柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2019/10/21投稿


その14 前編(無限列車編)

 柱合会議から三か月後。

 鬼殺選抜隊“旭”の運用再訓練を終えて、結一郎は部隊を離れて任務に就いていた。

 といっても、単独任務ではない。

 また竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)のお目付け役としての任務だ。

 もはや禰豆子(ねずこ)の危険性を測るという意味合いはないのだが、関わった者としてけじめをつける意味で裁判後の炭治郎の初任務に同行することになったのだ。

 今回の任務は、『無限列車』と呼ばれる汽車で短期間のうちに四十名以上の行方不明者が出ているということで炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)が派遣されたという経緯を持つものだ。

 

 駅で炭治郎と我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)嘴平(はしびら)伊之助(いのすけ)と合流。

 駅員に帯刀を見とがめられ警察を呼ばれそうになったところを結一郎が口八丁で何とかごまかしたという一幕があったりした。

 鬼殺隊でも随一の会話能力を持つだけあって、最初は不審な目で見られていたものの最後は『新訳・桃太郎』という劇の衣装だと納得させることができた。

 まぁ、彼のお供の三匹もその説得力を持たせる一助になったのは間違いない。

 

 汽車の中で杏寿郎と合流した四人。

 結一郎が炭治郎と杏寿郎の会話を聞きながら少し形の崩れたおにぎりを食べて腹ごしらえをしているうちに汽車が動き出した。

 ほどなくして車掌が切符の確認のために現れたので、購入した切符を取り出すために懐を探る。

 ――違和感があった。

 目の端に映る光景に何かおかしな点を見つけたのだ。

 ついでに車掌に注目してみれば、焦り、緊張、そして切実なまでに何かを求めるような気持ちがくみ取れた。

 怪しさを感じた結一郎は一計を案じる。

 

「切符を拝見致します……」

「あー、すみません。購入した切符をどこかで落としてしまったようです! 料金はお支払いしますので新しく発券して頂けますか?」

「え……それは、その……」

 

 想定外というように、慌てた表情を見せる車掌。

 結一郎はそこを逃さずたたみかける。

 

「どうかしましたか? 切符の発券ができなかったら後から手続きできるものでも良いので出していただけませんかね?」

「いえ、あの……切符を……」

「できませんか? それとも、()()()()()()()()()()()()理由でもあるのですか?」

「……ッ!?」

 

 結一郎の指摘に息をのむ。

 結一郎は立ち上がり問い詰めるように言葉を投げかける。

 

「話は変わりますが、今日は皆さんお疲れのようです。あなたが切符を切ったあとにみんな眠ってしまっています! 珍しいこともあったものですね?」

「…………ぐっ」

 

 結一郎が感じた違和感はそれだった。

 夜行運転の汽車とはいえ、乗客が切符を確認した後にすぐに眠り始めるというのは異常だ。

 気が付くのが遅れて自分以外の皆は切符を切られてしまったが、この車掌がこの異常に関わっている可能性を考えて切符を無くしたと嘘を吐いたのだ。

 その懸念は当たっており、車掌は態度を一変させて結一郎に怒鳴りかかってきた。

 

「う、うるさい! どうして切符を素直に切らせないんだ! 夢を、家族に会える夢を見せてもらえないじゃないか!」

「夢を……それが血鬼術(けっきじゅつ)? ならばあなたは鬼の協力者ということか」

 

 脅すように刀の鯉口を切り、抜刀する様子を見せつける。

 傷つけるつもりはないが、多少怖い目にあってもらってでも情報を引き出さねばならない。

 

「あなたが知っていることをすべて話してもらいましょう!」

「……黙れ、黙れ黙れ黙れぇ! 切符を出せ、切符をだせええぇ!」

 

 詰問に対して激昂する車掌の男。

 結一郎は目を見開いて驚いた後、一呼吸の間で彼を突き飛ばした。

 

 次の瞬間、結一郎の身体を強い衝撃が襲う!

 何とか身をひねり衝撃を緩和。

窓を突き破って車外に放り出されそうになるのを枠に指をかけて何とか耐えきった。

 顔を上げてみれば、そこには一体の女の鬼がいた。

 

「カアアアア!!」

「チィイ! 闘勝丸(とうしょうまる)藤乃(ふじの)碧彦(へきひこ)! 皆を頼みます!」

 

 体勢の整わぬうちに追撃をかけられ、車体の屋根に逃れた。

 お供の三匹に炭治郎たちを任せ、襲ってきた鬼と対峙する結一郎。

 その正体も分からぬうちに猛攻を受け、押されてしまう。

 

「ぐぅ! なんだ、この鬼気迫る様子は!?」

「逃がさない、逃がすものか!」

 

 その女の鬼の血鬼術なのだろう、腕から膨らんだ瘤のような硬化した肉の弾丸が射出される。

 それを狭い屋根を転がって躱すが、次には体当たりを受けてとうとう列車から鬼ごと放り出されてしまった。

 高速で移動している汽車から地面に投げ出されれば重傷は避けられない。

 

 全集中・水の呼吸 陸ノ型“ねじれ渦”

 

とっさに全集中の呼吸の型を繰り出して衝撃を緩和することを判断。

 身動きの取れない空中のため、選んだのは体のねじれを利用して繰り出す水の呼吸の陸ノ型。

 回転する勢いで相手を弾き飛ばしつつ、地面に攻撃を当て衝突の勢いを殺して受け身をとることに成功した。

 

「何者です! ただの雑魚鬼ではありませんね!?」

 

 汽車が走り去っていくのを見送りながら、刀を構え問いかける。

 この攻防だけで並大抵の相手ではないことは感じ取れた。

 そして感じる既視感。この鬼、どこかであったか?

 

「貴様、私のことを忘れたか!」

「何!?」

 

 女の鬼が怒りを滲ませて声を発する。

 暗闇から月明かりの下へ姿を現したその鬼の顔を見て、結一郎は息をのんだ。

 その左目に刻まれた二つの文字。“下肆”!

 

「下弦の鬼……あの時の」

「ようやく思い出したか、私のことを!」

 

 その血を思わせるような赤い目は、怒りと恨みで染められていた。

 生々しい感情を剥き出しに下弦の肆・零余子(むかご)は声を荒げて結一郎を攻め立てる。

 

「貴様のせいで私は鬼狩り共に恐怖を覚えた! 十二鬼月にもなったのに雑魚鬼と同じように鬼狩りに怯えて過ごす日々……屈辱だった!」

 

 強くなったはずなのに、人を喰らって力をつけたはずなのに弱い頃と変わらず、地べたを這いずり回るような虫みたいな気分を味わわされたのだ。

 その屈辱、許せるはずもない。

 

「あのお方から臆病者と見做されて、私は殺されそうになった! 無用な、不要な、要らない者とされた私の気持ちが分かるか!」

 

 自らの存在を否定され、圧倒的上位者から処分される恐怖。

 その際に感じたのは恐怖と同時に、自分が理不尽な目にあわされることになった原因への怒りと恨みだった。

 

「私は貴様と出会う日を待ち望んでいたのよ! 貴様を殺し、喰らい、あの日の屈辱を拭うために!」

 

 彼女の感情をぶつけるような恨み言と攻撃が結一郎へと向けられる。

 烈火のごときそれを、結一郎もまた怒りの感情で応えてみせた。

 

「何を言うかと思えば……ふざけたことを言うな!」

 

岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚(がんくのはだえ)

 

 迫りくる肉の弾丸を日輪刀と取り出した鎖分銅を振り回して防ぎきる。

 反撃の機会を得た結一郎は、お返しとばかりに激しい剣戟を打ち込んでいく。

 

「再会を望んでいたのはそちらだけと思わぬことです!」

「なんですって!?」

「自分もお前の頸を斬るために探していたということだ!」

「な、なんで……」

 

 結一郎に睨みつけられ、怯えを見せた零余子。

 自分の命を寸前まで追い詰めた相手から向けられた殺気を前にして、怒りと恨みがかつての恐怖で塗りつぶされていく。

 零余子には結一郎が何故こうまで怒りをぶつけてくるのか理解できなかった。

 その理由はすぐ彼の口から聞かされることとなる。

 

「お前が逃げたせいで、僕は師匠たちから滅茶苦茶厳しい修業を受けさせられたんだぞ!」

「え、えぇ!?」

 

 斬りかかってくると同時にこんなことを言われれば困惑もしようというもの。

 そんなこと私に言われても……

 

「そんなことを言われてもとか、他人事みたいに考えやがって! お前のせいで僕以外にも三人も犠牲になったんだぞ! ふざけんな!」

「ふざけてるのはどっちよ! というか、また心を読まないで!?」

 

 心を読まれ追い詰められるこの既視感。

 恐怖は前回の二倍増しだ。あのブラック上司のせいで。

 

「だいたい、上司に殺されそうになったからなんだ! こっちは師匠の修業受けてて一度死んだんだぞ! 臨死体験だ、臨死体験! 文句言うならいっぺん死んでから来い!」

「そ、そんな無茶な!?」

 

 とんでもない無茶ぶりを見た。

 一回死んで来たとか、もうどっちが化物なのやら。

 というか、そんな修業を課してくる鬼狩りって、やっぱり怖い!

 

「謝れよ! 僕に謝れぇええ!」

「ご、ごめんなさいぃいい!?」

 

 勢いに負けてとうとう謝る零余子。

 もう彼女の精神(ライフ)はゼロである。

 

「うるさい! さっさと頸を出せ!」

「イヤアアア!?」

 

 無惨様、やっぱりこの鬼狩り怖いです。

 頸を刎ねられる直前に彼女はそう思ったそうな。

 

 


 

――結一郎が零余子の頸を刎ねた少し後の頃。

 

「皆無事だ! けが人は大勢だが命に別状は無い。君はもう無理せず……」

 

 重傷を負いながらも列車と同化した下弦の壱の頸を落とした炭治郎に呼吸法の指導をしながら誉めるように声をかける杏寿郎。

 しかし、彼の言葉は最後まで言うことはできなかった。

 砲弾が着弾したかのような重い地響きが鳴り響く。

 土煙が晴れ、姿を現したのは体中に罪人の刺青のような文様が入った鬼。

 その両目にはそれぞれ文字が刻まれていた。

 “上弦” “参”

 

 上弦の鬼。最強の鬼たちが一体。

 それが戦場に現れたのだ。

 




【朗報】結一郎、ようやく十二鬼月討!
【悲報】煉獄さんと上弦の参、エンカウント!

果たして、結一郎は煉獄師匠のピンチに間に合うことができるのか!?


翻訳係コソコソ話 壱
 お供参匹に守られていたので、夢の中に侵入してくる人はいなかった。
 ついでに、列車をお供三匹で一両守っていたので、煉獄さんの負担軽減。
 鬼殺の猿を舐めるなよ!

翻訳係コソコソ話 弐
 序盤に結一郎が食べていた形の少し崩れたおにぎりはひなきお嬢様が作りました。

煉獄さんのピンチに結一郎は間に合う?

  • 間に合った!
  • 間に合わなかった……
  • 煉獄さんの継子はもう一匹いるぞ!
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