魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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ふんもっふ!


終着、僅かな休息

太陽の光に照らされるホグワーツとホグズミードを繋ぐ道。そこから横に逸れた獣道とも言えない道なき道を、おぼつかない足取りで進むアリスの姿があった。その姿は凄惨であり、服は破け、全身が土や泥で汚れ、顔や腕、足など至る所に大小の傷ができている。左腕は特に酷い怪我をしているのか、右手で支えるように押さえている。

 

アリスは、ふらふらと左右に身体を揺らしながら、朦朧とした意識で眼前に迫るホグワーツの門を視界に入れる。早朝ということもあり、ホグワーツの入口たる門は未だに固く閉じられたままだ。日にちの感覚が薄れているアリスは知る由もないが、この日はクリスマスであり、あと数時間もすれば実家へと帰宅する生徒が通るために開門されることとなっている。だが、それを知らないアリスは、ホグワーツの門が不用心に開いている訳もないかと納得するも、偶然開いていたりしていないかと期待していただけに、僅かに意気消沈してしまう。

 

だが、ホグワーツには護りの魔法が掛けられているはずなので、乱雑に門を弄っていれば教師の誰かが様子を見に来てくれるだろうという算段があった。故に、最後の意地とでもいうかのように、身体に力を入れて前へと進んでいく。

どのような状況でも少女をサポートしてきたドールズがいれば、アリスの歩みも多少は楽になっただろうが、現状ではそれは不可能であった。各々が魂を内包することで自律活動を可能とするドールズも、決して万能という訳ではない。身体自体は作り物であるため、人間のように肉体的負荷による影響はほぼ無いのだが、その反面、活動のほぼ全てを魂に依存しているため、人間よりも精神的な負荷をより大きく受けてしまうのだ。アリスが彷徨い続けたこの三か月以上の時間で、休む暇もなくサポートし続けていたドールズに、とうとう限界がきてしまったのだ。今から三日前に限界がきてしまったドールズは、アリスの指示によって最後の力でヴワルへと帰還することとなった。精神に依存するドールズが効率良く回復するには、空気中の魔力濃度の濃いヴワルで休むことが必要だ。尤も、限界まで擦り減った精神が動けるほどまで回復するには、長い時間を掛けなければならない。恐らく、動けるまでに一週間、通常状態に戻るまで二週間は要するだろう。

 

門までの距離は残り十メートル。

あと少しでこの強行軍も終わると思うと気が抜けてしまうが、歯を食いしばって一歩足を進める。

 

残り五メートル。

襲いくる眠気に抗い、門へと右腕を伸ばして触れようとする。だが、力の入らない身体では腕を伸ばすことも満足にできず、ぷらぷらと身体の少し前で揺れるだけだった。

 

残り三メートル。

雪と泥に足を滑らせてしまう。べしゃっと泥水に倒れこんでしまったアリスは、さらに汚れてしまう。倒れた際に左腕を身体で潰してしまったため、襲いくる痛みに呻き声を上げるが、一緒に意識も覚醒したので差引ゼロとした。

立ち上がる力はもうないので、右腕だけで身体を引きずりながら少しずつ進む。地面の泥水が氷のように冷たいが、段々とそれも感じなくなってきた。

 

残り一メートル。

―――そこで、アリスの意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

大広間で朝食が終わり、諸々の注意を受けた後。実家へと帰る生徒達は荷物を持って校庭を歩いていた。最近になって落ち着いた雪は疎らに振っており、一か月程前の吹雪とはうって変わって生徒達の心を穏やかなものにしていた。今のご時勢で心を休める機会があるというのはありがたいことで、校庭を歩く生徒のみならず、学校に残る生徒も窓から美しい雪景色を眺めていた。

 

 

「はぁ―――雪は落ち着いたけれど、やっぱり寒いな」

 

「毎年のことだろ。てか、寒くない冬があったら異常だろ」

 

「ねぇ、冬休みの予定って何かある?」

 

「う~ん、どこか旅行にでも行きたいけど……」

 

校庭を横切る生徒達は、気温の低さに愚痴を言ったり、冬休みの予定を話し合いながら門へと向かって歩いていた。予め、フィルチによって門までの道の雪が退けられているため、僅かに積もっている雪をサクサクと踏み鳴らしている。

なお、陽が昇る前から除雪していたフィルチは生徒や教師陣に遅れての朝食をとっている。

 

先頭を歩いていた男子生徒が門へと近づいたことで、自動的に門が開いていく。男子生徒は止まることなく門を通り過ぎようとして―――何かに躓いてしまった。

 

「うわっ!?」

 

体勢を崩した男子生徒は、左手に持っていた荷物の重みもあって左前方へと倒れこんでしまう。

 

「おい、大丈夫か―――ッ!?」

 

男子生徒の友達が声を掛けるも、視界に入ってきたもののせいで身体が硬直してしまう。何事かと思った後ろの女生徒が声を掛けようとするも、同じく視界に入ったもののせいで喉から声を出すことが出来なかった。

 

「痛ッ―――くそ、一体何なんだ?」

 

倒れた男子生徒が頭を振って雪を落としながら、自分が躓いた何かへと視線を向ける。そうして目に入ったものは、うつ伏せの状態で倒れこんでいる女子の姿だった。身体の上には雪が積もっており、遠目からでは地面と同化して見えるだろう。近くへ寄っても、下を向きながら歩いていないと素通りしてしまうそうである。

 

「う、うわぁ!?」

 

驚きのあまり、男子生徒は立ち上がろうとしていた足を滑らせて、尻もちをついてしまう。そのまま友達のところまで後ずさった彼は、もう一度倒れている女子へと視線を向ける。

 

「ひ、人? し、死んでる―――のか?」

 

「あ、あれ?」

 

後続の生徒が倒れている女子を見て言った呟きは、この場にいる全員の心の内を代弁していた。そんな中、何かに気がついたらしい女生徒が疑問の声を上げる。女生徒は倒れている女子に近づき、身体に積もっている雪を落としていく。

 

「マ、マーガトロイドさん!?」

 

倒れている女子―――アリスを知っている女生徒が、悲痛の声を上げる。あのホグワーツ特急襲撃事件から行方が分かっていなかったアリスが、目の前で雪に埋もれて発見されたのだから、そのような声を上げるのも無理ないだろう。

 

「だ、誰か! 先生を、先生を呼んできてッ!」

 

女生徒の裂くような叫びに、先ほどアリスに躓いて倒れた男子が荷物を放り投げて城へと駆け出していく。男子が駆け出したのを見て、女生徒は荷物からタオルを取り出してアリスの身体を拭いていく。他の生徒も介抱に加わりながら、拙い知識で処置を行っていると、城からマクゴナガルが息を切らして駆けつけてきた。

 

「マーガトロイドッ!? 彼女を医務室へと運びます! 貴方達は一旦城へとお戻りなさい! 汽車の出発は遅らせます!」

 

マクゴナガルは手短に生徒へ指示を出すと、アリスの身体を揺らさないよう慎重にかつ迅速に浮かせて、城へと駆けていった。

 

 

 

 

「―――っん」

 

鉛のように重い瞼を僅かに開く。最初に目に映ったのは石造りの天井だ。どこかで見た覚えはあるが、微妙に思い出せない。次に視線だけを横へずらすと、白いカーテンで囲まれているのが分かった。頭の横には色々なお菓子や飲み物が置かれている。

 

「あぁ、医務室、か」

 

そこでようやく、いま私がいる場所が医務室だと理解した。ということは、ここはホグワーツということか。

 

「辿り着けたのね、私」

 

ここ最近の記憶が曖昧で、自分が何をやっていたのか覚えていないが。まぁ、こうして生きているのだから、今は考えなくてもいいだろう。ていうか、そんな気力がない。

 

シャッ。

そんな音と共に勢いよく開かれたカーテンへと視線を向ける。そこには、大小様々な瓶を載せた銀トレーを持つマダム・ポンフリーと、マクゴナガルがいた。二人は私を見た途端に目を見開いて、次の瞬間、マクゴナガルが急接近してきた。

 

「マーガトロイド!」

 

「ぐっ」

 

「よかった。無事で、本当によかった」

 

私に抱き着くマクゴナガルの震える声を聞き、本当に心配してくれていたんだなと思ったが、抱き着かれた際の衝撃によって全身に鈍い痛みが走っているので、素直に感謝する気になれない。ていうか冗談抜きで痛い。

痛みを訴えたくとも、顔を身体で押さえられているのでくぐもった声しか発せず、振りはらう気力がないのでなすがままになるしかない。

 

「ミネルバ! 気持ちは分かりますが、彼女は重症の身なのですよ!」

 

マダム・ポンフリーがマクゴナガルを引き離してくれることで痛みから解放される。

その後は、とにかく身体を休めることと栄養を取るということで、しもべ妖精が持ってきた料理を食べた後に薬を飲んで、休むこととなった。

 

それからは、起きては食べて、薬を飲んでは寝てを繰り返す。ここに運び込まれた時の私の状態は、左腕の骨折に全身に至る大小の切り傷や擦り傷、栄養不良、疲労、凍傷など。他にも細かいのを上げていけば幾つかあるようだが、大きいのはこの五つ。普通なら一か月以上は療養する必要があるのだろうが、流石はマダム・ポンフリーと言うべきか。私が目覚めてから三日が経つ頃には、ベッドから出られるまで回復することができた。これがマグルの病院であればどれだけの時間が必要とされるか―――そもそも、厄介になることがないか。

 

念のため、あと一日休むように言われ、ベッドで横になっていると、医務室の扉が静かに開かれた。

 

「身体の調子はどうかね、アリス」

 

現れたのはダンブルドアだった。ダンブルドアはベッドに近づき椅子に座ると、枕元に置いてあるお菓子の山へと視線を向ける。私への見舞い品ということだが、マダム・ポンフリーに食事制限させられていた私が食べられるはずもなく、未だに手つかずで置いてある。

 

「君へのお見舞いの品じゃな―――おぉ、百味ビーンズもあるの。わしは常々不思議に思っておったのじゃが、どのような人であれ、お見舞いの品の中には必ず百味ビーンズが入っているのじゃよ。わしは嫌いなのじゃが、これはお見舞いの品として喜ばれるものなのかの?」

 

「さぁ? どうでしょうね。中には喜ぶ人もいるかもしれないですけど、大抵はネタとして置いていっているんじゃないでしょうか」

 

「やはり、それが一番濃厚かの。物は相談じゃが、開けてもいいじゃろうか? 前にハリーに送られたものを食べたときは耳くそ味が当たってしまったが、今度は良い味が当たりそうな気がするのじゃよ」

 

「嫌いじゃなかったんですか? 別に構いませんけど」

 

私が許可を出すと、ダンブルドアは箱の包装を開けて慎重にビーンズを選び始める。やがて、金色のビーンズを一つ取りだすと迷わず口へ放り込んだ。

 

「ん、むぅ―――おぉ、これはグレープ味じゃな。見た目からはとても想像できん味じゃが、これは当たりじゃな」

 

ダンブルドアは気分をよくしてもう一つビーンズを手にするが、今度は外れを引いたのか顔を顰めて、一旦席を外した。少しして戻ってきたダンブルドアは一息吐くと、頭を下げだした。

 

「すまなかった。わしらが君を早く見つけられていれば、これほどの苦難をすることはなかったじゃろうに。本当に、すまなかった」

 

「―――まぁ、確かに早く見つけては欲しかったですけどね。汽車の襲撃の時にコインを無くしてしまいましたし、魔法を使えば位置を特定できたのでしょうから、私にも原因はあるとは思います。出来る限り見つかりにくい移動をしていたことも、死喰い人の妨害や動かせる人がなかっただろうことも考えると、そう簡単にできなかったのでしょうが」

 

「じゃが―――」

 

「いいですよ。それに、何も悪いことばかりじゃないですし。こうして生きていられる以上、今回のことは貴重な経験になりました。百の訓練より一の実践と、どこかの誰かが言っていましたけど、まさにその通りですね。私自身の魔法が使用できずに生き延びるというのは、肉体的にも精神的にも随分と成長できたと思ってます。なにより―――死喰い人を殺した経験は貴重ですね」

 

次から躊躇しなくてすみますから。

そう告げると、ダンブルドアは若干険しい表情を浮かべるも、頭を振って元に戻す。

 

「大丈夫ですよ。あくまで躊躇しないのは死喰い人に対してです。あぁ、ヴォルデモートも含みますけど。彼らはこちらを殺す気で来るのですから、自分が同じ道を辿る覚悟はあるはずです―――誰でも彼でも殺そうなんて危険思考はありませんから」

 

「アリスよ。今回の場合は事情が事情じゃ。彼らを殺めてしまうことも仕方なしかもしれん。じゃが、わしは罪を犯した者には正しき道に戻る機会が与えられるべきと考えておるのじゃ。無理にとは言わん。強制もせん。じゃが、もしできるならば―――いや、止めておこう。これは押しつけにすぎん。君はわしではないのじゃからな」

 

「ダンブルドア。貴方のその考えは大切だと思いますし、後の事を考えるなら有効かもしれません。ですが、それも時と場合、人によりますよ? 現にルシウス・マルフォイはこれまでに多くの暗躍をしてきましたし、前学期には魔法省の一件です。甘さが駄目とは言いませんが、過ぎると自分の首ならず、仲間の首も絞めてしまいますよ」

 

「わかっておる。わしも、考えるべきなのかもしれん」

 

その後は、情報を交換したり今後のことについて話し合ったりとした。ダンブルドアが退出する際に、今回の罪滅ぼしというものではないが、望むことがあれば出来る限り叶えようと言ってきたので、図書室の禁書棚を自由に閲覧できる許可と、魔法薬の材料になる各種材料を貰えるだけ貰う約束を取り付けた。何せ今回の件では随分と物資を消費してしまったので、補充する必要があるのだ。加えて、失った人形を量産する訳だが、諸々を改良する必要もあるので、その資料として禁書棚の本は必要になる。大抵の本は揃っているヴワルだが、流石に一冊しかない本や、超希少な物となると蔵書されていないこともあるのだ。

 

 

 

翌日、朝食が始まる前に医務室を出た私は、そのまま真っ直ぐに大広間へと向かった。ここ最近は栄養を重視した病人食しか食べていなかったので、久々に思いっきり食べたい気持ちが逸り、心なしか歩くのが速くなっている気がする。病人食とはいえ、そこはホグワーツ勤めのしもべ妖精が作った料理である。不味くないどころか十分に美味しいのだが、それとこれとは別問題だろう。

 

クリスマス休暇真っ最中のホグワーツは静寂に包まれており、廊下から見える校庭では雪が綿のようにふわふわと舞っている。この美しい景色も、状況が変われば生き物に牙を剝く猛威と化すのだから油断できない。自分がこうやって五体満足でいれることが不思議なことのように思ってしまう。

 

大広間へと近づくにつれて、声が聞こえ始める。例年通りであれば、休暇中に残る生徒はそう多くないはずだが、今年はかなりの人数がいるようで賑やかな声がしている。

歩を緩めることなく扉へと近づき、ゆっくりと扉を開く。なるべく音を立てないようにしたつもりだが、年代物の扉は高い軋みの音を響かせた。

 

音に引かれたのか、一斉にこちらを見る生徒達。その殆どは見覚えのある人達であり、四割程は去年のDAに参加していたメンバーだ。寮関係なく一つのテーブルに着席しており、テーブルの奥にはドラコを始めとしたスリザリン生が何人か座っている。

 

「アリスッ!」

 

私から見て右側手前に座っていたパドマが、勢いよく駆けつけて抱き着いてくる。それを切っ掛けに他の生徒も駆け寄ってきて、四方八方から声をかけられた。尤も、声が混ざり過ぎて誰が何を言っているのか理解不能だったが。

 

「皆さん、気持ちは分かりますが、そんなに騒がしくしては彼女も混乱してしまうでしょう。今はまず席について、それからお話しなさい。ただし、彼女は病み上がりなのですから、節度は守るように」

 

マクゴナガルの声で全員が渋々と席に着く。私はパドマに手を引かれて、パドマとアンソニーに挟まれる形で着席した。

 

「さて、皆も知っておろうが、この三か月の間消息の掴めなかったアリスが、先日ホグワーツの門前で救助された。その際深い傷を負っていた彼女も、治療に専念したことで回復することができ、こうして皆と共にテーブルを囲うことができた。治療に尽力してくださったマダム・ポンフリーには、今一度感謝の言葉を送りたい」

 

ダンブルドアの言葉に、マダム・ポンフリーは軽く頭を下げることで答える。アリスにしても、彼女の医療の腕には大いに助かったと思っている。あれほどの重症に関わらず後遺症もなく完治させてくれたことはとてもありがたい。

 

「積もる話もあるじゃろうし、年寄りの話は早々に打ち切るかの。今まで会えなかった分、沢山語り合うといいじゃろう。ただし、マクゴナガル先生は言ったように彼女は病み上がりじゃから、落ち着いて話すように」

 

それからは、食事をしながら次々と飛び交う質問に答えていく時間が続いた。答えるといっても、具体的なことは言わず、中途半端な事実を伝えるようなものだ。ここにはスリザリン生―――特にドラコ同様、家族に死喰い人がいる生徒もいるので、あまり事細かに細部を教えるわけにもいかない。DAのメンバーであれば、後ほど集まるであろうDAの会合の時間に話せばいいだろう。

 

 

食事が終わったあとは、予想通りというかハリー達によって必要の部屋へと連行された。どうやら汽車の中で話していた通り、DAは去年のように隠れずに、大々的に行われているようだ。それによって参加者も大幅に増えて、今では去年の五倍以上にまで規模を増していた。

 

「すごいでしょ! 生徒による防衛術の相互研究という名目で、今年から正式に活動が認められたの。それに合わせて必要の部屋の使用が正式に許可されて、先生達の協力で色々な訓練方法が確立できているわ!」

 

ハーマイオニーが両手を広げながら部屋のバックにして嬉しそうに語る。

 

「あら、凄いじゃない。去年あれだけ四苦八苦していたことからすれば、随分な進展よ。教員の手が加えられているのか、設備もかなり充実しているようだし。これだけの条件なら、随分と成長したんじゃない?」

 

そう言って部屋の中にいるDAメンバーを見まわしていく。今年から参加した人は分からないが、去年から参加しているメンバー、特にハリーやハーマイオニー、ジニー、ネビル、ルーナの五人は一目で腕が上達したと理解できる。別に、目に見える変化があるという訳ではないが、何となく雰囲気で分かるものだ。

 

「そうね、確かにハリーとジニーの伸びは凄いわよ。二人ともDAメンバーの誰よりも呪文の制御や精度が高いし、咄嗟の状況判断なんか圧巻よ。この前なんか、マクゴナガル先生とフリットウィック先生の協力で作った訓練用の迷路を突破するっていう訓練をしてね。DAでクリア出来たのは二人だけ、しかも先生が目標としたタイムを大幅に上回る時間で突破したのよ!」

 

「それは興味深いわね。時間があったら、私も挑戦してみようかしら」

 

暫く、ハーマイオニーから話を聞いていると、二人の女の子が近づいてきた。見た感じ二年生か三年生といったところだろうか。その内の一人が遠慮がちに話し出す。

 

「あ、あの。マーガトロイド先輩。もし、もしでいいんですけれど、私に魔法を教えてもらえないでしょうか?」

 

突然のお願いに思わず首を傾げると、話しかけてきた子とは別の女の子が、やや高飛車な態度で口を挟んでくる。

 

「チェリー、先輩は病み上がりなんだから無理言ったら駄目でしょう。それに、そんなことしてもらわなくても、先輩よりハリー先輩の方が上手いんだから、ハリー先輩に教えてもらえばいいじゃない」

 

「で、でも。去年からいる人は、みんなマーガトロイド先輩の方が上手いって言ってるよ?」

 

「あくまで去年は、でしょ。ハリ-先輩だって謙遜しているだけよ。ハリー先輩は時間ができたら、DAでずっと練習をしてきているのよ。それに自分の練習だけじゃなくて、私達の練習にも丁寧に付き添ってくれているわ。そんなハリー先輩を間近で見ている私は、先輩が誰かに劣っているなんて思わないわ」

 

―――何やら目の前で口論を始めた二人を放置しつつ、隣にいるハーマイオニーへと事情を求めるべく視線を向ける。ハーマイオニーはそんな私に対して苦笑い気味に口を開くも、背後からの声で制されてしまう。

 

「あ~あ、またこの口論か。懲りないねぇ」

 

パドマが後ろから私にしがみ付きながら、そう愚痴を零す。

 

「最近、DAの中ではこれが専ら話題のネタなの。簡単に言っちゃえばアリスとハリーのどちらが強いかっていう話」

 

「あら、ハーマイオニーやジニーは入っていないの?」

 

「最初は二人も候補に入っていたんだけどね。一度、他のメンバーの強すぎる要望で総当たり戦をやったのよ。そこで最終的に勝利したのがハリーなの。そこに、ハリー以上の魔法の腕と知識を持つって評判のアリスで対立したんだけど、その時アリスは行方不明だったから、暫定的にハリーがDA最強ということになったんだ。中にはアリスこそ最強だっていう人もいるんだけど―――あっ、私もその一人ね―――戦局はハリー派が優勢。そこで話は沈静化したものの、アリスが現れたことで再びDA最強論争が勃発―――ていう感じ」

 

どうやら、私がいない間にDAは随分と愉快なことになっているようだ。耳を澄ませば、確かにそこかしこで私とハリーの強さ論議が行われている。去年からいるメンバーは、ハリーを含めその話に興味はないようで、騒ぐメンバーを諌めている。

 

「―――そんなことない! 絶対アリス先輩の方が強いよ!」

 

「聞き分けのない子ね! ハリ-先輩の方が強いというのが分からないの!」

 

と、放置していた二人が随分ヒートアップしてきたようで、これ以上は流石によくないと判断したハーマイオニーが二人を止めるべく動き出す。

だが、それは僅かに遅かったようだ。

 

「そこまで言うなら、先輩達に勝負してもらいましょう! それで全てハッキリするわ!」

 

「わかった! それでいいよ!」

 

当事者を無視して勝手に勝負を決められる私とハリー。これには私も断ろうとするが、二人の大声で言ったことが部屋中に浸透していき、何ともいえない手遅れ感を察した。

 

「そうだよ、そうすれば白黒ハッキリする」

 

「ハリー先輩の勝利は揺るぎないわ」

 

「マーガトロイド先輩が勝つに決まってるだろ」

 

「ハリー先輩、頑張って!」

 

瞬く間に、場は一気に決闘モードへと移行。押されてくるハリーと引っ張られていくハーマイオニーとパドマ。部屋の中心にできた空白地帯に向かい合う私とハリー。周囲から飛ばされる応援の声。

 

―――なんだこれ?

 

「えっと、どうしよう、か?」

 

「どうするもなにも―――今更、断れる空気じゃないでしょ、これ」

 

今年の新メンバーのみならず、去年からのメンバーすら観戦モードへと入っている。パドマに視線を向ければサムズアップで返され、アンソニーとハーマイオニーは苦笑している。

 

「だよね。僕はいいけれど、アリスは大丈夫なの? 病み上がりだし、日をおいてからでもいいんじゃないかな?」

 

「それに関しては大丈夫よ。確かに本調子とは言えないけど、不調時に比べたら問題無いわ」

 

不調時とは言わずもがな、ここ三か月に及ぶ逃走劇の時のことだ。

 

「ハリーこそいいのかしら? 本調子じゃない私に負けたら、立つ瀬がないんじゃない?」

 

僅かに笑みを浮かべてそうハッキリと告げる。戦う前の舌戦は既に常套手段。相手が冷静でなくなれば、それだけ私の勝率が上がる。

 

ハリーはあからさまな挑発行為に過敏に反応する性質だ。遠回りな挑発より直球の挑発の方が効果的だと考えていたのだが。

 

「悪いけれど、その手には乗らないよ。挑発することで相手の冷静さを奪い、隙を露呈させる。これでも、アリスの戦いは何度か見ているんだ。僕だって学習するよ」

 

私の考えとは裏腹に、ハリーは気にした様子もなく涼しげに流してきた。これには僅かばかり驚く。何年にも渡って周囲から注意されていた直情的な言動がなりを潜め、冷静にこちらの動きを細かに観察しているのだから。

 

「―――へぇ、少し見ない間に随分と変わったじゃない。この三か月余りの間に何があったのかしら? 今の貴方、まるでセドリックみたいよ」

 

セドリックは、私がどれだけ挑発をしても柳に風というように流していた。最初は歳の差かと思ったが、セドリックよりも大人の魔法使い―――死喰い人のことだが、彼らにはかなり効果的だったことが通用しなかったのだ。そのおかげで、勝負をする際には実力で戦うことになっていた。

 

「まぁ、ね。あの襲撃があってから、色々と考えたんだ。今までの僕に足りなかったもの、これからの僕に必要なこと。足りなかったことは、君に散々言われ続けてきたことが殆どだったけどね」

 

そう言って、ハリーは苦笑しながらリラックスして、それでいて一切の油断をしないで杖を構える。その姿からは、これまでのような歪みは見られない。

どうやら、ハリーが変わったというのは口先だけのことではないようだ。

 

「面白いわね。今の貴方、今までで一番面白いわ。勿論、良い意味でね」

 

言いながら、私も杖を構える。精神を集中させていき、ハリーに意識を、されど周囲にも気を配っていく。私達二人の雰囲気が変わったことを感じ取ったのか、先ほどまでざわついていたギャラリーが静まり返る。十秒か一分か、体感する時間は曖昧なれど、何時までも続くと思える静寂は、誰かが出した靴擦れの音で終わりを迎えた。

 

「コンフリンゴ! ―爆発せよ!」「レダクト! -粉々!」

 

私の放った爆発呪文がハリーの頭上の天井に、ハリーの放った粉砕呪文が私の足元に当たり、互いに盛大な破壊をもたらす。その衝撃は周囲にいるギャラリーにも及び、私達が態勢を整え、再度呪文を放つと素早く察したハーマイオニー達古参のDAメンバーによって避難させられている。

 

「ステューピファイ! -麻痺せよ!」

 

ハリーの失神呪文を無言呪文で発動した盾の呪文で防ぎつつ、足に硬化呪文を掛ける。硬化呪文によって強化された足を小さく振りかぶり、同時に腰の捻りを加えることで、最小限の動きで最大の威力の石を蹴り飛ばした。

 

ハリー目がけて勢いよく飛ばされた石を見つつ、天井や床の破片を変身術で石人形に変えて突撃させる。精度は必要ない。数だけ用意して壁にさえなれば十分だ。

次の手に移ろうと使用する呪文を複数思い浮かべながら移動をした瞬間、視界の左端で動いたモノへと反射的に呪文を放つ。

 

『―――ッ!』

 

死角から襲い掛かろうとしていたのは蛇だった。全長は一メートル近くはありそうな蛇が呪文に当たり吹き飛ぶ。思わぬ伏兵に驚いてしまったことで僅かに身体が強張ってしまった。その隙を狙っていたのか、右端から一匹、正面から二匹の蛇が同時に襲い掛かってくる。

 

「甘いわね」

 

杖を短く鋭く振り上げる。その動きに従い、蛇が移動している床が針の山へと姿を変える。数多の針によって全身を貫かれた蛇は断末魔を上げた後、赤い光を散らして姿を消す。

蛇事態の対処は何の問題もなく終えたが、私が出した石人形も全て破壊されてしまっていた。

 

「―――」

 

開幕早々の搦め手は既に意味ないものと判断し、真正面からの勝負に切り替える。無言呪文を多用した呪文の応酬だ。ハリーは無言呪文を得意とはしていないので、この勝負で優勢になるだろう。

 

「ふッ!」

 

だが、私の予想とは裏腹に、ハリーは私が放った無言呪文と同じ数の呪文を無言で放ってきた。呪文は吸い寄せられるようにして互いに衝突し、私とハリーの間で火花を咲かせる。

驚きが休まる間もなく、ハリーが続けざまに放つ無言呪文を捌いていく。数秒か数分が経った頃、示し合わせたかのように杖を振る手を止め、お互い相手へと構えたまま微動だにせず観察する。ハリーは息を切らした様子もないようだ。

 

「随分と腕を磨いたわね。正直、去年とは比べものにならないわよ?」

 

お世辞抜きで、本当にハリーは成長している。この短い応酬で、それが十分すぎる程に理解できた。これなら、あの女の子がハリーを押したくもなるのも分かる。

 

「力がないのは辛いからね。それを、あの魔法省の戦いと、新学期の襲撃で痛感したんだ」

 

そう言って、ハリーは杖を下げながら静かに語りだす。

 

「あの襲撃のあった時、僕はロン達と合流した後で死喰い人に向かっていったんだ。まぁ、当然というか何というか、ロン達には止められてね。でも、僕は一人で死喰い人に立ち向かっていったアリスを見ていたから、アリスが出来るなら僕にだって―――ていう、馬鹿な考えをしていたんだ。その所為で、あと一歩というところで、僕は大切な人を亡くしてしまうところだった」

 

ハリーは自身を自虐し、言葉を続ける。

 

「ほら、僕ってよく自信過剰とか言われてただろ? 特に、スネイプとかマルフォイとかにさ。あの二人を認める訳じゃないし、今も普通に大っ嫌いだけど、その言葉だけは正しかったんだと思った」

 

今日は驚くことが多い日だ。ハリーが、スネイプやドラコの言葉を受け止める日がやってこようとは。

 

「正直、これまでの僕は己惚れていたんだ。“生き残った男の子”なんて言われて、口では嫌がっていたけど、内心では特別な存在だということに興奮していた。だから、アリスやハーマイオニーに散々注意されても、特別な僕には必要ないって、どこかで思っていたんだ。実際はそんなことはないのに、必要以上の過信から事件の中心へと飛び込んでしまう。その最たる例が魔法省だよ。冷静に考えれば罠だって分かるのに、僕は、意味のない過信で大切な仲間を、大切な人を永遠に亡くしてしまうところだった」

 

ハリーは再び杖を構え直す。

 

「大切な人や仲間を守るには力がいる。でも力だけじゃ駄目だ。心がなくちゃ、力は味方にとっても暴力となってしまう。かといって、心を養っているだけじゃ、敵の暴力には抗えない。僕は未熟だから、力も心も両方を得られるほど器用じゃない。でも、得られなくても求めることは出来る。そして、僕の身近には力と心の両方を持っている人がいた―――そう、君だよ、アリス。僕はこの三か月間、君を目標にして鍛えてきたんだ」

 

―――えっ? これ、本当にハリー? ハリー・ポッター?

何か私の知っているハリーと全然違うんだけれど。正直、ハリーの大切な人が誰だとか、何で私を目標にだとかが思考の外に飛ぶくらいに驚愕している。

何か、まだ色々とハリーが語っているが、そのどれを聞いても私の記憶にあるハリーと関連付けることができない。まだ、ポリジュース薬でハリーに変身している詐欺師と言われた方が納得できる。

 

「だから、アリス。お願いだ。今出せる範囲でいい、僕と本気で戦ってくれ」

 

「―――いいわ、相手してあげましょう」

 

思考放棄。

考えても理解出来ないことなら、さっさと頭からなくしてしまう方が有益だ。とりあえず、本気の戦いが望みだということさえ分かれば問題無い。

 

私達は仕切り直すために距離を取る。周囲で観戦していた者には、邪魔にならないよう壁際まで下がってもらった。

 

「パドマ、合図をお願いできる? コインを打ち上げてくれるだけでいいわ」

 

「わ、わかった」

 

パドマに開戦の合図を託し、お互い杖を構える。私達の準備が整ったのを確認したパドマは、親指で勢いよくコインを上へと弾いた。

 

「シリティエル -流砂よ」

 

指がコインを弾く音と同時に呪文を唱える。足場がいきなり流砂へと変貌したハリーは体勢を崩し、倒れてしまう。誰かが卑怯だの何だのと言っているが、誰もコインが床についたら開始だとは言っていないので、非難される云われなんてない。勝負なんてものは勝てば官軍なのだ。さらに言えば生き残った者勝ちだ。

 

「エクスペクト・パトローナム! -守護霊よ来たれ!」

 

このまま一気に決めることが出来るかと思ったが、ハリーは守護霊を出して流砂から脱出を果たした。守護霊は熟練の魔法使いが扱うと物理的な威力を持たせることが出来るが、ハリーの守護霊は既にその域に到達しているようだ。

 

「ラミナス・ヴェナート -風の刃よ」

 

杖を二度三度振り、風の刃を飛ばす。流石に手足を切断する気はないので、威力は押さえている。直撃したところで、精々筋肉を切断するくらいだろう。

 

「防げ!」

 

ところが、ハリーは守護霊を盾にすることで風の刃を防いだ。盾にされた守護霊は霧散したが、消える寸前の守護霊を足場にすることで、ハリーは床へと足を付けた。

 

「「ステューピファイ! -麻痺せよ!」」

 

互いに失神呪文を放つ。私の方が唱えるのが速かったので、呪文はハリーの近くで衝突している。威力は私の方がやや上といったところか。このまま打ち合っていてもいいが、それだと疲労が激しいので早々に打ち切る。足元にある石を蹴り飛ばし、赤い閃光が火花を散らす場所へと当てる。赤い閃光は石が当たったことで軌道が逸れ、天井と床を砕くに終わる。衝突地点の近くにいたハリーは、呪文が弾ける衝撃に煽られて床に倒れてしまっている。

 

「エイムベート! -鎖になれ!」

 

この隙を逃さずに、ハリーの周囲にある石を鎖に変身させて拘束する。ハリーは鎖が巻き付く寸前で逃れようと動くも、続けて放った武装解除呪文で杖を手放すと同時に体勢をさらに崩す。そうなればハリーに抵抗できる道はなく、数秒で鎖の簀巻きハリーが完成した。

 

「ッ―――はぁ。駄目だな、うん。僕の負けだよ」

 

ハリーの負け宣言によって勝負は決着した。勝負を見ていた人達から拍手喝采が送られる中、ハリーの拘束を解く。ハリーは駆けつけてきたジニーに手を借りて起き上がっている。それを見て、先ほどハリーが言っていた大切な人というのはジニーのことかと当たりをつけた。

 

私の方にもパドマやアンソニー、ネビル、ルーナを始めとして人が集まり、皆して私とハリーの戦いについて感想を述べたり、意見を交換し合っている。

 

「―――やっぱり納得いかない!」

 

そんな中、幼い声が響き渡ったことで場が静まり返る。声の元を辿ると、今回の勝負を行う切っ掛けともなった少女が顔を赤くしながら私を睨んできていた。

 

「だってそうでしょ! この人は、開始のコインが落ちる前に呪文を使った。それってルール違反の不意打ちじゃない! 卑怯よ! 姑息よ! 正面からじゃハリー先輩に勝てないからって、貴女には魔女としての誇りがないんですか!?」

 

少女は一息に言い切ると、息を荒げてさらに睨んでくる。なるほど、さっき何やら叫んでいたのはこの子だったのか。

 

「卑怯とは心外ね。確かにコインで合図をすると言ったけれど、コインが床に着いたら始まりとは一言も言っていないわよ」

 

「そ、そんなの言いがかりよッ!」

 

「えぇ、そうね。で、言いがかりだとして、何か問題はあるかしら? DAに参加している以上は遠慮なく言うけど、戦いなんてものは究極的に、相手を殺すか自分が殺されるかの二択しかないものよ。殺してくる相手に対して一瞬でも躊躇すれば、次の瞬間には自分か自分の大切な人が死んでいる。死人に口なし、どれだけ悪辣非道な行いだろうと、最後に残るのがその手の連中だけになれば、結局はそれが正義になってしまうわ―――人はね、勝ったものを正義と呼ぶのよ」

 

「あ、う……で、でも、今回のは、試合でしょ。そんな、戦い、なんて」

 

少女は私の言葉にショックでも受けたのか、狼狽した様子を見せる。現実のほんの一部だけとはいえ、目の前の少女に言うようなことではないと思うが、DAに参加している以上は、今の情勢を判断できるだけの頭はあるということ。であれば、この子に掛ける言葉は甘い言葉ではなく非情の言葉を伝えるべきだ。現実なんてものは、一寸先は闇なのだから。

 

「ただの試合ならフェアプレーに乗っ取るべきでしょう。でも、これは闇の魔術に対抗するための、試合という名の模擬戦闘。であれば、限りなく実戦に近い状況を考慮するべきだわ。それに、ハリーからも本気で戦ってほしいと言われているしね。ハリーは私の本気の姿勢がどういったものか理解しているはずよ。実際、私が不意打ちをすることは予想ついていたんじゃないかしら?」

 

そう言って、ハリーへと視線を向ける。一連の会話を黙って見ていたハリーだが、話を振られると苦笑しながら静かに進み出てくる。

 

「ははっ、まぁね。アリスは敵には本当に容赦ないから、本気で戦ってほしいといえばあの手この手と仕掛けてくるとは思ってたよ。尤も、足場を崩されることは予想外だったけどね。その分、いい経験になったよ。ていうか、いくら不調で人形もないとはいえ、君、随分と手加減していただろ?」

 

「さて、なんのことかしらね?」

 

やっぱり、どうにもこの爽やかハリーに慣れない。見た目は良く知るハリーなのに、中身がセドリックそっくりなチグハグ具合が違和感を増長させる。

 

「アリスの話はちょっと過激だけれど、確かにDAで行う試合は実戦を想定したものだ。今までは基礎の向上や呪文の熟練度を上げることに重点をおいていたけど、これからはこういった戦いが多くなってくる。僕とアリスの試合はその第一幕といったところかな。」

 

ハリーは少女に近づいて、その頭に手を乗せる。それを見たジニーの眉がピクリと動いたのが見えたが、私は見なかったことにした。

 

「でも、君のその考えもとても大事なことだ。確かに、今の情勢では通用しないものかもしれない。でも、闇の魔法使いがいなくなって、本当に平和な世の中になったときには、君の考えこそが必要になってくる。だから、その考えを捨てようなんてことは思わないでほしい。胸の中に大切にしまって、必要になったときに取りだしてほしい」

 

そう言って少女へと微笑むハリー。元々整った顔立ちではあったので、その笑みを相まって好青年のように見えなくもない。いや、今のハリーの性格を考慮すれば、間違いなくセドリックに匹敵する好青年だろう。それを証明するかのように、周囲にいる女生徒の大半がハリーへと熱い眼差しを向けている。当然、それには件の少女も含まれている―――ジニーだけは憤怒の表情を浮かべているが。よく見れば、長い髪もザワザワと蠢いているようにも見えなくもない。ジニーの周囲にいた者は、その異常というか危険を察知したのか、距離を離している。

 

その後は、これからのDAの方針を説明したことで一時解散となった。方針説明の際に、実際の闇の魔法使いとの戦闘がどういったものなのか、魔法省で死喰い人と戦ったメンバーや新学期早々から死喰い人に追われていた私が、DAのメンバーに話を聞かせるというものがあり、結構な時間を取ってしまった。

私の話をしている際に、死喰い人を何人も殺したことを言ったときは、殆どのメンバーが顔を蒼白にしていたが、まぁ仕方がないことだろう。どういった方法で殺したのかまでは聞きたくなかったようで、話そうとしたところをパドマに口を塞がれてしまった。

 

昼食を終え、再びDAに集まる生徒達から離れ、私は必要の部屋の前に一人残った。ハリー達は何か聞きたそうにしていたが、事情を説明することで引き下がってくれた。

扉が完全になくなるのを待ってから、壁の前を三度往復する。現れた扉を潜り、久々に眺める本の山を暫し眺めてから、中に配置されているキャビネットへと近づく。軽くキャビネットをチェックして壊れていないことを確認してから、中へと入って呪文を唱えた。

 

 

「ふぅ。ここも、随分懐かしく感じるわね」

 

キャビネットを通じて、ホグワーツからヴワルへとやってきた私は、まず休息を取っているだろうドールズの様子を見にいくことにする。ヴワルの中であればドールズの回復速度は増すとはいえ、まだ十分に動けるほど回復はしていないだろうと思っていた。

 

「あっ」

 

「えっ?」

 

動きが止まる。それは私だけでなく、大書庫で忙しなく動いていたドールズも同様だ。

目の前の光景に、思わず目頭を揉むような仕草をする。別に目が付かれた訳ではないし、頭痛を感じたわけでもない。ただ、目の前の光景が唖然とするものであれば、思わずこのようなことをしてしまうのは、仕様がないだろう。

 

「私、休んでいなさいって言ったわよね?」

 

「あ、えっと~」

 

私の問い詰めるような、呆れたような言葉に曖昧な反応したのは上海だ。手を胸の前で弄りながら視線をキョロキョロとさせている。

 

「はぁ―――まぁ、貴方達が何で休まずにいたのかは、大体予想つくからいいわ。貴方達のことだから、私のことを想ってやってくれていたのでしょう? なら、感謝こそすれ怒ることなんて出来ないわ」

 

ドールズは、殆ど無人状態となってしまったヴワルで、失ったものを作ろうと奮戦していた。その行動は嬉しかったし、少し涙も出そうになったが何とか堪えた。

 

「さ、とりあえず休憩しましょう。これからは今まで以上に忙しくなるから、しっかりと計画を練らないとね」

 

久しぶりのゆっくりした時間なので、少し凝ったお菓子を作ろうとレシピを考えながら、ドールズを連れてキッチンへと向かった。

 

 

 




【長い強行軍が終了】
しかし、アリスは重症。
結局、見つけられる前に辿り着いてしまった。

【謝罪】
正直、ダンブルドアは謝罪したところで到底許せないだろ。常識的に考えて。

まぁ、私がそうなるように書いたことが原因であるからして、私こそ諸悪の根源であることも確かだろ。常識的に考えて。

【経験値】
今回、アリスが得られた経験はガリオン金貨一万枚以上の価値がある。
さらに、経験を積んで慣れてしまうと、もう手がつけられない。
慣れって、時には残酷なことです。


【DA規模拡大】
ガマガエルがいないだけでこれだよ。
いや、ガマガエルがいたからこそ、ここまでの成長を見せたとも言えるか。

なお、DA内部ではハリー派の派閥とアリス派の派閥が存在する模様。
作者は当然アリス派。

【ハリー・ポッター(覚醒) Lv87/MaxLv100】
魔法省と汽車襲撃の経験から覚醒した模様。
簡単に言えば、セドリック化を果たした。
単純にセドリック化といえど、それにより齎される実力は容易に原作超えを果たす。

今まで、これほどにキレイなハリーが存在しただろうか。

【アリスVSハリー 一回戦】
慣らし運転。
ハリーは普通に蛇語を使用。使える武器を使わない手はない。

【アリスVSハリー 二回戦】
早期決着。
アリスは本気になるほど、作業ゲームのごとく淡々となる傾向ににに、、、。

【名もなき少女】
井の中の蛙大海を知らず

【現実】
デッド オア アライブ

【ハリーファン急増中】
ジニー「パルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル、、、」

【ヴワル】
安置。

【ブラック家 家系図】
ちょっと、(今は破棄した)次回作用の参考資料として作った家系図。
ウィキペディア情報をメインに構築しているので、間違ってたらすんません。
これ見ると、純血の近親率はどれほどのものがかよくわかる。

ブラック家が、自らを貴族・王族と考えているのも当然か。

尤も、世にはもっと恐ろしい家系図が存在するが(誠氏ね)

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