑う。
上司の上司、所属する会社の元請けの社長に対する態度ではないが、俺の行動を見ても子供の戯言だと言わんばかりにあしらわれていた。
「君は指揮官と誓約しないのか?初期組だろう」
「・・・あの、俺は男なんですけど」
「今時は珍しくないぞ」
先ほどまで、指揮官はこの男と面談をしていた。
面談の経緯は簡単で、すぐ近くの支社の視察のついでにこの基地を視察。
戦術人形との誓約には色々と段階があって、正式に認められるにはグリフィンの親玉であり戦術人形の父役であるこのクルーガー社長に話を通す必要があるらしい。
そして指揮官は今朝、クルーガー社長がこちらの基地にも視察に来るという情報を伝達するその時まで、「誓約の報告はもう少し後にしよう」と考えていた。
別にプロポーズ自体は終わっていて、誓約を前提に同棲してお互いを知る段階に入っているから段取りも何もないというのに。
そのヘタレを察した三人がもちろんぶちぎれ、あれよあれよという間にこの段取りが決まってしまったというわけで。
「はぁ、一応相手は居るんですが」
「英雄色を好む、という言葉もある」
何故か、俺と指揮官を繋げようとするクルーガー社長に見えないようにため息をつく。
「断ったけど告白自体はされました」
「ほう」
「一番最初に」
なにが面白いのか笑い声が聞こえてきて、俺はこめかみに血管が浮き出そうになった。
「いや、そうか!既に断っていたのか」
「何も面白くないですよ」
基地にある地下の司令部から出て、ヘリパッドに進んでいく。街から離れた基地の周りは一面の荒野。夕陽のおかげで綺麗なオレンジ色が広がっていた。
「MOD後のボディはどうだ?」
「怖いぐらいに快調さ。前のボディの120パーセントが出せる」
「やつは倒せるか?」
そう来るよな。
体格の良く、元軍人でもあるクルーガー社長の歩幅は大きい。自然と彼の大きな背中をおいかけつつ、返答に窮した。
「倒せる、って言いたいけど。少なくとも前のパーサは戦闘用じゃなかったし武器を持っていなかった。おまけにぶっ殺した時はほとんど壊れてた。そんな状況でさえも、俺は・・・相討ちだ」
「今は違うだろう?」
「俺も、人形になったから。たったそれだけの理由だけじゃ分からない」
今の俺はれっきとした戦術人形だ。電脳の処理能力的にダミーリンクは貧弱極まりないが、格闘能力に関しては未だに小隊内でトップだと思っている。
最近はウェルロッドも伸びてきているが、まだ若い。マジになれば十戦十勝は堅いと自負できるぐらいだ。
そこまで自信はあっても、不安になる要素もある。
今は可能性の一つに過ぎないが。
「サム、奴は君に執着している。そしてVAGとしての君も認識している」
「ストーカーに刺される人間の気分ですよ、めんどくさい」
「それだけの魅力があるということだろう」
確かに止めを差したのは人間のサムだが、ダメージを与えたのは一六式だ。両方に執着しているのは分かっているので、一六式だって前線に行くのも避けている。
思考が重たくなってきた。
パーサにとって命のやり取りこそが愛情表現、狂っている。考えたくもない。俺にとってそれは生きるための手段でしかなかったせいで、同感の気持ちも芽生えなかった。
支社から飛んできたヘリは、グリフィンの本社に向かうために暖気を始めている。風から避けるためにスカーフを口元まで上げて、ベレー帽を抑えた。
「・・・?」
「どうした」
「いや、一つ気になったことがあって。アンタには関係ない」
ヘリの方、少しだけ変わった視線を感じる。それは一つだが、ヘリの近くにいる社長のおつきの戦術人形は周囲警戒をしていて誰もこちらを見ていない。
脇腹が少し痛い。
どういうことだ?この視線はなんだ?
敵意がない。どちらかと言えば興味の視線。
だが、誰もこちらを見ていない。
「目を閉じている人形か?」
「・・・やっぱり訳ありの人形なんだな」
ダウンウォッシュが強くなってきた。
なんなんだ、この感触。
ヘリのサイドドアが開き、二体の人形が出てくる。感じる視線が増えた。
「分かるのか」
「いや、感じただけだ。あの二体は他と違う」
そうだ、さっきからこちらを見ていたのはあの二体の内どちらか。
銀髪の人形はずっと目を瞑っているが、こちらを見ているのは間違いない。
二体を見ていて頭の中に何かが引っ掛かるが、なにがなんだか思い出せなかった。その上、目は瞑っているのに圧力を感じる。まるで狼に狙われた兎の気分だ。
「その感覚は、間違っていないだろう」
「あと、俺どっかで見たことあるんだよな・・・だけど、グリフィンのデータベースでも見たことがない」
おまけにIOPでさえも見た覚えはない。
IFFはブルーで、社長のおつきなのだからグリフィンの戦術人形なのは確かだ。
使っている銃が何か分かれば探りようもあるのだが、二体は機密保持に慣れているのかしっかり隠している。
「会ったことはあるだろう」
「思い出せない・・・」
その言葉を最後に、社長は不敵な笑みを浮かべてヘリに乗り込んだ。視線は一つに戻るが、それはヘリが飛び去って行くまで続いていた。
Q.なんでタイトル詐欺になったの?
A.シーズンスリー三部のための伏線を入れようと思って、それをどこに入れようかと思ったら挟んだんだけど想像以上に文量が増えたから。
次パートも・・・M1500ちゃんが出てくるのはきついかな。