柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2019/7/15 投稿

お待たせです!


その4(訓練後のはなし)

 ――鬼殺隊本部 産屋敷邸

 

「そうか。彼はもう出かけたようだね」

 

 鬼殺隊当主、産屋敷(うぶやしき) 耀哉(かがや)鎹烏(かすがいがらす)から報告を受け取っていた。

 しゃべる烏が告げるのは、彼が最近注目している期待の剣士(こども)の一人について。

 今の柱たちのほとんどから継子として指名された(にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)が任務に向かったことを報告していた。

 

「今思えば、彼は昔から器用で人当たりの良い性格の良い子だったね」

 

 個性的な柱たちからも好かれ、名前の通り彼らの間の和を結ぶような役割をしていた結一郎。

 特に独りで後ろを向いてしまいがちな義勇を気にかけてくれている結一郎の存在はありがたいものだった。

 そんな彼の人柄を見込んで特別に柱合会議には参加させていたものの、剣士としての実力に物足りなさを感じていたのも事実だ。

 だからこそ結一郎を柱たちが共同で継子に指名してきたときには、耀哉は驚きと共に変化の兆しを感じて期待に心が躍るように感じたものだった。

 

 実際に、継子となって柱たちから指導を受け始めた結一郎は驚くほどの成長を見せてきてくれている。

 

「まさか水の呼吸に加えて、五つの基本の流派の呼吸を習得するとはね」

 

 鎹烏たちから上がってきた報告の中でも特に驚かされたことがこの事実だ。

 もともと習得していた水の呼吸に加え、炎・雷・岩・風の呼吸を指導を受けて身に着けたのだという。

 雷の呼吸は柱たちの中に使い手がいないが、雷からの派生である音が独特で身に付かなかったことから代わりに基本の型である雷を習得したのだとか。

 同様に恋と蛇の呼吸も習得できていないが、複数の呼吸を身に着けたというだけでも十分すぎる成果だ。

 全集中の呼吸以外にも、柱たちからいろいろな技術や技能を学んでいるというのだから、実に将来が楽しみなもので。

 

「今回の任務先には十二鬼月(じゅうにきづき)が出たとも聞いているからね。もし討ち取れたならその時は……」

 

 柱への昇格条件は“鬼を五十体倒す”、“十二鬼月を倒す”という二つ。

 結一郎が条件を達成できたのならば、耀哉はどうするのかもう心に決めていた。

 

 また報告を頼むよ。と、鎹烏を送り出す耀哉のその表情には期待が映し出されている。

 

 


 

 ――十二鬼月

 それは鬼の首魁、鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)によって選別された“最強の鬼”たちの称号だ。

 上弦と下弦の各六鬼ずついる彼らは実力主義で選別されており、特に上弦の鬼たちは鬼殺隊の柱ですら百年近く幾人も返り討ちにしてきた強さを持っている。

 今まで鬼殺隊が討ち取れたのはいずれも下弦の鬼ばかりだという。

 しかしながら、その下弦の鬼ですらも雑魚鬼とは比較にならぬ強さを持つという。

 

『こわい、怖い、恐い……!』

 

 そんな恐ろしい強さを持つはずの十二鬼月が一人、下弦の()零余子(むかご)は恐怖に怯えながら逃走をしていた。

 彼女を恐怖に陥れたのは、三人の鬼殺隊士を引き連れた一人の鬼狩りの剣士だ。

 

 異常なほどに味方の指揮がうまく、こちらの弱点を見抜いてきたその鬼狩りは瞬く間に配下の雑魚鬼を殲滅して、彼女に刃を向けてきたのだ。

 こちらを見透かすような目が怖くてたまらない。

 いや、実際にすべて見透かしていたのだろう。

 仲間の能力も性格も動きの癖も。

 鬼の血鬼術もその攻略法も心の機微すらも。

 すべて全て、掌の上だったのだ。でなければ、盤上の詰将棋を解くかのように鬼が殺されるものか!

 彼女は配下の鬼たちが殺されていく場面を思い出す。

 

『佐藤さん、三つ数えて伍ノ型!』

 

 攻撃のタイミングを計られ、力強い炎の呼吸で頸を落とされる雑魚鬼。

 

『回避優先! 鈴木さん、参ノ型で焦らせば相手は大振りになる。そこを狙ってください』

 

 配下の中でも力の強かった鬼は水の呼吸による流麗な動きに焦り、防御が空いた瞬間に頸を刎ねられた。

 

『あの鬼は血鬼術のあとに隙ができる。恐れるな、高橋さん。壱ノ型で飛び込め!』

 

 飛び道具を血鬼術として使っていた配下は、血鬼術の後のタイムラグに一瞬で間合いを詰める雷の呼吸によって気が付けば頸が宙を舞っていた。

 

 そうやって下弦の肆を相手にしながら、入門指導(チュートリアル)のように他の隊士たちへ指示を出していった。

 本人の剣術も強く、卓越した戦術眼を持つだけでも厄介なのだが、それよりも恐ろしい能力がその剣士にはあったのだ。

 それは――

 

「どこへ行こうというのですかな!」

「ヒッ! どうして……?」

 

 零余子が逃げた先から声をかけて現れる鬼殺隊士。

 そう、(にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)だ。

 柱たちによって鍛えられたことによって基本五流派の呼吸を身に着けた彼は、仲間の能力についてよく理解していた。

 そして個性的な柱たちを相手にするために鍛えられた洞察力によって、敵味方の特徴を把握。

 それらの情報から戦術を組み立てるという、優秀な指揮能力を身に着けていたのだ。

 そして何より、他にはない特別な武器を彼は持っている。

 

『配下の鬼たちは、他の鬼たちはどうなったの』

「自分の仲間が相手にしてます。助けはきませんよ」

 

 零余子が配下を置いて逃げてきた先に意識を向けたわずかな顔の動きから考えを読み取り、応える結一郎。

 わずかな動作から考えを読まれる恐怖に逃亡に思考が傾く。

 

「向こうの滝つぼに逃げますか? なるほど、滝つぼに逃げられれば人間は追いつけませんからね。良い考えです! 自分が頸を落とす方が早いですが!」

 

 つま先の向きが逃げようと思った方向に少し向いた。それだけで、逃げ道がばれてしまう。

 逃げられない。ならば戦うしかない。

 

「血鬼術を使うつもりですね。でも、この距離なら自分が刀を抜く方が早いですね!」

 

 自身の血鬼術で戦おうとすれば、すぐさま居合の体勢に入り頸を落とせる準備が整えられる。

 駄目だ、考えが読まれて……

 

「ええ、そうです! あなたのすることは全てまるっとお見通しです!」

 

 心の衣を一枚ずつ剥がすように、自分の心が丸裸にされるような恐怖に震えが止まらない零余子。

 静かに迫る結一郎の姿は、まさに彼女にとって死神以外の何物でもない。

 

「さぁ、大人しく頸を出しなさい!」

 

 せめて痛みなくあの世に送ってあげよう!

 

・・

・・・

 

 先ほどまで鬼どもが根城にしていた廃寺で、四人の鬼殺隊士が体を休めていた。

 和、佐藤、鈴木、高橋の四人だ。

 彼らが何をしたかといえば、落ち込む結一郎を必死に慰めているのである。

 

「肝心の、肝心の十二鬼月を逃してしまうとは……不覚です!」

 

 下弦の肆・零余子を追い詰めた結一郎であったが、その後に生き残っていた雑魚鬼が乱入してきたせいで逃亡を許してしまうという失態をしていた。

 すぐに雑魚鬼は討ち取ったのだが、その時には零余子の姿は影も形もなく。

 十二鬼月を討ち取る絶好の機会をみすみす逃してしまった結一郎はそりゃもう、落ち込んでいた。

 

「すみません、和さん。俺たちがあの鬼を逃がさなければこんなことには」

「いや、あの場ですぐに仕留めきれなかった自分が悪いのです! 佐藤さんが謝ることではありません!」

 

 今回の任務で一緒になった炎の呼吸の少年剣士・佐藤が自分たちの実力不足を謝罪するが結一郎は首を横に振って否定する。

 雑魚鬼が乱入してきたからなど言い訳にしかすぎないのだ。あの場で下弦の肆を討ち取ることはできたはずなのだから。

 

「うぅ、でも、下弦の肆を逃がしちゃったのはやっぱり叱られますよね」

 

 不安そうな顔で告げるのは、メンバー最年少で雷の呼吸の使い手の少女剣士・高橋。

 任務の失敗という事実を前にして、その責任を問われるのではないかと考える彼女に結一郎は笑って返事をした。

 

「いえいえ! 十二鬼月と遭遇して生き残っただけでも十分と判断されますよ。まぁ、自分は継子なのでちょっと厳しくみられるかもですが!」

「ちょっと? そのちょっとというのは具体的にはどのようなことなのですか?」

 

 結一郎の言葉尻を捕らえて質問を投げかけるのは水の呼吸の青年剣士・鈴木だ。

 

「柱の方々に叱責されて、いつもより厳しい修行がつけられるくらいですかねぇ?」

「え、でも、和さんって複数の柱の方々の継子ですよね? それが全部厳しくなったら……」

「高橋さん! やめてください、想像させないで!?」

 

 この後に課せられるであろう修行の数々を想像して、吐き気がこみあげてくる。

 腹を押さえてうずくまる結一郎に、三人は必死で言葉を投げかけた。

 

「キャアアア!? ご、ごめんなさいぃ」

「和さん、しっかり! 下弦の肆を逃したのは俺たちの責任でもあるんですから!」

「そうですとも。私たちも弁護しますから。罰も一緒に受けましょう!」

 

 謝る高橋。佐藤と鈴木が慰める。

 彼らの心は一つになっていた。

 

『和さんだけを地獄に送るわけにはいかない!』

 

 のちに結一郎は語る。

 

「自分が弱かったばっかりに、地獄への道連れができてしまいました。あの三人にはすごい申し訳なかったです……」

 


 

 ――少し時が経った後の事。

 ――無限城にて

 

「お許しくださいませ! 鬼舞辻様、どうか。どうかご慈悲を!」

 

 必死に懇願していた下弦の陸が無惨に食い殺された。

 仲間の死を目の前にして零余子は恐怖に震えている。

 

 突然、鬼舞辻に召集され問答無用に叱責されるこの状況。

 下弦の伍が鬼殺隊に殺されたことで、下弦の鬼の弱さに見切りをつけたらしい。

 心の中で少しばかり反発しただけで心を読み取られ、殺された下弦の陸。

 次は我が身である。

 

「私よりも鬼狩りの方が怖いか?」

 

 鬼舞辻から向けられた言葉に零余子は答えられなかった。

 どちらが怖いなど言えるわけがない。

 だって、どちらも怖いのだから。

 

「お前はいつも鬼狩りの柱と遭遇した場合、逃亡しようと思っているな?」

「……はい。申し訳ございません」

 

 その通りだ。

 あんな、あんな恐ろしい化物のような人間がいるなんて。

 

「ほぅ? そこまで人間が怖いか。十二鬼月にもなって」

 

 頭上から怒りを感じる。

 何か、何かなにか弁明しないと!

 

「た、ただの人間じゃありません。こちらの心を読んでくる化物みたいな鬼狩りの剣士がいたんです!」

「出まかせを言うな! そんな人間がいるはずないだろう!」

「嘘じゃないんです! 信じてください!」

「黙れ! 貴様、私に逆らうのか!?」

 

 真実を語っても信じてもらえず絶望する零余子。

 この時、鬼舞辻は『あれ? こいつ嘘ついてないぞ?』というのは心が読めるので薄々気が付いていたものの、常識的に考えてそんな人間いるわけないと判断してしまっていたりする。残念。

 それに例え真実であったとしても、人間から逃げるような惰弱な鬼などは不要と考えていた。

 

 自らの死が間近に迫っていることをヒシと感じる零余子。

 彼女の胸中は千々に乱れていた。

 

 どうして、どうしてどうしてどうして?

 なんでこんなことに?

 殺される? 私が? こんなところで?

 いやだ、いやだ、嫌だ嫌だ!

 全部、結一郎(あいつ)のせいだ。あいつさえいなければ。あいつと出会わなければ人間に恐怖することもなかった!

 憎い! 私はここで殺されるのに、あいつはのうのうと生きている? 許せるはずない!

 許せない、許せない、ユルセナイ! どうせ死ぬのならアイツを殺してからでないと気が済まない!

 

 命の危機に瀕して思うのは、自分を追い詰めた鬼狩りの剣士への逆恨みのような理不尽な憎悪であった。

 その感情を読み取った鬼舞辻の処刑の手が止まる。

 

「面白いな。いいぞ、その憎悪。それでこそ鬼らしいというものだ。気に入った、もう一度機会をくれてやろう」

「えっ? ……ガッ!?」

 

 零余子に太い針が突き刺さり、鬼舞辻の血が流れ込んでくる。

 自身の身体をより強力なものに変えようとする痛みに耐えながら零余子は鬼舞辻の言葉を聞いた。

 

「お前には私の血を分けてやった。それで強くなり、貴様を追い詰めた剣士を、鬼狩りの柱を殺すのだ」

「……ッ! 必ず、必ずや」

 

 零余子の目に映る憎悪の色。

 それは鬼舞辻を満足させるに足る深い色をしていた。

 

 

 

オマケ「オリ鬼殺隊員 プロフィール」

 

佐藤(さとう) 正義(まさよし)

 男性。年齢15歳。炎の呼吸。一人称:俺

 呼吸と同じく熱い性格。戦隊モノでいうとレッドにあたる。

 

鈴木(すずき) 寒太郎(かんたろう)

 男性。年齢18歳。水の呼吸。一人称:私

 生真面目で向上心のある性格。同い年の結一郎にわずかに対抗心。戦隊モノのブルー役?

 

高橋(たかはし) アヤコ

 女性。年齢14歳。雷の呼吸。一人称:あたし

 明るく気弱な性格。他の二人よりも才能はあるのだが、いまいち自信をもてない。戦隊モノのイエロー。

 

 

 

オマケ2「その他の下弦」

下弦の参「わ、私たちにも!」

下弦の弐「鬼舞辻様の血を分けてください。そうすればもっとお役に!」

鬼舞辻「お前たち、私に指図したな! 死ね!」

弐・参「「ギャアアア」」

下弦の壱『愚かだなぁ……』

 




やったね、結一郎。可愛い女の子(鬼)から(命貰います的な意味で)ロックオンされたよ!
一緒に地獄に行ってくれる仲間ができてよかったねぇ!
断られたどこかの上弦の鬼と違って!

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