反響が良いので続きました。
ちょっと主人公の設定を記述してみたり。
柱合会議の翻訳係 その2
年齢18歳の男性鬼殺隊士である。
この男、実は老舗和菓子店の息子であった。
10歳のときに鬼に家族を惨殺されるまでは菓子職人として幼いころから修行に打ち込んでいたため、菓子作りを得意としている。
任務の無い休日などは鍛錬の合間を縫って、趣味の一環として菓子作りをしていたりするのだ。
時折差し入れされるお菓子は他の隊員にも――特に女性隊員に――人気が高かったりする。
そんな彼が胡蝶屋敷に重箱入りの菓子を差し入れている姿は珍しくないことなのだ。
水柱・冨岡義勇が一緒でなければ……
「本日はおはぎを作りましたので、どうぞ皆でご賞味ください!」
「これはこれは。いつも差し入れありがとうございます」
結一郎から風呂敷に包まれた重箱を受け取り礼を述べる胡蝶しのぶ。
柱とはいえうら若き女性である。甘いものを前に顔が自然とほころんだ。
女性率の高い胡蝶屋敷では結一郎の差し入れはとても喜ばれており、屋敷の住人からの評価はとても高い。
どれくらいかと言えば、コインを用いなければ自身の意思も決められない栗花落カナヲですら結一郎の菓子を前に出せば問答無用で手に取るほどだ。
なかなか感情を出さない自分の
それゆえ、そのきっかけとなってくれた結一郎が来ることは大歓迎なのだ。
「で、なんのご用ですか? 冨岡さん」
つれない対応をされる水柱と違って!
「特に用事はない。俺のことは気にするな」
「そうですか。暇なんですか? なんでここにいるんです?」
「あ、蟲柱様。いまの言葉は『用事があるのは結一郎で自分はその途中で付き添っただけだから気にしなくていい』という意味です」
言葉の足りない義勇をすかさず補足する結一郎。
水柱専属翻訳係の面目躍如である。
結一郎の言葉を受けて納得した様子のしのぶ。
先程から気になっていた結一郎の後ろにあるいくつもの風呂敷包みについて聞いてみることにした。
「なるほど。では、そこの風呂敷包みはそのご用事ですか。それもお菓子だと思いますがどうされるのですか?」
「他の柱の皆さまへの差し入れです。本日は炎柱様、恋柱様、風柱様のお三方もいらっしゃるとのことでしたのでお届けしてこようかと!」
結一郎の言葉にしのぶは驚くと同時に首を傾げた。
多忙な柱がこれだけ揃っているという珍しさに驚くとともに、それにしては多すぎる荷物の量を疑問に思う。
柱以外にも渡しに行くのかと問えば、結一郎は首を横に振ってこたえた。
「これの半分は恋柱様へのもので、残りの四分の三は炎柱様にお渡しする予定です」
「ああ! あのお二人なら納得です」
炎柱と恋柱の二人は大変な健啖家だ。
驚くほどよく食べる人たちで、特に恋柱は特殊な体質もあってか関取三人分はペロリとたいらげてしまう。
そう考えればこの量も納得というものだ。
「特に好き嫌いもなく大変おいしそうに食べるお二方なので私も作り甲斐があるというものです!」
「フフッ、しかし、何でも美味しい美味しいと言われるのも複雑じゃありません?」
元気よく答える結一郎に少し悪戯心が湧いたしのぶは、少しいじわるな質問を投げかけてみる。
時折、こうした茶目っ気を出すところも彼女の魅力といえようか?
「いえいえ! 食べ物の好みで喧嘩するよりはよっぽどいいのです! 食の好みは主張が違えればすなわち戦争ですから!!」
つぶあん派とこしあん派の仁義なき戦いがッ!
と、何かトラウマを思い出したのか遠い目になる結一郎。
趣味の場であっても気苦労が絶えないらしい彼に少し同情したしのぶであった。
「ええっと、あー、そういえば冨岡さんはなぜ和さんと一緒なんです?」
場の空気を変えようと話題を変えるしのぶ。
ずっと気になってはいたのだが、結一郎の趣味になぜ義勇が付き合っているのだろうか?
それに答えたのは聞かれた義勇ではなく、結一郎だった。
「いえ、逆です! そもそもは水柱様のご用事に私が協力する形だったのですが、モノはついでだと私の趣味に付き合って頂くことになったのです!」
「冨岡さんの用事……ですか?」
「ああ。不死川に会いに行く」
「はい? なんですって!?」
なんと、義勇の用事というのは風柱である不死川に会いに行くことだというのだ。
仲の悪い相手のところへ向かうと聞いては驚かざるを得ないしのぶ。
何しに行くのか聞いてみれば、義勇の返事は衝撃的な一言で。
「この間のおとしまえをつけにいく」
「えっ!?」
「水柱様、その言い方では誤解されます!」
カチコミ!? と、驚愕に目を見開いたところで結一郎からすかさず補足が入る。
話を聞いてみれば、曰く、
先日の柱合会議の場で自分の発言のせいで不快にさせてしまったのでその詫びに行くのだという。
その際の手土産として不死川が好物だと聞いたおはぎを持っていくことにしたのだ。
そういう経緯で、菓子作りが得意な結一郎に話が回ってきて今に至るというわけである。
「冨岡さん、あなたどうしてこう、言葉の選び方が壊滅的なんですか……」
「……そんなに酷いか?」
呆れを通り越してもはや脱力してしまいそうなしのぶ。
口数が少ないのに言葉のチョイスがヒドイとなれば、そりゃあ誤解もされようというものだ。
なお、本人には自覚はない模様。
「自覚無しとは救えません……そんなんだから皆に――」
「蟲柱様!」
しのぶがいつもの癖で「嫌われている」と口にしようとしたところに、結一郎が待ったをかけた。
それに気が付いたしのぶは、途中で言葉を止めて別の言葉を口にする。
これ以上、義勇の会話能力を低下させるわけにはいかない。
「皆に誤解されるんですよ。もう少し言葉を選んで話をするべきでは?」
「そうだな。気を付けよう」
真面目な顔でうなずく義勇だが、本当に分かっているのか不安だ。
結一郎に視線を送れば、申し訳なさそうに小さく頭を下げる姿がある。本当に苦労しているなぁ。
このまま不死川のところに送れば、彼を高い確率でキレさせるだろう。
そう思ったしのぶはひと肌脱いでやることにした。
「このまま不死川さんのところに行って、下手な事を言って怒らせるのもまずいですから練習してから行ったほうが良いんじゃないでしょうか?」
「練習?」
「ええ、そうです」
不死川に会ったときに事前になんて言うのか決めておいたほうが失敗しなくて済むというしのぶの言葉に義勇はうなづいた。
何故かしのぶも協力的であるので、乗らない手はないだろう。
そう判断した義勇はしのぶを不死川に見立てて
『さて、なんて言えばよいだろうか?』
先程ちゃんと言葉を選んで話さないと誤解されると、アドバイスを受けたばかりなのでじっくりと口にする言葉を探していく。
しばらく思案した後、言うべき言葉を決めたようで強く頷いてしのぶに向き合う。
「冨岡さん、なんて言うか決めましたか?」
「ああ。決まった」
しのぶはどんなことを言ってくるのか頭の中でいくつか想定しながら、不死川なら何て言うだろうかと考える。
不死川を完璧に再現は自分と性格が違うので無理であろうが、それなりに会話ができるようであれば問題ないだろう。
そう思いながら不死川をイメージして不機嫌な顔の演技をして言葉を待つしのぶ。
対する冨岡の発した言葉は――
「……食え」
おはぎの入った重箱を差出し、一言。
それだけであった。
あまりの意味不明さにピシリと表情が固まるしのぶ。
こんなの想定外です……
「……和さん」
「はい!」
「解説を」
会心の出来だとばかりに心なしかドヤ顔の義勇を無視して、しのぶは結一郎に解説を求めた。
どういうことなの、これ? と。
水を向けられた結一郎は承知とばかりに、解説を始める。
「水柱様は口下手であることは自認しております! そのため、長々としゃべっては余計なこと言って相手を怒らせるだけだとお考えになったのでしょう! それで言葉を削られたのです!」
本来義勇が言いたかった言葉は、
『先日の柱合会議の際に自分の言葉のせいで不快にさせて悪かった。侘びの品としてお前が好物だというおはぎを持ってきたのでよかったら食べてくれ』
である。
そこから言葉を削りに削った結果が、最後の結論部分の「食べてくれ」が残ったのだった。
「なるほど~。……どうしてそうなるの!?」
いつもの冷静なキャラが保てないくらいに混乱するしのぶ。
言葉が足りないって言われてるのに何故、言葉を減らそうとするのか!?
言葉を選べとは言ったが、厳選しろって意味じゃない!
普通に考えて必要最小限に足りてない。というか、少なすぎる。鬼殺隊の最終選別の合格者だってもっと多いだろう。
「冨岡さん、どうしてそれで通じると思ったんです?」
「ダメか?」
「水柱様。普通の方はそれでは通じません」
『そういえば、なんで和さんは冨岡さんの言葉が分かるんでしょう?』
義勇を諭す結一郎を見て今さらな疑問が頭に浮かぶしのぶ。
冷静に考えれば、これってすごいことなんじゃないだろうか?
「蟲柱様、自分は昔から人一倍場の空気を読むのが得意だったのです! そのおかげでこうして水柱様のお気持ちをお察しできている次第です」
「ああ、そうなんですね。……あら?」
しのぶの疑問にすかさず答える結一郎。
その返事に一瞬違和感を覚えるも、そういうこともあると納得することにしたのだった。
しばらく義勇の練習に付き合った後、二人を送り出したしのぶ。
正直不安が消えない。
虫の知らせとでもいうのか、それとも女の勘か。
とにかく、義勇が円滑に不死川と会話をしている風景が思い浮かばなかったのだ。
その悪い予感は約一刻後(約二時間後)に現実となる。
「急患、急患です! けが人を連れてきました!」
その背に背負われていたのは結一郎であった。
「何があったのです?」
「風柱様と水柱様の小競り合いに巻き込まれたとのことです」
「和さん、あなたって人は……」
頑張れ、結一郎。頑張れ! おまえはこれまでよくやってきた、出来る奴だ。
だから義勇の口下手のせいで苦労したとしても、挫けずに頑張れ!
オマケ『柱餡戦争』
音柱「やっぱり餡はつぶ餡だな。つぶが残ってる方が派手に食べ応えがあっていい。つぶ餡こそ至高だな」
蛇柱「認めない認めない。くだらない妄言を吐き散らすな。裏ごしするひと手間を加えて口当たりが滑らかになったこし餡が最高に決まっている。だいたい、菓子に食べ応えを求めてどうするんだ」
音柱「あ? 派手に喧嘩売ってんのか? 派手に」
蛇柱「そちらこそ自分の非を認めるべきだ。いまなら許してやらないこともないが?」
「「……………」」
霞柱「ねぇ、あの緑色の餡の餅ってなんだっけ?」
結一郎「ずんだ餅ですかね!? それよりも、無言で殴り合っているお二人を止めていただけませんか!」
原作で並んで登場したからか、義勇さんとしのぶさんは柱のなかでもコンビ感があるんですよね。
すごい絡ませやすい気がします。