筆が乗ったので連日投稿です。
鬼殺隊全隊士が参加する柱稽古。
例外なく地獄に叩き落されているわけだが、当然のことながらそれぞれ実力に差がある。
特に選抜隊である“旭”に所属する隊士は一般隊士よりも頭一つとびぬけた実力者たちだ。
そのため、彼らには己の実力を高めると同時に訓練が上手くいっていない隊士への助言や補助をする責務が課せられていた。
もともと旭の設立経緯からして教導隊としての目的もあったのだから、彼ら本来の仕事をこなしているだけとも言えるのだけれど……過酷な修業の中、お疲れ様です。
最初は試行錯誤をしながら柱稽古のサポートをしていた彼らだったが、その形は自然と数名の班単位で動く形になっていった。
細かく助言をしながら面倒を見れるのはその形が効率が良かったのだ。気が付けば旭の隊士たちは小隊長のような役割を担っていくことになっている。
その役割が一番目立ったのが無限打ち込み稽古の場面であった。
「オラァ! その程度かァ! もっとやる気を見せやがれェ!!」
風柱・不死川実弥の猛攻に翻弄される隊士達。
旭の隊士たちはその先頭に立って指揮をとりながら連携して立ち向かっていく。
「まだだ! ここで諦めるほどヤワじゃないはずだ!」
「佐藤班長……」
旭の初期メンバーの一人である佐藤が皆を奮い立たせるよう檄を飛ばす。
自らもボロボロになりながらも折れることのない不屈の態度は周囲を勇気づけた。
「この稽古は俺たちだけのためじゃない! 柱の方々の訓練でもあるんだ! 生ぬるい覚悟じゃ柱の方々のためにならないぞ!」
「良く言ったァ!! 簡単に倒れるんじゃねえぞおォ!!」
「引くな! 守ったら負ける! 攻めろ!」
「班長だけにやらせるな! うおおおお!」
格上の攻撃を仲間同士が補い合い何とかしのいでいく。
こうして鬼殺隊の仲間たちの絆は深まっていくのであった。
人間同じ脅威に立ち向かう時が一番絆が深まるものですから……
来るべき総力戦に向けて現在、鬼殺隊は持ちうる手段を総動員していると言っていい。
そのため、柱稽古の指導役として各地の元柱級の育手が招集されいた。
例えば先代炎柱にして現炎柱の父親である煉獄
元鳴柱・
彼は今、柱稽古を終えた後に自らの弟子の
雷鳴のような踏み込み音と紫電のような一閃。
慈悟郎の前で善逸が見せた剣技はまさしく見事なものであった。
「……どうかな、爺ちゃん」
「善逸。よくぞここまで鍛え上げた。よくやったぞ、自分だけの新しい型を作り上げたな」
素直に賛辞を贈る慈悟郎。
新たに七番目の雷の呼吸を作りだした弟子の成長に感激が止まらない。
厳しい師匠から褒められて善逸は嬉しそうにしたが、すぐ後に寂しそうな顔をする。
「ありがとう、爺ちゃん。……できれば獪岳、あいつにも見てもらいたかったな」
「善逸……」
鬼に殺されてしまった兄弟子を思って悔しさを噛み締める。
「あいつはさ、ほんっとうに嫌な奴だったよ。いつもいつも嫌味ばっかり言ってきてさ。でも、ひたむきに修行を頑張る姿は尊敬してたんだ」
「そうだな。あやつは傲慢なところはあったが努力家じゃった……」
「いつか一緒に肩を並べて戦えたらなんて思ってたんだ」
それももはや叶わない夢になってしまった。
そう語る愛弟子に慈悟郎は何も言うことができなかった。
だが、善逸は師からの慰めなど必要とはしていない。なぜならもう覚悟は決まっているのだから。
「爺ちゃん、俺、兄貴の仇をとるよ。絶対!」
「善逸、お前は儂の誇りじゃ」
兄の仇をとると誓う善逸を誇りに思う慈悟郎。
弟子の成長がただただ嬉しかった。
「だが、死ぬなよ善逸。生きて帰ってこい。絶対に、死ぬな」
「……うん」
願わくば、弟子の人生を末永く見守りたいもの。そう思った。
「俺と勝負しろ! おまえらを倒して、俺が最強になる!」
柱たちを前に、
啖呵を切るっていうか喧嘩を売ってる?
彼が突拍子もないことをするのはいつもの事なのだが、なぜこんな無謀なことをしているのかと言われればこれまた彼らしい考えが理由であった。
柱稽古によって強くなりたいという気持ちが刺激された伊之助。
目指すなら最強だと思い、どうすればいいのかと考えた結果が「強い奴を倒せばさらに強くなれる」というものであった。
うむ、まさに野生である。
そして鬼殺隊で最強と言えば柱である。なので、柱に挑戦するのは当然ということだ。
なにも間違っちゃいないな。うん!
さてさて、そんな突拍子もない挑戦を吹っ掛けられた柱たち。その反応はというと、意外にも悪くはなかった。
「ああん? いい度胸してるじゃねェか」
「やる気があって結構! 俺が面倒を見てやろう!!」
「南無阿弥陀仏……その向上心は素晴らしいな」
「ハハッ! なかなか派手なやつだ」
「馬鹿だな。たぐいまれなる馬鹿だ。その愚かさに免じて一手指南してやらんこともない」
「……かかってこい」
「やる気があってキュンときたわ! 張り切っちゃうわよ!」
「たぶん、ボコボコにするけど恨まないでね?」
まさかの八人全員から相手をすることを承諾された伊之助。
地獄の柱試合・八連戦である。
まずは最年少である霞柱・時透無一郎が相手だ!
「いくぞ、オラアアア!」
「うん。隙あり!」
「ぬわあああ!」
ズンビッパ! といきなり倒される伊之助。
ズンと重い一撃を受け止めたかと思えばビッと鋭い剣閃が襲い掛かり、反撃しようと思ったらパ! っと視界から消えて一撃加えられていたのだった。
初戦敗北。
しかしこの程度で伊之助はめげない! しょげない! 泣いたりしない!
いけいけ伊之助~!
・
・
・
結果。
「ゴメンネ。弱クッテ……」
めっちゃ落ち込んでた。
柱にそうそう勝てるはずもなく。これ以上ないくらい連戦連敗ボッコボコ。
あまりにひどい負けが重なりもう心がバッキバキだった。
「やりすぎです! 誰がここまでやれといったんです!?」
興が乗ったからって加減を知らないのかとキレる結一郎。
伊之助が自分で挑んだとはいえ、結一郎でも柱八人相手にしたことなんざねえのである。
急遽、メンタルケアをする羽目になった結一郎であった。
忙しいのに仕事増やすんじゃねえよ、柱ども。
一日の稽古が終わったその日の晩。
月明かりの下で
今、彼女には心を悩ませている一つの出来事があった。
『しのぶ姉さんが、結婚……』
師匠であり姉でもある胡蝶しのぶが結婚する。
そのことが彼女の心を悩ませている原因であった。
『しのぶ姉さんが結婚して幸せになるのは喜ばしいこと。嬉しいこと。そのはずなのに……』
喜ぶべきことで祝福すべきことだと頭ではわかっているのに心のどこかでモヤモヤしたものを感じてしまっている。
カナヲにはその理由が分からず、さらに気分が落ち込む理由となっていた。
「あっ、カナヲじゃないか。こんな遅くにどうしたんだ?」
そんな彼女の前に炭治郎が現れた。
思わぬ人物登場に驚くも、しっかりと返事をするカナヲ。
「炭治郎……。ちょっと眠れないだけ。炭治郎こそどうしたの?」
「伊之助が怪我をして帰ってきたから薬を貰いに来たんだ。アオイさんには迷惑をかけちゃったな」
「そうなんだ。頑張ってるんだね」
「ああ! 俺も負けてられないな!」
カナヲの隣に座り会話を始める二人。
炭治郎と一緒にいるこの空間はカナヲは嫌いではなかった。
少し話をしていると、炭治郎が何気ない顔をして尋ねてくる。
「なぁ、カナヲ。何か悩んでることでもあるのか? 俺でよければ話を聞くよ?」
「なんで分かるの?」
「そんな匂いがしてたからさ。あっ、カナヲが嫌だったら無理に話さなくても大丈夫だぞ」
「うん。せっかくだから……炭治郎に聞いて欲しい」
炭治郎の言葉に甘えて相談を持ち掛けるカナヲ。
心の悩みを順番に打ち明けていく。
しのぶの結婚を聞いて祝福すべきなのに、モヤモヤしたものを感じて素直に喜べないこと。
その理由が分からず悩んでいること。
もしかしたら、姉の幸せも喜べない自分は人間として大事なものが欠けている酷い人間なのではないかと思っていること。
カナヲが口にする不安を一つ一つ黙って聞いていた炭治郎は、彼女が話し終えたところで安心させるように笑顔で答えを告げた。
「大丈夫だよ、カナヲ。その気持ちは変なことじゃないから」
「そう、かな? 炭治郎は私がモヤモヤしてる理由が分かるの?」
その気持ちは間違っていないと肯定されて驚くカナヲに炭治郎はその理由を告げる。
「カナヲはお姉さんのしのぶさんが取られたみたいに感じて寂しいんだ。きっと」
「寂しい? 姉さんが結婚して、私、寂しいの? ……そっか、そうなんだ」
弟や妹が多かった炭治郎は母親の愛情が下の兄妹に向けられて拗ねる上の弟の姿を見ていてすぐに分かったのだ。
少し違うかもしれないが、自分に向いていた愛情が他の人に向けられるのではないかと思う不安な気持ちがそれではないのかと。
炭治郎に指摘されて、カナヲは自分のその気持ちが何なのか納得したようだった。
「しのぶ姉さんが私のところからいなくなると思って寂しくなったんだ。私」
「大丈夫だよ、カナヲ。しのぶさんとカナヲの絆が無くなるわけじゃないんだ」
人間関係は今まで通りではないけれど、今までの絆が無くなるわけではないと告げる炭治郎の言葉にカナヲは安心感を覚えた。
『そうだね。しのぶ姉さんとの絆はこんな程度じゃ無くならないもの』
不安が解消され、ホッとしたカナヲ。
心の余裕ができたことでふと自分の将来について頭をよぎった。
『私も、将来は結婚するのかな? ……正直、自信がない』
自分も結婚するのだろうかと考えた時に、その未来が想像できないカナヲ。
自分では思いつかないので、隣にいる炭治郎に聞いてみることにした。
「炭治郎も、いつか結婚したいと思うの?」
「俺かぁ……そうだな。俺は長男だから家を継がなきゃいけないし。だからいつかは結婚すると思う」
炭治郎も結婚したいのかと妙な高揚感を覚えるカナヲ。
つい踏み込んだ質問をしてしまったり。
「そっか。炭治郎はどんな女の人がいいの?」
「うーん……家庭的で家族のことを大事にしてくれるひとかなぁ」
炭治郎の好みを聞いて、カナヲの脳裏に当てはまった人物は同じ屋敷に住む神崎アオイだった。
炊事洗濯と蝶屋敷の家事を取り仕切る彼女は家庭的でしっかり者。また思いやりのある人物できっと家族のことも大切にするだろう。
炭治郎の理想にピッタリじゃないだろうか。そう思ったカナヲはなぜか胸がズキリとした。
密かに落ち込むカナヲに炭治郎が無邪気に声をかけてくる。
「あっ、逆に聞くけどカナヲはどんな人がいいんだ?」
「……私は、結婚は無理だと思う」
「どうしてそんなこと言うんだ? 理由を教えてくれ」
真剣に自分のことを心配する炭治郎にカナヲはポツリポツリと胸の内を明かし始めた。
「私ね、親に捨てられたの。両親に売られて、姉さんたちに拾われて……」
だから両親の愛というものを知らない。分からないと語る。
「そんな私が、ちゃんと親になれるか分からない。幸せな家庭を築いていける想像ができないの」
「大丈夫。そんなことないよ、カナヲ」
両親の、家族の愛を知らない自分では無理だと言うカナヲの言葉を炭治郎は優しく否定する。
どうしてと尋ねるカナヲに炭治郎はまた答えを教えてあげるのだった。
「カナヲは家族の愛を知らないって言ったけど、しのぶさんやアオイさん、蝶屋敷のみんなからそれをちゃんと教えてもらっているから大丈夫だ! それに家庭はカナヲ一人が頑張って築いていくものじゃないよ。家族みんなで築いていくものなんだから」
一人じゃないよ。周りを頼っていいんだよ。という炭治郎の優しい言葉にカナヲの心が温かくなる。
いつも優しくて暖かくて、自分に心を教えてくれる炭治郎のことがカナヲは好きだ。
「私でも、大丈夫かな?」
「ああ、大丈夫だ! きっとカナヲはいいお嫁さんになれるよ!」
「~~ッ! うん! が、頑張るね、炭治郎! 私、頑張るから!」
「頑張れカナヲ! こんないい男の子逃がしちゃダメよ。カナエ姉さんも応援してるわ!」
人は心が原動力!
乙女のカナヲは頑張ります!
歯車に軸を通し部品を組み合わせる。
絡繰細工を組み立てるその表情は真剣そのものであった。
一つの工程を成し終えて一息ついた不死川玄弥はふと思った。
「俺、何やってんだろう……」
最終選抜の試験を乗り越えて鬼狩りの剣士として鬼殺隊に入ったはずなのに、気が付けば絡繰職人の道を進んでいる。
どうしてこうなったんだろう?
疑問に思いながらも現状に不満はなかったりする。
なにせ鬼殺隊に入る理由だった兄との和解はもうできちゃってるからね。
兄の意向もあって剣士を続ける理由があんまりなくなった玄弥である。
月明かりの下で語らう炭治郎とカナヲ。
月が綺麗ですねとでも言ってみる。
炭治郎は無自覚たらしだからなぁ……
翻訳係コソコソ話
月夜に語らう炭治郎とカナヲ。二人を密かに見守っていたり……?
ヒエッ、成仏してください!
次回ミニ予告
無惨 「お前が産屋敷か……」
結一郎「これ以上近づくと後悔しますよ?」
鬼舞辻無惨、襲撃! 決戦の幕が開く!