魔法の世界のアリス   作:マジッQ

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はてさて、何カ月ぶりの投稿か。

”呪いの子”も発売したことですし、ここらで投稿しないとマジでエタる。

なんか、投稿期間が伸びちゃったせいか、出来が、、、。
文字数も。
2万って、どうやって書いたっけ。


ヴワル迎撃戦~奴はとんでもないものを盗んでいきました~

「さて―――これは一体、どういうことなのか。俺様はお前が満足いく説明をすることを期待しているぞ」

 

月明かりに照らされたマルフォイ邸の一室。そこではヴォルデモートとベラトリックスを始めとした死喰い人の幹部が部屋を囲い、その中央では憔悴した老人が力なく横たわっている。

 

「オリバンダーよ。俺様はお前の進言した通りに、俺様以外の者の杖を使用してハリー・ポッターを攻撃した。しかし、その結果はまたしても俺様を満足させ得ぬものとなった。そのことに対して、何か申し開きがあるのなら聞いてやろう」

 

ヴォルデモートは床に倒れ伏すオリバンダーの正面へと立ち、オリバンダーを見下ろす。口調こそ穏やかなものだが、オリバンダーを見据える視線は凍りついている。

 

「や、闇の帝王よ。わ、私にはわかりません。なぜ、そうなってしまったのか―――杖作りとして、わ、私は真実を申し上げました。貴方様とハリー・ポッターの間には、杖とは別の、特別な繋がりがあるのかも、しれません」

 

オリバンダーは息を詰まらせながらも、ヴォルデモートの詰問に脳を懸命に働かせて答える。答えるのが遅れてしまえば、すぐにでも殺されてしまう。それが分かっているからだ。

 

「ほう、特別な繋がりか。確かにお前の言う通り、俺様とハリー・ポッターには特別な繋がりがある。切っても切れない、とても深い繋がりがな」

 

ヴォルデモートは言葉を切ると、ゆっくりと歩き出す。

 

「オリバンダーよ、今一度問おう。俺様にとって最も役立つ杖は存在するのか? ハリー・ポッターを殺し、如何なる相手をも蹂躙できるような、俺様にとっての至高の杖は存在するのか?」

 

「お、恐れながら、貴方様にとって最高の杖は、生涯で最初に手にした杖をおいて、他にはありません。唯一の天敵である兄妹杖を除けば、貴方様の杖は如何なる相手にも、打ち勝てるでしょう―――で、ですが、もし存在するのであれば、それは恐らく宿命の杖しか、ありえないでしょう」

 

オリバンダーの発言にヴォルデモートは僅かな反応をみせる。

 

「宿命の杖―――死の杖、史上最強の杖とも呼ばれるかの秘宝の一つ、ニワトコの杖のことか?」

 

オリバンダーは、ヴォルデモートが当然のように知っていると口にしたことに驚きを露わにしながらも答える。

 

「は、はい。かの杖であれば貴方様の望みを全て叶えることができるでしょう。で、ですが、ニワトコの杖は存在自体が疑問視されている架空の杖とも言えるものですから―――」

 

「貴様ッ! あるかどうかもわからない杖を闇の帝王に語ったのか!?」

 

オリバンダーの発言にベラトリックスが牙を剝きだしにして杖を振り上げる。しかし、ベラトリックの行動は他ならぬヴォルデモートの手によって止められた。

 

「止せ―――オリバンダーよ、ニワトコの杖のことならば俺様も知っている。もちろん、現在その杖がどこにあるのかもな」

 

ヴォルデモートの言葉に、オリバンダーのみならず死喰い人も驚く。史上最強の杖、それが実在しているという事実が死喰い人を震わせ、同時に疑問にも持つ。

 

「で、では、なぜニワトコの杖を手に入れないのでしょうか? 命令していただければ、すぐにでも私が確保してみせます」

 

死喰い人の中からおずおずと出てきたのは、この館の本来の主であるルシウス・マルフォイだ。現在、マルフォイ家の立場は危ういものとなっている。ヴォルデモートの分霊箱である日記を失ったこと。魔法省での大失態。ホグワーツ特急襲撃から始まるアリスの殺害・捕縛任務の失敗。ドラコがダンブルドアを殺害したことを差し引いても、闇の陣営におけるルシウスの罪は大きい。分霊箱やドラコを傀儡にしたことなど知らされていない事実こそあるが、そんなことは関係がないのだ。

 

「必要ない―――ふむ、いい機会だ。お前達にも言っておこう。俺様は確かにニワトコの杖の存在と在りかを知っている。この杖が俺様に無敵の力を齎すことも理解している。しかし、その上で俺様は言おう―――俺様はニワトコの杖を必要とはしていない」

 

ヴォルデモートの言葉に全員が驚く。誰にも負けない杖を欲しているにも関わらず、望みの杖そのものであろうニワトコの杖を求めていないというのだから。

 

「ニワトコの杖は確かに最強の杖であろう。所有者には何物にも負けない魔法力を授け、呪文の威力を比類なきものにし、死すらも打ち砕く無敗の杖であるのだろう。しかしだ、それだけ強力な杖でありながら、歴代の所有者は須らく殺されている。これがどういうことかわかるか?」

 

ヴォルデモートの問いに答える者はいない。何となく答えはわかるが、それをヴォルデモートの前で口にしていいのか判断がつかないからだ。ヴォルデモートはそんな考えを見透かしてなお、言葉を続ける。

 

「いかに強力な杖であろうと所有者がそれに相応しくなければ真の力など発揮しない。では俺様はどうだ? ニワトコの杖の力を真に引きだせる所有者なりえるか?」

 

「勿論です! 闇の帝王の他にニワトコの杖を扱える者など存在し得ないでしょう!」

 

ベラトリックスは自信と敬意をもって答える。それに続いて他の死喰い人もベラトリックスの言葉に同意を示していく。

 

「そうだ。俺様ならばニワトコの杖を完璧に使いこなせるだろう。歴代の所有者のように、力に慢心してみすみす奪われるなどという愚かな失態もあり得ぬ」

 

ヴォルデモートの言葉に、では何故という疑問が広がる。何故、ニワトコの杖を手に入れようとしないのかと。

 

「俺様はニワトコの杖の力にこそ信頼を置いているが、その忠誠心には信頼していない。俺様が持つイチイの杖は長年俺様に付き従った杖だ。他のどの杖よりも俺様を理解し、最適な力を引きだす。そして、いまやその忠誠心はいかなることがあろうとも俺様から離れることはない。しかしだ、ニワトコの杖の忠誠心は非常に曖昧だ。最後に勝ち取った者にのみ絶対の忠誠を示すが、その忠誠はいともたやすく他者に移りやすい。奪われなければいい―――あぁ、確かにそうだろう。しかし、普通の杖とは異なる忠誠の示し方故に、何が切っ掛けで他者へと忠誠が移るのか不明瞭だ。そのような不安要素のある杖などには用はない」

 

そもそも、もはや存在してはいないだろうがな。

ヴォルデモートは内心で呟く。ニワトコの杖の最後の所有者であるダンブルドアも杖の価値について自身と同じ結論に至っているだろうと。しかし、ダンブルドアはニワトコの杖を使用し続けた。他者の手に渡るよりは、自らが使い保有していた方が安全とでも考えていたのか。しかし、ダンブルドアは死に、その杖は遺言によってアリスの手に渡ったとスパイによって聞かされた。アリスとヴォルデモートの思考は似通っているところが多い。故にわかる。アリスならば、ダンブルドアとは違いニワトコの杖を残すことはせずに破壊するだろうと。

 

不安要素は速やかに排除する。自衛手段としてはこの上ない効率的で非論理的だ。

 

「ワームテール、オリバンダーを地下牢へと閉じ込めておけ。オリバンダーよ、貴様のことはまだ生かしておいてやろう。貴様は俺様を満足させることはできなかったが、杖作りとしての腕は素晴らしいものであるからな」

 

死喰い人も解散させ、一人になった部屋で椅子に座り月を眺める。

 

「―――やはり、正面から守りを破るというのが愚策だったか。もはや、他の杖には期待など持てんな」

 

ヴォルデモートは自身のイチイの杖を指で撫でながら静かに目を閉じる。感覚を研ぎ澄まし、杖の声を聞く。他者には聞こえない、己にのみ聞こえる杖の囁くような声には愚直なまでの忠誠心が感じ取れる。

ヴォルデモートは確信する。やはり、己にとって最高の杖とはこの杖をおいて存在し得ないと。

 

「―――オリバンダーの言も、間違いではないな」

 

今夜は特別に、夕食に肉を追加してやろう。

 

 

 

 

結論からいうと、ハリーが考えていた透明マントを防御手段として用いるというのは無理だった。あのマントは、そのままだと確かにあらゆる呪文への耐性を持っているが、マントを身に着けている状態だと呪文への耐性が失われるらしい。ただし、マントが傷付いても身に着けていない状態であれば自然に修復されるようだ。

考えられるのは、マントが一度に効果を発揮する魔法効果は一つのみなのではないだろうか。身に着ければ透明化の魔法を発揮し、身に着けなければ魔法耐性と自動修復の魔法を発揮する。魔法耐性と自動修復については“無傷の状態を維持する”という魔法効果があれば可能だろう。

 

なので、もしマントを防御手段として使用するとしたら、手で持つなどして振り回すしかないということだ。一対一の決闘なら出来なくもないだろうが、混戦ともなると実戦では扱いづらいだろう。

 

 

 

数日後、ついにやってきたビルとフラーの結婚式当日。

二人の式は滞りなく進み、今はパーティーの最中である。会場には多くの魔法使いや魔女が集まり、それぞれが思い思いに談笑している。私もドレスに着替えて参加しているが、人と話す気もないので、知り合いの数人と話した後は会場の隅で目立たないようにちびちびとバタービールを飲んでいる。

ビルとフラー、ウィーズリー夫妻はそれぞれであいさつ回りをしており、他の面々は自由に食べて飲んでいる。ただし、ハリーだけは目立ちすぎるということで、変装してバーニー・ウィーズリーとして参加している。

 

バタービールを飲み終わり、お腹が空いたので軽く食べようと食べ物が置かれているテーブルへと近づき、いくつかお皿の上に取り分ける。元居た場所に戻ろうとすると、後ろから声を掛けられた。

 

「久しぶりだ、マーガトロイド」

 

「あら、クラムじゃない。久しぶりね」

 

声を掛けてきたのは、三大魔法学校対抗試合でダームストラング専門学校の代表選手として出場したビクトール・クラムだった。私達は近くの開いているテーブル席に座り、近況を話し合う。クラムはかなり英語を勉強したみたいで、前にあった訛りやたどたどしさがなくなっていた。それを言ったら、国際的なクィディッチプレイヤーとしての義務らしい。

 

「―――一つ、聞きたいんだが、君はあそこにいる黄色い服の男が誰か知っているか?」

 

クラムが指差す先にいるのは、先ほど話を交わしたゼノフィリウス・ラブグッドだ。今は変装したハリーとルーナの三人で会話をしている。

 

「ゼノフィリウス・ラブグッド。あそこにいるルーナの父親で、ザ・クィブラーという雑誌の編集長をしているわ」

 

「もしあいつがフラーの客でなければ、この場で決闘を挑んでいた」

 

クラムは血走った眼でゼノフィリウスを睨む。何がクラムをそこまでさせるのかと思い、ゼノフィリウスを観察していると、ゼノフィリウスの首にかけられたものに目がついた。ダンブルドアからハーマイオニーに遺贈された本に描かれていたグリンデルバルド、死の秘宝の印だ。

 

「グリンデルバルドの印かしら?」

 

クラムの様子から、可能性のありそうな意味合いの方を選んで問いかける。クラムは少し目を見開くが、すぐに元の険しい表情へと戻る。

 

「そうだ。あの汚らわしい印をかけているあいつを許せない。僕の国では奴の所為で多くの命が失われた。僕の祖父もその一人だ。多くの被害者にとって、グリンデルバルドが使っていたあの印は憎しみの象徴であり、それを身につけている奴も同様に憎いんだ」

 

ヴォルデモートが使う闇の印のようなものか。違うとすれば、闇の印は恐怖の象徴であり、グリンデルバルドの印は憎しみの象徴ということだろう。

しかし、ゼノフィリウスがグリンデルバルドの支持者としてあの印をつけているようには見えないが。ザ・クィブラーの編集長として考えると、あの印は死の秘宝の存在を信じる信者として身につけていると考えた方がいいだろう。

 

「彼とは先ほど話をしたけれど、闇の魔術に傾倒したり、グリンデルバルドを崇めるような人柄ではなかったわ。普通の人とは違う感性は持っているけれど、単純に好奇心からくるものだし、善悪の判断もできる。あの印を身につけているのも、グリンデルバルドにというよりは、死の秘宝に傾倒しているのだと思うわ」

 

「死の秘宝? なんだそれは?」

 

「吟遊詩人ビードルの物語の一つに出てくる三つの秘宝のことよ。杖と石とマントがあり、その三つを合わせたものをシンボル化したものが、ゼノフィリウスが首から下げている印なのよ。グリンデルバルドがなぜあの印を好んで使っていたのかは知らないけれど、年代的にはグリンデルバルドよりも昔のものよ。まぁ、あの印にはグリンデルバルドの象徴以外にも意味があるとだけ覚えておきなさいな」

 

そう説明すると、クラムは幾分か怒気を収めるが顔は険しくしたままだ。

 

「あの印に別の意味があるのは分かった。だが、それでも僕達のようなグリンデルバルドの被害者にとって、あの印は奴を連想するものに映ってしまう。あいつがそれを知らずにいるのだとしても、怒りを収めることは出来ない」

 

クラムはそれだけを言って、一言礼を言ってから人混みの中へと消えていった。ヴォルデモートが現れるまでは史上最悪の魔法使いと言われていただけあって、負けず劣らずの憎しみを受けているようだ。

 

それからは適当に料理を楽しんだ後、ノンアルコールのカクテルを手に夜風にあたるためパーティー会場の天幕の外に出る。僅かに流れる夜風が身体を撫で、火照り気味だった身体を冷ましてくれる。

 

「ふぅ」

 

夜風の心地よさに息を吐き、持ってきたカクテルを一口飲む。その時、闇に染まる夜空の彼方に僅かな光が見えた。それはかなりの速さで近づき、会場を覆う防護魔法を通り抜けると一直線に会場の真ん中へと降り立った。光は球状をしており、湯気のようにゆらゆらと揺らめいている。

 

「守護霊の呪文?」

 

誰かがそう呟いたとき、守護霊で形成された光から聞き覚えのある声が大きく響き渡った。

 

「魔法省が陥落した! スクリムジョールも殺された! 逃げろ! 連中はすぐにそこへ―――」

 

光は最後まで言い切らずに霧散していった。突然の事態に誰もが動けずにいた一瞬の静寂。それは襲撃という形で一気に崩れ去った。

 

「逃げろぉッ! 死喰い人だッ!」

 

外を警備していた闇祓いが声を張り上げる。同時に多くの黒い影が会場へと突撃し、手当たり次第に破壊を繰り広げた。会場にいた多くの人はすぐに姿くらましで逃げていったが、逃げ遅れた数人は死の呪文に当たってしまい倒れている。

 

「ステューピファイ -麻痺せよ」

 

会場に入り、侵入してきた死喰い人を失神させていく。襲撃してきた死喰い人の大部分は外で闇祓いと戦っているため、会場の中の死喰い人は比較的早く鎮圧が出来た。

 

「アリス! 君も早く逃げるんだ!」

 

ルーピンが散乱とした会場を掻き分けながら近づいてくる。その際に何人かの死喰い人を踏みつぶしていたが、起きる気配もないので無視していいだろう。

 

「ハリー達はどうしました?」

 

「ハリーとロンとハーマイオニーは無事に逃げた。来賓も全員逃げたから、我々も死喰い人を撃退しつつ避難していく。君は先に避難するんだ」

 

ルーピンの言葉を聞きながら周囲へと視線を巡らす。戦況は膠着しつつも騎士団側が若干優勢といったところか。これなら私が逃げても十分だろうけど、その分被害は広がってしまうだろう。

 

「いえ、このまま死喰い人の相手をしていますよ。勿論、自分の安全を最優先にしますから、本当に危なくなったら即逃げますけどね。私が退いたら、その分他の人の負担が増えてしまうでしょう?」

 

空から襲い掛かってくる死喰い人を地面へと叩き落としながら、渋るルーピンへとそう言う。ルーピンも実際のところ戦力は欲しいと思っているようなので、このまま死喰い人を撃退することとなった。念のため、ルーピンとペアになっての撃退となったが、それはそれでこちらとしても楽なので、素直に受け入れる。

 

倒した死喰い人が復帰しないように無力化しつつ、ひたすらに襲い掛かる死喰い人を落としていく。数を揃えたのか、クラウチやベラトリックスのような手強い相手はいないようで、次第に戦況は落ち着いていった。

最後、僅か数人にまでなった死喰い人達は、これ以上は無理だと判断したのか、暗闇に溶け込むように撤退していった。

 

襲撃に遭った会場は見る影もなく荒れ果てており、現在は壊れた会場の片付けと捕縛した死喰い人の連行準備を行っている。しかし、魔法省が陥落したいま、捕縛した死喰い人をどうするかというのが問題になっており、闇祓い数人が議論をしている。

 

「お疲れ様、アリス。大人としては不甲斐ないばかりだけど、君がいてくれて助かったよ。おかげで、沢山の仲間の命を失わずに済んだ」

 

「そこまで大袈裟に言われるほどではないですよ。むしろ学生の身で出しゃばり過ぎているのではと心配しているぐらいですから」

 

会場の片付けをしながらルーピンと話す。実際、私は大人を差し置いて勝手に行動していることが殆どであるので、人によっては私の行動をよく思わない人もいるのではかなろうか。

 

「そんなことはないさ。みんなアリスには感謝しているよ。闇祓い達も、君のことを高く評価していた。学生の身なのに大人顔負けの実力だ、将来は是非闇祓いに欲しいってね」

 

「闇祓いになるかは分かりませんけど、どちらにしても魔法省を取り戻さないことにはどうにもなりませんね」

 

まぁ、魔法省を取り戻すということは、ヴォルデモートを倒すというのと変わらないだろうが。

話している間に粗方は片付け終わり、これ以上はもういる必要もないだろうということで、騎士団のメンバーに一言言ってから姿くらましでヴワルへと戻ることにする。ルーピン達はこれからハリーの捜索に出るとのことで、私は学校が始まるまでは連絡が取れるようにしておいて、基本待機。学校が始まればホグワーツで待機していてほしいとのことだ。

 

 

 

荷物をまとめてからヴワルへと戻り、新学期に向けての準備を考えつつ寝室へと向かう。時間も遅いし、疲れたのでシャワーは明日浴びることにする。

 

「―――ッ」

 

寝室への廊下を歩いているとき、首筋にピリッとした感覚が走る。その瞬間来た道を全力で戻る。

 

「誰ッ!?」

 

玄関前のホールに出て杖を構えながらいるであろう何者かへ叫ぶ。しかし視界には誰もおらず気配もしない。しかし、玄関の扉が僅かに開いており月明かりが中へと入りこんでいるのが見えたので、すぐにホールを走り抜けて外へと飛び出す。

 

「ッ―――そこッ!」

 

外へと出て素早く周囲を見渡すと、ヴワルの敷地の境界線へと駆け出しているネズミが見えた。しかも真っ直ぐではなく、ジグザグに動いている姿から、地面に仕掛けてある罠を避けている。ネズミ目がけて呪文を放つが、距離がある上に小さく素早いので当てることができない。

 

「エクスパルソ! -爆破!」

 

最後の賭けでネズミの周囲一帯を吹き飛ばす。砂埃が舞い、風によって視界が晴れていくが、その前に結果は分かっている。ネズミが敷地の境界線を抜けたのか防護魔法に反応したのだ。

 

「逃げられたッ」

 

あのネズミが何なのか、いつからヴワルにいたのか。考えるものの、すぐに思い当たる。あのネズミはまず間違いなくピーター・ペティグリューだ。魔法仕掛けの罠を回避しながら呪文を避けての逃走。まず普通のネズミにはできない。そんな普通ではないネズミであり、私から逃走をする理由があるネズミなんて、ピーター・ペティグリューしか思い当たらない。恐らく、結婚式パーティーの会場を死喰い人が襲撃した際に姿を消して私の傍で隠れていて、私の姿くらましに合わせてついてきたのだろう。

 

「私に気づかれずについてきたにも関わらず、私を襲わずに逃走したということは、この場所を知るのが目的か」

 

だとすれば、ピーター・ペティグリューはすでにヴォルデモートの元へ戻り、ヴワルの場所を教えているだろう。忠誠の術で守られているヴワルも、私がピーター・ペティグリューに位置を教えてしまった以上効果を発揮しない。秘密こそピーターは漏らせないが、ヴワルのある“位置”自体は守人でなくても教えることができる。たとえ、隠されたものを知覚できずとも、そこにあるとわかっていれば攻撃する方法などいくらでもある。

新たに守護呪文を掛けるにしても、そんな時間はないだろう。遅くても夜明け、早ければすぐにでも死喰い人を率いて襲撃してくるかもしれない。

 

「みんな! 大至急集合!」

 

ヴワルへと入りドールズを呼び寄せる。恐らくだが、先ほどの襲撃に死喰い人の幹部級がいなかったのは、ここを襲撃するために温存していた可能性がある。ならば、奴らが来る前に出来る限りの迎撃準備を整えなければならない。

集合したドールズにそれぞれ指示を出していく。普段は停止している罠の起動、戦闘に備えての魔法薬の選別、ヴワルに備わっている防護魔法の準備、騎士団への伝達など。

 

出来る限り早く準備を進めていく。その途中で騎士団に伝達に行っていた露西亜が戻ってくる。

 

「露西亜、騎士団はなんて?」

 

「ごめん、見つからなかった。戦った形跡があったから、多分死喰い人と戦いながら移動しているんだと思う」

 

「そう」

 

どうやら、騎士団は第二弾の襲撃に遭っているようで、応援も呼べない状況となった。

 

「キャアッ!?」

 

その時、ヴワルの周囲に張られている防護魔法に強い衝撃が走り、その衝撃がここまで伝わってきた。急いで二階に上がりバルコニーへと出る。

 

そこで見えたのは。

 

「―――は、ハハッ。もう、いい加減にしてよね」

 

ヴワル周辺の建物を破壊してできた空間を埋め尽くす数の魔法生物の群れだった。吸魂鬼、トロール、巨人、蛇。さらに、どこから連れてきたのかドラゴンに、これまたどこから連れてきたのかキメラなんてものまでいる。それに加えて死喰い人や人狼に吸血鬼もおり、いまから戦争をするとでも言わんばかりの戦力だ。

もう、ここまできてしまうと呆れを通り越して笑いがでてくる。

 

「はははッ―――ほーんと、なんで私がこんな目に合わなくちゃならないのかしら」

 

ここにきて、自分に降りかかる災難に対して恨み言がでてきた。いや、こうして言葉にしていると、よく今まで我慢していたなと思う。確かにね、結構論理的に問題がありそうな行動をしてきたと思うから、自業自得とも言えるかもしれない。それに、ハリーに比べたら降りかかる災難は少ないと思う。しかしだ、どうにも私は孤軍奮闘し過ぎている気がするのだ。いや、実際に孤軍奮闘したのなんて一年の頃と六年の頃の二回だからそうでもないか? それにドールズもいたし孤軍ではないか。

しかしだ、魔法も満足に使えない冬の逃走劇なんてものは流石に学生でやるものではないだろう。

 

今回のこれについてもそうだ。学生一人に対して凶悪な魔法生物と死喰い人による戦争? なにそれふざけるなと叫びたい。ヴォルデモートに目をつけられた? 偉大な血を継いでいる? 知るかそんなの死んでしまえ。

 

「―――はぁ、ここにきて母さんの手紙の言葉が響いてきたわ」

 

あの時、魔法に関わる道を選択しなければこのような状況になることはなかったのに、私は選んでしまった。その結果がこれだ。降りかかってくる災難に恨み言もあるが、ハリーと違って私には引き返せる選択肢があったのだ。こうなる可能性が予想できたにも関わらず今の選択をしたことは、間違いなく私の責任だ。それからも歩んできたのは、私が選んできた道。であれば、今のこの状況も、私が選んだ結果の一つにすぎない、か。

 

「仕方ないわ。こうなったら―――とことんやってやりましょうか!」

 

上海がタイミングよく持ってきたフェリックス・フェリシスを一気に飲み干し、気合を入れる。落ち込んでいた気分は高揚し、思考がクリアになる。仏蘭西と京が持ってきた戦闘装備一式を身につけて、最上階に作られた展望台に陣取る。

 

「さ、いくわよみんな。人の敷地を土足で踏み荒らそうとする不届きものを叩き潰しましょうか」

 

元気に返事をするドールズの声を開戦の合図に、私は人形召喚のカードを切った。私を守る“リトルレギオン”、敵を集団で殲滅する“スーサイドスクワッド”。そして決戦用の切り札である―――

 

「“巨神ゴリアテ人形”」

 

さらに対人用の切り札―――。

 

「“グランギニョル”」

 

さぁ、開戦だ。

 

 

 

 

ヴワルでの戦いが幕を開けてから半日。ヴワルの周囲や敷地内は数多の魔法生物の死体で埋め尽くされていた。ヴワルの周辺は、すでに見る影もなく破壊し尽されている。元々、ダイアゴン横丁の奥の奥にあり、隠蔽の為に空き家で囲われていた場所なだけに人的な被害は出ていないものの、戦闘自体が激しすぎるため異常事態ということはダイアゴン横丁やノクターン横丁に伝わっているだろう。伝わっているからといって助けがくるとは思っていない。どこの誰が暴れまわる魔法生物と人形の戦地に飛び込んでくるというのか。私だって当事者でなければ関わろうとしない。

 

死喰い人達は最初に魔法生物を突撃させてきた。防護魔法が壊されて全方位から襲われるのは面倒であるため、あえて正面に三つだけ穴を開けてやる。するとまぁ、興奮している魔法生物は我先にとその穴から敷地内へと入ってくるのだ。無論、馬鹿正直に正面から入ってくる相手には相応の対応を見舞ってやる。

 

初手は地面に仕込んだ地雷だ。これは魔法仕掛けの地雷で、罠の上に乗った対象の重さによって威力が変わる仕組みになっている。踏み込んだのは巨人。魔法生物の中でも超重量に分類される巨人が踏み抜いた地雷は大爆発を起こし、近くにいたトロールやキメラや人狼、吸血鬼を巻き添えに肉体が爆ぜていく。

複数個所で一斉に起こった爆発により怯んだ相手に襲い掛かるは、ハリーの護送作戦でも使用した“スーサイドスクワッド”による無限爆破と強制転移による殲滅攻撃。防護魔法を抜け出て爆発と復元を繰り返す人形に加えて、強制的に地の底海の底へと連行する人形の二重攻撃に、相手は次々と数を減らしていく。

 

しかし、やはりドラゴンを仕留める威力には足りないのか、爆散した死体を乗り越えて数体のドラゴンと、その影に隠れるようにして数匹の蛇が侵入をしてきた。この蛇も、体長が五メートルはある大蛇だ。大蛇はドラゴンを盾に地雷を避け、襲い来る人形を壊し続けている。さらにはキメラも入りこみ、敷地内は凶悪な魔法生物が暴れまわる超危険区域へと変わる。魔法耐性が高く質量も大きい生物には“スーサイドスクワッド”の人形も通用しないが、目くらましには十分であるので、変わらず突撃させ続ける。

 

ドラゴンがヴワル目がけて突撃してくるが、その前に立ちはだかるのは巨大な人形。以前、魔法省で出した“試作ゴリアテ人形”の完成版である“巨神ゴリアテ人形”だ。ベースはオルレアンの姿で全長は十メートルとさらに巨大に、素手だった手には身体と同サイズの鉄槍を装備している。この鉄槍もただの鉄ではなく、見た目は先が尖っただけの飾りも何もないシンプルなものだが、ルーン加工を施し、バジリスクの毒を仕込んだ毒槍である。さらには防護魔法を幾重にも重ね掛けしたボディに、魔法で重くした超重量の質量を誇るゴリアテ。

 

「グギャァァアアァッ!」

 

超重量と上段からの勢いが乗った刺突は容易にドラゴンの皮膚を突き破り、その身の内側をバジリスクの毒で侵していく。しかし、それだけの威力を発揮するデメリットとして、機動が遅いというわけではないのだが急な方向転換が出来ず、動きを止めた後の出出しが鈍いのだ。

当然その隙を逃すわけもなく、大蛇が巻き付き絞めつけてくる。その力は凄まじく、防護魔法が施されているゴリアテ人形の胴体を絞め潰してしまう。しかし、その大蛇に対して別のゴリアテ人形が槍で刺し殺す。ゴリアテ人形が一体潰されてしまったが、当然このゴリアテ人形も“影法師の呪い”によって複製されたものなので、いくら破壊されようと復元を繰り返して再び立ち上がる。

ゴリアテ人形は全部で二十体。数では負けていようが、こちらは何度破壊されても蘇る不死身軍団なので長期戦になるほど有利になっていく。

 

また、戦いの激地であるヴワルだが、目立った戦闘の傷はほぼ残っていない。これは元々ヴワルに付与されている防護魔法によるもので、つまりパチュリーが施していた護りである。敷地内の建物は完全に固定化されており、地面といった部分は時間の逆行が施されている。また建物の表面には水が流れている。この水はグリンゴッツの地下にある“盗人落としの滝”と同じものであり、この水が流れている間は如何なる呪文も通さない対魔法の絶対防御である。しかもご丁寧に、水によって固定化の呪文が流されないようにルーンによって保護されているという徹底ぶりだ。ここら辺の技術は私にもできないので、彼女の力量に舌を巻くばかりである。

つまり、ヴワルの直接攻撃するには、魔法を用いない物理攻撃で固定化とルーンが施された護りを突破する必要があるという鬼畜難易度である。しかし、今私がいる展望台は建物の外であるために防護魔法の範囲外である。建物の中にいれば安全なのだが、それでは全方位を見ることができないので迎撃には合わないのだ。なぜこれだけ徹底した防護を施しておきながら展望台には対策がないのかと思うが、そもそも彼女がいればこんな状況にならないし、なっても必要はないぐらい自分で護れるということだろう。

 

次々侵入する魔法生物の隙間を通り抜けて、死喰い人や人狼、吸血鬼も進軍してくる。“スーサイドスクワッド”の餌食になる者もいるが、全員ではなく人形を交わしながら進撃してくる。しかし、そんな“スーサイドスクワッド”を突破してくる相手用に展開しているのが、ゴリアテ人形同様の切り札“グランギニョル”による人形だ。“グランギニョル”は蓬莱シリーズによる構成だが、装備構成は完全に殺人仕様となっている。手に持つ鎌は毒仕込み、身体の中にも毒袋が入っていることに加えて、“目くらまし術”によって不可視化しているという、暗殺部隊のような性質の悪さである。気がつかないうちに接近されて毒鎌で斬られ、接近に気づき破壊しても、仕込んだ毒袋が破裂して襲い掛かる。破壊せずに燃やすなり凍らせるなりしても、そっちに気を取られているうちに別の人形が襲い掛かる。

 

そうして戦いを続け、日が昇り始めた頃。二つの影が魔法生物と人形の入り乱れる戦場を通り抜けてくる。影は空を飛行しながら私目がけて襲い掛かってきた。

 

「「アバダ・ケダブラ! ―息絶えよ!」」

 

二つの影から同時に“死の呪文”が襲い掛かるが、それは私を囲む“リトルレギオン”によって阻まれる。破壊された人形はすぐに復元し元通りだ。

 

「チッ! 邪魔な人形だねッ!」

 

影の一つが屋根に降り立つ。もう一方の影は建物目がけて呪文を放っているが、流れる水によって全ての呪文が流されていく。

 

「なんだこれはッ。呪文が全て流されてしまっているのか!?」

 

呪文を放つのを止めた影も屋根に降り立つ。現れたのはベラトリックとクラウチの二人だ。クラウチの奴、生きていたのか。本当にしぶとい。

しかし無傷ではなかったのか右目が義眼になっている。恐らくムーディの魔法の目と同じものか似たものなのか、グルグルと動いている。

 

「邪魔なのは貴方達の方よ。毎度毎度襲い掛かってきて、大人しく家に籠っててくれないかしら。それともいい加減死にたいの? ていうかクラウチはいい加減死んでくれる?」

 

「言ってくれるな小娘。あの時はよくもやってくれたな。おかげで、身体こそ治ったが、右目はこの様だ」

 

「あの高さから落ちてそれだけの怪我で済んでいるなんて、しぶとさはゴキブリ以上ね―――とりあえず死んで」

 

話している間にクラウチの周囲を“グランギニョル”の人形で取り囲む。そして一斉に全方位から襲撃をかける。しかし、クラウチは義眼によって見抜いているのか、身を翻しで反撃に出る。

 

「ふんッ! ネタの割れた人形ごときにやられるかッ!」

 

クラウチは凍結呪文を膜状にして全方位へと放つことで近づく全ての人形を無力化している。どうやら、いままで仕掛けてこなかったのはこちらの手の内を観察していたのが理由なのか、隙の無い対策で人形を無力化してくる。それはベラトリックも同じで、クラウチ同様に人形を漏らすことなく凍結している。

 

「あ、そう。ならこれならどうかしら?」

 

“スーサイドスクワッド”を呼び寄せ、二人と距離を離した状態で誘爆させる。連鎖的に起こる爆発は巨大な煙幕を作りだし、二人を覆いつくしていく。

 

「舐めるな!」

 

当然それを黙って受ける二人ではなく、呪文で風を生み出し凝縮。それを破裂させることで煙と人形を同時に吹き飛ばし、風圧に乗って動くことで包囲網からも逃れる。しかし、こちらもそれを呑気に見逃す気はない。この二人はこの場で確実に殺すと決めた。

 

「上海と京は私の護衛、露西亜はスーサイドスクワッド、オルレアンはゴリアテの指揮。倫敦と仏蘭西はヴワルの防護魔法の維持と調整、吸魂鬼を通すんじゃないわよ。蓬莱は全体を見てグランギニョルを指揮しなさい」

 

今まで待機させていたドールズに指示をだして動かす。ドールズは返事をするや否や即座に散開。それを見ることもなく、私はベラトリックスとクラウチへ呪文を放ち続ける。放つのは無言呪文による武装解除や失神呪文。本当は死の呪文をぶつけたいが、あれは魔力を大きく使用してしまうため乱用はできない。代わりに、呪文の出が速く低コストで、相手の戦力を奪うことが可能な武装解除や失神呪文は、まさに今の状況に対し最適な呪文だ。生身の人間という点では多勢に不利だが、戦力という意味では圧倒的にこちらが優位。一気に叩きのめす。

 

しかし、こいつらのことだ。ダンブルドアが死んだあの日のように偽物という可能性も否定できない。まぁ、あの時の偽物と比べて実力が大きく違っているので、確証はないがこの二人は本物だろう。

―――ていうか、偽物だろうと本物だろうと殺すことに変わりないので、あれこれ考えるだけ無駄か。

 

 

そこからの戦いは過去経験した中でも、最も激しいものとなった。双方の間には呪文が弾ける閃光が途切れることなく舞い起こっていく。そこに人形の爆発による衝撃と爆風も合わさり、私達三人のいるこの場所は、正しく爆心地と言える惨状と化した。

しかし、戦いの天秤は次第に私へと傾いていく。クラウチ達は私相手に対して愚策ともいえる持久戦へと持ち込んでしまった。奴らは個々の実力は高くとも体力魔力共に限界がある。対してこちらは、尽きることない戦力にものを言わせた永遠に続く波状攻撃。時間を浪費してしまった時点で相手に勝ち目はなくなっていた。

 

すでに多くの死喰い人が死に、ドラゴンを始めとした魔法生物も一匹残らず駆逐済み。そして、相手の最大の戦力であるクラウチとベラトリックスも限界に近づいている。クラウチは義眼と右腕を失い、身体には数えきれない裂傷が刻まれ血塗れとなっている。ベラトリックスに至っては両手を失い、全身に火傷を負って地面に倒れ伏している。

 

「ラミナス・ヴェナート -風の刃よ」

 

そして、これでベラトリックスの息の根を止める。放たれた風の刃はベラトリックスの首を切断。ベラトリックスの身体は数回痙攣をしたのちに、完全に動かなくなった。

 

「さて、これで残るは貴方一人ね」

 

地面に片膝を突く満身創痍のクラウチに杖を向けながら言葉を突きつける。この場で動いているのはクラウチと私、そして私達を囲むようにして警戒している数多の人形の軍勢。クラウチにとってはまさに絶体絶命といえる詰みの状態だ。

 

「本当なら捕縛してから連行して尋問するのが正しいのでしょうけど、貴方は下手に生かしておくと何を仕出かすか分からないからね―――ここで死んでちょうだい」

 

私が杖を上げて最後の呪文を唱える。クラウチは最後の抵抗とばかりに杖を突き出すようにして、この戦いで最速であろう一撃を放ってくるが、一切の警戒を緩めない人形の一体に容易く防がれてしまう。

 

「アバダ・ケダブラ -息絶えよ」

 

放たれた緑の閃光がクラウチの胸に寸分の狂いなく命中する。そして、クラウチは抵抗なく身体を地面へと倒し、二度と動かなくなった。

 

「―――アバダ・ケダブラ -息絶えよ」

 

再度、死の呪文を放つ。クラウチの身体はその衝撃で吹き飛び、地面をゴロゴロと転がる。

 

「―――」

 

ハンドサインでグランギニョルの人形数体に指示を出し、クラウチの身体に毒鎌を叩きつける。そして、最後には悪霊の火でもって塵すら残さずに燃やし尽くした。

 

「ここまでやれば、流石に死んだわよね?」

 

分霊箱すら破壊する攻撃の三連コンボだ。例え、如何なる呪文が掛けられていようとも、ここから復活することはないだろう。

 

辺りを見渡す。戦いが終わり正直休みたいが、この惨状をどうにかしないと落ち着いて休めもしない。なにせ、ヴワルの敷地内は多くの死体で溢れかえっているのだ。

人形に指示を出しながら死体を一か所に集めていく。ただ、魔法生物の死体は利用価値があるので除けておき、後日に解体作業を行う。

 

「エト・フラーマ・ラーディス -厄災の獄炎よ」

 

集めた死体を悪霊の火で焼却処分するが、やっていることが完全に犯罪者のそれだと思い溜め息を漏らす。

 

敷地内の掃除を粗方終え、魔法生物の死体を腐食しないよう処理をして、小さくしてから研究室の保管庫へと運び込む。それから、敷地内の破損したところを修復し、こびりついた血を洗い流す。そうして一時間後にはヴワルは元通りの姿を取り戻した。ただ、敷地内に仕掛けていた無数の罠までは手が回らなかったので、近いうちにどうにかしないといけないだろう。

 

再び襲撃があるかもしれないので、ゴリアテを含めた人形に警戒態勢を敷き、私は疲労した身体を休めようと移動する。

ヴワルの場所がバレたことで、ここも安全な場所ではなくなった。防衛するにはホグワーツ並みかそれ以上の能力があると思うが、私がいないときにヴワルを占拠されては目も当てられない。なので、一度睡眠を取ったあとは、ヴワルを隠蔽する算段を立てないとならない。ヴワルの移動自体は難しいことではないのだが、問題は移転先の候補地だ。あまり遠くへと移動するのは困難だし、ある程度敷地の空間を拡縮できるといっても、近くでヴワルを移動できる場所もないため、中々の難題である。

 

しかし、今回の戦いによって、ヴォルデモート側の死喰い人は殆ど残っていないだろうから、すぐに戦いを仕掛けられるほど余裕もないだろう。最も注意すべきクラウチとベラトリックスがすでに死んだ以上、今日明日中に解決しなければならないほどでもない。少なくても、新学期が始まるまでの間は私がいるのだし、数日間は大丈夫なはずだ。

そう結論つけた私は、度重なる疲労で身体がふらついてきたので手早くシャワーで汚れ落とし、食事も取らずに栄養ドリンクだけ飲んでベッドへと沈んだ。途端に睡魔が襲い掛かり、意識は闇に落ちていった。

 

 

―――ヴワルから、あるものが盗まれていることに気付かぬまま。

 

 

 

 





【ニワト子はいらない子】
勤勉な帝王様は死の秘宝のこともきっちり予習済み。
ニワトコの所在も把握。

でも、必要とされないのがこの作品のニワトコの立場。
悲しいね。

【ひらりマント】
つまり実戦では使えねぇ。

【クラム氏】
アリスの友人枠の一人。
今回、アリスのおかげで一つ賢くなった。

【死喰い人in結婚式パーティー】
死喰い人「アバダ・ケダブラ!(訳:俺たちにもお祝いさせろよ!)

【アリスさん頼れる】
アリス「襲撃? 優雅にお出迎えしなければ(訳:馬鹿? 死ねばいいのに)」

【戦闘シーン】
難しい。
何が難しいって、アリスを強化し過ぎたせいで、解説終了が戦闘終了とイコールになってしまうってこと。

【ピーター(鼠)】
多分、この作品でのMVPはこいつ。
忠誠の術破りの専門家として活躍できそう。

―――しかし、アリスの触れたことは万死に値する。

【忠誠の術】
見えなくても、そこにあることがわかるなら、マップ攻撃すればいいんじゃないかな?

【アリスさん家に団体様のご到着】
色々と嘆くアリスだが、アリスが死喰い人に言ってきたように、これもまたアリスの自業自得であるからして。

仕方ないね!

【ヴワル迎撃戦 開幕】
アリスのホームでの総力戦。
アリスの戦力がアレだから迎撃出来るが、普通なら魔法省も陥落できる戦力を容易している闇陣営。

【巨神ゴリアテ人形】
・ゴリアテシリーズ完成版。ベースはオルレアン。
・全長十メートル。
・軽装タイプの甲冑装備。
・ルーン加工済み鉄槍~バジリスクの毒仕込み仕立て~装備。
・防護魔法コーティング済みボディ。
・秘密の超体重。
・自爆機能は撤去。
・無限復元機能常備。

―――なんだこの化け物。
こんなのに突貫しなければならない死喰い人が不憫でならない。

とりあえず、今回のことでヴワルの敷地がかなり広いということがわかった。
空間でも拡張してんのかな? 流石魔境。

【盗人落としの滝に類似した流水】
服従の呪文も洗い流すグリンゴッツの素敵アイテム。
これが建物の壁に満遍なく流れていたら、それつまり最強の対魔法防御じゃないだろうか。パッチェさんマジぱねぇ。

【グランギニョル】
・蓬莱シリーズ。
・バジリスクの毒仕込み鎌標準装備。
・目くらまし術常時発動。
・撃墜時の置き土産として毒袋仕込み。
・無限復元機能常備。

―――なんだこの(略。

【インフレ】
マジどうしよう。
アリスの戦力広げ過ぎて、パワーバランスがヤバイ。
一方的な超強化は、ストーリーの質を衰退させる可能性があるという一例を示してしまったかもしれない。

しかし、いまから抑止力を働かせることも無理難題。
つまり、ここからパワーバランスを拮抗ないし、近づけるテコ入れが必要なわけだが。

ルート① アリス無双ルート一直線。
ルート② 戦力拮抗させての一心不乱の大戦争。

しかし、戦争的には相手より戦力を多く揃えるのが良策だから、アリスが間違っている訳ではない。

なお、↑はアンケトではないので。

【クラウチ&ベラトリックス】
マジ仲がいいなこいつら。
つか、クラウチのしぶとさに驚愕。

【アリスVSクラウチ&ベラ】
少し前まではクラウチとの一騎打ちですらギリギリだったのに、今じゃ二人相手にしても優位に戦えてますよ。

主人公だからといって、これは酷い。
―――しかし止めない。止められないジレンマ。

【闇陣営全滅】
アリスの持久戦・長期戦を仕掛けてはいけない。
もっと言えば、迎撃戦をやらせてはいけない。それアリスの得意分野だから。

【三蓮コンボ】
”死の呪文””バジリスクの毒””悪霊の火”
これくらって生きてる奴は化け物通り越して変態。

【アリスの家の住所が公開されました】
引っ越ししないといけない。
しかし場所がない。

【奴はとんでもないものを盗んでいきました】
この話は、これに尽きる。

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