鉄騎兵と戦術人形   作:ケジメ次郎

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苦しいけれど2

 

 ビルの屋上からの影は日の向きのおかげで気づかれない。柱部分の外の壁を伝って降りて、窓を突き破ってエントリー、やってみせよう。

 既に、別現場二カ所の狙撃も配置についたはずだ。

 

「ふぅ」

 

 もちろん、リンヤオのことが心配ってわけじゃなかった。一番の懸案であることは揺るいでいない。

 それに気を揉んで、制圧できなければ意味がないのだ。

 最悪は、トラウマに苦しむ妹に付き添う。

 体は下に向いていて、道路の方からマンションが並ぶおかげで吹き上げてくる風が顔に当たった。一気に四階分を降下して、ウェルロッドがスモークグレネードを投げて一撃を加えた瞬間にエントリーの流れ。

 他の事を考えていては、この速さに追いつけなくなる。目の前のことに集中するべきだ。

 

「突入、テンカウント」

 

 ROがカウントダウンを始める。ロープをスルスルと下ろし、降下準備。勢いが大事だ。

 

「ファイブ」

 

 壁を蹴り、一階分降下。一秒ごとに一階降りて、ゼロになった瞬間に振り子の要領で窓ガラスを突き破った。

 室内には人質が十人、敵が六人。既に、二人は持っていた武器が弾かれている。

 煙越しだろうが、気配は掴めた。

 

「一人、二人!」

 

 ダクトから降りてくる気配と手分けをして攻撃能力を奪う。

 パワーアシストのついた力加減をしていない蹴りを人間相手にするのは気が引けたので、顔面ストレートとフックで沈めた。

 残りは一人ずつ。やや遠い。

 パンチを出すたびに動くハズの重心が、機械の尻尾の反動で安定する。正直、使い慣れるまでに時間がかかったが、一度使ってしまえばこれ無しで戦うことが億劫になるぐらいの安定性。

 二人目をフックで落としたのと同時に、晴れてきたスモークから敵がタックルしてきた。既に気配といつもの感覚で分かっていた俺は当てるつもりのない回し蹴りを出す。

 

「化け物か!」

「そんなもん、だ!」

 

 それにビビった敵が上体を上げたところで、尻尾のおかげで持ち直す前に動き始めた俺のラリアットに沈んだ。

 持っていた武器、キャリータイプの小柄な拳銃はオフィスの机にぶつかり音を立てる。

 それが終わりの合図だった。

 

「はぁ、私たちが突っ込む前に終わらせるって言うのはどういう了見ですか」

「そっちの方が重武装だったろ。こっちはせいぜいがサブマシンガンだった」

 

 ROがため息混じりに俺たちを睨む。本来の予定は俺たちが六人をかき乱しつつ、人質の安全確保、そこに突入班が入ってきて挟み撃ちと言った具合だったのだ。

 三人目に取り掛かったのと同時に入ってきたRO達突入班と応援の三体は、オフィスのフローリングに倒れた六人の敵を拘束する。

 汚れてもいないグローブを払い、スカーフを緩めてベレーの下の髪を撫でつけた。

 

「・・・?どうしたんだ、FGにAEK、FALまで」

「「「イエ、ナニモ」」」

 

 バレてないよな?

 やけに応援の三体から視線を感じたので振り向くものの、揃った片言で視線を逸らした。

 深い意味はないはずだと信じたい。それに、俺の精神がサムだとバレても弊害は起きないはずだから深くは考えないようにしておいた。

 

「狙撃班も任務を終了、とのことです」

「どうだったんですか?」

 

 指揮官と交信していたROが感情を動かすことなく、淡々としているのが怖い。狙撃は二件とも難しい条件のものだ。どれだけ凄腕でも、一つ間違えば失敗しかねなかった。

 俺の不安をMP5が代弁する。俺は正直結果が怖すぎて聞きたくなかったけれど、脇腹が痛むわけでもなかったので吉報と信じようとした。

 静かだった現場に喧騒が戻ってきている。いくらかの不安が和らいだ。

 オフィスには警備人形達が集まっていて、人質に付き添っての後始末に取り掛かっていた。

 

「人質は全て、確保。犯人は、急所は逸らしたようです」

「つくづく、練度が恐ろしいですね」

 

 ウェルロッドのボヤキには同意せざるを得ない。

 狙撃目標は、ただでさえ狙いを付けるのが難しい距離。それを射殺もせず、人質を救うなんて、動いている目標の特定のポイントに連続で当てたということで。

 WAはともかく、リンヤオがやったなんて俄かに信じられなかった。

 

 

 

 

「大丈夫か」

「心配し過ぎだって姉貴。メンタルチェックに行ってまだ一時間も経ってないよ」

 

 俺はリンヤオの姿を確かめるなり、両肩を掴まん勢いで問いかける。若干引かれた。

 医務室に送り出して一時間。廊下とあちこちを行ったり来たりしていた俺の姿は実に滑稽だっただろう。

 現場から二キロ以上離れた位置に隠した指揮車両から人形を操作していたらしい。

 狙撃が始まる寸前に二件の事案を捜査していた部隊からの報告で、自爆用の爆薬は強い力で操作する必要があると知らされて、狙いは両腕を使えなくさせることになった。

 WAもリンヤオもそれに応じて、肘から先の部分だけを狙い撃ったらしいが・・・怖くなるぐらいに凄腕だ。

 

「・・・ごめんな」

「なにを謝ってんのさ。僕がやりたくてやったんだ」

「そうだな。あんま、俺がごちゃごちゃ言うのも違う」

 

 ベレーを外してガシガシと頭をかいていると、リンヤオが物欲しそうな目で見てきた。

 

「ん」

「・・・はいはい。いい加減兄離れしてほしいだがなぁ」

 

 癖っ気のある黒髪をわしゃわしゃとすると、妹はへにゃりと笑う。昔から変わんねぇやつ。




・・・察している人も居るだろうけど、サムとVAGは癖が同じです。隠せてないやんけ!


感想返し
「VAGの心配もわかる。
リンヤオちゃんがトラウマ抱えないかとか。

でも、リンヤオちゃんの気持ちも分かる-(語彙力消失」

この姉妹(兄妹)、本質が同じでお互いの事好き好き星人なせいでこういうことになるとぶつかっちゃうんですよね。んで、結局サムが折れる。



次回予告
「・・・スキン?俺嫌なんだけど。え?今回は416も一緒だから・・・そういう理由があったとしても嫌なんだけど」
幕間「スキン「精神三十路幼女」」
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