柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

18 / 53
2019/10/30投稿


その14 後編(対・上弦の参)

 鬼殺隊炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)

 十二鬼月 上弦の参・猗窩座(あかざ)

 人と鬼。それぞれの最高戦力の一角同士の戦いは拮抗した状況になっていた。

 拮抗状態ということはすなわち人間側の不利に他ならない。

 そもそもの生物としての性能の違いが杏寿郎を追い詰めているのだ。

 猗窩座との攻防ですでに満身創痍の杏寿郎。

 額から血を流し、全身打撲と複数個所の骨折など、傷を負っており戦闘不能は時間の問題だ。

 対する猗窩座は、鬼の驚異的な再生能力のせいで傷一つ残っていない。

 

「どう足掻いても人間では鬼には勝てない」

 

 自らを誇るように語る猗窩座。

 その言葉はまるでこの状況こそがその証拠であるとでも言うようであった。

 だが、そんなもので心が折れるようなものに鬼殺の柱が務まるものか!

 

「俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!」

 

 己の責を果たす。その意思に微塵も揺らぎなし。

 たとえその命がここで尽きるとも、柱である杏寿郎が退くわけにはいかないのだ。

 覚悟を決めた杏寿郎は、炎の呼吸の奥義をぶつけるべく刀を構える。

 猗窩座も応えるように、血鬼術で自身を強化して拳を握りこんだ。

 互いの奥義が衝突する――その直前、猗窩座の首に向けて鋭い銀閃が煌めいた。

 

“雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)

 

「何!? チィイイ!!」

 

 奇襲となったはずの一撃を恐るべき反応速度で防いだ猗窩座は、乱入者に向けて敵意を向ける。

 

「何者だ、貴様!?」

 

 乱入者の正体を問えば、その影ははっきりとした口調で己の名を名乗る。

 

「鬼殺選抜隊“旭”の棟梁……と言っても通じませんね。この場ではこう名乗りましょう! 炎柱・煉獄杏寿郎が継子、(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)です!」

 

 白い外套(マント)をはためかせ、高らかに告げる結一郎。

 汽車から落とされ下弦の肆を討った後、速度に優れる雷の呼吸を使って疾走。師の危機に間に合ったのだった。

 

「結一郎、今までどこに……いや、今はいいな、そんなことは! よく来てくれた」

「煉獄師匠もご無事で、とは言えませんね。しばらく体力の回復に努めてください」

 

 杏寿郎の傷を見て、全集中の呼吸での回復を促す。

 彼が回復するまでの時間を稼ぐべく、結一郎は猗窩座の前に躍り出た。

 

「お待たせしましたね。上弦の参」

「猗窩座だ。そうかそうか、杏寿郎の弟子か! 師と同じくよく練り上げられた闘気だ。お前も強者だな!」

 

 杏寿郎に代わる新たな強者の出現を喜ぶ猗窩座。

 弱者を蔑み、強者を尊ぶ猗窩座のお眼鏡に適ったらしい結一郎は、師匠と同じく鬼への勧誘を受けた。

 

「お前も鬼になれ結一郎。老いることなく永遠に強者のままでいられるぞ!」

「強者、ですか?」

 

 思わぬ提案を受けて問い返せば、猗窩座は嬉々として持論を語りだす。

 

「そうだ。人間は弱く脆い。儚い生き物だ。今持っている力も技も時間と共に失われていく……」

「鬼になって不老となれば、それが永遠だと?」

「まさしく! 鬼になれるのは選ばれた者だけだ。鬼になれば何百年でも鍛錬を続け強くなり続けることができる!」

 

 無限の鍛錬による無限の強さの獲得が鬼には可能なのだと、結一郎を誘う。

 結一郎は無限の鍛錬と聞いて、今まで受けてきた地獄の修業を思い出して若干、胃が痛くなっていた。

 正直、御免である。そんなものは。

 その気持ちを表に出さないように表情を取り繕いながら、結一郎は言葉を投げかけた。

 

「そんなに強さを求めてあなたは何をしたいのですか?」

「おかしなことを聞く。強さを求めるのに理由など不要だ」

 

 強さを重視する猗窩座にその目的を問えば、返ってきた答えは無目的というもの。

 それを聞いた結一郎は首を横に振る。

 

「なら、話になりませんね。自分が強くなるのは大切な人を、無辜の人々を守るためです! 強くなるのは手段に過ぎません!」

 

 強くなること自体を目的とする者。

 強さは目的のための手段でしかない者。

 話がかみ合うはずもなかった。

 自分にとっての手段を目的としている猗窩座に対して、結一郎は嘲るように問いを投げかける。

 

「先の一瞬でも感じましたが、あなたは十分すぎるほど強い! それでもまだ強さを求めるというのか!」

「当然だ!」

 

 武を極めようとする者は皆そのはずだと返す猗窩座に、結一郎ははっきりとその愚を語ってみせた。

 

「ハハッ! 何を馬鹿なことを。必要もないのに必要以上にそれを求めることを人は“無駄”と呼ぶのですよ!」

「無駄だと!?」

「その通りです。 あなたのその強さで何ができる? 人を殺し、物を壊す! 鬼にできることなどそのくらいのものだ!」

 

 だが、我々(人間)は違うと高らかに謳う。

 己の師匠と仲間がたった今守りきった二百人の乗客たちを示し、奪うだけ、壊すだけのお前たちとは違うのだと。

 その誇りを猗窩座は理解できない。

 

「弱者を何百人と救ったところで何の価値がある!」

「あなたの無駄な百年よりはよっぽどある!」

 

 猗窩座の鬼になってからの百年近くの生き様を無駄と言いきる結一郎に、怒りで青筋が浮かび上がる。

 

「どうやらお前とはとことん価値観が違うらしいな」

「えぇ、そのようで! まぁ、それを抜きにしても個人的に鬼になれない理由もあるのですがね」

「……一応、聞いてやる。なんだ?」

 

 怒りは積もっているが、人との会話が好きな猗窩座は聞いてやることにした。

 ムカツク上弦の弐(同僚)に比べればまだ大丈夫だ。大丈夫。

 結一郎が語る、鬼になれない個人的な理由とは?

 

「自分は婚約者がいるので……鬼にはなるわけにはいかないんですよ!」

 

 鬼になったら結婚できないじゃないですか! と、語る結一郎。

 その理由に猗窩座はなぜかどうしようもなく苛立ちが止まらないのを感じた。

 不快だ! 何故か分からないがとてつもなく不快だ!!

 

「……殺す!」

「かかってこい! 百年物の独身男!」

 

 “血鬼術 術式展開 破壊殺・羅針”

 “炎の呼吸 壱ノ型・不知火(しらぬい)

 

 足元に雪の結晶のような陣を出現させる猗窩座に、力強い踏み込みで斬りかかる結一郎。

 奇しくも先ほどまでの師・杏寿郎をなぞるように始まった戦闘は、同じく結一郎の苦戦という形となって現れた。

 

“脚式・流閃群光(りゅうせんぐんこう)

 

「くうぅ!?」

 

 鋭い連続蹴りが頬をかすめ、血が飛び散る。

 致命傷はなんとか避けてはいるものの、完全な回避を許さない苛烈な攻撃に傷が増えていく。

 

『自分以上の先読み!? なんて厄介な!』

 

 結一郎の苦戦は猗窩座の持つ圧倒的な身体能力もさることながら、相性の悪さもあった。

 元来、結一郎の戦闘スタイルは相手の癖などから心理・動きを先読みして先の先または後の先を制する戦い方だ。

 戦いが長引き相手の情報を得ることができればできるほど先読みの精度が上がっていく、ある種のスロースターターといえる。

 そういう意味で、まだ猗窩座の情報が十分でなく、かつ百年の戦闘経験と血鬼術による探知で先読みを上回ってくる猗窩座との相性は最悪に近いものなのだ。

 

『おそらく探知系だろう血鬼術だけでも厄介なのに、武術家特有の戦術眼までありますか! つくづく化物ですね!!』

 

 心の中で悪態をつきながら、必死で食い下がる結一郎。

 その無様が猗窩座は愉快でたまらない。

 

「どうした、さっきまでの威勢は! お前の力はそんなものか!」

「調子にのるな!」

 

 挑発に応じるように結一郎は新たな技を繰り出す。

 動きが読まれるのなら、その読みを外す動きをしてやればよい!

 

“全集中・柱連(ちゅうれん) 五行連環(ごぎょうれんかん)

 

  伍ノ型・炎虎(えんこ)

  陸ノ型・黒風烟嵐(こくふうえんらん)

  捌ノ型・滝壷(たきつぼ)

  弐ノ型・稲魂(いなだま)

  弐ノ型・天面砕き(てんめんくだき)

 

 次々と呼吸を切り替え、型を流れるように繰り出していく。

 

「何? 呼吸が……ッ!?」

 

 目まぐるしく変わる結一郎の呼吸と闘気に戸惑う声をあげた猗窩座。

 ここまで多様な呼吸を使える剣士など猗窩座の戦ってきた百年の戦闘経験にもない相手だった。

 七人の柱に師事し、五つの呼吸を習得した結一郎だからこそ出すことができる異種の型による連続技だ。

 水で十、炎で九、風で八、雷で六、岩で五。

 これらの型を変幻自在に組み合わせて繰り出すこの技のパターンを読み切ることは困難を極めるに違いない。

 だがしかし……

 

「なかなか面白かったぞ! こうも闘気が変化したのを見たのは初めてだ!」

「クッ! 修羅め!」

 

 猗窩座は変化する呼吸に順応し、結一郎の振るう日輪刀を捉えてみせたのだ。

 この凄まじいまでの戦闘能力に結一郎は戦慄を隠せなかった。このままではやられる!

 

「死ね、結一郎!」

「いいや、まだです!」

 

 命を奪う一撃を叩き込もうとした猗窩座は、結一郎の視線に違和感を感じた。

 視線が自身の後方を見ている。

 羅針には反応はない。しかし、この土壇場で目を逸らすことをこいつがするだろうか?

 何かある!

 そんな判断を刹那の間で行い、行動へと移す。

 結一郎を蹴りで吹き飛ばしながら振り向き、攻撃に備える猗窩座。

 

「さあ、何が来……る?」

 

 結一郎が何を仕掛けてきたのかと身構えていたのに、そこにいたのは予想外のもので……

 

「ケーン!」「ワン!」

 

 羽を広げ威嚇する雉とそれを背に乗せて吠える犬。

 結一郎のお供の二匹であった。

 そりゃあ、動物ですもの。殺気なんかあるわけないので探知すり抜けてきて当然ですよ。

 騙された! そう思ったときにはすでに致命的な隙が生まれてしまっている。

 

“水の呼吸 壱ノ型・水面斬り”

 

 すかさずその機を狙う結一郎。

 その一撃は猗窩座の頸を半ばまで切り裂いたものの、落とすまでにいたらず、わずかな差で逃げられてしまった。

 

「チッ! 惜しい!」

「貴様ァ! ふざけているのか!」

 

 結一郎の視線によるフェイントに騙されたという羞恥と騙すにしてももっと別の方法が無かったのかという怒りでキレている猗窩座。

 しかし、結一郎はふざけてなどいない。むしろ大真面目だ。

 

「あなたを倒すためならばこの場のすべてを利用してみせます! なにせあなたは無駄に強すぎるので!」

 

 猗窩座の強さを身をもって体感している結一郎は、とれる手段は全て使う気概で臨んでいる。

 怒らせて相手の判断が乱れるならしめたものだ。

 

「さっさと死ね!」

 

 結果、相手の攻撃が苛烈になって苦労するのもよくある話であったりするのだけど。

 

“破壊殺・乱式”

 

 猗窩座の怒りに任せた乱打に襲われて防戦を余儀なくさせられる。

 必死に攻撃を捌いていくが、一度、二度とかすめるように被弾が増え、ついに体勢を崩すという致命的な隙を曝してしまう。

 

()ったぞ!」

「いいえ、あなたの方です!」

 

 勝利を確信する猗窩座に、結一郎は機を見出だす。

 自分の背後を見るその目を見た猗窩座は、嫌なものを感じ取っていた。

 

『同じ手を二度もくらうものか! ……いや、こいつもそのことは分かっているはず?』

 

 怒りで曇っていた心に長年の戦闘者としての勘が警告を告げていた。

 その本能的な勘に従って意識を巡らせれば、羅針に反応するものが――

 

“炎の呼吸 壱ノ型・不知火”

 

「避けられたか! 大丈夫だな、結一郎!」

「助かりました、煉獄師匠」

 

 結一郎を助け起こす杏寿郎。

 一時戦闘を離れ体力を回復していた彼は、結一郎の合図を見て戦闘に復帰。

 結一郎の意図を読み、彼の視線とは別方向からの奇襲を行ったのだ。

 しかしながら、やはり上弦の鬼と言うべきか、いくつもの虚実を混ぜた奇襲を難なくかわされて決着はまだ着かない。

 

「ああ、そうだな杏寿郎。お前ほどの強者があの程度で戦えなくなるはずがなかったな!」

 

 二対一になったというのに微塵も自らの敗北を疑う様子もなく、むしろ喜悦の表情で応じてくる猗窩座。

 戦闘を望み、流血を好む様はまさしく修羅。

 

「まったくもって凶悪な鬼だな! 上弦というのは!」

「本当に嫌になります!」

 

 改めて感じる上弦の鬼の強大さを前に言葉を交わす二人。

 諦観ともとれるような軽口だが、その声音に絶望など含まれていない。

 鬼殺の剣士が鬼を前に勝利を諦めることなどありはしない!

 

「だが、二人一緒ならば必ず勝てる! そうだろう、結一郎!」

「えぇ、師弟の強さを見せてやりましょう!」

 

 いくぞ! 応!

 呼応の声と共に剣を構え走り出す二人。

 結一郎は文字通り“呼吸”を合わせ、猗窩座へと迫った。

 

「ハハハ、素晴らしい連携だ! 過去にもこれほどの強者同士の緻密な連携は見たことがない!」

 

 燃え盛るような猛攻を行う炎の呼吸の剣士二人を相手にしても、猗窩座は、この戦鬼は愉悦を覚えている。

 呆れるほどの身体スペックの差。悍ましいまで戦闘に依存した精神性。

 もはや生半可な攻撃は通用しないと判断した師弟二人は、言葉を交わすことなく最大火力を出せる型を同時に選択した。

 

““全集中 炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄””

 

 広範囲をえぐり斬る炎の呼吸の奥義が挟み込むようにして猗窩座の頸を狙う。

 猗窩座の肉をえぐり、骨を削りながら迫る刃。

 しかし、それは頸にわずかに食い込んだところで猗窩座に刀身を掴まれ止められてしまった。

 

「オオオオオオオ!!」

「ハアアアアアア!!」

 

 だからなんだ!

 と、全身全霊をかけて刀に力を込める。

 この機を逃せば勝ち目などない二人に、引くという選択はない。

 そのまま刃を押し込み、頸を断つべく残りの力を出し切る。

 だが、相手は上弦の参。早々それを許してはくれるはずもない。

 

「ガアアアアアア!!」

 

 二人の全力をそれぞれ片手で止めながら互角以上に張り合う。

 驚くべき怪力。タフネス。

 この悪鬼を倒すにはもう一手足りない!

 その一手を打つべく、じっと機を伺っていた者がいた。

 

「ウキッー!」

 

 “猿の呼吸 壱ノ型・猿飛(さるとび)

 

 響き渡る奇声と共に飛び出す小柄な影。

 結一郎のお供の一匹、杏寿郎から呼吸法を伝授された鬼殺の猿・闘勝丸(とうしょうまる)だ。

 そう、炎柱・煉獄杏寿郎の継子はもう一匹いる!

 

「何ィ!?」

 

 結一郎と杏寿郎の攻撃を全力で防いでいる猗窩座は、突然飛び出してきた猿を察知しながらもその攻撃に対してどうすることもできない。

 何者にも妨げられることなく突き立てられた刃は肉を裂き、骨を断ち、ついに頸を斬り落とす。

 

「俺が、猿ごときに!?」

 

 驚愕と怒りに染まった表情で地面を転がる猗窩座の頸。

 ほどなくして塵になって崩壊し始めたその頸と体を見てようやく勝利の実感が湧いてくる。

 

「勝った? ……勝ったんですよ、煉獄師匠!」

「ああ、大勝利……だ」

「師匠!?」

 

 上弦の鬼の討伐という大成果を喜ぶ結一郎だったが、膝をつき力尽きたように倒れる杏寿郎を見て慌てて駆け寄る。

 

「しっかりしてください、煉獄師匠!? 痛ッ!」

 

 倒れた杏寿郎を抱き起そうとして、左腕に痛みを覚える結一郎。

 いや、左腕だけじゃない。戦闘中は忘れていた痛みが、安堵感を得たことで思い出したように痛みだしたのだ。

 

「大丈夫ですか、結一郎さん、煉獄さん!」

「おい、死ぬんじゃねえぞ、ギョロ目! 妖怪男!」

 

 痛みに悶絶していると、心配した炭治郎(たんじろう)伊之助(いのすけ)が近寄ってきた。

 動けない自分の代わりに、二人に指示を出す。

 

「炭治郎君は心配してくれるのはありがたいですが、君も重傷です。動かないこと! 伊之助君は、藤乃の背負い袋から薬箱を出してください」

「す、すみません!」

「そうだぞ、権八郎! 大人しくして親分に任せておけ! ……これで合ってるか、妖怪男!」

 

 粗雑な言動とは裏腹に仲間思いなのか、テキパキと動く伊之助。

 この際なので自分の呼び方は不問にして、伊之助の問いに首を縦に振って答える。

 

「ええ、それです。鎮痛剤なので炭治郎君も飲んでおくといいでしょう」

 

 伊之助から受け取った薬箱から錠剤を取り出し飲み込む。もちろん炭治郎と杏寿郎にも処方しておく。

 亜米利加のとある地方でとれる薬草(ハーブ)を調合したもので、効果はてきめんだ。

 痛みが治まったところで自分の左腕の応急処置をして、杏寿郎の処置をし始めた。

 

「まったく、情けないな! 弟子に怪我の手当てをさせることになるとは!」

 

 結一郎による止血などの応急処置を受けながら、自分の不甲斐なさを嘆く杏寿郎。それを見て結一郎は呆れたように言う。

 

「上弦の参と一人で渡り合っていたんですから、命があっただけでも十分ですよ! 本当に間に合ってよかったです」

 

 もし自分が間に合っていなかったら確実に杏寿郎が死んでいたであろうことを想像して顔を青ざめる。

 柱の中でも人望が厚く、名門の出身ということもあって一目置かれていた杏寿郎が死亡していたならば鬼殺隊にどれだけの動揺を与えたことか。

 選抜隊の“旭”もようやく活動を始めたばかりで、若手がまだ育っていないのだ。

 そんな状況で炎柱・煉獄杏寿郎の後釜などそうそう見つからない。

 結一郎は杏寿郎の継子でもあるが、今は新たな“棟梁”という役職を得た身であるので、柱の兼任は憚られる。

 というか、そんなことになろうものなら結一郎の過労死待ったなしなので無理!

 結一郎のためにも、本当に杏寿郎が生き残ってくれて良かった。ホントに。

 じゃあ、他に誰が? となると、蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶの継子、栗花落(つゆり)カナヲがいるが、彼女はまだ経験不足。

 該当する人間はいないように思えた。

 

『あれ? ちょっと待って、柱の条件ってたしか……』

 

 柱の候補者ということを考えた時に、柱に昇格する条件を思い出した結一郎。

 

 階級が(きのえ)の者が、

  一、鬼を五十体討伐すること。

  二、十二鬼月を討伐すること。

 どちらかを達成すれば、昇格の条件となる。

 

 十二鬼月を倒す。今まさに起こったことだ。しかも上弦の参。

 誰がやったかといえば、炎柱・煉獄杏寿郎。棟梁・和結一郎。……そして、お猿の闘勝丸である。

 

『え、まさか、そんな、アハハ~、ありえないですよね?』

 

 猿柱、就任!

 そんな文字が頭の中に躍り出るのを必死に振り払う。

 というか、下手したら結一郎の戦績よりも上かもしれないという嫌な想像が!

 自分が斬ったのは下弦の肆。でも、闘勝丸が頸を落としたのは上弦の参……。

 

「ウキ?」

 

 結一郎が見つめてくるのを不思議そうに首を傾げる闘勝丸。

 無邪気なお供の姿を見て結一郎は考えるのをやめることにした。

 やめやめ! これ以上考えると落ち込みそうだ。

 

「煉獄師匠、絶対に死なないでくださいね?」

「もちろん死ぬつもりなどない! しかし、どうした? 急に」

 

 杏寿郎の問いに結一郎は答えることができなかった。

 だって、言えるわけねえじゃん。「あなたが柱を辞めたら後釜が猿かも」とか。

 こんな脅し文句ある!?

 

 なお、『上弦の鬼を倒したら引退しよう』と考えていた某柱の方にはもろ直撃であったり。

 下手に死んだり、大怪我で引退できなくなった柱の皆さんだった。

 大変ダナー。柱って。

 




シリアスとギャグが入り混じってジェットコースターみたいな話になってしまいました。
 後半は力尽きた感が半端ないです(汗

Q.どうして猗窩座の頸を闘勝丸に斬らせた!
A. だってアンケートの結果が……

Q.本当のことを言え!
A. 絶対みんな最後の選択肢を選んでくれると思ってました! 計算通り! やったぜ!
 いや、もう本当に闘勝丸の人気がすごいと思うんですよ。たぶん拙作の人気投票やったら確実に上位に食い込みそうな予感がします。
 ちょっとしたネタで出しただけのはずだったのに、こうなるなんて……いっそ、鬼殺の猿を主役にした話でも書くかぁ?

翻訳係コソコソ話
 闘勝丸が杏寿郎に指導を受けたいたことは知ってましたが、継子扱いされていたことは知らなかった結一郎。今回の件で杏寿郎が継子扱いをしているのを知って驚愕していたりしました。

ミニ次回予告
千寿郎「そ、その耳飾りは!? ち、父上! 父上ー!」
槇寿郎「おまえ、日の呼吸の使い手だな!」
炭治郎「え、えぇ!?」
 炭治郎in煉獄家!

杏寿郎「列車の中でも話していたが、俺の継子として面倒を見てやろう!」
義勇「待て。(同門の水の呼吸の使い手で弟弟子の)炭治郎は俺の継子になるべきだ!」
 炎柱vs水柱 どっちの継子でショー再び!?

などなど、空白期の小ネタ集の予定です。


【読み飛ばし推奨】豆腐の愚痴
 戦闘描写を書くのは苦手です。臨場感があるように書こうとするのが一番しんどいです。
 苦手意識があるからか、ついギャグを入れようとしたり端折ったりしてしまいます。
 自分って本当に駄目だなって思います。
 今回は特に猗窩座がガチ戦闘キャラなので、そのギャグを挟むことさえ一苦労。
 作者の望みは上弦の伍・玉壺のようなギャグまみれの戦い。
 原作のシリアスな空気はどこ行ったと読者に言わせてツッコミを入れさせること。
 それなのに割とガチの戦闘描写を書かざるを得ない……どういうことなんだ?
 なんでそんなにお前はガチの戦闘キャラなんだ? 猗窩座!
 玉壺も零余子もこれでもかとネタになってくれたというに……まともにネタにできたのは猿に頸斬られるというオチだけか? 猗窩座!
 婚約者ネタなんてコミックス派からしたら意味不明な上に下手したらネタバレだろうが! 猗窩座!
 どうしてこうもギャグにし辛いんだ、猗窩座、猗窩座、猗窩座アアア!!
 もう、お前なんかさっさと嫁さんのところ行って寿退社してろよ! 祝ってやる!

次回の小ネタで「猗窩座の走馬灯で行われる恋雪vs無惨」を入れるても大丈夫か?

  • 大丈夫だ、問題ない
  • コミックス派のために遠慮しろ!
  • 作者なら書く以外に道などない!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。