魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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もすもすひねもす~!

はぁ~い! 私が作者のマジッQだよ~!

―――すんません。自分、まじ調子に乗りました。

それはともかく、投稿直前に思ったこと。
⇒Q:篠ノ之束に最も与えてはいけない能力とは何か?
 A:心理掌握(メンタルアウト)or電子ドラッグ

異議は受け付ける。


闇の帝王

第二の課題が終わってから数日。レイブンクローを中心に多くの生徒に質問攻めにあった。どのように課題をクリアしたのかを何度も聞いてきたり、湖の底がどうなっているのか、大イカとの対決はどんな感じだったか。

最初のうちは丁寧に説明していたが、それも何度も同じ事を聞かれると流石にうんざりしてきたので、今では軽く流したり他の人に聞くように促している。

 

 

 

第三の課題については六月二十四日に行われ、その一ヶ月前に課題の内容が知らされるらしい。課題の内容が一切分からないということはそれに向けての対策も出来ないというわけで。つまり五月二十四日まではこれといって特にやることがないのだ。

代表選手は期末試験が免除されているので、普段の授業内容にだけ気をつかっていれば問題はないし、宿題も速やかに片付けているので溜まってすらいない。

 

「そうね……チビ京に……ドールズの武器強化でもしていようかしら」

 

最後のドールズであるオルレアンへ魂を吹き込むことは学校ではできないので却下。チビ京は京の力を発揮するために必要不可欠な人形で、制作するのに長い時間が掛かってしまう。今から作っていければ、夏休み中には一体は作ることが出来るだろう。ドールズの武器については魔法が込められていないので、見た目相応の効果しかない。蓬莱の鎌にはバジリスクの毒を含ませる必要があるためヴワルでないとできないが、それ以外であれば必要の部屋を使うことで作ることも可能だろう。

 

今後の予定を頭の中で組み立てながらパドマと大広間へと向かい朝食を食べる。途中でやってきたふくろうから日刊預言者新聞を受け取り、見出しを流し読みしていくと三校対抗試合についての記事を見つけた。試験の簡単な概要から関係者や代表選手のインタビューが書かれている。そういえば第二の課題が終わった翌日に取材を受けたな。

 

「そういえば、アリス。今度ホグズミードへ行ったときに欲しいものとかある?」

 

「ん? ん~そうね。いつも通りバタービールとお菓子をお願いできる?」

 

「分かったわ。チョイスはいつもな感じでいい?」

 

「……あまり変なのは買ってこないでよ」

 

私がホグズミードに行けないことをパドマやアンソニーは知っているので、二人がホグズミードへ行くときは何かしらお土産を買ってきてくれるのだ。二人が買ってきてくれるのは主にお菓子やバタービールが中心で偶に悪戯道具を買ってきたりもするのだが、パドマが悪乗りしたときだけは普段とは違うものを買ってくることがある。一見まともそうに見えて、実はネタに走っているお菓子や小物を渡されたことが何回かあり、直感的に怪しいと分かっていても、貰う立場上断ることもできずに受け取ってしまい、パドマの罠にかかってしまうのだ。一回そのことでパドマに文句を言ったことがあるのだが、逆に「アリスにはユーモアが足りない」と言われ、その場にいたアンソニーにも同意されてしまい、授業が始まる寸前の出来事だったので有耶無耶にされてしまった。

 

 

ここ最近パドマのスイッチが入っていないので、そろそろきそうな予感がする。

 

 

 

 

イースター休暇も終わり、いよいよ第三の課題が知らされる日が近づいてきた。

今日まではこれといって変わったこともなく―――ハーマイオニーは散々だったみたいだが―――平日は授業や宿題、休日は必要の部屋に引きこもっての繰り返しをしていた。必要の部屋へ引きこもるといっても毎週ではなくて二~三週間に一回程度である。パドマたちに不自然に思われない程度に使用しているので効率は悪いが、武器強化については既に方法の分かっている作業をしているだけなので予定通りに作れている。チビ京については集中して継続的に作業をしないといけないので、平日も時間があれば手を動かしていた。幸い、見た目的には小さい人形を作っているようにしか見えないので、談話室や寝室で作っていても不思議には思われずに済んだ。

 

 

ある日、古代ルーン文字学の授業後にハーマイオニーに呼び止められる。人目がつくところでは話しづらいということで、人気のない一角の物陰まで移動してハーマイオニーと向き合う。

 

「それで、どうしたのかしら?」

 

「アリスは、週刊魔女に乗っていたことは知ってる? その……リータ・スキーターが書いた私の記事のついてなんだけれど」

 

「あぁ、ハリーとクラムの三角関係が云々ってやつでしょ? 知らない人の方が少ないんじゃない? あれだけ派手に吼えメールが響いたんだから」

 

第二の課題が終わったあたりだろうか。週刊魔女にリータ・スキーターが書いた記事が一時期ホグワーツ内で話題となった。何でも、ハーマイオニーが有名人好きで、ハリーとクラムの純情な気持ちを弄んでいるとか何とか。それについて週刊魔女を読んでいる読者からの嫌がらせが連日ハーマイオニーに送られてきていたのを朝食の席で何度か目撃した。その中には吼えメールが入っており、それが切欠で多くの生徒に一気に広がる原因となった。

 

「はぁ……そうよね。ちゃんと否定しているんだけれど、今でも影でコソコソと言われているのよ。まぁ、それについてはもうどうでもいいの。そのうちなくなるでしょうし」

 

「で、本題は?」

 

「リータ・スキーターがどうやって情報を集めているのかが知りたいの。絶対におかしいわ。ハグリッドの件も私の件も、リータ・スキーターはその場にいなかったのにどうやって知ることができたのか。週刊魔女に書かれていたクラムに招待されたっていう話、確かに事実よ。第二の課題が終わって点数が発表される前にクラムに言われたの。でも、そのときにはリータ・スキーターはそこにいなかったはずなのに、どうやって知ったのか。それを突き止めたいの」

 

「で、何でそれを私に?」

 

「あれから一人でずっと考えていたんだけれど、どうやっても分からないの。色んな可能性を考えたけれど、どれも現実的じゃなくて。アリスなら何か考え付くかなって思って相談したの」

 

そういうのは先生に相談すればいいんじゃないだろうか。というか、私のそんなこと相談されても困る。

 

「そう―――で、どうやってリータ・スキーターが情報を集めているかだっけ? 盗聴や消身か変身といった魔法を使っているか、内通者みたいな情報提供者がいるか、魔法具を使っているか。考え付くのなんてこのぐらいしかないんじゃない?」

 

一応、パッと思いついた限りのことを言う。とはいえ、ハーマイオニーのことだ、このぐらいのことは考えているだろう。

そう思いハーマイオニーを見ると―――何故か口を開いたまま固まっていた。

 

「ハーマイオニー?」

 

「……ぅよ。そうよ、その手があったわ! うん、確かにそれなら可能だし辻褄も合う! ありがとうアリス! これであいつの秘密を暴くことができるかもしれないわ!」

 

一息に言い切るとハーマイオニーはあっという間に廊下の向こうへ走り去っていった。

 

「……どういたしまして」

 

誰もいなくなった廊下で既にいないハーマイオニーに返答して、大広間へと歩き出した。

 

 

 

 

五月二十四日。いよいよ第三の課題が知らされる日がやってきた。呪文学の授業が終わった後、フリットウィック先生に夜の九時にクィディッチ競技場へと向かうように言われたので、校庭を横切りながら向かっていく。私の前方に黒い二つの人影が見えるが、多分ハリーとセドリックだろう。

二人の背中を追いながらクィディッチ競技場へと辿り着く。そこには見慣れたクィディッチ競技場の姿はなく、生垣が複雑に組み合いながら見渡す一面を覆い尽くしている。

 

生垣へと近づき、既に集まっていたバグマン氏と他の代表選手のところへと向かう。バグマン氏は全員が揃ったのを確認すると、両腕を大きく開きながら話し出した。

 

「よく集まった。それでは早速だが、第三の課題について説明しよう。まずこの生垣だが、こいつは今も育ち続けており課題当日までには六メートル程の高さにまで成長しているはずだ。二人とも大丈夫だ。競技が終われば生垣は綺麗さっぱりなくなって元通りの競技場へ戻るから安心しなさい。さて、我々がこの生垣で何を作っているかはわかるかな?」

 

「……迷路」

 

バグマン氏の問いにクラムが簡潔に答える。確かに、複雑に入り組んでいるが生垣同士の間に隙間があるところを見ると迷路に見えないこともない。

 

「その通り! 第三の課題は極めて明快、この迷路の中心に置かれる優勝杯を最初に獲得した選手が優勝者だ」

 

「迷路を一番早く抜けるだけなんですか?」

 

「そうだ! しかし、当然だが迷路を抜けるまでには様々な障害が君達の行く手を阻む。ハグリッドが様々な生き物を放つし、呪いや魔法具といった障害も配置される。君達はこれらの障害を全て破る必要がある」

 

呪いや魔法具もそうだが、何よりハグリッドが放つ生き物というのが一番不安だ。ハグリッドがどういった趣向の持ち主であるかを知っているだけに余計な不安が駆り立てられる。

 

「そしてスタートする順番だが、これは現在までの獲得点数が高い順にスタートしていく。一番はミス・マーガトロイド、二番はミスター・ポッターとミスター・ディゴリー、三番はミスター・クラムに最後にミス・デラクールだ。順番が違えど優勝するチャンスは全員が持っている。如何に障害を切り抜けられるかが勝敗の分かれ目だ。どうだ、面白かろう?」

 

必ずしも先にスタートしたからといって有利になるわけではないと。いや、確かに有利であることは確かだろうが、遭遇する障害によっては一気に逆転されることもありえるということだ。

 

「質問がないようであれば、今夜は解散だ。皆、残り一ヶ月、悔いのないように頑張りたまえ」

 

解散となったので、フラーと軽く挨拶をした後城へと戻っていく。途中、ハリーとクラムが禁じられた森の方へと向かうのを見たが、悪い雰囲気ではないようなので放っておいた。帰り道が一緒であるためセドリックと並ぶようにして校庭を進んでいく。

 

「最後の課題が巨大迷路とはね。アリスはどんな障害があると思う?」

 

「さぁ、何があるのかしら。少なくても、ハグリッドが放つ生き物というのに対してはいい予感はしないわね」

 

「あぁ……うん。やっぱり、そう思うよな」

 

セドリックも似たようなことを考えていたのか、返す言葉には脱力が感じられる。

その後は、短いながらも寮の分かれ道までセドリックとどんな障害が出てくるかを話し合った。

 

 

 

課題までの残り一ヶ月間は思ったよりも早く過ぎ去っていった。

選手以外の生徒は迫る期末試験に向けての勉強に躍起になっており、授業と食事の時間以外では談話室か図書室に篭って勉強をしていた。パドマやアンソニーは最後の課題が近いということもあって何かと気を遣ってくれていたが、第二の課題みたいに慌てることがあるわけでもないし、二人の勉強に差し支えてもいけないので気持ちだけ受け取っておいた。

 

それに、二人が試験勉強に集中することで私にも利点が生まれる。今までは少ない頻度で使用していた必要の部屋の使用回数を増やすことができるということだ。

使用する必要の部屋の中はいつもの図書館ではなく、魔法の訓練が可能な部屋を使った。部屋の中には魔法の訓練に使えそうな様々な道具が置かれており、その中でも魔法で攻撃してくる自動人形にはお世話になっている。

何せ魔法の修得は一人で出来ても、それを実践的に鍛えるためにはやはり相手がいたほうが、効率がいいからだ。実践で使えそうな魔法は大体覚えているので、課題当日までは身につけた魔法の発動速度や精度を高めることに費やした。

 

勿論、チビ京を作ることも忘れてはいない。というより、一度作り始めた以上は中断するわけにはいかないというのが実態である。尤も、チビ京は少しずつ丁寧に時間をかけて作る必要があるだけなので、夜に時間を割く程度で済んでいるから支障がでるほどではないが。

 

 

 

 

遂にやってきた第三の課題当日。

課題の開始時刻は夕暮れからであるが、代表選手は招待された家族への挨拶をするということで朝食後に大広間脇の小部屋へと集合することとなっている―――のだが。

 

「私にどうしろというのかしらね……」

 

パドマとアンソニーを試験に送り出してからというもの、テーブルに頬杖をついてこれからどうしようかと悩む。

両親と死別の保護者なし。友達はいれどこの場に呼べそうな人はいないという。ホグズミードに続いてこのようなところでも保護者を断り続けてきた弊害が起こるなんて。

生徒がどんどん大広間から出て行き、セドリックやクラムにフラーが小部屋へと入っていくのをぼんやりと見ていた。最後の生徒が大広間から出て行き、残ったのは私と―――ハリーの二人だけとなった。思わずハリーへと視線を向けると、ちょうどハリーもこちらを見ていたのか視線が重なった。ハリーもどうするか考えているのだろうか。

重なった視線にどう反応したものかと考えていると、小部屋の扉が開きセドリックが中から出てきた。

 

「ハリー、来いよ。みんな君を待ってるよ。アリスも早くおいでよ」

 

セドリックに声を掛けられたハリーはゆっくりとだが立ち上がり小部屋へと進んでいく。私も呼ばれたから一応行ってはみるが、私を呼んだところでどうしようというのだろうか。

 

ハリーに続いて小部屋へと入ると、セドリック、クラム、フラーはそれぞれの両親だろう人と話し合っており、ハリーは長髪の男性とふくよかな女性のところへと向かった。近づく際にハリーがウィーズリーおばさんと呼んでいたので、恐らくロンの家族なのだろう。

 

それはともかく、呼ばれたから来たものの知り合いが一人もいないこの状況をどうしろというのか。まぁ、知り合いがいないなんてことは予想ついていたことではあるが。

セドリックに文句の一つでも言おうかと思い彼の方を見ると、ちょうど父親らしき人物を連れてやってきた。

 

「アリス、紹介するよ。僕の父さんだ」

 

「初めまして、ミス・マーガトロイド。エイモス・ディゴリーだ。魔法省の魔法生物規制管理部に勤めている」

 

「始めまして、アリス・マーガトロイドです」

 

差し出された手を握り返しながらエイモスさんと挨拶を交わす。エイモスさんはハキハキと喋る人で、マシンガントークというのがしっくりくる程に話を進めてきた。まぁそれも、最初の挨拶以降は息子がいかに自慢なのかという話であったが。

 

「君は現時点で一位みたいだが、最後の課題では優勝杯はセドリックがいただいていくぞ。魔法の腕はセドリックに並ぶかもしれないが、年季も経験も違うからね。悪く思わないでほしい」

 

そう言って、エイモスさんはセドリックを連れて部屋から出て行った。その際、セドリックが振り返り片手を立てて謝罪のポーズをしてきたので、手を振り気にしないでと伝える。そのままセドリックたちを見送ると、今度はフラーが話しかけてきた。

 

『アリス。今夜の課題では負けないわよ。前回の課題では助けてもらったけれど、それとは別だからね』

 

『優勝するのはお姉ちゃんだけど、貴女のことも応援しておいてあげる』

 

フラーに続いてガブリエールも話してくる。ガブリエールの中では姉が一番なのだろうが、それでも応援してくれるその姿に思わず笑みが零れる。

フラーの母親とも挨拶を交わして雑談に興じる。その途中で、フラーがチラチラと私の後ろの方を見ているのに気がついて視線を追って振り向くと、その先にはハリーと話しているロンの家族がいて、長髪の男性を見ているようだった。

 

フラーを見ると、私の視線に気がついたのか僅かに慌て始めて話題を逸らし、母親とガブリエールを連れて部屋を出て行った。

さて、どうするか。部屋を見渡せばクラムとその両親も既にいなくなっており、残っているのはハリーたちだけだ。別段、ロンの家族と知り合いでもないので、このまま部屋を出ようと歩を進めるが、歩き出したと同時にウィーズリーおばさんと呼ばれていた人に声を掛けられた。

 

「初めまして、貴女がマーガトロイドさんかしら。ハーマイオニーから話を聞いているわ。私はモリー・ウィーズリー。ロンの母親よ」

 

「どうも、初めまして。アリス・マーガトロイドです。」

 

一体ハーマイオニーから何を聞いているのか気になるが、一先ず置いておいて出された手を握って握手を交わす。モリーさんの後ろにいた男性―――ビル・ウィーズリーと言ってロンの兄弟の長男らしい―――とも挨拶を交わして、少しの間だが話を続けた。とはいえ、お互いが初対面なので双方と知り合いのハリーを間に挟む形ではあるが。

 

「そうえいば、アリスのご両親はどうしたのかしら? 是非ご挨拶をしたいのだけど」

 

モリーさんがそう言うと、横にいるハリーが僅かに困ったような顔を浮かべる。ハーマイオニーから私のことを聞いていたといったが、そこまでは聞いていないのか。まぁ、ハーマイオニーが無闇に人の事情を話すとは思っていないが。

 

「ウィーズリーおばさん。その、アリスの両親は……」

 

「両親とは八歳の頃に死別しているんです」

 

そう言うとモリーさんは驚き、気まずそうな顔をする。

 

「そうだったの……ごめんなさい。嫌なことを思い出させちゃったわね」

 

「いえ、気にしないでください」

 

何回も同じような問答をしていると慣れてしまうので、本当に気にしなくて構いません。

その後はハリーと一緒にホグワーツを案内してくれないかと言われたが、夜の為に身体を休めておくと伝えると素直に引いてくれた。

 

 

 

 

大広間での夕食が終わった夕暮れ時。

代表選手はクィディッチ競技場に作られた迷路の入り口の広間に集まっており、生徒や来賓の観客は広間の周囲を囲うようにして作られたスタンドに隙間なく座っている。

審査員の席にはクラウチ氏の代理であるパーシー・ウィーズリーではなく、ファッジ大臣が座っていた。夕食の席にもいたが、まさか大臣自ら審査員として参加するためだったとは。

競技開始の十分前になると、マクゴナガル先生、ムーディ先生、フリットウィック先生、ハグリッドが広間に入ってきた。

 

「私たちが迷路の周囲を巡回しています。何か危険に巻き込まれた場合や助けを求めたいときには空に赤い火花を打ち上げなさい。そうすれば私たちの誰かが救出に向かいます。よろしいですか?」

 

私たちが頷くのを確認すると、四人はバラバラの方向へと向かっていった。その後、選手は聳え立つ生垣の壁に開いた隙間の前へと進み、全員が配置についたところでバグマン氏が声を張り上げた。

 

「紳士淑女のみなさん! 第三の課題、そして三大魔法学校対抗試合最後の課題がまもなく始まります! ここで、代表選手たちの現在の獲得点数をもう一度お知らせいたしましょう! 第一位、九十一点でアリス・マーガトロイド嬢。ホグワーツ校!」

 

スタンドから拍手が鳴り響く。見ると、ちょうどパドマとアンソニーが手を振っているのが見えたので手を振り返す。

 

「続いて第二位、同点八十五点でハリーポッター君とセドリック・ディゴリー君。両名ともホグワーツ校!」

 

再びスタンドから拍手が鳴り響く。特にホグワーツからの声援が多いように感じるのは、上位三人が全員ホグワーツだからだろうか。

 

「第四位、八十三点でビクトール・クラム君。ダームストラング専門学校!」

 

今度の声援はダームストラング校から大きく響き渡る。そしてカルカロフ校長の声がまた一段とデカイ。

 

「そして第五位、七十五点でフラー・デラクール嬢。ボーバトンアカデミー!」

 

歓声に合わせてフラーは優雅に手を振り返す。よく見るとグリフィンドールの、それもロンの家族が座っている場所に向かって手を振っているようだ。

 

「それでは、ホイッスルの音が鳴ったら順番に迷路へと入っていただきます。それでは―――一―――二―――三!」

 

ホイッスルの音が聞こえると同時に迷路へと入っていく。迷路の中は薄暗く、薄っすらと霧が出ている。五メートル程進んだところで入ってきた隙間を埋めるように生垣が動き、完全に閉じられると今まで聞こえていた歓声が一切聞こえなくなった。

 

「さて、と。とりあえず行きましょうか。 ルーモス -光よ」

 

迷路といえ、目の前に広がるのは未だ一本道。何が出てきてもいいように警戒しながらも早足で進んでいく。

杖で明かりを灯すが、霧によって遮られているため僅か五メートル程しか照らすことができない。正面は勿論、地面や両脇に聳える生垣、時には後ろにも注意して進んでいく。感覚的に五十メートル程進んだあたりで、一本道が三つに分かれているところへと辿り着いた。進んできた道から真っ直ぐ伸びるように続く道と、直角に左へ伸びる道、鋭角に右へと伸びる道だ。

 

「ポイント・ミー -方角示せ」

 

四方位呪文を唱えて方角を確認する。杖は掌でクルクル回ると左を示した。ということは、左の道が北で真っ直ぐの道は東、右の道は南西ということか。

 

「迷路の中心は北西だから、左の道ね」

 

杖を手に取り左の道へと進んでいく。迷路の中心が北西だと分かるのは、天文台から迷路を見渡して、スタート地点からどの方角へと進めばいいかを予め予想していたからだ。

だが、四方位呪文は北を示すだけの呪文であるので、あまり頼りすぎるのもよくない。スタート地点から近いうちはいいが、迷路の中心地を越えてしまっても北を示し続けるため進めば進むほどに当てにならなくなってしまう。最悪、中心地を大きく越えた迷路の最奥へと進んでしまうこともありえる。

とはいえ、現状では四方位呪文を使って進んでいくしか手段がないのも事実。星の位置を元に現在地を確認するという方法もあるが、これは大まかな位置は分かれど細かい位置までは特定できないので、この課題では使いようがない。

 

「また分かれ道ね」

 

再びの分かれ道。今度は四方向へと分かれている。

 

「―――あっちね」

 

四方位呪文で方角を確認して一番北西に近い右の道を進んでいく。道に入り走り出したところで重く響く音が地面の揺れと共にやってきた。何かがいると思うと同時に後ろへ下がる。

 

「!?」

 

だが、後退した身体が何かにあたり止ってしまう。振り返ると先ほどまであった道がなくなっており、生垣の壁が出来上がっていた。

突然の事態に焦るも、こちらの都合など関係ないとばかりにそれは姿を現した。

 

「……」

 

言葉に詰まる。

薄暗い道から姿を現したのは五~六メートル程もある巨体に、ゴツゴツとした灰色の肌をした不細工な生き物。手には身の丈ほどとまではいかないが、それでも長く太い棍棒を持ち、私を見ながらフゴフゴと荒い鼻息を漏らしている。

 

「……大きい……わね」

 

道奥から姿を現したのはトロールだった。全体像が確認できる距離まで近づくと酷い悪臭が鼻を刺激する。服の袖で鼻を覆いそうになるが、無理やりそれを押し留める。

トロールの最大身長は四メートル程だったはずだが、このトロールは明らかにそれよりも大きい。

 

「ステューピファイ! -麻痺せよ!」

 

トロールが襲い掛かってくる前に顔に向けて失神呪文を放つ。杖から伸びる赤い光は狙い通りにトロールの顔に当たるが、トロールは仰け反って身体を一瞬硬直させただけで倒れはしなかった。それだけでなく、攻撃されて私を敵だと認識したのか雄叫びを上げて棍棒を振り上げながら近づいてくる。

 

この狭い道で巨体のトロールを近づけたら拙い!

 

「レダクト! -粉々!」

 

トロールの持つ棍棒の根元、持ち手の上の部分目掛けて粉々呪文を放つ。狙い通りに棍棒の根元に命中した魔法は棍棒を砕き割る。砕けた先の棍棒は回転しながら生垣の向こうへと飛んでいく。トロールは棍棒の重みが急に無くなったためか、バランスを崩して前のめりに倒れこんだ。重く響く音を立てて倒れたトロールは手足をバタつかせながらも立とうとするが、それを大人しく見ているほど私はやさしくはない。

 

「ギュデート・イトゥムプパ -踊れ、石人形」

 

地面に転がる石から石人形を三体作り出してトロールへと向かわせる。この魔法を習得したときから、小石程度の大きさから成人男性程の石人形を作り出せることに疑問を持っていたが、よくよく考えれば変身術の大半は物理法則やら質量保存の法則に喧嘩を売っていたのを思い出して疑問に持つことを止めていた。

 

石人形は起き上がろうとしていたトロールの上半身にしがみつく。トロールは石人形を振り落とそうと身体を揺らすが、仮にもドラゴンの身体にもしがみついていた石人形はその程度では振り落とせない。私もただ見ているだけではなく失神呪文を放っているが、巨体相応に魔法抵抗力も強いのか動きを阻害する程度にしか効果がない。

トロールが立ち上がり両手を使って石人形を引き剥がそうとしたときには、石人形はトロールの顔まで登り終えていた。

 

「コンフリンゴ! -爆発せよ!」

 

爆発呪文でトロールの頭にいる石人形三体を全て爆発させる。石人形が爆ぜる爆風で身体に衝撃を受けるが踏み止まり注意深く杖を構える。風が吹き、爆発による煙が流れることで現れたのは、肩より上の身体をぽっかりと無くしたトロールの無残な姿だった。トロールは風に押させる形で力無く倒れ伏す。

トロールが死んだのを確認すると急いでその場を後にする。石人形と爆発呪文を合わせた即席爆発人形だが、思った以上に威力があったようで嬉しい誤算だ。

 

 

常に方角と位置を確認しながら右へ左へ、時には来た道を戻りながら迷路を進んでいく。迷路に配置されている障害はまさに多種多様で、触れると天地が逆さになる煙、地面から伸びて絡まりつく蔓、一メートルを超える大蜘蛛、まね妖怪、形を変える生垣、三メートルを超える尻尾爆発スクリュート、エルンペント、落とし穴、様々な呪い、ゴーレム、進むのが困難なほどの突風など。とにかく進むごとに障害に遭遇する頻度が多くなっている気がする。

 

「―――また来たわね」

 

分かれ道を右に進むと目の前には迷路に入ってから三匹目となる尻尾爆発スクリュートが待ち構えていた。スクリュートは私を視界に納めると尻尾を地面に叩きつけながら威嚇をしてくる。尻尾が叩きつけられるたびに地面が爆発を起こし、それに比例して大きな穴が作られる。私が杖を構えると、スクリュートは両の鋏をバチンバチンと鳴らしながら尻尾を爆発させると同時に襲い掛かってきた。

 

「ギュデート・イトゥムプパ -踊れ、石人形」

 

三匹目ともなると対応にも慣れてきて冷静に呪文を唱える。元々、ハグリッドが生き物を放つと聞いたときから出てくるだろうと予想してだけになおさらだ。

石人形を前列五体と後列六体の合計十一体作り出す。前列の石人形に互いを支えあうように組ませて、迫るスクリュートの壁にする。体格差と力の差から石人形は砕けてしまうが問題はない。控えていた残りの石人形をスクリュートが止まった隙を狙って飛びつかせて尻尾や脚に纏わりつかせる。

 

「エムイベート -鎖になれ」

 

スクリュートに纏わりついた石人形と砕けた石人形を纏めて鎖へと変身させて、スクリュートを雁字搦めに拘束する。

短時間だがドラゴンを拘束した合わせ技だ。いくらスクリュートといえど拘束を解くのは容易ではないだろう。

 

「ギュデート・イトゥムプパ -踊れ、石人形 エンゴージオ・マキシマ -大きく肥大せよ」

 

新たに一体の石人形を作り出して、それを巨大化させる。普通の肥大化呪文よりも強力な呪文で巨大化させたため、その大きさは第一の課題のときよりもさらに一回り大きい。拘束されてバタバタともがいているスクリュートへ近づかせ、右肘を曲げて右手を左手で支えて肘打ちの体勢をとらせる。そして、その体勢のまま石人形をスクリュートの身体目掛けて倒す。石人形の肘がスクリュートの身体にめり込むと、スクリュートは水気交じりの鳴き声を上げる。いかに堅い甲殻を持っていても、衝撃の逃げ道が無い上からの大質量による一点攻撃は耐えがたかったようで、身体中の穴から腐臭のする体液を噴出させた。

 

「コンフリンゴ -爆発せよ」

 

石人形をスクリュートに覆い被らせて爆発呪文を唱える。石人形に鎖の全てが爆発を起こし、強い爆風と衝撃が一帯を襲う。私は曲がり角の生垣に身を隠していたが、それでも身に感じる衝撃は大きい。

生垣から顔を出して爆心地の様子を窺う。まぁ、結果がどうなったかは過去二匹の犠牲によって分かっているのだが。

 

煙が風に撒かれると、そこにあったのは予想通りの光景だった。先ほどまで拘束されていながらも激しく動いていたスクリュートは、脚の大半を根元から吹き飛ばし、堅い甲殻は壊れるまではいかずとも大きな亀裂が入り所々欠けている。尻尾は根元から吹き飛び生垣の上に引っかかっている。

だが、そこまでの姿になってもスクリュートは生きているらしく、ギチュギチュと奇声を鳴らしながらのたうっていた。

 

「インカーセラス -縛れ」

 

杖から伸びる縄が幾重にも重なってスクリュートを拘束する。本来であればこの程度でスクリュートを拘束なんて出来ないが、ここまで負傷させれば十分に拘束可能だ。

無力化したスクリュートの脇を駆け抜けて、迷路の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

スクリュートを倒した後は目立った障害に当たらずに迷路を進む。これまで結構な数の障害を突破してきたし、他の選手もそれぞれが障害をクリアしているだろうから数自体がもうないのかもしれない。

とはいえ、現在迷路に残っている選手は私を含めて三人だけだろう。ここに来るまでに、空に赤い火花が打ち上げられたのを二回確認した。つまり、誰かは分からないが二人の選手が脱落したということだ。

 

突き当りから直角に伸びる道を曲がる。先ほどと同じように真っ直ぐと伸びる道が続くが、その先に今まではなかった光る何かを見つけた。

今までとは違い勢いをつけて走り出す。左右の生垣が後ろへと流れている中、残りの距離が百メートル程となったところで、光を放つものの正体が分かった。

 

―――優勝杯。

 

 

優勝杯を視界に納めると、さらに脚に力を入れて走り出す。

だが、優勝杯との距離が残り四十メートル程となったところで、視界の隅に黒い何かが見えた。見ると生垣の上を勢いよく動いている大蜘蛛がいた。大蜘蛛は生垣下を並走する私には目もくれずに、生垣の向こう側を見ている様子だ。

 

「ステューピファイ! -麻痺せよ!」

 

今は私に関心がないようだが、このタイミングで襲い掛かられても迷惑なので、余所見をしているうちに失神呪文を放つ。失神呪文が当たった大蜘蛛は短く声を上げながら生垣の向こう側へと吹き飛んでいった。

 

残りの距離を急いで詰める。残りの距離が二十メートル程となると、今まで一本道だった道がなくなり、優勝杯が置かれている広場へと入った。そして私が広場に入ると同時に別の道からハリーとセドリックが飛び出してくる。

 

お互いがお互いを認識し合うと全員が優勝杯へ向けて駆け出す。距離は私とハリーがセドリックよりリードしているが、体格差を考えると有利ということはない。

 

そして、三人による競争は決着がついた。

優勝杯を手に取ったのは―――三人同時。

第三の課題は三人による引き分けという結果に終わった。

 

―――お腹から引っ張られるような感覚と共に。

 

 

 

 

身体が地面へと叩きつけられる。その衝撃で身体に痛みを感じるも、それを堪えてすぐに立ち上がる。立ち上がったそこは墓場のようで、幾つかの小さな墓石と大きな像が建てられている墓石が乱雑に並んでいた。素早く視線だけを動かすと暗闇の向こうに大きな屋敷が見える。辺りに生えている木は枯れ果てて葉の一枚もついていない。

ここが何処なのか。それは分からないが、少なくてもホグワーツではないことだけは確かだ。

 

正直、何が起こったのか分からない。何故優勝杯を手にしたら、こんな見知らぬ場所へと移動するのか。優勝杯に手にした者を移動させる―――つまり移動(ポート)キーとしての機能が備わっていたのだとしても、それならば優勝者として審査員のいる会場へと移動するのが正しいのではないか? もしこれが課題の続きだとしても、こんな場所で何をやるというのか。

 

―――不可解なことがあれば警戒せよ。思考を止めるな。冷静さを失うな。

 

昔、パチュリーと戦闘訓練をしたときによく言われたことだ。

魔法を扱う者にとって不可解なことや理解できないことは良くない結果をもたらす。故に、何が起きても対処できるように警戒を怠らず、情報を収集しながら冷静に思考を巡らせろ。それが己の身を護ることに繋がる。

 

一回しか言われたことのない言葉だったが、印象深かったこともあってかよく覚えている言葉だ。

 

杖を手に周囲を見渡す。すぐ近くにいたハリーとセドリックも既に立ち上がって辺りをキョロキョロと見渡している。

 

「どこなんだろう?」

 

「優勝杯が移動キーになっていたのか? 二人は優勝杯が移動キーだっていうこと、誰かから聞いていたかい?」

 

セドリックの言葉に首を振って返答する。

 

「僕も知らない」

 

「そうか。とりあえず、杖を出しておこう。何があるか分からないしな」

 

セドリックの言葉にハリーも杖を取り出して構える。三人でゆっくりと歩きながら一際大きい墓石の前へと辿り着く。墓石は大きな棺のようで、その上にフードを被り、鎌を持った骸骨の石像が鎮座している。

 

「何か書いてあるぞ。 ルーモス -光よ」

 

セドリックが杖先に明かりを灯し、屈んで墓石に書かれている文字を読み上げる。

 

「トム・リドル。誰なんだろう? ―――ハリー?」

 

セドリックが墓石の書かれた名前を読み上げると同時に、ハリーは身体をビクリと震わせて固まった。それを疑問に思ったセドリックが声を掛けるも、ハリーは反応しない。

 

「……そんな、まさか……二人とも、急いでここから離れよう! 移動キーを早く!」

 

「待って。誰かいるわ」

 

微かだが草を踏む音が聞こえ、その音の方へ杖を向ける。二人も、私の行動に反応して杖を構える。

音の聞こえた方―――近くに建っていた古びた教会に空いた穴から、黒いフードを被った何者かが現れた。フードは何かを抱えているらしく、身体の前で腕を組んでいる。

 

「あぁあぁぁぁあ!!」

 

フードが現れると、突然ハリーが額を抑えながら呻き声をあげた。その声にセドリックが何事かとハリーへ声を掛けているが、私は注意深くフードへと杖を向ける。

 

『余計なやつは殺せ!』

 

フードから……いや、フードが抱える何かから甲高く冷たい声が聞こえた。その声に従うかのようにフードは腕を振り上げる。その手には杖が握られている。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

フードの杖から緑色の閃光が走る。それは真っ直ぐに―――セドリックを狙っていた。

 

「プロテゴ! -護れ!」

 

咄嗟に緑の閃光―――死の呪文に対して盾の呪文を唱える。死の呪文は盾の呪文に当たると霧散―――したかと思ったら、幾つもの小さい閃光となって弾け飛び、辺り一帯へと拡散した。本来、反対呪文の存在しない死の呪文に対して盾の呪文が通用するのか分からなかったが、どうやら防ぐまではいかずとも弾くことはできたようだ。だが、弾かれ拡散した死の呪文はそれだけでも相当の威力を持つようで閃光が当たった墓石や木を破壊している。

 

「あぐッ!」

 

そのうちの一つの閃光が私達の背後にある骸骨の石像へと辺り、砕けた破片が私達に降りかかった。セドリックは破片が頭へ当たったのか地面に倒れて動かなくなる。私も大きめの破片が背中へ当たり痛みと衝撃で地面へと倒れてしまった。

 

『今だ!やつらを捕らえろ!』

 

「インカーセラス! -縛れ!」

 

フードの杖から縄が伸びて、私とセドリックを拘束する。フードはハリーに近づいて石像の前まで引っ張ると、縄で石像にハリーを縛り付けた。その際に月明かりによってフードの中の顔を見ることができた。それはハリーも同じようで、フードへ向けて怒りを露わにする。

 

「お前だったのか! ピーター・ペティグリュー!」

 

そう、フードを被っていた者の正体はピーター・ペティグリュー。一年前、叫びの屋敷で捕らえるも不測の事態によって逃がしてしまったヴォルデモートの家来、死喰い人の一人だ。ピーター・ペティグリューは息を荒くしながらもハリーの言葉には反応せずに淡々と動いていく。ピーター・ペティグリューを目で追いながら、いつでも縄から抜け出せるようにしておく。幸いにも杖は手元にあるので抜け出すこと自体は難しくない。だが、ハリーの前に置かれた包み。あれから良からぬ気配を感じているため実行には移せないでいた。

 

そうこうしている間に準備が終わったのか、ピーター・ペティグリューは小さな包みを持ち上げて、用意した大釜の前へと進む。大釜の中身はここからでは見えないが、煮えくりたっているのだろう、グツグツと沸騰する音と共に湯気を立ち昇らせている。

 

「ご主人様、準備ができました」

 

『さぁ……始めろ』

 

冷たい声と共に、ピーター・ペティグリューは包みを開いて中身を大釜の中へと入れる。一瞬だけ見えたそれは、酷く醜い奇形の赤ん坊のような姿をしていた。

ピーター・ペティグリューは杖を再度取り出して振るう。ハリーを拘束している足元、石の棺の蓋が開き、中から一本の骨が出てくる。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん! 父親は息子を蘇らせん!」

 

ピーター・ペティグリューは取り出した骨を大釜へと入れる。すると、先ほどまで白かった湯気は毒々しい青へと変化した。大釜の淵から四方八方へと青い火花を散らしている。

次にピーター・ペティグリューは懐から短刀を取り出すと、顔を青ざめながら過呼吸を起こしそうなほどに息を荒げる。

 

「しもべの肉―――よ、喜んで―――差し出されん―――しもべは―――ご主人様を―――蘇らせん!」

 

言い終えるや否や、ピーター・ペティグリューは伸ばした右手を手首から短刀で切り落とした。切り落とされた右手は大釜へと落ちていき、ピーター・ペティグリューは手を切り落とした激痛に呻いている。

 

―――本当ならば、ここでピーター・ペティグリューの邪魔をするべきなのだろう。杖は手元にあり、縄からはすぐにでも抜け出せる。ピーター・ペティグリューは何かの儀式に集中していていることに加えて、今は片手がない状態だ。唯一の不安要素だった存在は、今は大釜の底。

 

ここまでくれば、ピーター・ペティグリューが何の儀式をやろうとしているのかは分かる。この儀式は恐らく、ヴォルデモートを復活させるための儀式だろう。

今ここで妨害すれば儀式は失敗してヴォルデモートの復活を阻止できる可能性は高い。それを実行できるのも私だけだろう。ハリーは拘束されていて、セドリックは気絶している。

現状、動けるのは私だけだ。

 

だが―――思考に反して身体は動こうとはしないで静観を選んでいる。実際、何度か呪文を唱えようとしたが、それが口から発せられることはなかった。

 

それは何故か―――いや、私自身理由は分かっている。そして、このような状況でも自身の性分が出てしまうあたり、私はどうしようもないのだと心底呆れてしまう。

先ほど見た醜い存在。あれが本当にヴォルデモートだとするならば、今の彼は何の力も持たない小さな存在だ。身体は当然ながら宿す魔力も高いとはいえない。赤ん坊よりはマシといった程度だろう。唯一持つ力といえば、先ほども感じた良からぬ気配ぐらいだろう。

そのような状態からどうやって復活を果たすのか。闇の魔術を知り尽くした魔法使いの生命を操る技とはどのようなものなのか。魂や命という分野を研究している私としては、是が非でもその分野の先達たるヴォルデモートの技を見てみたい。思考では止めるべきだと訴えているが、身体は本能が抱える欲望に忠実で動こうとしない。

 

先ほどまで青色だった湯気は燃えるような赤へと変化している。ピーター・ペティグリューは呻きふらつきながらも、ゆっくりとハリーへと近づいていく。

ピーター・ペティグリューは残った手で短刀を持ち上げ、ハリーの右腕へと近づいていく。ハリーは逃げようと必死にもがいているようだが、拘束は解けずにハリーを縛り続ける。

 

「ああぁぁああぁああぁ!!」

 

ハリーの右腕の内側に短刀が突き刺さる。ピーター・ペティグリューは短刀をしまい、代わりに取り出した小瓶をハリーの傷口へと押し付ける。

小瓶を手にピーター・ペティグリューは大釜へ近づいて、小瓶の中に入った赤い液体―――ハリーの血を大釜へと流し込む。

 

「敵の血―――力ずくで奪われん―――汝は―――敵を蘇らせん!」

 

燃えるような赤い湯気を発していた大釜は、ハリーの血が入ると眩いほどの白い湯気を立ち昇らせる。

役目を果たしたと言わんばかりに、ピーター・ペティグリューはその場に崩れ落ちて、手を抱えながら呻いている。

大釜はダイヤモンドのような閃光を周囲に放ち、その輝きは夜の闇を照らすほどに輝いている。

 

どのくらい時間が経っただろうか。閃光を放っていた大釜は急に静まり、煮える音も風の音も、全ての音が消えたかのように無音の世界が訪れた。

静かに、音を発せずに輝く湯気は立ち昇る。やがて、大釜の中の液体がなくなったのか、立ち昇る湯気は段々と濃度を薄くしていく。

 

「―――ッ」

 

誰かが息を飲む音が聞こえた。無音の世界にその音はやけに響く。

僅かに湯気を上げる大釜から何かが出てきた。骸骨のようにやせ細り、背の高い影だ。

 

「ローブを着せろ」

 

大釜から出てきた者が足元で蹲るピーター・ペティグリューにそう命令する。ピーター・ペティグリューは身体を震わせながらも、命令に忠実な機械のように傍に置いてあったローブを手に取り、声を発した者へと被せる。

 

ローブを纏ったそれはゆっくりと歩き出す。大釜は既に役目を果たしたのか一筋の湯気も出さずにいた。

強い風が吹く。それと共に空にあった雲も動き、月明かりが墓場全体を照らした。そして、月明かりに照らされたことで目の前の存在の顔が露わになる。

骸骨よりも白いのっぺりした顔、細い切れ込みのような鼻、蛇のような細く赤い目。

 

「―――ヴォルデモート」

 

闇の帝王、ヴォルデモートが復活した。

 

 




【チビ京】
文字通り小さい京人形。キーホルダーくらい。
制作時間長い? 気持ちという名の魔力を込めているのです。

【ホグズミード】
ぼっちのアリスには許可がでません。
パドマのスイッチが入ると碌なことがない。

【ハーマイオニーの三角関係】
逆ハーですか。”ハー”マイオニーだけに逆ハーですか。
まぁ、いいんじゃない? アリスが天使なら他は有象無象。

【ハリーとクラムによる夜の逢引】
歩く第一級(トラブル)フラグ建築士のハリーと一緒にいるんだもの。
そりゃぁ、厄介事に巻き込まれるさ。

【必要の部屋】
だからチートはいけないと思います。

【家族とのふれあい】
これはアリスへの虐めということだな。
―――よろしい、ならば戦争(クリーク)だ!!
大戦争を! 一心不乱の大戦争を!!

【ウィーズリー家】
オレ……植える……コツコツ……旗……植える
旗……ウ……エル……

かゆ……うま……

【クラウチ氏】
アリスの知らないところでご退場致しました。

【トロール】
袋小路に追い込まれた状況の見目麗しい少女。
迫るは悪臭放つ巨体のトロール。身につけるはボロボロの腰布一枚。
すごく……大きいです。

―――思わず、薄い本が描けてしまいそうな展開ですね!
清かろうが歪んでようが、好きという感情には変わりがないのが人の恐ろしいところだね。

【アリス式・即席爆弾人形】
転がっている石ころから作った人形を爆発させるだけのお手軽兵器。
その威力はご覧の通り。
良からぬ事を考える悪い子の家に突撃しては自爆する特攻部隊。

【尻尾爆発スクリュート】
奴は犠牲になったのだ。
アリスの力を示すという有用な犠牲にね。

【生垣上を動く大蜘蛛】
危害を加えてこないのをいいことに、ついついやっちゃったぜ。
さり気にハリーとセドリックへのフォローにもなってしまっている。

【戦闘における教訓】
我らが紫は至る所でアリスに影響を与えています。
ある意味、この作品における影の支配者ともいえなくはない存在。

【盾の呪文VS死の呪文】
死の呪文を使えるピーターは実は優秀な魔法使い。
武装解除呪文で打ち合えるなら、盾の呪文で防ぐまではいかずとも弾くくらいはできるんじゃね?
実力差? この作品の主人公はアリスです。

【縄で縛られるアリス】
変な妄想した奴は素直に挙手。
我が陣営へと向かい入れてあげよう。

【復活の呪文】
ピーターは復活の呪文を唱えた!(テレレン♪)
ヴォルデモートは復活した!

【知的好奇心】
ここまでくると欲望なレベル。
いつの日か、無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)の称号を得る日も遠くない。


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