ヒキニート「島巡り?」   作:宇佐美大和

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ヒキニート「島巡り?」

 

 

「だから、ぼくは警察官になりたいです!」

 

 

 

 

 

 

 10年くらい経った今でも、はっきり覚えている記憶がある。

 

 授業参観か何かの、自分の夢を発表する会だったハズだ。あの時間は雨が上がった直後で、雲間からの光が不思議な差し込み方をしていたのを覚えている。

 

 

前の発表が終わり、その少年は壇上に上がる。

 

 

 この時の窓からの光の当たり具合を、

 時計の針の配置を、

 少年の持った原稿用紙の汚れを、

 何故か、鮮明に頭に、刻み込まれている。

 

 

「12番、オミナ。僕の夢は────」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

──ゆっくりと、足を踏み出す。

 

 壁の隙間からそっと相手を見ると、まだこっちには気づいてない。チャンス!

 

 再装填(リロード)、そして突撃(アタック)

 

 相手がこっちに気づいた、構えようとする銃が火を吹くまでの、一瞬の勝負だ。撃ちまくれ!

 

 

「うおおおおおお────‼」

 

 

……がむしゃらに撃ちまくった、ハズだったんだが。

 

 

「おい! こんなにラグるのおかしいだろ! チートだこいつ、滅べチータァァァァ──!!」

 

「オーちゃんうるさいッッ!」

 

「うっせェババア!」

 

「何その言い方! 昨日からずっとゲームしかしてないじゃないの! やめないとWi-Fi切るからね!」

 

「チッ……わーったよ」

 

 

 渋々ゲーム機を置いて、凝った背中と目元をほぐす。いい加減このゲームにも飽きてきた。なにしろ煽りとチートが多い。とりあえず熱くなったゲーム機を窓際の風に当てようと立ち上がると、壁掛けのカレンダーと目が合った。

 

 既に2、3ヶ月めくっていないカレンダーの日付け、つまり2、3ヶ月昔の日付けに、「Happy Birthday☆」とペンで書かれている。

 

 ああ、そういえば──このゲーム、この20の誕生日に貰ったんだっけか。

 

 

 

 

 

 隙があるので自分語りをしよう。

 

 俺はまあ、この様子を見ればお察しだが、ヒキニートというやつだ。20を過ぎて家に閉じこもり、ゲームとネットサーフィンばかりしている。ヒキニートデビューは確か、10歳とかそこら──リアルが辛くなって、ログアウトした次第である。

 

 お袋(ババア)は俺に働いてほしがっているが(当たり前だ)、俺は家から出る気は一切ない。ここにいた方が幸せだからだ。一度きりの人生なんだから、辛い思いはあんましたくないわけだ。

 

 とまあ、1時間前の俺はそう思っていた。

 

 

 

無職の若者を応援しよう!島巡り費用応援宝くじ!

 

 

 このいかにもな胡散臭いキャンペーンのせいで、俺の平穏は崩壊させられようとしているのだった……

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 さっきのこと。

 

 

「オーちゃん? 開けるからね」

 

「あー?」

 

 

 お袋(ババア)が一週間ぶりに要塞の扉を開けた。何の用だ?

 

 

「大事な話だから、よく聞きなさいね。宝くじが当たったの」

 

「ほーん、で俺にはなんかくれんの?」

 

「オーちゃんには50万円全額あげる。だから……」

 

「おっマジ⁉ よっしゃ、ちょうど課金したかったところで」

 

「だからよく聞きなさいって言ってるでしょ! いい、確かにオーちゃんには50万円あげる。でも、その代わり」

 

「あなたには、島巡りに出てもらいます」

 

 

「────は?」

 

 

 

*  *  *

 

 

 

 島巡りとは何か──という問いには、「ググれ」と答えるのが一番効率的だ。そうだな……アローラ民としての見解を言わせてもらうと、良く言えば微笑ましい子供の伝統行事、悪く言えば子供の自尊心を叩き折りかねない悪習。ってところか。

 

 ちなみに俺は出ていない。島巡りに出るのは基本11歳。当時の俺はすでにネトゲに興じていたからだ。

 

 だから、世間の子供が体験するポケモンとの絆やら、熱いバトルやらは一切経験していない。ポケモンすら引きこもってからはまともに触れていないのだ。

 

 

 

 

それに、出ろ、と。いきなり。

 

 

 

「いや、まず何? その島流し流刑絶縁宝くじって」

 

「島巡り費用応援宝くじね。20歳以上の無職が対象で、当たったら50万円と冒険グッズ贈呈だって。あんたこの間20歳になったでしょ。ちょうどいいから行ってきなさい」

 

「んなこと言われて行くわけねーだろ」

 

「いーえ。絶対に行かせるからね。お母さんもう決めたから。もうオーちゃんのご飯は作りません」

 

「ぐ……」

 

 

 飯の話をするのは、卑怯だと思う。

 

 

「いや、ポケモン、持ってないし」

 

「近くに博士が住んでるでしょ。頼んでどうにかしてもらいなさい」

 

「マジかよ……」

 

 

 嗚呼、アローラを守る太陽と月の獣よ。どうして俺の平穏は守ってくれないのか。いや守ってはくれない。(反語)

 

 

「言い忘れてたけど! 途中でエーテル財団寄ってきなさいね! 宝くじに当たって島巡りに出るならそういう約束だから!」

 

「……はぁ〜い……」

 

 

 

 第一目標、ククイ博士の家。

 

 こうして俺の島巡りは、幕を開けたのだった。


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