柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2020/12/01 投稿


無惨「上弦復活、ヨシ!」


その35(無限城決戦 その弐)

 拳が唸る。刀が肉を裂く。

 上弦の参・猗窩座と炎柱・煉獄杏寿郎。

 数多く刻まれた破壊の跡が両者の激闘を物語っている。

 

 力と力、技と技をぶつけ合うその戦いはまるで前回の再現のようだ。

 だがしかし、杏寿郎ははっきりとした違和感を感じ取っていた。

 

「君は、誰だ!!」

 

 繰り広げられる攻防の途切れた一瞬に杏寿郎は目の前の鬼に問いかける。

 以前戦ったことのある杏寿郎だからこそ感覚的に理解したのだ。

 この鬼は猗窩座ではない、と。

 

「術式……展開」

「これは、ずいぶんと無口になったものだ……な!」

 

 杏寿郎の問いに答えることなく凶拳を振るう猗窩座。

 以前は嬉々として戦いのさなかにも関わらず盛んに話しかけてきたあの鬼が片言でしか喋らず黙々と襲い掛かってくる。

 確かに異様としか言いようがない。

 この復活した猗窩座の正体はなんなのか? それは応戦した杏寿郎の刃が明らかにしてみせた。

 

炎の呼吸 弐ノ型・昇り炎天(のぼりえんてん)

 

 下から掬い上げるような振り上げが猗窩座の胴から顔を縦に割って見せる。

 すぐに再生をし始めるが、その瞬間に上弦の鬼が復活した秘密を垣間見ることとなる。

 

「よもや……」

 

 声を失う杏寿郎。

 裂かれた猗窩座の顔の裏には全く別人の顔があったのだ。

 それだけじゃない。斬った腹から零れ落ちてきたのははらわたではなく別の鬼の身体の一部であった。

 ここに至って、杏寿郎はおぞましい事実に気が付くこととなった。

 

 上弦の鬼は復活したのではない。一から再生させられたのでもない。

 まったく別の鬼が、“猗窩座”を再現させられているのだ。

 そう、“再生”した上弦の鬼ではない。“再現”された上弦の鬼である。

 無惨は鬼殺隊との決戦に臨むにあたって戦力不足を補うべく上弦の鬼の再現を目論んだ。

 その方法は元となる上弦の鬼と似た能力を持つ鬼たちを継ぎ接ぎにして無惨の血によって強化し、自我を奪って上弦の鬼たちの記憶や意識を植え付けるというものであった。

 当然、植え付けられた記憶や意識は呪いを通して無惨の中に残っていた残滓に過ぎず、再現されたスペックも元の上弦たちに及ぶべくもない。

 だが、無惨にとっては配下の鬼など自身が太陽を克服すれば用済みの存在でしかないわけで。

 命を弄び、生者・死者両方の尊厳を踏みにじることとなろうと、自分の役に立つのならば何の躊躇もすることは無いのだ。

 

 目の前のおぞましくも哀れな鬼を前に、杏寿郎は怒りで心を燃やす。

 鬼狩りの剣士として、人を喰らった鬼に同情などはしない。

 しかし、命を、魂を冒涜する行為を許せるはずもない!

 

「その哀れな命! この煉獄の赫き炎刀で終わらせてやろう!!」

「ああ、もう終わらせてくれ……頼む」

 

 杏寿郎にできる唯一の慈悲は、悲しい命を一刀のもとに斬り捨てることだけだ。

 腰を落とし、刀を大きく振りかぶる。

 全力全霊の一撃を放つため構える杏寿郎に、身体の再生を終えた猗窩座もどきも型を構える。

 

炎の呼吸 玖ノ型・煉獄(れんごく)

血鬼術 破壊殺(はかいさつ)滅式(めつしき)

 

 あの夜と同じく互いに必殺の一撃を放つ両者。

 攻撃が交錯し、血飛沫が舞う。

 跳ねるように地面に落ちてくるのは鬼の頸。

 勝ったのは……杏寿郎だ!!

 

 以前ならば結果は逆になっていただろう。

 だが、所詮は再現されただけに過ぎないまがい物の猗窩座に対して、杏寿郎は無限列車で戦った日から鍛錬を欠かすことなく力を磨いてきたのだ。

 この結果は当然の結末でしかない。

 

「今度こそ安らかに眠るがいい! 俺は先に進む!!」

 

 猗窩座の偽者を倒し、その体が塵になるのを見届けた杏寿郎は休むことなく前へ進む。

 与えられた責務を全うするまで、炎柱・煉獄杏寿郎は止まることなどない!

 

「ありがとう、杏寿郎」

 


 

 復活ならぬ再現された上弦の鬼たちはその成り立ちから弱体化を余儀なくされている。

 その中でも最も影響を受けたのが上弦の肆・半天狗だろう。

 彼の最大の強みは、頸を斬っても死なない戦闘能力の高い分裂体を相手にしながら、硬く、素早く、発見困難な小ささという本体を狙わなければならないという討伐への難易度の高さだった。

 しかし、無惨は半天狗を再現するにあたって戦闘能力を重視するという愚行を犯している。

 

「分裂能力を持つ鬼を母体にしては雑魚を量産するだけで何の役にも立ちはしない」

 

 その結果、半天狗の再現は本体ではなく喜怒哀楽の四鬼の分裂体が再現として生み出されたのだった。

 四鬼を分裂能力のない別々の個体として作り出したのでそれぞれ頸を斬られたら普通に死ぬというデメリットが付いたうえに、別個体なのでオリジナルではなかったフレンドリーファイアすら有効になっているという残念さである。

 無惨的には形として能力が再現できているので「ヨシ!」なのだろうが……この際だからハッキリ言ってしまおう。

 強み全殺しにしておいて何が「ヨシ!」だバカヤロー!!

 

 さらにさらに、だ。

 素材にされた鬼どもの意識など残っていてはかえって邪魔になると考えた無惨は、自我を奪い半天狗の記憶と意識を植え付けるという暴挙に出た。

 喜怒哀楽の分裂体の意識ではなく半天狗本体の記憶と意識である。

 半天狗本体は臆病で生存への執着が激しい性格をしていたことを思い出してほしい。

 弱体化していて、追い詰められても分裂体を生み出せないとなれば彼はどうするだろうか?

 逃げるよね。当然。

 

 現在、喜怒哀楽の元半天狗たちは鬼殺隊に敵わぬと見るや無限城を逃げ惑う無様を晒していた。

 ホント、どうして……どうして……

 

 

「テメェ! 逃げんじゃねェ! ブッ殺すぞ!!」

「逃げなくても殺す気じゃろう!?」

 

 楽の鬼・可楽(からく)は、鬼の形相で迫る風柱・不死川実弥から必死になって逃げ惑っていた。

 可楽の武器は突風を生み出す八つ手の葉の団扇なのだが、相手が悪すぎる。

 鬼を捻じ斬る風、戦う嵐のような剣術の男が相手をしているのだ。

 荒れ狂う嵐を前に団扇で煽いでいる余裕などあるわけもなし。

 名付けられた“楽”の感情を知る暇もなく、彼は死にゆく定めにあった。

 

「あ、あああ、助けてくれ!」

「残す言葉はァ、それでいいかァ?」

 

 

 喜の鬼・空喜(うろぎ)

 両腕に翼を具えた半人半鳥の姿で、高速で空を飛び回り口からの音波攻撃と鋭い両足の爪を武器にする鬼だ。

 彼の命はもはや風前の灯であった。

 

「ガッ、ァアアアアアア!?」

「おうおう、こりゃまた派手にぶっ飛んだな」

 

 空喜の相手をするのは音柱・宇髄天元。

 元忍にして爆薬使いの天元は空喜には天敵と言って差し支えない。

 音波攻撃は爆音でかき消され、障害物の多い無限城の中では飛行能力は制限されたうえに元忍の天元にしてみれば足場の多いやりやすい状況だ。

 さらに言えば高速で空を飛ぶために空喜は体を軽量化しており、そのため巻き起こる爆風に体を弄ばれてまともに姿勢制御も出来ない状況だった。

 自分たちの本拠地にも関わらず何一つ地の利がない皮肉な状況。能力も封殺されて相性の悪い相手にどうして勝てるというのか。

 

「歯ごたえのねえ、地味な野郎だったぜ」

 

 

 雷を放つ錫杖を武器にする怒の鬼・積怒(せきど)は、霞柱・時透無一郎を相手に怒りを募らせていた。

 刀鍛冶の里でオリジナルと相対している無一郎は劣化再現された積怒の攻撃を既に見切っており余裕をもって対処できてしまっている。

 

「ええい、苛々させてくれる!」

「自分が弱いからって僕に当たらないでくれるかな」

 

 煽るような口調の無一郎に積怒は怒声を上げる。

 

「貴様ら鬼狩り共は、何の権利があって鬼を殺す!」

 

 そうではないと怒鳴る積怒の言葉に無一郎は首を傾げる。

 何が言いたいんだ、こいつは?

 

「どの生き物であっても生きるために他の命を喰って生きている! それは生物として当然の摂理。それを罪のように責める貴様らこそが悪人ではないか!」

 

 自らの怒りは義憤であり、正しいのはこちらだと主張する積怒。

 無一郎は心底憐れむように告げた。

 

「何を勘違いしているのさ」

 

 何の権利があってと言うのはこちらのセリフ。

 

「お前たち鬼って存在がこの世にいることそのものが許されないのに。なんで人を喰っていいと思ってるわけ?」

 

 無表情だった無一郎の顔に怒りが滲む。

 怒の鬼? 笑わせるな。本当に怒っているのは大切な人を奪われた人間の方だ!

 

「だからさっさと斬るね。お前らは死んでいいヤツらだから」

 

 

 十文字槍を振るう哀の鬼・哀絶(あいぜつ)

 彼が相手をしているのは柱でもなんでもない。ただの一般隊士たちが、連携をして互角に渡り合っていた。

 

「何故だ! 柱でもないこんな雑魚どもに!?」

 

 仮にも上弦の鬼として再現された自分がどうして雑魚に後れをとるのか!?

 困惑を隠せない哀絶だったが、鬼殺隊側からすれば何の不思議もない。

 

(ぬる)いんだよ、テメエの槍は!」

 

 鬼殺隊の剣士の一人が叫ぶ。

 彼らの脳裏を巡るのは柱稽古の光景。

 

 炎柱や風柱の攻撃の苛烈さはこんなものじゃなかった!

 水柱や岩柱の防御の鉄壁さに比べればコイツは隙だらけだ!

 蛇柱や霞柱の太刀筋を見た後にしてみれば、コイツはなんて読みやすい動きなんだ!

 恋柱とか音柱みたいな意外性もないこんな単調な攻撃に誰が当たってやるもんか!

 

 

 柱たちが連携を組んで襲い掛かってくるのに比べればコイツの槍術なんてどうして怖がる必要があるというのか!

 思い出せ、あの地獄の日々を!

 オェ。思い出しただけで吐き気が……。

 

「お前程度なんか、今更怖くあるかあああああ!」

「そうだそうだ!」

「柱を相手にするのに比べれば、お前なんか。お前なんかァ!」

 

「……なんと哀れな」

 

 だって、柱たちの方が怖いじゃんよぉおおお!?

 哀の鬼の頸を、鬼殺の剣士たちは哀しい叫びと共に斬り落としたのであった。

 

 

オマケ「登場した復活上弦の説明」

 

上弦の弐・童磨

 血鬼術の再現を重視して作り出された血鬼術特化型の合成鬼。氷結系の血鬼術の鬼を寄せ集めしており、そのため血鬼術が強力なものとなった。

 オリジナルの肺を破壊する血鬼術は使えないものの、広範囲・高威力の氷結攻撃を連発できるという点ではオリジナルに引けをとらない。

 弱体化しているけど、厄介さは相変わらずと言ったところ。

 逆に血鬼術の再現に偏りすぎたため、オリジナルの持っていた蟲柱すら圧倒する身体能力は再現されていない。そのため、一度接近を許すと簡単に攻略されてしまった。

 呪いを通して無惨に残っていた童磨の記憶や人格を植え付けられているが、もともと執着の薄い性格をしていたせいで穴だらけの状態。

 そのせいでかなりバグっている。もう相手の識別すら曖昧だったり。

 生に執着する性格でもないので、魂の残滓なんかも残ってません。とっととくたばった糞野郎

 

上弦の参・猗窩座

 童磨とは逆で身体能力を強化しまくって再現を目指した個体。申し訳程度に探知系の能力持ちの鬼も合成されている。

 強いと言えば強いが、正直言ってオリジナルの下位互換。

 なので無限列車の時よりも強くなっていた煉獄さんに勝てるはずもなかった。

 なお、猗窩座の人格を植え付けようとしたが、何故か上手くいっていないのでほとんど自我がない。

 本当にオリジナルの人格の要素は搾りかす程度。

 魂はお嫁さんがちゃんと連れてったけど、思わぬ形で再就職させられてて本人は「どうにかしてくれよ」ってなってたかもしれません。

 

上弦の肆・半天狗

 復活にあたって一番貧乏くじを引いた。

 能力完全再現で復活してたら厄介極まりなかったけれど、厄介な能力だけに無惨様もどう再現したらいいか分からなかった様子。

 とりあえず戦えればいいか。と、妥協した結果が本体をリストラして喜怒哀楽の分裂体を復活させるといる選択だった。

 せめて憎珀天で復活させてあげてよォ!?

 哀れ、無限城で上弦最初のギャグの犠牲者に……




復活した上弦の正体は再現体・模倣体でした。
下弦の伍の累がお気に入りだったらしいので、無惨様も他人に赤の他人の役割を押し付けるくらいはやってのけるだろうと思ったのでこの案になりました。
やってることは累よりもエグイですけど。
このアイデア、賛否あるのは自覚してます(笑)


次回ミニ予告!
蛇・恋vs上弦の陸

蛇「甘露寺、君が無事でよかった」
恋「伊黒さん! 死んじゃ嫌ァ!!」


新上弦の伍・鳴女
彼女の頸を斬るのは水の呼吸のあの人。


どうぞ、お楽しみに!

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