柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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その16(翻訳係と恋模様?)

『翻訳係ととんでもねぇ炭治郎』

 結一郎が師匠と仲良くそろって蝶屋敷に入院していた時のこと。

 寝てばかりでは体が鈍ると思い散歩がてら庭に足を向けたところ先客がいた。

 

「カナヲは蝶を手に止めるのが上手だな」

「コツを掴めば難しくないよ。炭治郎もやってみる?」

 

 その先客は入院服姿の炭治郎といつもの隊服姿のカナヲだった。

 庭を舞う蝶に囲まれながら朗らかな雰囲気で話す二人の様子は、見ている人の心も穏やかにしてくれるようだった。

 邪魔をしては悪いと少し離れたところからこっそり眺めていた結一郎は、あることに気が付いて思わず笑みを浮かべる。

 

『おやおや? あの感情を見せるのが不得意のカナヲちゃんがあんなにも……なるほどなるほど』

 

 以前は人形のように感情を見せなかったカナヲが炭治郎を前にしたら花が咲くような笑顔を見せている。

 蝶を手に止める方法を教えるために体を寄せて、手が触れあって、そのことに気が付いてわずかに頬を赤く染めて……

 読心術など身に着けていなくとも分かる。まさに青春の一頁!

 

『同期の女子隊士の心をちゃっかり奪っているとは、炭治郎君、やりますね!』

 

 後輩の意外な一面を知ってニヤニヤしている結一郎。

 自分はこんな甘酸っぱい経験を飛び越えていきなり人生の墓場ルートだったので、その分の鬱憤を晴らすかのように他人の恋路を見つけたら裏表で暗躍して支援することに決めているのであった。

 他人も人生の墓場に引きずりこむ気満々というわけだ。趣味が悪いぞ、この翻訳係!

 

 今は何もしなくても勝手に良い雰囲気になっているようなので、とりあえずこの場は何もしないことに決めた。

 二人に気づかれないように結一郎は静かに立ち去るのだった。

 炭治郎とカナヲの会話を目撃した次の日のこと。

 結一郎は二人の仲を進展させるべく、行動を起こそうとしていた。

 作戦はシンプルに、自分の得意分野であるお菓子作りを活かしたものだ。

 二人分のお菓子を作ってカナヲに渡し、「炭治郎君と一緒に食べたら彼も喜びますよ」などと言ってカナヲをけしかけるというもの。

 甘いものを一緒に食べて話をするだけでも恋する乙女には十分過ぎるほど充実の時間になるに違いない。

 

 そう思って蝶屋敷の台所に向かった先にはまたも先客がいた。

 

「手伝ってくださってありがとうございます。炭治郎さん」

「このくらい、どうってことないよ! アオイさんにはいつもお世話になっているから」

 

 蝶屋敷の看護婦をしているアオイと、昨日に引き続き炭治郎であった。

 会話をしている二人に何か感じるものがあったのか、すぐに姿を見せずに様子を伺う結一郎。

 彼に気づくことなく、二人は会話を進めていく。

 

「そんな、私にはそれくらいしかできないので……」

「そんなことないよ! 俺、アオイさんの作ってくれるご飯は優しい味がして大好きだし、おかげで元気を貰ってるよ」

「その、ええっと、……ありがとうございます」

 

 炭治郎の裏表のない素直で直球な褒め言葉に頬を染めるアオイ。

 そして何かを思いついたように、炭治郎に向けて口を開く。

 

「そこまで言っていただけるのなら、今度炭治郎さんの好物を作りますね。何か好きな食べ物はありますか?」

「いいの? 俺、たらの芽が好きなんだ」

「たらの芽ですね。わかりました、良いものがあったら買っておくので食べに来てくださいね」

「うん! 楽しみにしてるよ!」

 

 訓練があるからと立ち去る炭治郎に見つからないように身を潜めた結一郎は驚愕に身を震わせていた。

 

『炭治郎君、アオイさんの心までまで射止めていましたか!?』

 

 まさかあの純朴な少年が入院先の女の子を二人も攻略済みだったとか予想外である。

 アオイも炭治郎のためにご飯を作る約束までしているし、というか、炭治郎の好物聞くときの表情がかなり真剣だったのを見ていろいろとお察しである。

 炭治郎の性格から『女の子を口説いてやろう』とかは絶対考えていない。

 つまりは、無自覚にありのままの応対で二人の女の子を恋する乙女に変えてしまったのだ。

 善逸の言葉を借りれば『とんでもねぇ炭治郎だ』ということ。

 これには翻訳係もびっくり。

 

『どうしましょう。自分はいったいどっちを応援すれば……』

 

 恋の応援をやめるつもりは全くないあたり、彼も大概である。

 悩む結一郎。しばらく唸って脳裏に浮かんだのは師匠の一人だ。

 

「そうか! 何も一人に絞ることはありませんね!」

 

 だって、三人も嫁がいる師匠がいるんだもの。二人くらいどうってことないさ。

 そんなちょっとぶっ飛んだ結論に達した結一郎。

 これは彼が混乱しているからなのか、それとも柱たちと付き合う内に常識というものが侵食されてしまったからなのか……

 

 こうして結一郎は炭治郎と二人の女の子の恋路を応援するべく暗躍を開始するのであった。

 この翻訳係、いい加減疲れていると思われる……

 


『ひなきお嬢様のお気持ち』

 文机に向かい、手紙を書くために筆をとります。

 宛先はもちろん、結一郎様です。

 

 “前略”

 “先日、上弦の鬼を討ち果たした際にお怪我をなされたと承りました。お加減はいかがでしょうか?”

 “およそ百年以上果たせなかった上弦の鬼の討伐という快挙をお祝い申し上げますとともに、結一郎様がお怪我なされたとお聞きした際、ひなきは大変心配致しました。”

 “鬼狩りの任務の都合上、仕方がないとはいえ、お体ご自愛下さい。”

 

 ここまで書いたところでふと手を止め物思いにふけります。

 考えるのは私の人生のこと。

 今、こうして許婚(いいなずけ)に手紙を書いていることが信じられません。

 許婚。将来の結婚相手。将来の夫。将来の旦那様……

 

 私は今まで自分が結婚することなど考えたこともありませんでした。

 産屋敷家の長女として生まれた私は、鬼狩りの剣士たちの当主の一族としてその使命に命を捧げるのだと教えられ、また自分自身もそうなるのだと信じて生きてきました。

 普通に結婚して、普通に子供を育てて、普通に幸せに老いて死んでいく。そんな“普通の人生”とは無縁なのだと思っていたのです。

 

 だからこそ、あの時、父を励ますために私の明るい“普通の幸せな人生”を想像させるようなことを言ってくださった結一郎様の言葉がとても嬉しかったのです。

 そんな素敵な夢を見させてくれて、とても幸せな気持ちになれて。

 それだけでも十分幸せだったのに、お父様がその場で結一郎様との婚約を結んでいたのには驚くと同時に困惑しました。

 別に結一郎様との婚約が嫌だったわけではありません。

 ただ、今まで想像もしていなかった“未来”が目の前に突然示されてどうすればいいのか分からなかったのです。

 でも、嫌な感じはしませんでした。心が温かくなって、たぶんその時私の顔は赤くなっていたに違いありません。

 

 一方で一抹の不安が拭えないのも確かです。

 幸せな未来を想像するたびに一つの疑念がよぎります。

 

「私は、本当に幸せになっていいのでしょうか?」

 

 思わず不安が口から漏れ出てしまいました。

 幸せな未来を夢見る気持ちと、産屋敷の一族として使命に殉じなければという気持ちが交互に押し寄せてきてどうすればいいのか分からなくなります。

 

 結一郎様はどう思われるのでしょうか?

 この気持ちを伝えたらなんて答えてくれるでしょうか?

 そもそも、こんな気持ちを伝えてもいいの?

 分かりません。分からない……

 

「結一郎様、お会いしたいです。お顔が見たい……」

 

 どうしたらいいのか分からないけれど、とにかく会いたいと思ってしまう。

 こんな我儘なことを、ひなきは考えてしまうのです。

 


『猗窩座の走馬灯~愛妻vsブラック上司~』

 視界が回転し、数拍の後に衝撃が頭に襲い掛かった。

 何が起きたのか分からず、地面を一度二度と跳ねて転がったところでようやく自分の頸が落とされたのだと気が付く。

 

「俺が、猿ごときに!?」

 

 隠れ潜んでいた猿畜生に頸を斬られるという屈辱に湧き上がる怒りとは裏腹に、頸を斬られた体はどんどんと崩壊して塵になっていく。

 身体の喪失を感じていた猗窩座。

 その意識は気が付けば無明の暗闇の中にいた。

 

「ここは? いや、そんなことはどうでもいい! あんな結末、認められるものか!」

 

 自身の置かれた状況に理解が追いつかない。しかし、そんなことを気にしているほどの余裕が猗窩座にはなかった。

 強さを求めた果てに、猿に頸を斬られて死ぬ結末を受け入れられないのだ。

 世の中のほとんどの者が受け入れられないだろうことは今は置いておく。

 猗窩座の今際の際の走馬灯、精神的な空間とも呼べるあの世とこの世の境目のような不思議な空間で猗窩座は不満を口にする。

 

「俺は誰よりも強くならねばならないんだ! 強くならなければ!」

 

 この期に及んでまだ強さを渇望する猗窩座。

 そんな彼の頭に結一郎が投げかけてきた言葉がよみがえる。

 

『自分が強くなるのは大切な人を、無辜の人々を守るためです!』

 

 先ほどまで相対していた強敵の言葉がこびりついて離れない。

 その言葉は猗窩座の記憶にない、何かが訴えかけてくるようで……考え込んだ先でふと、あることに気が付く。

 

「何故、俺は強くならないといけないんだ?」

 

 己の行動原理の根本的な理由が分からない。

 武の道を極めようとしているのだからと考えていたが、もっと別の何か理由があった気がするのだ。

 何かを思い出しそうになっている猗窩座の耳に、優しい少女の声が聞こえてきた。

 

「もういいんです、狛治(はくじ)さん」

「おまえは……いや、あなたは」

 

 雪の結晶の髪飾りを付けた少女が猗窩座を別の名前で呼ぶ。

 猗窩座は、それが自分の名前であることを、人間だったころの記憶を思い出していた。

 

 その少女の名前は恋雪(こゆき)。猗窩座が狛治と呼ばれていた人間だったころの恋人・許婚だ。

 結婚の直前、狛治がいない間に殺されてしまった恋雪との約束は

 

「誰よりも強くなって、一生あなたを守る」

 

 果たされることのなかったこの約束こそが、鬼となった猗窩座の核になっていたのだ。

 思い出した過去の記憶に、嫌っていた弱者が本当は誰だったのかを知って、鬼の“猗窩座”から人の“狛治”の姿に戻った彼は一人納得した顔をしていた。

 

「そうか。あれだけ嫌っていた弱者は俺自身だったか……」

 

 恋雪の父であり、自分の武術の師匠である慶蔵(けいぞう)から託された武術を復讐のため血まみれにした辛抱の足りない自分。

 自殺した父が遺言に残した「真っ当に生きろ」という願いをかなえることも出来ない自分。

 肝心な時に大切な者の傍にいなくて、守ることも出来なかった役立たずの自分。

 

 どうしようもなく弱い自分が一番嫌いだったのだ。

 

「ああ。だから俺はあんなにアイツにイラついたのか。全部、俺が欲しいものを持っていたから」

 

 結一郎のことを思い出し、自嘲する狛治。

 戦っていた結一郎は、狛治が手にすることができなかったものを持っていた。

 

 大切な師匠の危機に間に合い、師と共に鬼である自分から無辜の民を守るという真っ当な道を歩むことができている結一郎。

 そんな彼に自分が敗北したのは当たり前だった、と、納得した面持ちになる狛治。

 

「狛治さん、逝きましょう?」

「恋雪さん……」

 

 そんな彼に恋雪が手を差し伸べる。

 愛おしい恋人の手を取ろうと腕を伸ばす。そんな彼を呼び止める声があった。

 

「強くなりたいのではなかったのか?」

 

 聞こえてきたのは、咎めるような鬼舞辻無惨の声。

 鬼になったものにかけられる無惨の呪いが精神世界で具現化した姿だった。

 その呪いは強制的に狛治の意識を猗窩座へと変えようとする。

 

「そうだ、俺は強くならねばならない……」

 

 おぞましい呪いによって、強さへの渇望を呼び起こされて鬼に姿を変え始める狛治。

 それを許せない人物が目の前にいた。

 

「私の夫に何をするんですか!」

「ヘブッ!?」

「無惨様!?」

 

 無惨の形をした呪いに、恋雪の平手打ちが炸裂した!

 あまりの事態に猗窩座は驚愕で動けない。

 そうして猗窩座が動けない間にも、百年以上夫を鬼にされていいように使われてきた恋雪の怒りは止まらない。

 

「私たちが死んで、傷心している狛治さんの心に付け込んでよくも鬼になんてしましたね!」

 

 一撃(1hit)

 

「鬼にした狛治さんに人喰いをさせて! 百年も悪事に加担させて!」

 

 さらに一撃(2hit!)

 

「そうやって鬼にして働かせたくせに、酷い扱いをして!」

 

 まだまだ!(3hit!)

 

「もう、あなたなんかにこれ以上狛治さんを好きにさせません!」

 

歯ァ、食いしばれ!(K.O.)

 

 怒りの往復ビンタをくらい、無惨の呪いが倒れ伏す。

 その様子を見ていた猗窩座の姿は、気が付けば狛治の姿に戻っていた。

 俺の妻がこんなに強いわけがない……

 

「ぐっ、猗窩座ァ! お前は強さを求めていたはずだ! だから鬼になったのだろう!」

 

 しかし、無惨の呪いも諦めが悪い。

 フラフラになりながら立ち上がり、狛治を猗窩座へと戻そうとする。

 が、しかし――

 

「よく言ったぞ、恋雪! 娘がここまで言ったんだ。父親として黙っていられないな!」

「グフッ!?」

 

 突然現れた男性の鋭い拳が無惨の顔にクリーンヒットして、強制的に黙らせた。

 鍛え上げられているのが一目で見てわかる胴着姿のその男性は慶蔵だった。

 娘と弟子を助けるためあの世から駆けつけた彼は、容赦なくその拳を振るって無惨の呪いをボコボコにしていく。

 もしかして、オラオラですかぁ!?

 

「恋雪、狛治君を連れて逝きなさい。こいつは俺がなんとかしておくから」

「ありがとう、お父さん。さ、逝きましょう、狛治さん」

「あっ、はい」

 

 ちょっと前まで上司だった人物が、義父にボコボコにされている状況に困惑を隠せない。

 そんな混乱状態の狛治には、恋雪からの言葉を受け入れる以外に選択肢などなかったのだった。

 だって、狛治さん婿養子だし。逆らえるわけないじゃん。

 

 一方的な惨劇に背を向け歩き出す二人。

 少し落ち着いた狛治は恋雪に懸念を伝える。

 

「恋雪さん、俺は人を殺した。人間だった時にも、鬼になった後も。たくさん。だから、俺は地獄行きだ」

 

 罪人の自分は地獄に行くから一緒に逝けないと告げる狛治。

 だが、恋雪は少し怒った様子でその言葉を否定する。

 

「もう! 狛治さん、百年も私を待たせたのにまた離れ離れになるつもりなんですか?」

「いや、でも……」

「いいえ! もう、離しません。離れません!」

 

 たとえ地獄に行くことになろうとも離れ離れになることは頑として聞き入れようとしない恋雪に、狛治は折れるしかない。

 

「本当に、恋雪さんには敵わないな……」

 

 笑みを浮かべ共に歩き出す。

 もう、何があっても二人一緒にいることに決めたのだった。

 

 

「猗窩座! 猗窩座!! 猗窩座ァァァ!!!

 

 そう、たとえ、元上司の悲鳴が遠くから聞こえてきたとしても!!

 寿退社したんで、聞~こえない~聞~こえない~。




1.『翻訳係ととんでもねぇ炭治郎』
 無自覚たらしな炭治郎君に戦慄する翻訳係でした。この後、結一郎は炭治郎が二人を養えるように鍛えていくのです! どういうことだってばよ?
 個人的には炭治郎とカナヲの組み合わせも好きだけれど、炭治郎とアオイとの組み合わせも好きだったりします。

2.『ひなきお嬢様のお気持ち』
 原作を見てる限りだと、産屋敷家の一族は絶対覚悟ガンギマリだと思うんですよね。
 ちょっと切ない感じにしてみました。久しぶりの一人称視点でちょっと手こずったり。
 ちなみに、産屋敷家の兄妹は原作と違いオリジナル設定です。
 五つ子とか予想外。というか、ひなきお嬢様が原作設定だと8歳になってしまうので結一郎がとんでもないロリコンになってしまいます(汗


3.『猗窩座の走馬灯~愛妻vsブラック上司~』
 最後に愛は勝つ。ということで……


ミニ次回予告
実弥「てめえは、嫁を貰って、子供を育てて、幸せな家庭を築けはいいんだよ!」
玄弥「いや、兄貴が結婚できてないのに俺が先に結婚するわけには……」
実弥「俺は、結婚できないんじゃねェ! しねェだけだァ!!」

――『翻訳係と不死川兄弟』


無惨「上弦の参、猗窩座が死んだ」
童磨「ええっ!? 猗窩座殿は猿に頸を斬られたのか!? 猿にだなんてなんて可哀相なんだ。よりにもよって猿にだなんて!」
玉壺「童磨殿、これ以上はおやめください!」
妓夫太郎『あ、無惨様の機嫌が悪くなってんなァ……なんで気づかねえんだ?』

――『上弦パワハラ会議 ~黙ってくれよ童磨さん~』

他、小ネタの予定。
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