柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2019/10/07投稿

登場人物が多くなると大変でした。


その11(柱合裁判編)

 ――柱合裁判

 

 鬼殺隊の最高幹部である柱たちによる隊律違反を犯した隊士を裁くために行われる裁判だ。

 竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)は今まさに判決を待つ身としてこの場にいるのだ。

 後ろ手に拘束された姿はまさに罪人。

 鬼を狩り人を守ることを目的としている鬼殺の剣士が鬼を連れて歩いていた事実は背任行為にほかならず、重大な隊律違反と言うほかない。

 実際、その場にいる柱たちの反応は厳しいもので――

 

「裁判の必要などないだろう! 鬼を庇うなど明らかな隊律違反! 我らのみで対処可能! 鬼もろとも斬首する!」

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

 

 即時処刑を主張する炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)に、音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)が同調する。

 この場には風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)を除いて八人が揃っているが、誰一人として炭治郎に味方をする者はいない。

 岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)、蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)も即時処刑に賛成。

 反対意見を述べる蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶと恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)も『お館様の判断を聞いてから』という理由であり、せいぜい中立程度の立場だ。

 霞柱・時透(ときとう)無一郎(むいちろう)にいたっては欠片の興味も示していなかったりする。

 唯一味方をしてくれそうなのは、水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)くらいのものだが、拘束はされていないものの彼も隊律違反を犯した立場であり、発言力は低いのが現状だ。

 もっとも、義勇の口下手は皆の承知の事実であるので、発言力があったところで正面から庇って力になってくれるかは疑問なのだけれど。

 

「皆さま、炭治郎君の処刑に自分は断固反対させて頂きます!」

 

 そんな中、一人炭治郎を庇うのは(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)だ。

 お館様の命令で炭治郎の内偵調査をしていたため、他よりも事情を知っている結一郎は必然的に彼を弁護せざるを得なかった。

 結一郎は真正面から柱と対峙して見せる。

 

「何故そいつを庇う結一郎。お前がそいつを庇う理由が理解できないが? 隊律違反の重大さも分からない馬鹿になったか?」

「罪人を庇うからにはお前にも責が及ぶ……それを分かっているのだな?」

 

 そんなことなど知らない小芭内と行冥の二人が結一郎に不審の目を向けてくる。いや、彼らだけではない。その場の全員が結一郎へ視線を向けていた。

 

「よもや、その少年が連れている鬼は人を襲わないなどと言うのではあるまいな!?」

「ええ! “そうだ”と言わせていただきます、煉獄師匠!」

 

 人を襲わない保証ができるのかと問う杏寿郎に、結一郎は力強く肯定する。

 その返答はいささか予想外であったか、面食らったように一瞬驚愕が場を支配する。

 そして次には張り詰めたような厳しい雰囲気が場を満たした。

 当然、その矛先は結一郎だ。

 

「そこまで派手に主張するからには、それなりにこちらを納得させられるだけの根拠があるのだろうな?」

 

 天元がその圧を強めて結一郎に返答を強いる。

 結一郎はその圧に臆することなく、堂々と返事をしてみせた。

 

「もちろんあります!」

 

 なんの躊躇いも見せず即答する様に一同は黙らざるを得ない。

 彼らに畳みかけるように結一郎は一つの事実を告げる。

 

「自分はお館様の命を受けて炭治郎君のお目付け役をしてました」

「なんと! お館様の命でか!?」

 

 結一郎の告げる言葉に杏寿郎が驚きの声を上げる。

 彼の言葉はほかの柱たちの代弁でもあった。

 

「そうです。そしてその目的は……言わずとも分かりますね?」

「むぅ……」

 

 今回の件について当主・産屋敷(うぶやしき)輝哉(かがや)の明確な意思が存在していることをほのめかされては、下手に独断で事を進めるわけにもいかない。

 悩ましさに自然と口からうなり声が漏れ出る。

 納得は出来ないが、今は矛を収めるしかない。しかし不満が消えるはずもなく。

 

「ふん! 俺たちにも秘密でお館様から直接命を受けるとは信頼されているようで何よりだ、結一郎。いつの間にかずいぶんと偉くなったようだな? 何せ柱の俺たちにも秘密の任務を任せられるんだからな」

 

 多少の不満と嫉妬を含んだ八つ当たりのような嫌味を小芭内が投げかけてくる。

 自分の弟子が知らないうちに当主から特別な任を与えられていたと知り複雑な心境がこぼれ出た言葉であった。

 ネチネチとしたある意味いつも通りな彼の言葉に結一郎はあえて笑顔で返答して見せる。

 

「えぇ、そうなのです! この度、鬼殺選抜隊“旭”の“棟梁”を拝命致しました。今回の会議から正式に参加させて頂きます!」

 

 皆様、改めて宜しくお願い致します。と、にこやかに告げられて小芭内は布で隠された口元がヒクつくのを感じた。

 「偉くなったな」と嫌味を言ったら「偉くなったんです」とそのまま肯定されるとは思いもしない。

 事実、今までは会議を円滑に進めるための特例で参加が認められていたのだが、今ならば正式な立場で参加できるのだから。

 柱と棟梁は個の最高戦力と集団での最高戦力の長という違いはあれど、格としては同格である。

 弟子からの思わぬ反撃を受けてさらに言葉を重ねようと思った小芭内であったが、杏寿郎や蜜璃が結一郎の昇進を祝う言葉を口にし始めたため機を逃してしまう。

 どうしてくれようと考えていたところに、彼とは別に声を上げる者がいた。

 柱のだれかではない。現在、咎を待つ身である当事者・炭治郎である。

 

「まっ、ゲホッ! まってくだ……ゲホゲホッ!!」

「水を飲んだ方がいいですね」

 

 結一郎が自分を庇って孤立しているのを黙って見ていられず声を上げようとした炭治郎だが、前回の激しい戦闘のダメージから声がでなかった。

 すかさず、しのぶが小さな瓢箪(ひょうたん)に入った鎮痛薬入りの水を飲ませて上げた。

 一息ついた炭治郎は、自らの主張をハッキリと告げる。

 

「俺の妹は鬼になりました。だけど人を喰ったことは無いんです! 今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません」

「だ、そうだが? 結一郎」

 

 炭治郎の言葉を受けて天元は彼を庇っている結一郎に視線を向ける。

 結一郎はその意をくみ取って返事をする。

 

「はい。その点についても把握しております! 今までの経歴で人を襲っていないことはもちろん、将来の危険性を確認するためにいくつか実験と監視はしておりましたので」

「結一郎さん、あの晩に禰豆子(ねずこ)のところに血の匂いがしていたのは……」

「そうです、炭治郎君。きみには申し訳ないことをしましたが、禰豆子さんが本当に人を襲わないか勝手ながら確認をさせてもらいました」

 

 これまでの経歴を把握しており、将来の危険性についても考慮していると述べる結一郎。

 その言葉に心当たりがあった炭治郎はその点について尋ねれば、結一郎は否定することなく首を縦に振って答えた。

 結一郎がいない間も、お供の猿・闘勝丸(とうしょうまる)が監視していたことも告げて謝罪を口にする。

 仲間である鬼殺隊士を密かに監視していたのだ。正直気分は良くはない。

 

「もういい、そいつの事は分かった。お館様がいらっしゃるまでとりあえず保留でいいだろう。だが、そこにいる冨岡についてはどうするね? よりにもよって柱が隊律違反とは……どう処分する? どう責任を取らせてどんな目に遭わせてやろうか」

 

 話題を変えたのは小芭内だ。

 炭治郎のことは結一郎が保証するというのでひとまずお館様が来るまで置いておくことにして、同じく隊律違反をした義勇の処分について話題を上げる。

 もとより義勇のことを嫌っているせいか、その口調はとげとげしいものだ。

 

「それこそお館様が来てからの判断でしょう。柱の処分を決められるのはさすがにお館様以外にはいらっしゃらないかと」

 

 すべてはお館様の判断待ちだと反論するのはしのぶだ。

 その言はもっともであり、小芭内は苛立たし気に眉をひそめた。そうして、その怒りの矛先を結一郎に向けて口を開いた。

 これ、八つ当たりという。

 

「それで? 結一郎、お前は冨岡についてはどう思う? そこの小僧と同じように庇いだてするのか?」

 

 先ほどは炭治郎のことを庇った結一郎に義勇の隊律違反について判断を聞く。

 同じように庇うのかと問われ、結一郎は不思議そうな顔をして告げる。

 

「え? 何故自分が冨岡師匠を庇わないとダメなんです?」

 

 理解できません。と、首を横に振る結一郎に場の空気が凍る。

 特に、義勇はその言葉を聞いた瞬間ものすごい勢いで結一郎に顔を向けた。

 信じられないものを見たかのような顔をして。

 あまりにもあんまりな言葉にしのぶがおずおずと問いかける。

 

「何故って……結一郎さん、それでいいんですか?」

「ええ、いいんですよ! 『自分は口下手だから、結一郎に任せておけば大丈夫だろう』なんて考えているお師匠さんですから!」

 

 なんでこっちに任せっきりなんだゴルァ! という副音声が聞こえてきそうな結一郎の言葉に皆の視線が義勇に向けられる。

 そのため、彼の言葉にギクリと身を強張らせるのをバッチリ見られてしまっていたり。

 

「冨岡さん、せめて自己弁護くらいはご自分でやらないと」

「いや、しのぶさん。弟弟子が大変な時に一言も喋らない時点でマズいと思います!」

 

 しのぶの忠言に被せるように結一郎が文句を言う。

 たしかに今回の件では発言力は低くなっているのは間違いないだろうが、それでも発言しなくてよいわけではないのは明白なわけで。

 むしろ、発言力が低くなっているからこそ頑張って発言しなければいけないのではなかろうか?

 口下手な義勇にそれを求めることは酷な話だと結一郎も理解はしているが、それでも発言なしはなぁ~、というのが結一郎の偽らざる気持ちであったりする。

 生殺与奪の権を他人に握らせるなよ!

 

 ちょっとイラッとした結一郎は、この際なので思いっきり爆弾を放り込むことに決めたのだった。

 

「まったく! 那田蜘蛛山での出来事のせいでしのぶさんと顔を合わせづらいからって、一人離れたところに立っているのはみっともないですよ!」

「なっ!?」

「ちょっと!?」

 

 那田蜘蛛山での出来事を蒸し返されて目を見開く義勇と(ついでに)しのぶ。

 何のことか分からない他の面々は当然結一郎に詳細を尋ねた。

 

「えっと、冨岡さんとしのぶちゃんに何かあったの?」

「ええ、あったんですよ。自分が思わず二人が男女の関係だったのかと勘違いするような出来事が」

「え!? 本当に!? ぜひとも聞かせてほしいわ!」

 

 色恋沙汰の匂いを感じた蜜璃が結一郎の計算通り強く食いついてきた。

 他の柱たちも何か面白いことが始まったと静聴の様子だ。

 いつの時代もスキャンダラスな話は皆興味が湧くのである。やられた方はたまったものではないが。

 

「結一郎さん、それは口外しない約束だったはずです!」

「そんな約束はした覚えがありませんので! していたとしても、お二人が男女の関係だったことを言わないという話であって、それが誤解だというならまた別の話です!」

「また詭弁を――」

「それでそれで!? 山の中で二人に何があったのかしら!?」

 

 しのぶの抗議は蜜璃によって押し流されてしまい、止められる様子はない。

 それに乗じて結一郎はノリノリで話し始めていた。

 ……彼もストレスが溜まっているんだ。暴走の一つや二つしてもおかしくはないよね?

 

「ちょっと言葉だけでは説明しづらいですね……蜜璃師匠、伊黒師匠、ちょっとお手伝いをお願いいたします」

 

 言葉だけの説明では不十分だと、蜜璃と小芭内で当時の再現をしようとする。

 なお妨害しようとした義勇としのぶは、状況を面白がった天元と上手く彼に乗せられた杏寿郎によって邪魔されていたり。

 そうして結一郎の指示に従って那田蜘蛛山での義勇としのぶの状況が再現されたのだ。

 

 ただし、義勇の役割が蜜璃。しのぶの役割が小芭内で。

 

「キャー! たしかにこれはキュンキュンする状況ね!」

「おい、結一郎。なんでこの配役にした!」

 

 男女逆ながら壁ドンのシチュエーションに乙女心が爆発している蜜璃。

 対して小芭内は、好意を寄せている蜜璃と密着していることに喜びを覚えながらも自分がしのぶ(女側)の役をさせられたことに怒りを滲ませている。

 結一郎の答えは無情なもので。

 

「伊黒師匠の方が身長が低かったので……」

「~~~~ッ! そんなに違わないだろうが!」

 

 小芭内と蜜璃の身長差は五センチメートル。たかが五センチ、されど五センチ。

 この身長の差で男としての扱いをされなかったのだから文句も出ようというもの。

 

「伊黒師匠は甘露寺師匠のお相手は嫌でしたか?」

「誰もそんなことは言ってない!」

「伊黒さん、私じゃ嫌……だったかしら」

「そんなことはない。俺がお前を嫌うことなど……」

 

 結一郎の言葉と蜜璃の表情に翻弄されて、もはや義勇のことなど頭から吹き飛んでいる小芭内。

 横を見れば義勇としのぶは先の那田蜘蛛山での出来事について言い合いをしており、なんともカオスな状況であった。

 

「うまいことやったじゃねえか、結一郎」

「……分かった上で乗ってくれた宇髄師匠には感謝してます」

 

 この状況を引き起こした結一郎にそっと近づき耳うちをする天元。

 彼は結一郎が話を逸らすために場をかき乱したことを見抜いていたのだ。

 見抜けたのは元忍びとしての観察力か? いや、妻帯者の経験・貫禄というやつか?

 

「結局、お館様がいらっしゃるまで待つしかないからな。暇つぶしさ。ところで、結一郎」

「はい、何でしょうか?」

「那田蜘蛛山での話、あれはお前が意図的にやったのか?」

 

 那田蜘蛛山で義勇としのぶの関係を誤解していた、というのは今回のように場の意識を逸らすためにわざとやっていたのかを問う天元。

 

「……フフッ」

 

 結一郎は笑顔で笑ってみせたのだった。

 いや、どっちなんだよ!?

 

『そういえば、さっきから喋ってるこの人。誰だっけ?』

 

 ちなみに、先ほどから全く会話に参加していない無一郎は結一郎のことを思い出せずにずっと首を傾げていたのだった。

 うーん、カオス。

 

 

「オイオイ、何だか騒がしくなってやがるなァ」

 

 混沌とした状況に遅れてやってきたのは風柱・不死川実弥だ。

 隠の制止を無視して禰豆子の入った箱を片手に現れた彼は砕けた空気に苛立ちを隠せなかった。

 

「一体全体どういうつもりだァ? 隊律違反の隊士! それに連れられた鬼! そんな許しがたい奴らを前に何をゴタゴタと喋ってやがる!」

 

 殺気を露わに日輪刀に手をかける実弥。

 抜刀し、手にした箱に刃を突き立てる……直前、結一郎が待ったをかけた。

 

「不死川師匠! 勝手をされては困ります!」

「結一郎、テメェ!」

 

 とっさに駆け出し、実弥の腕を押さえて刀が突き立てられるのを防いだ。

 止められた実弥は結一郎を睨め付け吠えるように怒りをぶつける。

 

「なんでテメェがこの鬼を庇うんだァ? 俺を納得させるような理由があるんだろうなァ?」

 

 自らの行動を邪魔された実弥は、当然その理由を問う。

 その質問に結一郎は困った顔になってしまった。だって、その質問――

 

「あの、すみません。師匠。それ、さっき話したばっかりなんですよ」

「あぁ!?」

 

 つい先ほど説明を終えたばかりの話なのだ。

 正直もう一回同じ説明をするのかと思うと気が進まないわけで。

 これについては禰豆子の箱を取りに行って遅れてきた実弥が悪いのだ。

 まさか、『俺がいない時に勝手に話を進めるな』と、文句を言うわけにもいくまい。

 

「チッ! 後からちゃんと説明を聞かせてもらうからなァ! で、この状況はなんだよ?」

 

 結一郎が炭治郎たちを庇っていることは、後から説明を聞くと一旦脇によけて今の状況について聞く実弥。

 遅れてやってきたら義勇としのぶは何か言い争いをしているし、小芭内は蜜璃に拘束されていたのだ。

 はっきり言って、訳の分からない状況なのは間違いない。

 なので、そのことについても聞いてみたのだが……

 

「えっと、不死川師匠。すごい下らない話になりますが……聞きます? 本当に」

「……本当に何があったんだよ。てめえらァ!」

 

 説明すると長くなる上に割と中身のない話をしなければならないわけで。

 端的に言えば、もう一度この話をするのが面倒くさいのだ。

 

 状況が分からず混乱が深まるばかりの実弥。

 しかし、残念ながら問い詰める時間はなかった。

 

「お館様のお成りです!」

 

 当主・産屋敷耀哉の到着を告げられ、すぐに場を移動して傅く体勢になる。

 他の柱たちと並びながらも、状況が分からない心のモヤモヤは積もるばかりだった。

 ちょっと遅れて話題に入れなかっただけで、決して実弥がハブられているわけではないので悪しからず。

 


 

 そうして始まった柱合裁判。

 それはやはりと言うべきか穏やかなものにはならなかった。

 炭治郎・禰豆子の兄妹を容認する耀哉に、行冥・天元・小芭内・杏寿郎・実弥の五人の柱が反対意見を述べた。

 耀哉は元柱の育手(そだて)、炭治郎と義勇の師である鱗滝(うろこだき)左近次(さこんじ)の手紙を公開して禰豆子が二年以上もの間人を喰っていない事実、また禰豆子のために三人もの人間が命を懸けている事実を突きつけた。

 『人を襲わない保証が無い』という反対意見に『人を襲う保証がない』こと。そして、禰豆子の事実を否定するために同じく命を懸ける覚悟を問うたのだ。

 さらに、炭治郎が鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)と遭遇した事実も告げ、炭治郎が鬼舞辻へつながる手がかりになるかもしれないという考えを見せたのだった。

 

 耀哉の説得により柱のほとんどが一応は納得した表情を見せるなか、一人実弥は唇が切れるほどに歯を噛み締めて不満を表していた。

 

「人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です! 承知できない!」

「不死川師匠! 何をするおつもりです!?」

 

 再び刀に手をかける実弥に、結一郎が止めに入る。

 何をする気か尋ねられ、実弥は自分の意図を語った。

 

「何って、証明だ! 鬼という者の醜さを!! 鬼が人の血肉を前にして耐えられるはずがねェ!!」

「待ってください、不死川師匠!」

 

 自らの腕に刃を当てて血を流そうとする実弥。

 その彼を結一郎は必死に止めた。

 なぜなら――

 

「それ、もうやりました! 禰豆子の前で稀血を見せても耐えていたのは確認済みです!!」

 

 もう実証済みなのだから。

 

「もうやった……だとォ?」

「はい! 以前、自分のお供が師匠の血を貰いに来たことがあったと思うのですが……」

「なっ!? あの時の! そのために使ってやがったのか!?」

 

 自分の血を使って禰豆子が人を襲うことを証明してやろうとしたら、すでに人を襲わなかったと言われてしまうとは。

 しかもその証明に使われたのは、今証明に使おうとした自分の血なのだからやるせない。

 なんだか今日はやろうとすることが片っ端からスキップされているような感じがする実弥であった。

 

「結一郎、お前は……」

「はい。お館様の命で炭治郎及び禰豆子について内偵調査をしておりました。なので、もし禰豆子が人を襲うようなことがあれば、自分も腹を切って詫びましょう」

 

 自分の報告でお館様が判断を間違えたとなれば、自分も責を負わねばならないと覚悟を見せる結一郎。

 また彼らを庇うために命を懸ける者が現れたことで、彼らを認めないと反対出来るものはいなくなったのだった。

 

 

「それはそれとして、何勝手に人の血ィ使っとんじゃ、テメェは!」

「使い道も聞かずに渡したの師匠ですよね!?」




なんだか前回から人の恋愛関係にちょっかいをかけるキャラになったような気がする結一郎君でした。

翻訳係コソコソ話
 実は早めに到着していたお館様。柱たちの会話が面白くてちょっと聞き耳を立てていた……って言ったらどうします?


ミニ次回予告
宇髄「やっぱり、俺が一番結一郎に影響を与えてるな。派手に!」
その他師匠s「「「「「「あぁ!?」」」」」」」

小ネタ集になる予定。
次回もお楽しみください!

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