時は大正時代。
人知れず人喰いの鬼を狩る鬼殺隊と呼ばれる政府非公認の組織が存在していた。
人間とは比べ物にならぬほど強力な力を持つ鬼と、か弱き人の身で戦う彼らの命は吹けば飛ぶように軽い。
鬼は力が強く、多少の傷を瞬く間に治す再生能力を持ち、中には強力な妖術を使う個体もいる。そして、殺すには特殊な刀で頸を落とすか日光に晒さねばならない。
そんな種族の格差をものともせずに鬼を数多く狩っている存在が“柱”と呼ばれる鬼殺隊の中心人物たちだ。
彼らは当主・産屋敷耀哉の元で、半年に一度
本来ならば最高幹部である“柱”しか参加することができない柱合会議。
そこに、柱でもないのに参加を義務付けられている隊士がいるらしい……
――産屋敷家 鬼殺隊本部
半年に一度の柱合会議。
多忙な柱たちが一堂に会する数少ない機会であるが、その現場はピリピリとした空気に包まれていた。
「おい、冨岡。この間、お館様から直接命を授かったそうだが、何を頼まれたんだ?」
「……お前に話すことはない」
「あ゛? テメェ、どういうつもりだァ?」
「言葉通りだが?」
「ああ、そうかい。テメェ、喧嘩売ってんだな!?」
その理由は風柱・不死川の問いに対して水柱・冨岡がバッサリと冷淡に返事をしたことが原因だ。
一触即発の雰囲気。
そんな危険な状況に、声を上げる人物がいた。
「お待ちください、風柱様! 今のは決してそのような意図の発言ではございません! どうかお聞きください!」
「ああ? テメエか。
今にも冨岡に殴り掛かろうとしていた不死川を、声を張り上げて止めた和と呼ばれる隊士。
短く刈り上げた髪に丸い大きな目が特徴的なこの男は、和
階級は甲と柱に次ぐ地位に就いている。と、言っても本来ならば柱合会議に参加できるような階級ではない。
その役割とはただ一つ――――
「先ほどの水柱様の言葉は『いつも通りの鬼の調査と殲滅で変わったこともなかったので、特に話すこともない』という意味です。決して、風柱様を見下しての発言ではございません!」
言葉がいつも足りない水柱・冨岡義勇の言葉を補って皆に伝えることである。
通称、『柱合会議水柱専属翻訳係』
別名、『冨岡語翻訳係』である。
「ん? 俺はそう言ったはずだが?」
「~~~~ッ! そう言えてないからこうなっているのですが!?」
不思議そうに首を傾げる冨岡に、言葉にならないうめき声をあげて頭を抱えた後思いっきりツッコミを入れる結一郎。
彼のツッコミに柱の皆は頷いたのであった。
この水柱、天然にして口下手という最強(最悪)の組み合わせの属性を備えており、いわゆるコミュ障気味である。
「まったく。冨岡さん、そんなだからみんなに嫌われるんですよ」
会議に参加している蟲柱・胡蝶が呆れたように告げる。
3歳年上の冨岡に対してとんでもない物の言いようだが、一連の会話の流れの後だと否定しづらいところである。
「俺は嫌われてない」
冨岡本人はこう言って否定しているが、賛成してくれる人物はおらず。
味方がいなくて内心泣きそうな冨岡。
そんな内心地獄の冨岡の元へ一筋の蜘蛛の糸がたらされた。
「おやめください、蟲柱様! そのようなことをおっしゃるのは!」
「結一郎……」
上司である柱に対してハッキリとその主張をぶつける結一郎。
自分の味方をしてくれた結一郎の姿に冨岡は目を輝かせた。
「おや、和さんは冨岡さんが嫌われてないというんですか?」
格下から自分の言葉を否定されても表面上はにこやかに問いを返す胡蝶。
若干、怒っている空気が感じ取れるが、結一郎は怖気づくことなく声を張り上げた。
「水柱様が嫌われているかどうかなんてどうでもよいことです!」
「どうでも……」
冨岡の目が死んだ。
「では、どうしてですか?」
「蟲柱様、よくお考え下さい。『嫌われてる』なんて言われて水柱様がどう思うのか!」
「どうって、それは……」
言葉に詰まる胡蝶しのぶ。
つまりこれは叱られているのだろうか?
人を傷つけるような言葉を口にするなという。
しかし、そうであれば「どうでもいい」という発言はおかしいのでは?
答えが分からず悩む胡蝶へ、結一郎がその答えを告げた。
「水柱様は、『自分が話をすると不快にさせるようだからしゃべるのは必要最小限にしよう』とお考えになる方なんです!」
「それは……ッ!」
結一郎の言葉にハッと何かに気が付いたように口に手を当てて驚く胡蝶。
自分のした行いの重さに気が付いたのだ。
今現在、ただでさえ口数が少ないというのにさらに減らす?
すなわち、会話難易度の上昇という結果ではないか!
「むぅ、そうなのか! 冨岡、どうなんだ?」
「結一郎は俺の心が読めるのか?」
今まで黙って話を聞いていた炎柱・煉獄杏寿郎が冨岡に尋ねれば、当の本人も否定しないという始末。
「蟲柱様、お願いいたします! どうか、どうかこれ以上この人から会話能力を奪わないでください!」
「和さん、頭を上げてください。私が悪かったです。気を付けます」
深々と頭を下げる結一郎に胡蝶が謝罪の言葉を口にする。
結一郎の悲壮な様子に涙があふれそうだ。
現に恋柱の甘露寺蜜璃などは涙目で、岩柱・悲鳴嶼行冥は既に涙を流している……いや、この人はいつも通りだ。
『俺の口下手程度でそんな深刻そうな雰囲気になる必要があるのか? ちょっと皆大げさすぎるだろう』
目の前で繰り広げられる茶番劇を見てそんなことを思う冨岡義勇であった。
せめてそれを口に出せば、認識の是正ができるというのに!
義勇さん、あなたそんなのだから……
和 結一郎。
柱でもないのに柱合会議に参加する唯一の隊士の苦労は続きそうである。
「水柱様、お願いですから、ちゃんと喋ってください!」
鬼滅の刃にハマって、衝動的に書き上げてしまった。
もっと鬼滅の刃の作品が増えるといいなぁ……
このままでは「読みたい作品がないなら自分で書けばいいじゃない」という、自家発電行動をとってしまいそうです(汗)